戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
今はノーブルレッドのアジトとなっているチフォージュ・シャトー。
そこにある彼女たちが建造した、オートスコアラーを利用したジェネレータールームにフランカ、エルザ、ミラアルクがそろっていた。
彼女たちの背後から、コツコツと足音が聞こえてくる。今ここに帰ってくるとすれば、リーダーであるヴァネッサしかいない。三人は直ぐに振り向いた。
「ヴァネッサ、帰還したでありますか」
「6211203334、331022228003443?(右腕、大丈夫?)」
「大丈夫よ、フランカちゃん。早速でごめんね。状況を教えて」
右腕を丸々一本失っているヴァネッサにフランカが心配そうに聞いた。が、彼女はサイボーグだ。意図的に痛覚を遮断することもできるし、切り離すこともできる。それは彼女も知っていたが、それでも心配してしまうのだ。
ヴァネッサの問いに、ミラアルクが答える。
「神の力は固着を開始。だけど、想定以上の質量に城外へと緊急パージしたのがこの体たらくだぜ」
「対応が間に合わず、時間稼ぎにフランカのパナケイア流体を濁らせてしまったであります……」
「12422234410275、0483221(気にしてないよ、エルザ)」
「わたくしめらは気にするであります!」
大したことないと笑ってみせるフランカだったが、顔に流れる血液が紫色になっていた。そのおかげで顔に紫色の血管がうっすらと浮かび上がっている。
かなり息苦しいはずだが、彼女はそんなそぶりを見せない。訃堂から受け取ったソイル式血液も使わず、濁りで若干青くなった顔で笑顔を作って見せる。
だからこそエルザはフランカの肩を掴み、叫んだのだ。
ヴァネッサが悲しそうな目を二人に向けた。
「遊びなしのいきなりすぎる展開はそういう……」
「遠からずこの場所は突き止められていたはずだ。むしろ神の力の顕現でシンフォギアを退けられたのは僥倖でだったってわけだぜ」
「そうだといいんだけど……」
未だ言い争いをしているエルザとフランカをよそに、真剣な表情でミラアルクが怪我の功名だと言う。
ヴァネッサは話を聞きながら、何故フランカが訃堂から受け取ったソイル式血液を補給したがらないのか疑問に思っていた。とり合えず彼女をこのままにするのは危ないと思い、まだ残っていた二つの血液を補給させることに決めた。フランカは一人で二つ分の全血清剤を使うのだ。
「決戦となると、お荷物の処分は早めにすましておきたいところだぜ……」
ミラアルクが、後ろにいる倒れたままのエルフナインを見つめた。
○○○
先の戦闘で負傷した響と雷がメディカルルームのベッドで寝っていた。
「見た目以上に響君のダメージは深刻……。しかし、それ以上に……」
雷の方が深刻であった。言葉を濁したとはいえ、そのことを聞かされていたマリア達の表情は暗い。最年少であり、彼女を姉と慕う調や切歌は蒼白だ。
雷は今、脈拍が二百を超え、体温が七十度と、人間が耐えきれる基準をはるかに上回っている。普通は細(不要な改行?)
胞が死滅し、命の危険があるはずなのだが、彼女の表情は非常に穏やかだ。まるで深い眠りについていると言われても見分けがつかないほどだった。
それ以上に不可解なのが、雷の鼓動に合わせてケラウノスが明滅を繰り返しているということだ。これ以上はエルフナインでなければわからないため、今のところは経過観察することしか出来ない。
弦十郎は気持ちを切り替え、今動ける戦力でどうするかを考える。
「だが響君は、翼の撤退判断が早くて最悪の事態は免れたようだ」
「いえ、弱きを守るのは防人の務め。きっと奏だってそうしたはずです」
翼は迷いを振り切ったように笑みを浮かべ、ほめられたことに照れて表情を赤くしていたが、そのことに弦十郎は違和感を覚えた。
そんな時、友里が呼び掛けた。
「指令!マリアさんから提案のあったデータの検証、完了しました」
「データの検証?」
「何デスか?それ」
いつまでも沈んでいちゃいけないと調達も切り替えたようだ。二人は向かい合った後、名前の出てきたマリアに顔を向けた。
マリアは腕を組む。雷に対して何もできない現状に自分に腹を立てているようだ。少しだけ声が荒立っている。
「腕輪から検知される不協和音に、思うところがあってね……」
「あの音に、経年や伝播距離による言語の変遷パターンを当てはめて、予測変換したものになります」
「言語の変遷パターンを?」
藤尭がスピーカーにあの音を流した。
最初は聞くに聞けない不協和音だった旋律からノイズが取り除かれ、洗練されていくとどこかで聞いたような音が聞こえてきた。
特にそれを知っている調が聞き入り、切歌は耳に手を当ててすましている。
「この曲……確か姉さんが……」
「いつかにマリアが歌ってたデスよ!」
「知ってるのか?」
その曲を知らないクリスがマリアに聞いた。マリアは曲に耳を傾けながら口を開く。
「歌の名は『Apple』。大規模な発電所事故で、遠く住む所を追われた父祖が唯一持ち出せたわらべ歌。そしてなぜか、雷も知っていた歌」
雷自身は母親から教わったと思っているが、実は違う。マリアは雷の母親に『Apple』を聞かせていないし、当然雷にも聞かせていない。しかし、マリアとセレナが歌っていた時に現れた彼女が、突然歌を合わせ始めたのだ。
当初は他にも知っている人がいたと純粋に喜んでいただけだったが、大人となった今は疑問に思っている。
だが、マリアは頭を振ってその疑問を追い払い、目の前のことに集中する。
「変質変容こそしていますが、大本となるのは、マリアさんの歌と同じであると推察されます」
「アヌンナキが口ずさむ歌とマリアの父祖の土地の歌。そして、何故か二つと無関係の轟も知っている歌か……」
「フロンティア事変においてみられた共鳴現象……。それを奇跡と片付けるのは容易いが、マリア君の歌が引き金となっている事実を鑑みるに、何かしらの秘密が隠されているのかもしれないな」
弦十郎は顎に手を当て、装者たちは息を呑んだ。
「敵の全貌は、未だ謎に包まれたまま。それでも、根城は判明した。俺達は俺達の出来る事を進めよう!おそらくはそこに未来君とエルフナイン君も囚われてるに違いない!」
「「「「「了解!」」」」」
「デス!」
装者たちの意気込みは十分だ。
○○○
「すまない。突然のことだった故、そなたの体にいらぬ負担をかけてしまった」
暗闇の中、私に誰かが声をかけてきた。その声は男性のもので、厳しさの中に優しさのこもった声色をしていた。
「そろそろだとは思っていたが、これほどまでに早まるとは思いもよらなかったのでな。重ねて言おう、本当にすまなかった」
普通なら怒るところなのだろうが、なぜか私は怒る気になれなかった。私自身、いつか来ると思っていたから。根拠はないけれど。
「かねてからの約束通り、そなたの力を借りたい。そのことは知っているはずだ」
そんな約束はしたことないし、記憶にも残ってない。でも、心は、魂は知っている。ずっと昔から、生まれた時から。ずっと。
「そなたの要求にもできる限り応えよう。ことが終わればすべて返す。ただ、あまりに予測できぬことがあった故な、完全ではないだろうが……全力を尽くさせてもらう。でなければ彼らに面目が立たぬし、武人としての恥だ」
暗闇の中に、光が迫ってきた。そしてその輝きは、私の体を暖かく包み込んだ。
○○○
ミラアルクが気を失ったままのエルフナインに向かって歩を進めた。そして鋭い、鋭利な赤い爪をすっと伸ばす。
フランカはソイル式血液の輸血のため、別室に運ばれていた。眠っている時ならテレパシーやサイコキネシスによる妨害が入らないため、こういう荒事をするなら今だ。彼女らの殺した死体は残らないため、証拠隠滅も簡単に出来る。よほどのことが無ければ気付かれないだろう。もっとも、隠し事をしなければならないという心苦しさはあるが。
失った右腕を新しいものに取り換えたヴァネッサはミラアルクの肩をポンと叩く。
「新調した右手の具合を確かめなくちゃ。たまにはお姉ちゃんらしいところも見せないとね?」
ヴァネッサの右手が高速で振動を始めた。文字通りの手刀となり、拘束振動による切断力はなかなかの物だろう。
「神の力を神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要。フランカちゃんには悪いけど、それを邪魔する要因は小さくても取り除かなくちゃ」
「ッ」
エルフナインへと手刀を突き立てる。
が、すでに目を覚ましていたエルフナインは地面を転がってその一撃を避ける。
「コイツ?!」
「気づいていたでありますか?!」
かなりギリギリのタイミングだったのだろう。エルフナインは肩で息をしていた。
「あら?自分が原因で世界に仇なしてしまった以上、生きているのも辛くないかしら?」
息を整えながら、エルフナインはゆっくりと立ち上がる。
「確かに昔の僕ならば……世界を守るために消えていいとさえ思っていました……。だけど……この体は大切な人からの預かりものです!今はここから消えたくありません!」
ヴァネッサがパナケイア流体を濁らせないために切っていた手刀を再び高速振動させる。そしてエルフナインに今度こそ引導を渡すために歩を進める。
「そう。だけどそれは聞けない相談ね」
「どうすれば……だけど僕では……!」
「次は外さないわ」ヴァネッサはすでに目の前に迫っており、後は手刀を振り下ろすだけとなった。
「誰かッ!」
エルフナインの叫びは誰にも聞き届けられず、ヴァネッサの手刀で命を散らす……はずだった。
ハイヒールが地面を叩く音と共に、硬質な金属が振り下ろすのを妨げていた。
突然の横入りにヴァネッサだけでなくエルフナインも驚愕する。
「な、なんなのッ?!」
「ソードブレイカー……。そのひと振りを、貴女が剣と想うなら!」
否、金属ではなく剣。哲学兵装。剣を破壊する剣。ソードブレイカー。そしてそれを操るは風のオートスコアラー、ファラ。
ファラは振り下ろしをはじき返し、ヴァネッサは思わず後退した。そして彼女が拘束振動する手刀を剣と定義していたことにより、爆散する。
「日に二度もッ?!」
「しっかりするであります!」
ファラの目覚めに呼応するように四つの棺桶が黄色、赤、青、紫と光を放ち、煙の中から影が飛び出した。
「先手必勝!派手に行くッ!」
煙の中から現れた土のオートスコアラー、レイアがコインを指の間に作り出し、一気に投擲した。
放たれたコインはヴァネッサたちを後退させ、そこに最強の炎のオートスコアラー、ミカが追撃をかける。
「あはははは!ちゃぶ台をひっくり返すのはいつだって最強のあたしなんだゾ!」
カーボンロッドを思いっきり振りかぶったミカは体も回転させ、エルザとヴァネッサに叩きつけ、吹き飛ばした。最も戦闘慣れしていて何とか回避することが出来たミラアルクが『カイロプテラ』を腕に巻き付け、剛腕をミカに叩きこもうとする。
「調子にッ……?!」
「こんなの、玉乗りする方が難しいYO☆」
『カイロプテラ』で強化したはずの剛腕を、足一本で受け止められている。ミラアルクは力の限り踏ん張るが、びくともしない。
最恐のエーテルのオートスコアラー、ルシフが嘲るような声色で、にたぁっと笑っていた。そして受け止めていた足を何事もなかったように下ろし、そのまま後ろ回し蹴りを理解が追いついていないミラアルクに叩きこんだ。
速くもなく、力の入っていない蹴り。しかし、その威力は先ほど打ち込んだ剛腕の一撃が上乗せされているものだった。ミラアルクの体がボールのようにヴァネッサたちのところにはね飛んでいく。
大量の煙がまい、その中から五体のオートスコアラーと水のオートスコアラー、ガリィに抱きかかえられたエルフナインが現れる。
「あなた達は……炉心に連結されていた廃棄躯体の……」
「スクラップにスペアボディ?呼び方はいろいろあるけれど、再起動してくれたからにはやれるだけのことはやりますわよ」
「マスターのようでマスターでない、少しマスターっぽい誰かだけど、マスターのために働くことが私達の使命なんだゾ!」
「この身に蓄えられた残存メモリーを、エネルギーに利用しようと目論んだようですがそうは参りません」
「ほとんどのエネルギーを賄ったボクに感謝してよNE☆!あれ、ボクがいなけりゃメモリーなんてあっという間になくなるんだかRA☆!」
「さてマスター。今後の指示を頼む。このまま地味に脱出するもよし。無論派手に逆襲するも……」
「だったら、やりたいことがありますッ!」
たとえどのような無理難題であろうとも、マスターのオーダーに応えるのが騎士たちの務めだ。マスターの願いをかなえるべく、壊れた騎士たちは命の限り力を尽くす。
ルシフは廃棄躯体ではなく試作躯体です。