戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最近はねバド!にハマっている私。
やっぱりいい大人が選手に影響を与えるんだなって思う。……私もいい監督に出会えてたらなぁ。


最後の戦いの始まりの始まり

 まるで巨大な幹のような柱が出現してからしばらくたち、S.O.N.G.の調査部は血眼になってシェム・ハ、及びノーブルレッドを捜索していた。

 しかし、あの夜に姿を現してから今まで影も形も見せず、難航していた。

 

「半径2km以内にてノーブルレッドの発見ならずとの報告!」

「捜査範囲を広げろ!連中の逃走速度より早く!」

「了解!」

 

 黒服たちは矢面に立って戦う事のできぬ自分たちに出来るのは戦う者たちへのサポートだと自覚している。少しでも足どりを掴もうと奮闘していた。

 しかし現実は残酷だ。どれだけ捜索範囲を広げようと意味はない。彼らの努力をあざ笑うように、シェム・ハたちの根城は巨大な幹の真下にあった。

 巨大な幹、ユグドラシルシステムと呼ばれるそれは、風鳴機関の巨大な地下電算室に根を張り巡らしていた。シェム・ハは自身を縛るはずのダイレクトフィードバックシステムを逆手に取り、自身を逆流させることで掌握。言語こそ違えどプログラムは言葉で綴られる。言の葉を力として操るシェム・ハにはこの程度のことは造作もない事であった。

 

「それは……?」

「面白かろう?我を拘束せしめた戒めより我の断片を逆流させている。我は言葉であり故に全てを統治する」

「これもまた……シェム・ハの力……。あの時確かに私達は殺されたはず……現代に解き放たれた超抜の存在に……」

 

 あの時、ノーブルレッドはシェム・ハによって抗うことすらできずに瞬殺され、その身を人のまがい物から正真正銘のバケモノに書き換えられた。

 出血は体内に逆流し、損壊した部位は再生していた。

 超常の力を見せるシェム・ハだったが、彼女からすればこれでもかつてほどの力はないらしく不満気だ。

 

「遺憾よの。我が力、かつての万分の一にも満たぬとは……」

「ふざけたこと……言わせないぜェッ!何?!」

「ミラアルクちゃん?!」

 

 怒りに任せてミラアルクが立ち上がり、腕力を強化するために『カイロプテラ』を纏う。もともと持っていた力のはずだが、彼女は驚愕した。本来は羽根の枚数、即ち二か所しか強化できなかったのだが、背中の羽は残ったまま、四肢の全てが強化されている。

 ミラアルクは強化された剛腕を見て、怖れに声を震わせた。

 

「一体……どういう訳だぜ……?体にみなぎるこの力……まるで本物の!」

「まるで本物の怪物とでも?ああそうさな。歪な形であったお前達を完全な怪物へと完成させたのだ。我の力の一つまみよ」

「完全と……完成……」

「まさかそれって……もう人間には戻れないって事なのか?!」

「愚問である。完成させるとはそういうことだ」

 

 シェム・ハは彼女たちが成し遂げたかった願を真っ向から切り捨てる。エルザとミラアルクは絶望し、膝から崩れ落ちた。希望が断たれたことで今までの心の支えが崩壊し、しゃくりあげながら涙を流す。フランカも俯き、肩を震わせた。

 

「人の群れから疎外される恐怖と孤独は最早癒されることはなく……ああ……怪物はとうとうどこまでも異物に……」

 

 リーダーであるヴァネッサも心が折れていた。

 

「気鬱たる。ならば我に仕えよ。この星の孤独も阻害も全て我が根絶やしにしてくれるわ」

「神よ……」

 

 シェム・ハの言葉に絶望しきり、自暴自棄となっていたヴァネッサは彼女に頭を垂れる。

 しかし、一人だけ絶望していなかった。幼いが故、夢を追いかけたい、叶えたいがためだけに絶対に折れない少女がいた。

 彼女は叫ぶ。

 

「いやだッ!」

「ッ?!」

 

 その声の持ち主は数字の羅列ではなく、人の言葉を取り戻したフランカだった。完全にされてしまったがため、不完全だった言語野が修復されたことで人の言葉を離すことが出来るようになったのだ。

 すがれば楽になれると諦めきっていたヴァネッサは、隣で肩を震わせていた原因が絶望や悲しみではなく、怒りだったことを此処に来て初めて理解する。

 

「私は絶対にあきらめない!絶対に人間に戻ることをやめたりしない!私の命が尽きるまで、絶対に絶対に家族の元に帰るんだ!」

 

 確かに力は化物になったかもしれない。しかし、稀血は必要としなくなったし、彼女限定ではあるが普通の言葉も話すことが出来るようになった。

 ここまでこれたのだから、何かもう一押しがあれば人間に戻ることが出来る。現実的な根拠はないが、その思いがフランカの原動力となっていた。

 シェム・ハは一瞬驚いた様子を見せ、にたりと笑った。

 だが、フランカの叫びはすでに心が折れきっているヴァネッサたちに届くことはなかった。エルザも、ミラアルクもシェム・ハの元に膝まづいている。

 現に今も、敵対的な視線を向けているのはフランカだけだ。

 

「で、神様はどうやってうちら怪物の孤独や疎外感を拭ってくれるんだぜ?」

「知れたこと。この星の在り方を5000年前の形に戻すのだ」

「5000年前……?そいつは先史文明期ゾッコン期だぜ……」

 

 あまりに桁外れなスケールの大きさにミラアルクが呆気にとられる。

 

「申しつけたものはどうなっている?」

「これで……ありますか?」

 

 エルザはおずおずとテレポートジェムをシェム・ハに手渡した。ジェムを持ってこいと言われてはいたが、これらが何に必要なのかが全く理解できなかった。

 受け取ったシェム・ハはジェムを手で握る。すると、ピンク色だったジェムは黄金色に輝き、色も黄金色に変化した。

 ノーブルレッドに顔を向ける。

 

「傾聴せよ怪物ども。これより使命を授ける」

 

 フランカは憎々し気にシェム・ハを睨む。その視線を受け、彼女はほんのり口角を上げた。

 

○○○

 

 潜水艦であるS.O.N.G.本部は、とある場所と計画のために海中を航行していた。

 

「現在本部は鹿児島県種子島に向けて航行中」

「種子島だぁ?!」

 

 クリスが素っ頓狂な声を上げた。

 種子島と来れば、十中八九目的地はあそこだ。アダドによって授けられた事前知識も相まって、雷は目的の場所を知っている。

 

「種子島宇宙センター……」

「先だって風鳴邸に出現した巨大構造物・ユグドラシルと呼応するかのように、月遺跡よりシグナルが発信されているのが確認されました。それに、アダドさんからの情報提供によって関係性が確定しています」

「まさか私達に……」

「月遺跡の調査に行けというのデスか?!」

「検討段階ではそういった話もありました。ですが、今回月に向かうのは特別に編成された米国特殊部隊となります」

 

 切歌と調の疑問に緒川が答えた。

 シンフォギアであれば生身でも宇宙空間で活動できるし、もしものことがあっても強固な防御力が命を守ってくれる。しかし、いくら武器や鎧がすごくても、それを扱う装者たちは無重力での行動をしたことがほとんどない。過去に何度かあったが、それは空を自由に飛べるエクスドライブありきであり、通常状態での経験は全くない。

 その点、米国特殊部隊はNASAで疑似的な無重力下での訓練を繰り返した精鋭たちだ。環境が影響する物事において、経験に勝るものはあり得ない。

 

「確かに、あのユグドラシルを放ってはおけないものね」

「だからって……こうも簡単に都合つけられるものなのか?探査ロケットって……」

『ミスター八紘の置き土産だ』

 

 突然照明が暗くなり、米国大統領からビデオ通話が開始された。

 父親の名が出たことで、翼が真っ先に反応する。

 

「お父様の……?」

「プレジデントの判断と対応には感謝に堪えません」

『先の反応兵器発射による国際社会からの非難を躱せたのは、ミスター八紘が提案した日米の協調姿勢によるところが大きい。その象徴であった月ロケットを活用することにどうもこうもあるものか。』

 

 いくら超常の存在が出現したとはいえ、あの時の米国は明らかに急ぎ過ぎていた。状況を見れば、あと五分でも待てば円満に解決していたところだったのだ。しかも発射したのが反応兵器となれば、いかな米国とも各国からの批判は免れない。それを調停したのが翼の父、風鳴八紘なのだ。

 被害者である日本側から提案されたソレは周囲の国々を納得させるに十分であり、批判を全て一発で回避するために米国はその提案に調印することにした。

 そして米国は今、命を落とした八紘に対して珍しくも恩返しという形で応えたのだ。

 翼は感極まって静かに涙を流す。

 

『だがこれで借りは帰した。後はせいぜい派手に貸し付けてやるつもりだから、そう思っていてくれたまえ』

 

 ある種の照れ隠しとも取れる言葉を最後に、大統領は通信を切る。

 弦十郎は一つ息を吐いた。

 

「諸君らの任務は三日後に発射が迫る月遺跡探査ロケットの警護である!敵の襲撃は十分に予想される!各員準備を怠るなよ!」

「「「「「「「はいッ!」デス!」」」」」」

 

 すでに敵が来ることは予測されるため、島民の避難は始まっている。

 最後の戦いの始まりが、始まろうとしていた。




フランカちゃんはオリハルコンメンタルの持ち主。
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