戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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都合上登場しない雷とフランカ。


鎧袖一触

 ダウルダヴラの起動は、アウフヴァッヘン波形となって本部でも観測された。

 

「チフォージュ・シャトー内部にて、新たなるエネルギーを検知!」

「これは……アウフヴァッヘン波形!」

「ダウルダブラ……だとぉ?!」

 

 弦十郎が身を乗り出して驚愕する。

 その反応も当然と言える。何せ、ダウルダヴラはキャロルが魔法少女事変で身に纏っていたモノ。そしてそれは、碧の獅子機と共にエクスドライブを発現させた装者たちによって破壊されていたはずだ。しかし、波形だけでその存在を目視していないとはいえ、現実として復活しているのだ。

 シャトー内部で復活したキャロルはしばし物思いにふけた後、目の前にいる敵を認識する。

 

「思えば……不要無用と切り捨ててきたものに救われてばかりだな……」

 

 キャロルの脳裏に、エルフナイン越しに見てきたオートスコアラーたちの姿が蘇る。廃棄躯体というまともに動くことが出来ない体であるにもかかわらず、彼女達は主であるキャロルとエルフナインの願いをかなえるべく全力を尽くしたのだ。

 例えその結果が自分たちの完全な機能停止であろうとも。

 

「ありが……」

「似合わないことにひたらせないぜ!」

 

 ミラアルクがキャロルの感傷に踏み入った。

 『カイロプテラ』によって強化された剛腕だが、響の全力攻撃すら真正面で受けきって見せたキャロルにとってこれを防ぐなど造作もない。むしろ歌によるブーストがない分はるかに容易い。

 目の前の存在が模造品でないことにヴァネッサたちは驚愕する。

 

「声音を模したわけでなく、あれは……!」

「衰退したキャロルでありますか?!」

 

 力による突破は無駄だと判断したミラアルクは後退する。

 キャロルはけだるそうに、しかし静かな怒りを声に込めて吐き捨てる。

 

「俺の感傷に踏み込んできたのだ。それなりの覚悟はあってだろうな!」

「「あぁぁぁッ!」」

 

 エルザとミラアルクが接近戦のために距離を詰め、ヴァネッサが指の機関砲を連射する。しかし、たかだか機関砲ごときがキャロルに効くわけもなく、防御陣でたやすく受け止められる。

 ミラアルクが背後から接近したが、キャロルは顔を向けることすらせずに腕だけで弦を操作して拳を受け止め、回し蹴りも弦でからめとって放り投げる。

 エルザが頭上から『テール・アタッチメント』でかみ砕きにかかるが、こちらもさして気にしたそぶりも見せずに弦を操作し、その反発を用いてはじき返す。

 エクスドライブの七人がかりでようやく拮抗するのだ。記憶の焼却が出来ないため当時よりも出力は落ちているだろうが、それでもその戦闘能力は圧倒的だ。

 

「バレルフルオープン!お姉ちゃんも出し惜しみしてらんなーい!」

 

 ヴァネッサは体中の砲門という砲門を開き、今打てるだけのミサイルを大小問わずに打ち尽くす。それは避けようともしないキャロルに着弾し、爆炎と共に真っ黒な煙が巻き上がって見えなくなる。

 

「やったぜ!」

「まだ歌が聞こえるでありますよ!」

 

 全弾命中したことにミラアルクが歓喜するが、エルザの言う通り歌は途切れていない。その歌声に一切の乱れはなく、一つも有効打になっていないことがわかる。

 煙が晴れると、そこには防御陣を全周囲展開して平然としているキャロルがいた。そして役目を終えた防御陣を閉じ、四大元素全ての錬金陣を展開し、一斉発射する。あまりの威力に地面がえぐられる。

 

「同時階差の四大元素を?!」

 

 普通の錬金術師が出来る芸当ではない。パヴァリア光明結社最高幹部ですら不可能なことを、キャロルはいとも簡単にやってのける。一斉に発射された四大元素がノーブルレッドに襲い掛かる。

 三人は身を寄せ合い、エルザの尻尾をシェルターにして何とかやり過ごす。

 

「さすが……たった一人で世界と敵対しただけのことはあります……!」

 

 固まっているならまとめてと、貫通力を引き上げた攻撃をキャロルが放ったが、三人はそれを何とか分散して回避した。

 シャトー内部ではキャロルが猛威を振るっているが、S.O.N.G.内部は混乱を極めていた。

 

「状況の確認、急いでください!」

「そんなことよかさっさとあたしらが直接乗り込んで……」

「分かっている!だが無策のままに仕掛けていい相手ではない!」

「とはいえだなぁ……!」

 

 クリスがここにきて焦りを見せていた。

 弦十郎もそんなことは重々承知なのだ。しかし、相手の手中には神の力がある。そう簡単にゴーサインを出すわけにはいかないのだ。

 

「焦らないで!チャンスはきっとあるはずだから」

「俺たち銃後もその瞬間を信じている!」

 

 何とか分散して一斉撃破を回避しようとするノーブルレッドだが、それをキャロルが許すわけがない。彼女は弦を振るって退路を断ち、一か所に集中させる。

 一か所に集まったことを確認したキャロルはバックパックを展開し、重力子を圧縮、小型のブラックホールを生み出した。

 

「まさか……超重力子の塊を……?!」

「高くつくぞ!……オレの歌はァァァッ!」

「逃げて!」

 

 準備段階ですら肌に感じる圧倒的、暴力的な威力。脳裏に免れぬ死という現実を叩きつけられつつも、動物的な生存本能で逃げようとするが間に合わない。三人が完全に死を受け入れかけたその時、体を突然な浮遊感が襲った。

 キャロルがバックパックを閉じ、自身が生み出した目の前のクレーターを見下ろす。

 

「破壊力が仇に……だが逃がすものか!」

(キャロル!待ってください!)

「ん?」

 

 完全に滅殺しようと追撃をしかけようとしたキャロルだったが、それをエルフナインが引き留めた。

 

「何だ?!」

(今は彼女達を追うよりも、未来さんを救出するのが先です!)

「ッ……。正論を……だが聞いてやる」

(あ、あと!)

「何だまだあるのか?!」

 

 要件は言い切っただろうとキャロルがめんどくさそうに言った。しかし、エルフナインはどこかうれしそうだ。

 

(キャロルには感謝しないと。おかげで助かりました)

「こ、この体は俺の物だ!お前を助けたわけではない。礼など不要!」

 

 不要といっているが、露骨に狼狽えている。その証拠に少しだけ早口になっていた。復讐を誓ってから今まで、始めた感謝されたのだから当然だ。エルフナインがにっこりと笑った。

 

「それでも……」

 

 キャロルはそばにいる、完全に機能停止したガリィへと目線を向けた。

 

「アイツ等には手向けてやってくれないか?きっとそれは、悪党が口にするには不似合いな言葉だ」

(うん……。レイア、ファラ、ミカ、ルシフ、ガリィ……。ありがとう……)

 

 役目を終えた騎士たちは、主を守り切ったのだ。そしてその主から感謝される。騎士としてこれ以上の誉れはないだろう。

 ガリィたちの表情は壊れたにもかかわらず、どこか満足げだった。

 

○○○

 

 混乱を極めていたS.O.N.G.だったが、ようやくすべての準備が整い、落ち着きを見せていた。

 

「ヘリの発艦準備は完了です。いつでも……」

「ああ。だが……」

「「ッ?!」」

 

 急に外部から専用回線で通信が入った。メインモニターに思わず目を向けると、そこにはダウルダヴラを纏ったエルフナインがいた。

 

「その姿は……」

『久しいな……とは言っても俺はお前達の事は見ていたがな』

 

 その声色と口調から、相手が経緯や手段は不明だが、復活したキャロルであるとすぐに推察する。

 そしてその通りなのか、弦十郎がキャロルに問うた。

 

「本当に……キャロル・マールス・ディーンハイムなのか?一体、どうやって……」

『脳内ストレージをおかしな機械で観測してた奴がいてだな。そいつが拾い集めた思い出の断片を、コピペの繰り返しで強度ある疑似人格と、錬金術的に再構築しただけだ』

「だけ……なんだ……」

「コピペ……。最先端な錬金術デスね……」

 

 さらりと言っているが、キャロルの体である自分の頭の中を覗き、その中から焼却した彼女自身の思い出を抽出して形にする。簡単にできるものではない。こんな事、圧倒的な集中力と能力を強化した最高質のホムンクルスにしか出来ないことだ。

 しかし問題はそこではない。元はキャロルの体とは言え、エルフナインの意識はどうなっているのかだ。

 

「エルフナイン君はどうなっている?」

『安心しろ。今の主人格はこの俺だが、必要であればあいつに譲ることは不可能ではない。エルフナインたっての頼みだ。脱出までの駄賃に小日向未来を奪還する。その為にお前達の暇そうな手と轟雷のプランを貸してもらうぞ』

「すまないが……雷君の手は借りられない……。彼女は今、意識を失っている」

『何?!……奴なら何か考えがあると踏んだのだが……まあいい。お前達だけでいい』

「その物言いに物言いなのだが……」

 

 翼が物申そうとしたが、マリアが手で彼女の口をふさぎ、マリアが代わりに口を開いた。

 

「私達に手伝えることなの?」

 

 雷を名指しで指名するほどの事の代わりが務まるのか、マリアが気になっているのはそこだった。

 

『お前たちに頭脳労働など期待していない』

 

 そう言ってキーボードをタイプし始めた。モニターに映る映像が切り替わり、赤子のように形を変えた繭が映る。

 

『このデカブツを破壊してもらう』

「それが出来ればアタシらも!」

『出来る』

 

 苦労はないと続けようとしたクリスに対し、さも当然のようにキャロルが断言した。その根拠と自信は、キャロルのいる場所が場所だからだ。

 

「ここはチフォージュ・シャトー。その気になれば世界だって解剖可能なワールドデストラクターだ」

(確かに僕は聞きました!)

 

 気絶していたふりをしていた時にヴァネッサが言っていた。神の力が神そのものへと完成するまで時間がかかると。

 

「残された猶予に全てを懸ける必要がある。お前達は神の力、シェム・ハの破壊を。そして俺たちは、力の器たる依代の少女を救い出す。二段に構えるぞ!」

 

 かつての強敵こそが今の仲間。これほど頼もしいことはない。




キャロルの戦闘能力の変化ってガンダムXとガンダムXディバイダ―の関係性に似てますよね。
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