戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
シンフォギアのアンソロが面白すぎるぜ!
死を覚悟したヴァネッサたちだったが、何時まで経ってもその瞬間が来ない。恐る恐る周囲を見渡すと、ここは全血清剤を打つために使かっているベッドがあった。
「14111514102?(怪我はない?)」
「フランカ……」
そのベッドに、輸血を行っていたはずのフランカが腰かけていた。腕には赤いソイル式血液の流れるチューブがつながれており、今も輸血をしているようだ。少し前よりも顔色がよくなっていることから、もうそろそろ終わるころだろう。
「助かったぜ……」
「助かったであります」
「33503023122612233(どういたしまして)」
にっこりとフランカが笑う。
それにつられて頬がほころんだヴァネッサだったが、今は事態が事態だ。気を引き締めて、気乗りしないが報告のために訃堂に通信を繋ぐために、そばに置いてあったコンソールに歩を進めた。そのことにテレパシーで気付いたフランカは不機嫌そうに眉を顰める。
通信を繋ぐとすぐに訃堂が出てきた。そしてあらかたのことを報告すると、何時も不機嫌な顔をしている訃堂が更に眉根を寄せた。
『儚きかな』
「ッ……!平らかにお願いしますわ……」
ヴァネッサも取引の都合で仕方なくしているようで、彼と顔を合わせることは出来る限りしたくないようだ。目線をわざと逸らしている。
「多少の想定外があったとはいえ、顕現の力は順調……いうなれば、ここが正念場です。全霊にて邪魔者を排除してみせましょう」
『無論である。その為にお前たちには稀血を用意してきたのだ!』
「心得ております。ですから何卒、神の力の入手の暁には私達の望みである人間の……」
訃堂は自分の用件だけ伝えると、ヴァネッサとの通信を一方的に終了した。そのことに彼女は舌打ちを打ち、悪態をつく。
「クソジジイめ……!」
「こうなったら、やってやるであります!」
「ああ!うちらだって正面突破できること、見せつけてやるぜ!」
エルザが息まき、ミラアルクが決意する。彼女達にフランカが前々から持ってきていたアタッシュケースから全血清剤を三つ取り出し、手渡した。少し足取りがおぼつかないようだが、目が覚めたばっかりで能力を使ったのだから致し方ない。
「5102,1584(はい、これ)」
「ありがとうであります」
「目が覚めたばっかりだってのに、すまないぜ」
「ごめんね、フランカちゃん……」
「020245020245。91312265、4142112231021181(いいのいいの。私も、何かしたいから)」
彼女は深く息を吐き、笑ってみせた。
通信が切れた後、鎌倉にいる訃堂は自らの計画の完遂が間近であることに悦に浸る。
「遠からず神の力は我が物となり、危惧すべき神殺しの対抗策のみ。フフフフ……フハハハハハハ!」
その姿に、国を守りし防人の姿は何処にもなかった。あるのは、力ですべてを我が物にしようとする悪鬼の姿であった。
○○○
日が傾き、オレンジ色に染まった海辺で響と未来は向かい合っていた。
「やっぱり私、響の友達じゃいられない……」
未来はそう言って、響の前から離れていく。響は全力で追いかけるが、何処まで行っても追いつけず、逆に距離は伸びていくばかりだ。未来に向かって手を伸ばす。
「行っちゃ駄目だ!行かないで!未来!」
「響……」
「雷!未来が……遠くに……」
いつの間にか背後に立っていた雷に響が振り向き、消え入りそうな声で彼女に手を伸ばした。あの時言った、自分だけじゃダメなときは頭でもなんでも貸してあげるという言葉を信じて。
伸ばした手が雷に届く。その瞬間だった。
「ごめん……」
「え……?」
響の伸ばした手が空を切る。
雷の金の瞳は青色に変わっていて、髪からは赤い燐光が舞っている。周囲には光の粒子が漂っていた。雷は微笑み、響の前から粒子となって姿を消した。
○○○
キャロルは冷静に未来と神の力との切り離しを行っていた。かつて自分の計画を逆手に取って攻略して見せた雷が居れば、彼女のプランと自身のプランをすり合わせて最適なもの出せた筈だ。しかし、意識を失っているのなら仕方がないと、悪態と妥協の想いを抱きながら準備を着々と進める。
粗方の解析が完了し、錬金術で外に出ている赤ん坊のような繭に目をやった。
「どうやら城外の不細工は巨大なエネルギーの塊であり、そいつをこの依代に宿すことが儀式のあらましのようだな」
(祭壇から無理に引きはがしてしまうと、未来さんを壊してしまいかねません……)
「面倒だが、手順に沿って儀式を中断させるほかになさそうだ」
キャロルがそう口にすると、エルフナインは驚いたような顔をしている。どうしたと振り向くと、何故かエルフナインは笑顔を浮かべていた。
(意外だなと思って。僕はまだ、キャロルのことを全然知らないんですね)
一瞬キャロルの思考が停止する。そして言っている意味を漸く理解した。
「……そうじゃない!気に入らない連中に貸しを押し付けるチャンスなだけだ!」
(はい!)
照れ隠しなことを見抜いているエルフナインは朗らかに返事していた。
そしてそれはさておきと、ようやくやって来た装者たちのヘリを確認する。ここからが正念場だ。
「さて……連中もおっとり刀で駆けつけてきたようだな。こちらも取り掛かるぞ!」
繭の元へと到着した翼たちは既にシンフォギアを纏っており、ヘリから飛び下りて並び立つ。
『各員、チフォージュ・シャトーに取り付き成功!』
『これより作戦行動を開始します!』
「完成したリンカーと昨日までの訓練は……!」
「きっと今日のためにあったのデス!」
キャロルによって未来を助け出すための計画が説明される。
『古来より人は、世界の在り方に神を感じ、しばしば両者を同一のものと奉ってきた。その概念にメスを入れるチフォージュ・シャトーであれば攻略も可能だ』
「これも一種の哲学兵装……ですが今のシャトーにそれだけの機能と出力を賄うことは……」
神の誕生は自然崇拝によって生まれたもの。それならば自然が生まれる場所である地球を分解することが出来るシャトーならば可能という訳だ。
しかし、それには懸念材料があった。シャトーを起動させるためのエネルギーと、かつての作戦で内部に解剖の光が照射されているということだ。前者はともかく、後者は作戦において致命的となる。
『無理であろうな。だが、チフォージュ・シャトーは様々な聖遺物が複合するメガストラクチャー。であれば他に動かす手段は想像に難くなかろう』
「フォニックゲイン……」
『想定外の運用故に動作の保証はできかねるが……。安心しろ、機能自体は理論上稼働する。もともと世界解剖の光を放つことが出来るのだ、メインシステムが耐えきれなくてどうする』
要は本来の運用方法なら問題なく動かせるが、今提示した運用方法では起動を保証できないということだ。
しかし、イチかバチかとは言え光明が見えたのだ。乗らないわけがない。
「やれる……やって見せる!」
「あの頃より強くなった私達を見せつけてやるデスよ!」
「それでもこれだけ巨大な聖遺物の起動となると、五人がかりでも骨が折れそうだ……」
今は響と雷という、フォニックゲイン束ね重ねて増幅することが出来る者が欠けているため、全開出力であっても最大値には至らない。しかし、彼女達は命を懸けることで限界を超えようとする。
「ああ。だが私達には、命の危険と引き換えにフォニックゲインを引き上げる術がある」
「絶唱がある」
翼とマリアが頷き合った。
二人がいないため絶唱のバックファイアをもろに受けてしまうことになるが、背に腹は代えられない。
「準備は出来ているな?行くぞ!」
五人の絶唱が戦域に響き渡る。
S2CAでもなければ、オーバーライズでもない。ただの絶唱。しかし、彼女達は自分たちの歌に全てを賭ける。文字通りの『命を絶する唱』。
膨大なフォニックゲインが迸る。旋律がバラバラで、足並みすら揃っていないフォニックゲインは暴れまわり、エネルギーが拡散していく。それ故にばらつきが生まれ、シャトー起動にまで至らない。
「上昇した適合係数が……バックファイアを軽減してくれているがッ……!」
「それでも長くは持たないわよッ!」
「なぜ……なぜ反応しないチフォージュ・シャトーッ……!私達の最大出力をもってしても、応えるに当たらずとでも言うのか?!」
体にも限界が近づいており、血を吐き、血涙を流す。その様子をキャロルは冷静に眺めていた。
(連中のフォニックゲインが俺程でなくとも、仲間と相乗することで膨れ上がるはず……。だのになぜ二人が欠けているだけで……)
(もしか!それは!)
キャロルの疑問に長らく後ろから見てきたエルフナインが気付いた。しかし、その気づきをキャロルに伝えるのを背後で起きた爆発が遮った。
キャロルが煩わしそうに振り返る。
「こっちはこっちで……たかだか一人増えた程度で、そのまま逃げていればいいものを。そっちからやってきたということは余程の理由があるのか。戦う力を手に入れたか」
今度はフランカも一緒にいるが、彼女はヴァネッサの後ろに隠れている。彼女は体自体は十三歳の少女のままであるため、真っ向勝負が出来ないのだ。
ヴァネッサの両腕の機関砲をキャロルが防御陣で防ぐ。キャロルは呆れたように、
「何を仕掛けてくるかと思えば芸のない奴等だ」
「うちらは強くない!弱くちっぽけな怪物だぜ!」
ミラアルクが『カイロプテラ』を右足に纏わせ、急降下して飛び蹴りを喰らわせた。しかしそれも当然のように防がれる。
「それでもッ!弱さを理由に明日の全てを手放したくないのであります!」
エルザが『テール・アタッチメント』を打ち出したが、弦によってからめとられ、斬り刻まれる。
キャロルは三つに分散した彼女たちの相手をするのが面倒になったのか、四大元素を三つづつ展開して一掃しようとしたが、途中で体の動きを止められた。
「何ッ?!」
フランカがサイコキネシスで体の自由を奪ったのだ。
「捕まえたであります!」
三人はキャロルを中心に三角形の頂点の位置に立ち、両手を掲げる。
「哲学のぉぉぉッ!」
「「「迷宮へぇぇぇぇッ!」」」
「これは……!」
キャロルがダイダロスの迷宮。ピラミッドへ閉じ込められる。
外ではフォニックゲインの膨れ上がりにシェム・ハの繭が反応した。
「シェム・ハの防衛反応が……」
「チフォージュ・シャトーを動かす前に気取られるなんて……!」
レーザーが横薙ぎに照射され、装者たちを吹き飛ばした。高まったフォニックゲインが消失する。
直撃は免れたが、繭はもう一射、打ち込もうとする。
「神の力の完成は何人たりとも邪魔させ……ッ?!」
「351128431……(途切れた……)」
ダイダロスの迷宮にキャロルを封じ込めたヴァネッサは、冷や汗をかきながらも勝利を確信する。しかし、迷宮は内部からの圧倒的かつ暴力的なエネルギーによって破壊された。
「あれは一体、何でありますか?!」
「ヤバいぜ!こいつはッ!」
迷宮を突き破った光は空高く伸びていく。
爆発の影響で吹き飛ばされたヴァネッサは、フランカを守るように覆いかぶさっていた。
「どうやって……哲学の迷宮を……」
「ふん。オレはただ歌っただけだ」
「歌で……ありますか……?」
さも当然のように吐き捨てる。しかし、ただ歌った程度で哲学の迷宮が破壊できるわけがない。
そう、『ただの歌』程度なら。
「ああ……俺の歌はただの一人で70億の絶唱を凌駕する……フォニックゲインだッ!」
流石に負担が大きかったのか、キャロルも膝をつく。
しかし、キャロルの七十億のフォニックゲインは、かの日の奇跡をもう一度、必然として手繰り寄せた。
雲を突き破り、夜空の元にエクスドライブが舞い降りる。
雷にウルトラセブンしてもらおうかと思いましたがやめました。
そろそろかな?