戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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訃堂には痛い目を見てもらいます。


強き者と弱き者

 雷、というより彼女の中のアダドとの取り調べも終わり、彼女達は食堂のテーブルを囲っていた。

 すでに響にも説明を終え、彼女は精神的な療養とアマルガムの使用によって謹慎の命を与えられている。そしてその説明の時にひと悶着あったことで、テーブルのお誕生日席に座っている雷が俯いていた。

 雷は切歌の方を向き、申し訳なさそうに口を開く。

 

「ごめんね、切ちゃん……。怖かった……よね?」

 

 それを聞いて切歌は慌てて手を振り、何でもないと否定する。

 

「姉ちゃんが謝る必要ないデス!あたしだって自分の尊敬する、大切な人を馬鹿にされたら怒るデスよ!」

「そう言ってくれると嬉しい……。あと、私の事、怖くない……?」

 

 両手でコーヒーの入ったコップを掴み、視線を落とす。雷は響に説明した時のことをトラウマに持っていた。今まで親友だと思っていた雷が実は人間でないと知った響は、未来とのことも相まって拒絶してしまったのだ。

 追い打ちをかける形となってしまったため頭では理解できるのだが、初めて拒絶されてしまったことを恐れている。

 雷が肩を震わせていると、マリアが優しい口調で言った。

 

「そんなことないわよ……」

「マリア……」

「あなたのことを怖がるのなら、エルフナインが仲間として受け入れられることはないわ」

 

 雷の真反対に座っているエルフナインに目を向けた。

 事実、雷が造られた存在であると分かった今でもS.O.N.G.の職員たちの反応は変わらなかった。当然今までの組織への貢献という積み重ねもあるが、似たような存在であるエルフナインという前例があったのも大きかった。逆にそうやって造られた存在であると知ったため、どこか納得したような職員もいる。が、おおむね好意的とみて問題ないだろう。

 

「ああ、あのバカだって今は混乱してるだけだ。落ち着いて話し合えばいつもの調子に戻るさ」

 

 クリスが励ますように俯く雷の頭をわしゃわしゃとなでる。雷は嬉しさに頬を赤くさせ、撫でられてぼさぼさになった髪を上から触った。

 話がひと段落付いたところで、調が次の話題を切り出した。

 

「でも、一連の事件を操っていたのが風鳴機関だなんて……」

「確かに、信じたくはないデスよ……」

 

 程よく緩んでいた空気が一瞬で冷え込む。

 日本を守る最高組織が自分たちの敵なのだ。そしてその風鳴機関に、自分たちの仲間で彼女たちの実質的なリーダーである翼までも敵に回っているのだ。冷え込むのも無理はない。

 しかし、翼は何か事情があって敵対しているのだと装者たちは信じていた。

 

「それでもあたしは信じてる。不器用なあの人に、裏切りなんて真似できるものか」

「私だって疑ってないッ!」

「翼さんは、大切な仲間デス!」

「恐らくは、あの魔眼に……」

 

 エルフナインは顎に手を当てる。翼が裏切った理由は、自分も受けたことから恐らくはミラアルクの魔眼、もしくはそれに類する何かであると推察する。

 すると、雷とマリアの通信機にだけメールが届いた。二人は確認すると、モニターに発令所までの招集が通達された。

 

((私達だけ?))

 

 二人は疑問に思いながらも、カップのコーヒーを飲み干し、そろって発令所に向かって行った。

 

○○○

 

 鎌倉の地下にある風鳴機関電算室の通路で全ての元凶である訃堂と、天羽々斬装者の翼が歩いていた。

 目の前の自動扉が開き、中に入ると、そこにはシェム・ハとなった未来がいる。しかし、彼女はバイタルを表示するカプセルのようなものに閉じ込められ、眠っていた。

 

「小日向……」

「否!我が国に相応しき神の力である!ダイレクトフィードバックシステムによる精神制御は、間もなく完了する」

 

 ウェルの作ったダイレクトフィードバックシステムにより、神であるシェム・ハの意識は支配できずとも、人間の未来を支配することでその肉体をコントロールするとういう腹積もりなのだ。

 訃堂は喜びのあまりこぶしを握り締める。

 

「その時こそ、次世代抑止力の誕生よ」

「しかし……桜井女史亡き今、どうやって新たなシンフォギアを?」

「シンフォギアに非ず!神獣鏡のファウストローブよ!だがそれを作った者も、どこぞで果ててしまっておるがな」

 

 口角を上げ、下卑た笑い声をあげる。

 翼はこれが防人の姿かと疑問に思いつつも、自分を信じることが出来ない翼は訃堂に付いて行くしか出来なかった。

 

(そうしなければならぬと囁かれ、あの時は疑いもせず行動した……。なれど……本当にそれが正しかったのか?私は……)

「翼!」

 

 嫌悪のあまり目に涙をため、吐き気から口を押える。しかしそれを、訃堂が声をかけて断ち切る。

 

「何故、連中にとどめを刺さなんだ?我ら以外が神の力を持つなど、言語道断!」

「そ、それは!」

「まあ良い……。だが惑うな。そのように脆弱な心ではやがては折れてしまう。護国のために鬼となれ。歌では世界を救えぬのだ!」

「はい……」

 

 これまで何度も歌で世界を救ってきた事実があろうとも、翼は屈してしまう。自分の歌を、心の底から信じることが出来なくなっていた。

 

○○○

 

 マリアと雷が発令所に到着した。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 マリアが先陣に立ち、その後を雷が付いて行く。目の前に広がるメインモニターには八紘の顔がいっぱいに映されていた。

 中央では腕を組んだ弦十郎と緒川が待っていた。

 弦十郎が詫びを入れる。

 

「すまないな、急に呼び出して」

『早速だが君達に新たな任務の通達だ』

 

 この任務の主導は八紘であるらしく、彼が口を開く。そしてその任務の概要を緒川が説明する。

 

「かねてより進めていた内偵と政治手段により、風鳴宗家への強制捜査の準備が整いました。間もなく執行となります」

「風鳴宗家って事は……」

「そうだ。最早一刻の猶予もない」

 

 いかに相手が自分たちの家であろうとも、敵となり、犯罪に手を染めたとなれば容赦はないということだろう。弦十郎と八紘の顔に一切の迷いがない。

 

『風鳴訃堂自らが推し進めた護国災害派遣法違反により、日本政府からの逮捕依頼だ。状況によっては……殺害の許可も下りている』

「殺害って……それは翼に対しても?!」

「落ち着いてマリア。そんな状況に陥らせなければ、殺害なんてしなくていい」

「だけど……!」

 

 仲間を殺せないと主張するマリアに、状況によるという現場の判断が優先されるため、殺さなくてもよくすればいいと雷が主張する。

 緒川がマリアを選抜した理由を説明した。

 

「服務規程違反によって謹慎中の響さん、並びに未成年スタッフに任せるわけにはいかないと判断しました。そこでマリアさんに……」

「私が選ばれた理由は分かったわ……。だけど、それならどうして雷が選ばれたの?」

 

 成人している自分が選ばれた理由は理解できたが、未成年である雷が呼ばれたのは理解できない。説明のために、弦十郎が口を開いた。

 

「雷君には神の力を使い、同じ力であるシェム・ハ。及び未来くんの確保を頼みたい。相手が常識外の力を持っている以上、こちらも同等の力でなければならないからだ。頼まれてくれるか?」

(アダド、構わない?)

(シェム・ハを追うことこそ我が使命。そうでなくとも、そなたが望むのであればいくらでも力を貸そう)

 

 雷が自分の心の中にあるアダドの魂に語りかけた。

 そして、アダドの了承を得た後に弦十郎を真っ直ぐに見つめた。

 

「分かりました!私が未来を取り返します!」

 

 響を悲しませた責任は自分でとる。その決意の炎が彼女の心にごうごうと燃えていた。

 

○○○

 

 風鳴宗家。その邸宅の門の前にすでにアガートラームとデノヴァギアを纏っているマリアと雷を先頭に、拳銃を構えた黒服。そして弦十郎と緒川、八紘が並んでいる。相手が錬金術師を従えていた以上、アルカ・ノイズを使役している可能性があるため、それを倒すことが出来る装者たちを先頭にしているのだ。

 八紘が門の前に立ち、交際認証でロックを解除する。

 

「開門!」

 

 それと同時にマリアと雷が飛び出した。やはり待ち構えていたアルカ・ノイズを装者二人が相手取る。

 アダドの意識が表層化していなくともデノヴァギアは扱える。しかし、出力は少しばかり落ちているものの、それでもエクスドライブを上回っていることに変わりがなかった。

 とは言え当然短所、つまり人間であるが故のうかつさが出るため、そこをマリアとの連携でカバーする。 

 

「ここは私達が!」

「私の及ぶ権限のセキュリティは解除可能だ!速やかに風鳴訃堂並びに帯同者の逮捕拘束を!」

「了解ッ!」

 

 雷とマリアが道を開いている間に、八紘と黒服が先に進む。その後を進む弦十郎がマリアに釘を刺した。

 

「いいかマリア君!アマルガムは……」

「わかってる!私だって謹慎は御免よ!」

「頼むぞ!これ以上の横紙破りはS.O.N.G.の国外退去に繋がりかねないのだ」

 

 八紘の指示で家宅捜査を開始する。そして弦十郎が訃堂と相対し、マリアに翼が向き合う。そして雷は全ての黒服が安全圏である屋敷の中に侵入したのを確認した後、未来のいる地下電算室に向かって行った。

 

「未来!どこ?!未来!」

(焦るな。そなたの頭脳であれば見つけられる)

 

 まるで迷路のような通路を駆け巡りながら、レーダーを利用して探し始める。

 一方そのころ、息も絶え絶えなフランカを抱えてノーブルレッドが同じく地下電算室に潜入していた。怒りで冷静になっている彼女たちはヴァネッサの力を使い、最も動力が使われている場所を逆探知してシェム・ハの居場所を突き止めた。

 

「奴等が派手にやり合ってる今こそうちらのターンだぜ!」

「どうするでありますか?」

 

 エルザとミラアルクの声が怒りに震えている。

 ヴァネッサは抱きかかえたフランカを彼女たちに任せ、メインコンソールをタイプし始める。

 

「神の力の管理者権限をこちらに移し替えるの。私達を簡単に切り捨てた風鳴訃堂には、相応の報いを受けてもらわないとね……」

 

 システムを切り替えるため、機能が一時ダウンする。

 

「よし。これでダイレクトフィードバックシステムを……」

 

 しかし、一瞬でも手綱を話したことが運のつきだった。エルザが野生の本能で気付いたものの、もう遅い。シェム・ハは目を覚まし、腕輪からカッターのような光線を放った。光線はフランカごとエルザを貫き、横に払われたことでミラアルクの体が真っ二つに切断される。

 

「エルザちゃん?!ミラアルクちゃん?!フランカちゃん?!」

 

 ヴァネッサは駆け寄り、機関砲を構えるがそれよりも速くシェム・ハに切断された。

 自由を取り戻し、邪魔者を始末したシェム・ハは、この大規模な電算室の掌握を開始する。丁度その時、雷が飛び込んできた。

 

「未来!……否、シェム・ハ!」

 

 雷の人格がアダドへと切り替わる。瞳が蒼くなり、髪に赤い燐光が舞った。彼の方を向いてシェム・ハが嬉しそうに口角を上げた。

 

「やはり来たか、アダド。だが遅かったな。もうじきユグドラシルが起動する……」

「何ッ?!」

「いいのか?ここに居ては、地上の道具どもを守れぬぞ?」

「その前に貴様を止めるだけの事!」

 

 こぶしを握り、シェム・ハに飛び掛かったアダドだったが、いきなり地上へと飛ばされてしまった。テレポートのようなものを受けたアダドは、記憶の中に超能力者がいたことを思い出す。その力の持ち主は死んでいたはずだったが、シェム・ハの力を知っている彼は驚きもしない。

 

「使者を生者へと再構築したか……。ほう?ハハハ!不可能を可能にしようとする強き人間か、いいだろう。……ぬ?」

 

 轟音がなった方に目をやると、アマルガムを起動した翼が、怒りのままに訃堂に刃を振り下ろそうとしていた。

 

「この国に必要なのは防人でなく護国の鬼!儂は死んで護国の鬼とならんッ!そしてお前も、護国の鬼よぉぉ!」

 

 その一言が、アダドの逆鱗に触れた。翼の振り下ろしは弦十郎が受け止め、訃堂には地を蹴って瞬時に距離を詰めたアダドが回し蹴りを打ち込んだ。

 訃堂の体は吹き飛び、塀に叩きつけられる。

 

「儚きかな。生まれて二千年も経っていない小童が大層な口を叩く。己の力だけで国を護ることが出来ぬものが、護国の鬼などとぬかすな。貴様に華々しい死が来るなどと思うな。冷たい牢獄の中、一人寂しく惨めに死に絶えるがいい」

 

 この星の命の創造主の一柱であるアダドは基本的に上から目線であるものの、人類を愛していた。それが人間が犬猫に向ける愛情なのかもしれないが、ともあれ大切に思っている。

 しかしその愛情は、人間は不可能を自らの力で可能に変えていく強さに由来するもの。故には彼は、訃堂のような人間の力で国を護るために戦わぬ弱く、卑しき者が心の底から大嫌いなのだ。

 アダドは汚物を見るような目で訃堂を見下ろし、彼の予想よりも速い地面の揺れをを感じるや否や叫んだ。

 

「予想よりも速い!お前達!この場から離れろ!」

 

 すると突然地中から赤い光が伸びた。あまりにも超常的な現象だったため、誰もが呆気にとられ、動くことが出来ない。

 

○○○

 

 謹慎を受けていた響は父である洸のアパートに転がり込んでいた。そして彼と相談し、精神を落ち着かせて雷のことで未だ悩みながらも正面から受け止められるほどになっていた。雷としっかり話し合えばわかり合うことが出来ると信じている。

 そんな時、通信機がなった。

 

「はい!はい!でも私の謹慎は……わかりました!本部に向かいます!」

「行くのか?」

「行かなきゃ……」

 

 炬燵でミカンの皮をむいていた洸が響に問うた。響は頷いて答える。

 

「なぁ……響。へいき、へっちゃらだ」

「え?」

 

 響が荷物をまとめる手を止めて振り向いた。

 洸は立ち上がり、立てかけてあった家族写真を手に取って眺める。

 

「何もしてやれない駄目な父親が、娘にかけてやれる唯一の言葉だ。同じ言葉でも根性無しの俺にはいつしか呪いへと変わっていった……。だけどお前は違うだろ?」

「お父さん……」

「物事を呪いと取るか祝福と取るかなんて気の持ちよう一つだ!」

 

 響は自分の拳を見つめる。

 

「呪い……うん。そうだね!」

「それにほら……なんだ。呪いも祝福も漢字で書くとよく似てるだろ?裏と表で……んお?俺の言ってる事もあながち間違いじゃないかもな!」

「何それ!」

「来年の今頃にはきっと名言だ!」

「けだし名言だよ!」

 

 父親に背中を押され、元気をもらった響は階段を飛び降りて駆け出した。

 

「行けー響!お母さんのことは任せろ!」

「ありがとー!お父さん!ラーメンおいしかった!」

 

 祝福を受け、響は走って行く。未来を取り戻すために。




アダドからすれば、自分たちの力で家族のために頑張ろうとするノーブルレッドと自分の手で仇を撃とうとする翼は強き者。どれだけ力が強くても、自分の手で国を護ろうとしなかった訃堂は弱き者です。

電算室が高性能すぎたせいで予想よりも速かったユグドラシルの起動。
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