戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
・・・なんかタイトルがランボーチックになってしまった。
指令室ではイチイバルの少女、雪音クリスの詳細をたどっていた。
「反応ロスト、これ以上の追跡は不可能です」
「こっちはビンゴです」
藤尭がメインモニターにクリスのことが書かれた記事を投影する。彼女はかつてギアの装者候補生だったが失踪し、行方をくらませていたのだ。
「あの少女だったのか・・・」
「雪音クリス。現在、十六歳。二年前に行方知れずとなった過去に選抜されたギア装着候補者の一人です」
「うむ・・・」
過去に何かあったのだろう、弦十郎の表情が曇る。メインモニターに表示された別のウィンドウには三人の黒服に守られ、戸惑いを隠せない未来が映し出されていた。
○○○
二課のメディカルルームにて、雷と響の二人は了子の診察を受けてた。雷のほうはすでに終了しており、響が今しがた終わったところだ。検査結果の表示されたタブレットを見ながら了子が結果を告げる。
「二人とも外傷は多かったけど、深刻なものがなくて助かったわ」
「つまり、すっかり平気ってことですよね」
「・・・」
「・・・雷ちゃんは別のほうが深刻そうね。まあでも、響ちゃんのほうは常軌を逸したエネルギー消費による、いわゆる過労ね。少し休めば、またいつも通り回復するわよ」
「じゃあ、わたし・・・」
ふらついた響を了子が支える。雷は珍しくそんな響に目もくれず、フィーネの残した言葉「科学においてあり得ないは存在しない」の意味を軽く上を向いて、目を瞑って思考し続けている。
(あの言葉・・・いったいどういう意味なんだ?フィーネの言っていた『あいつら』というのも気になる。私を知っている人だろうか?・・・駄目だ!不明瞭な情報が多すぎる!いったん考えるのやめて未来のことを考えよう)
了子が興味深そうな目で自分を見ていたことなど知る由もなく、頬を軽くたたいて思考を切り替える。二人の心配事を見抜いた了子が安心させるように伝える。
「心配しないで大丈夫よぉ。緒川君たちから事情の説明を受けているはずだから」
「そうですか・・・」
「今から胃が痛い・・・」
「機密保護の説明を受けたら、すぐ解放されるわよ」
「はい・・・。わかりました・・・」
了子の言葉の意味は何方かといえば事務的なことで、二人の心配事にはかすりもしていないのだが、そんなことを了子が知る由もなく、意気揚々と説明した。雷と響の表情が曇るが、指令室へ行かねばならないので強引に表情を作る。
途中で翼と合流し、四人そろって入室する。如何やら相手がシンフォギアを持っていることでこちらの優位性が無くなった。という話をしていたようだ。弦十郎と藤尭、友里の表情が暗い。
「深刻になるのは分かるけど、シンフォギア装者は三人とも健在。頭を抱えるにはまだ早すぎるわよ」
「翼!まったく、無茶しやがって・・・」
「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に臥せっているなどできませんでした!」
「へ?」
「お?」
つばさから出た予想外の言葉に二人は驚きの声を上げる。
「轟はともかく、立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと確信しています」
「翼さん・・・」
「よかったね、響」
一度軽く拳を握り、笑顔で響のほうへ振り向く。
「完璧には遠いが、轟もいる。立花の援護ぐらいなら、戦場に立てるかもな」
「私、頑張ります!」
翼は何も言わず、ただ目線だけで答えた。
「響君と雷君のメディカルチェックも、気になるところだが・・・」
「別に問題はないそうです」
「ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」
そう言った直後に響の表情が曇り、その意味をすでに理解している雷は顔を青ざめさせ、誰にも聞き取れないほどの小ささで「私のせいだ・・・」と、つぶやき続ける。不意に、響の胸を了子がつついた。
「んなあぁぁ!なんてことぉぉ!」
「んひぃ?!」
乙女にあるまじき声を上げた響に驚いて雷も変な声を上げてしまう。しかしソレのおかげか、雷は不安定な状態から回復する。
「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片は、前より体組織と融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はその所為かもね」
「融合ですか?」
「大丈夫よ、あなたは可能性なんだから」
「よかったぁ」
(聖遺物との融合・・・。ネフシュタンの鎧と何か関係があるのかな?)
雷の頭の中に、クリスの纏っていたネフシュタンが想起される。何故なら、あれは損傷した時に装着者の体を蝕むように再生していったからだ。体を蝕むはずの融合を嬉しそうに話す了子にフィーネの面影が重なり、その考えを『あり得ない』と頭を振って追い出す。
○○○
その夜、寮に戻った二人は自分たちの寮室のドアの前にいた。響は深呼吸を繰り返し、雷はさっきまでとは打って変わって顔を青くして体を震わせ、響にしがみついている状態だ、そうしないと立つことすらままならないのだろう。響が静かにドアを開けた。
「ねぇ、未来。なんていうか、つまり、その・・・」
「た、ただ・・・いま・・・」
「・・・おかえり」
言葉を濁す響とどもりながら言葉を口にする雷を、未来は冷たく一蹴する。
「あ、うん。ただいま」
「は、入っても、い、いい、ですか?」
「どうぞ。あなた達の部屋でもあるんだから」
「ひぃ?!」
読んでいる雑誌から目を上げず、何時もなら名前を呼んでいるところを「あなた」と呼んだことで更に雷がガタガタと震え始め、目に涙を貯めながらさらに響にしがみつく。逆効果だと分かっているからか、自傷行為は行っていない。それだけが幸運だった、もししていたらさらに関係を悪化させていた事だろう。響の後にくっついたままついていく。
「あ、あのね・・・」
「なに?だいたいの事なら、あの人たちに聞いたわ。いまさら聞くことなんてないと思うけど」
「み、未来ぅ・・・」
「嘘つき!隠し事をしないって言ったくせに!」
未来の言い放った言葉に響は愕然とし、雷は掴まる力すらなくなったのかその場で崩れ落ち、俯きながら「ごめんなさい・・・」と繰り返し言い続ける。響はそんな雷を何とか着替えさせ、二人並んで未来と対面する。
静かになった雷だが、未来の目を見ようとしない。時折顔を上げては怯えたように伏せるの繰り返しだ。ついに響が切り出した。
「未来!聞いてほしいんだ。私」
「どうせまた嘘つくんでしょ!」
未来はそれだけ言って立ち上がり、その言葉に雷の体はびくりと跳ね、響にしがみつく。そして未来は雷がかつて怒っていた時に使っていた二段ベットの下段に入っていった。雷は響に支えてもらいながらベットを覆っているカーテンを軽く開け、一緒に謝罪する。
「ごめん」
「ご、ごめん・・・なさい・・・」
未来からの返事はなく、カーテンを閉じて二人は立てかけてある一つの写真に目を移す。その写真は中学の時に三人そろって撮った写真だ。二人はさらに表情を曇らせた。
○○○
二課の研究室で一人、その部屋の主たる了子がコーヒーを飲みながら聖遺物のことについて頭を巡らせていた。
(轟理論。私ですら開発できなかった聖遺物、ケラウノスをシンフォギアとして構築することに成功した轟夫妻の考案した理論・・・。私が手を出す直前でケラウノスと理論、適合者のデータをすべて抹消しサルベージできたのは元々私が関わっていた開発計画の資料のみ。それ以降のあいつらの動向は不明、唯一分かっていたのは日本に住んでいることだけ。二年前にあいつらを自らの手で尋問しながら目の前で息子を殺し、理論の全貌を聞き出そうとしたが口を割らず、その技術の結晶たるケラウノスは紛失、証拠隠滅のために家族全員殺害、一家心中したように見せかけてケラウノスの捜索に当たった・・・。それから二年後、忌々しいあいつらの娘、轟雷がケラウノスの起動に成功。名字が同じだけの赤の他人かと思い、質問すると娘であることが確定した。つまりワタシを、ケラウノスを託した娘がいないタイミングに狙わせて襲わせたのだ!このワタシが!このフィーネが!三回も、三回もだ!ただの人間に出し抜かれたのだ!しかも轟理論には、私の理論にはない特殊機能が備わっている。絶唱に匹敵するそのエネルギーを身に纏い、制限時間こそあるものの絶大な力を発揮する決戦機能!必ず手にして見せる。あいつらの娘らしくワタシの正体にも恐らく到達しているのだろう。残したのも癪だが頷ける。幸い、轟雷からケラウノスを奪う算段は整っている。手に入れた時が楽しみだ)
びっしりと貼られた響と雷の写真に囲まれ、了子、いや、フィーネが高笑いした。それを聞いたものは、誰もいない。
フィーネを出し抜く雷の御両親、自分で書いててすごいなと思う。