戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
運命られた戦いってかっこいいよね!(クソデカボイス)
無数の棺桶の中に入れられた、廃棄されたオートスコアラーの残骸。
一見ジェネレーターのようだが、エルフナインでも見当がつかない。
「あなた達は、一体何をたくらんで……ッア?!」
エルフナインが振り返ったところを、ミラアルクが首を掴んで持ち上げた。反射的につかんでいる腕をつかみ返したものの、パワー不足でびくともしない。持ち上げられたことで気道が圧迫され、呼吸が出来なくなった。空気を求めて喘ぐが、吸い込んだ空気が肺にいきわたることはない。
ミラアルクがエルフナインの瞳を見つめた。吸血鬼の魅了の目を原型とした、ミラアルクの『不浄なる視線』がエルフナインに刻み込まれる。
刻印を刻み込まれたエルフナインは反抗する力を失ってしまった。
「バイオパターン照合……」
ミラアルクはつかんでいた手をパッと離した。支えられるものが無くなったエルフナインは重力に従って地面に落ち、両足で立ち上がる。
そしてはっきりとしない意識のまま、不可思議なジェネレーターを起動させるためのコントロールパネルへと歩みを進めた。
「さぁ、認証を突破してもらうぜェ?マスター」
エルフナインがパネルの前に立った途端、画面全てに文字が表示された。それは隙間がないほどに書き詰め込まれている。
彼女はぼんやりとしたまま、起動のための言葉を詠唱した。
「その庭に咲き誇るは、ケントの花……。知恵の実結ぶ、ディーンハイムの証なり……」
詠唱を終えると、棺からはエネルギーが迸り、それらに接続されたジェネレーターがうなりを上げる。膨大なエネルギーの奔流が、上階の祭壇へと送り込まれた。
「稼働は順調。廃棄されたとはいえ高密度のエネルギー体。これを利用しない手はないであります!」
「そしてコイツの利用価値はここまでだぜ」
ミラアルクは吐き捨てるように言った後、ぼんやりとしたままのエルフナインの肩を掴み、乱雑に振り向かせる。
再びミラアルクとエルフナインの目が合った。
「あとは心を破壊して……!」
彼女の心に刻み込んだ刻印を破壊すれば、刻み込まれた心も破壊される。ミラアルクが『不浄なる視線』の出力を上げた、その時だった。
(これ以上オレを覗き込むなッ!)
エルフナインと同じ姿の、別の誰かがミラアルクの刻印を弾き返した。撃ち込んだはずが逆に喰らってしまい、ミラアルクは頭を押さえてうずくまる。
いつもと違うその様子に、心配したエルザが慌てて駆け寄った。
「大丈夫でありますか?!」
「コイツ……何を……?!」
驚愕の面持ちでエルフナインを見つめる二人だったが、気を失ったのか彼女はばったりと倒れてしまった。
それと同時に、ジェネレーターが不審な音を立て始めた。エルザが慌ててモニターを確認すると。祭壇の制御が不能になっている。腕輪から抽出されるエネルギー量が膨大すぎるのだ。
この出力で周囲が破損していないのは、暴れ出るエネルギーをサイコキネシスでフランカが抑え込んでいるからだろう。画面の端で、フランカが歯を食いしばって踏ん張っていた。
ただでさえパナケイア流体が濁っていくのだ。そんな自陣営最高火力であり最も幼い少女に、簡単に能力を使わせるわけにはいかない。
「制御不能!腕輪から抽出されるエネルギーが抑えられないであります!フランカ、すぐにこちらに来てください!」
「91110031!(分かった!)」
その言葉通りにミラアルクとエルザの元にフランカがテレポートでやって来た。そして、このままではシャトーごと押しつぶされると判断したエルザは、外壁をパージし、強引にエネルギーに逃げ場を作り出した。
空に向かって光が放出され、その中に繭が生み出される。
○○○
繭が出現したと同時に流れ出る不協和音によって雷が倒れ、意識を失ってしまっていた。そして彼女を回復体位で寝かせていたマリアだったが、その隙にヴァネッサの自由を許してしまう。
「逃がさないッ!」
「フンガーッ!」
ヴァネッサ自身もマリアを突破しないと脱出できないと理解しているからか、一直線に最短距離で追撃してくるマリアの真っ向から突撃する。
そしてマリアの短剣に向かって動かない腕を体の稼働で振り下ろす。短剣で受け止めたマリアだったが、肩関節から腕が外れ、爆発した。
煙幕の特性を持っていたのか、周囲一帯に煙が充満し、目の前すらも上手く見えなくなる。
マリアは倒れた雷を守るため、記憶を頼りに彼女の元に駆け寄って構えた。
「何処まで奔放なのッ?!」
「びっくりさせちゃった?だけどこちらも同じくらい驚いているのよ?」
煙の中からヴァネッサの声が聞こえてくる。元々ここからの離脱が目的の彼女のことだ、滅多なことが無い限り攻撃してくることはないだろうが、警戒を厳にする。
すると煙の中から何かが割れる音が聞こえた。恐らくはテレポートジェムだろう。煙が晴れると、周囲にはマリア自信と雷を除いて誰もいなかった。
それと丁度のタイミングで、本部からやって来た回収班のヘリが到着する。当然、要請通り医療班も載っていた。
「雷をお願い」
「任せてください」
信頼のおける彼らに雷を任せ、自分は指令室に繋げる。
「本部!状況を教えて!」
『先日観測した、同パターンのアウフヴァッヘン波形を確認!』
『腕輪の起動によるものだと思われます!』
現状分かっていることはそれだけだ。その為、それだけをマリアに報告する。
繭を見つめる弦十郎がつぶやいた。
「これがシェム・ハ……。アダムの予言した、復活のアナンヌキ……」
シャトーの上に誕生した繭は、頭のような場所にある突起からレーザーを発射し、周囲を焼き払った。本部が言うには、今翼やクリス達があの繭の元へ向かっているという。
マリアも彼女たちに合流するため、雷のみを案じながらも急行した。
○○○
翼たち残存組がヘリに乗って現場上空にやって来ていた。
繭の放ったレーザーがヘリの脇をかすめ、衝撃波に掴まる場所がなかった翼以外の四人が倒れ込む。翼が相手の姿を睨んだ。
「敵は大筒・国崩し!ヘリで詰められる間合いには限りがある!」
「それでも、ここまで来られたら……!」
「十分デス!」
装者たちはヘリから飛び下りる。切歌がイガリマを起動させた。
「Zeios Igalima Raizen Tron」
同じく全員がギアを纏った。戦域に入ったことで繭が敵対存在と認識したのか、頭のような部位を持ち上げ、見上げるようにしてレーザーを発射した。一すじのレーザーは複数本に枝分かれし、各装者を狙い撃ちする。しかし、狙いが正確であるため、防ぐことは容易い。
調はツインテールバインダーを展開し、先端の大型鋸を二枚重ねにして防ぎ、切歌は鎌を振り回していなした。翼が真っ二つに斬り飛ばし、響は拳で真っ向から対抗する。クリスはロケットをブースター代わりにして空中を高速機動で回避した。
すると繭はレーザーでは埒が明かないと認識したのか、体中に巻き付いていた触手を高速で伸ばす。翼とクリス、響は触手の上を波乗りのように滑っていく。
「ッ?!」
三人の間をもう一本の触手が潜り抜け、調へと一直線に向かって行った。調は反射的にガードするが、当たる直前で間に切歌が割って入り、鎌を回転させて受け流した。
後ろから帰ってくるが、今度はブースターを吹かして回避し、鎌を振るって四方八方からやってくる触手を宙を踊るように捌いていく。
翼たちは先に地面に到達していた。
響が触手を相手にしている二人に叫ぶ。
「調ちゃん!切歌ちゃん!」
「機動性においては、こちらに分があるッ!雪音ッ!」
「おおよ!」
翼が先陣を切り、視覚外から伸びてくる触手は彼女を追うようにして走るクリスが砲撃で対応する。
「まずは距離を取りつつの威力偵察だッ!行けるなッ?!」
「……はい!」
「デェスッ!」
少し前までの翼とはちょっと違っていた。何かが吹っ切れている。だからこそ驚きを隠せなかった調達は一瞬顔を見合わせたが、すぐに応えた。
背後から触手が伸びてきていたが、調が足裏の小型鋸を回転させて距離を取り、切歌が鎌の曲線を利用して受け流す。調のスケートのような動きは受け流しに最適だ。
本部でもその様子を確認している。
「装者応戦!ですが……」
「高次元の存在相手に有効な一撃を見舞えていません!」
触手を切歌は柄の長い鎌による反動を利用しているだけでなく、体の動きも対応させてチャンスを見出していく。這うように突き進んできた触手を棒高跳びの要領で回避し、鎌を一本追加した。
そして二つの刃を十字に重ね合わせ、風車のような鎌を構築する。
高速回転する刃を鎖のように変化した柄で振り回し、勢いをつけて触手に叩きこむ。
『凶鎖・スタaa魔忍イイ』
高速回転する刃は鋸のように押し切り裂いたが、相手は神の力を使う高次存在。神殺し、もしくはそれに類するの力を持たぬ猪狩までは即座に再生されてしまう。
触手は何事もなかったかのように切歌を地面に叩きつけた。
「切ちゃん?!」
しかし、神を殺す力は一振り、存在する。
切歌を圧殺しようと押しつぶしにかかった触手を、バンカーユニットを全開にした響が上空から落下し、真っ向から粉砕した。
響の救援に切歌は笑みを浮かべるが、それは直ぐに驚愕に変わる。
「響さん!……ッ」
「なッ?!」
一本で破壊されるなら、複数本でと言うように十数本の触手が一斉に響のもとに集まり、彼女を縛り上げて膨大なエネルギーを流した。
収束したエネルギーはとてつもない破壊力を生み出す。その全てが響に集中していた。
響は足掻く。自分にはやらなければならないことがあるからと。
「負けられないッ……!私は未来をッ……!未来にもう一度ッ……!」
絞り出せるだけの力を発揮し、触手による拘束を何とか脱出する。が、同時に響の力も出し尽くしてしまったため、切り札であるガングニールが解除されてしまった。
倒れ込んだ響のそばに調がやって来た。
「平気……!」
「分かってる。だから今は無茶できない……」
「へっちゃら……」
響は力なく倒れてしまう。そんな時にマリアが到着した。
「大丈夫?!」
「マリア!姉さんは?!」
「雷のことは後!今は……!」
翼がギアを纏っていない響の盾になる。
「切り札たる立花を失えば、それだけ後れを取ることとなる!ここは撤退し、態勢を整えなければ!」
「立てるか?本部に戻るぞ!」
クリスが前線から後退し、響に肩を貸した。彼女と交代する形でマリアが前衛に回る。
繭のような存在は、まるで赤ん坊のような姿形をしていた。
まだまだ伏線はいっぱいあります。無印編の最序盤から。