戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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実はケラウノスはアダドの力の結晶。故にオリジナル聖遺物ではなかったわけですが、ちゃんと登場しますよ。
誰も知らない、でも知っているやつです。


人類神話

 S.O.N.G.はかねてからの作戦通りに種子島に到着し、装者たちは分散して守備配置についた。

 基本的に最もユニゾン率の高い二人でコンビを組み、エクスドライブ以上の出力を持つデノヴァギアを有する雷は単独だ。雷、と言うより彼女の中にいるアダドが自ら主張したところだが、様々な戦略を見通してもこの判断がベストであるため、採用されたということだ。

 四つに分かれているため、マリア・翼組が南側の湾岸部を、響・クリス組が東側の施設帯を、調・切歌組がロケット発射台の周囲を、そして雷が北側の管制施設の防衛を担当していた。

 定時報告の時間になり、通信機からは各々の報告が聞こえてくる。

 

『定時報告。こちら異常なし』

『こちらも異常ありません』

『発射予定時刻まであと24時間。引き続き警戒に当たります』

「……こちらも異常なし」

 

 確かに異常はない。

 ただ、目の前にアルカ・ノイズを召喚せず、戦う気が全く見えないフランカがいるのを除けばだが。

 雷はフランカから警戒の視線を外すことなく、ゆっくりと通信機をポケットにしまう。警戒し、観察していると、やはり彼女の表情からはこれから戦うという意志は見られない。それよりも、どちらかといえば何をどうすればいいかという初対面の人にどうすれば話しかけられるかと悩んでいるように感じる。

 

「本当にいいの?アダド。目の前の事、報告しなくて」

(ああ、構わん。小童のところの地下から地上に飛ばされたことがあったであろう?あれをしたのがこの娘だ。それと同時に受けたテレパシーはそなたも聞いたはずだ)

「聞いたけどさ……」

 

 雷が受けたテレパシー。

 いや、テレパシーですらない、ただ想いが能力と共に雷の中に流れ込んだだけと言った方が正確だろう。しかし、その想いは絶対に人間に戻る。戻って私の音楽を世界中に届けて見せるという夢と希望、そして化け物から人間に戻るという不可能を可能にしようとする不屈の意志を持っていた。

 アダドはこの意志に興味を持ち、フランカにまだその意志があるのなら平和的に相対するつもりでいた。もっとも、少しでも敵対意識を持っているのならば即座にかたをつけることに変わりはないが。

 雷は腰に手を当てて正面からフランカの方を向く。

 

「君、名前は?」

「名前はフランカ・ド・フリース、十三歳!誕生日は十二月二十六日で、血液型はA型!身長は百四十七センチで体重は言えません!趣味は音楽鑑賞で好きなものは良く分かりません!」

「お、おう……」

 

 早口でまくし立てるように言われてしまったため混乱したが、雷は彼女を響の同類とみなした。どうもかなり勇気を出したようだ。肩は緊張と恐怖に震えている。

 彼女から感じ取れる恐怖は敵と相対しているからではなく、敵に、雷と中のアダドに自分が受け入れてもらえるかどうか。という恐怖が大きく見える。

 そして通信機からは他のメンバーがノーブルレッドとの交戦に入ったとの報告が入った。しかし、雷はフランカとの受け答えこそが自分の戦いだと判断した。その判断基準は報告を雷が受けた瞬間フランカの表情が悲痛に歪んで見えたからだ。

 

「で、フランカは何のために来たの?答えようによっては、ここで君を倒す」

「ッ……!」

 

 フランカは言葉に詰まった。

 とはいえ、自分たちのしてきたことを理解し、そう上手く受け入れられることはないんだと真摯に受け止めた彼女はしっかりと答える。

 

「ヴァネッサを、みんなを、止めてもらうためです!」

「止める?」

 

 雷は首を傾げた。

 

「ヴァネッサたちは絶望しちゃってるんです。歯向かっても神様には勝てないし、壊れたものが完全に治ることが無いことを知ってるから……。だけど私はまだやれることがあるのに諦めたくない!私の命をかけます。この命に価値がない事だってわかってます!だけど……だけど……!」

 

 最後の方は言葉になっていなかった。顔は自身の無力さへの怒りと壊されてしまった自分への悲しみの涙でぐずぐずになっていた。鼻水もたれ、それを両手で乱暴に拭っているからさらにぐちゃぐちゃだ。

 雷はフランカの気持ちを、想いを知っていた。

 彼女は私だ。必死で変わろうと、元に戻ろうとしても傷が深すぎる故に簡単に変われない、戻れない自分への怒りと壊されてしまったが故の悲しみが同居した感情だと。

 だからこそ、雷はフランカと真正面から受け止められる。

 

「たとえ人間に戻れたとして、これまでしてきた行いで裁かれるよ」

「構いません。人間として、人間のルールで裁かれるなら……私はそれを甘んじて受け入れます」

 

 フランカの顔を見る。

 鼻を啜り、涙で目元が赤くはれているが、目だけは決意の炎が燃えている。

 地球(ほし)の光がその瞳の中に輝いた。

 

「私は君たちを人間に戻す手段は持ってないし、知りもしない」

「……」

「だけど、連中を止める手伝いはしてあげる。ただし、手伝うだけ。止められるかは君の説得次第だよ」

「承知の上です!」

 

 雷の中ではアダドが満足そうな顔を浮かべている。そのことをしっかりと認識している雷は深く息をつき、フランカの方を向いた。

 通信機で本部に通信を繋ぐ。

 

「聞いてました?弦十郎さん」

『ああ、聞いていたとも。彼女の投降を認めよう』

「だって、よかったね。フランカ」

「ッ……!よかった……よかったよぉ……」

 

 まずは一歩。自分たちのような存在は、そう言った存在に対処するところに認められてから始まると考えていたフランカは、安堵と歓喜が入り混じった奇妙な表情を浮かべている。

 背後で巨大な爆発音と振動が響き、素早く振り向くと炎と煙が巻き上がっていた。ロケットの防衛に失敗したということだ。しかし、焦りは見られない。

 何故なら相手の目的地も月であることをシェム・ハと同じアヌンナキであるアダドは知っているからだ。そしてこちらの手段を封じるということは、向こうにはその手段があるということ。恐らくはテレポートジェムだろう。響達なら転送までの隙をついて妨害や、乗り込むこともできると確信していた。

 しかし、問題は自分たちだ。

 その危惧通りの声が通信機に入ってくる。

 

『ギアからの信号、検知できません!』

『スキャニングエリア拡大中!……ですがッ!』

『世界からの消失……?まさか……そんなことが……』

 

 信号が検知できなくなった。ということはテレポートジェムに割って入って共に月へ行ったということだろう。

 落ち着き払って雷はフランカに向きなおる。

 

「で、私達はこのまま地球に置き去りにされてるわけだけど……」

「流石に私のテレポートでも無理です。ですが、まだ方法はあります!」

「で、あろうな」

 

 雷の瞳が蒼色に、髪に赤い燐光が舞う。

 通信機を耳に当てる。

 

「そ奴らは先に月に向かった。地球上を探しても見当たらんぞ」

『何?!』

「そしてフランカと共に、我らも月へ向かう」

『彼女なら、月へ行けるというのだな?』

 

 フランカが駆け寄り、アダドの腕を掴んで代わりに答える。

 

「捕虜なのに勝手な行動を許してください!だけど……」

「今はアダドだが、雷でよい」

「雷さんと一緒に月へ行って、ヴァネッサたちを止めます!その後のことは……お任せします」

「ということだ。後は任せろ」

『ああ、頼む……』

 

 アダドは通信を切り、ポケットにしまった。

 フランカは自分に喝を入れるように頬を叩く。

 

「して、その方法は?我一人なら行けぬことはないが、これはお主のしたいこと。ならば、お主の力でやって見せるがよい」

「はい!」

 

 意気よく頷き、フランカは懐からテレポートジェムを取り出した。

 そしてそれを両手で握り、歯を食いしばって自身の超能力を全開にする。

 

「ほう?テレポートジェムの座標をテレパシーの応用で書き換えるか……」

 

 月遺跡の座標が分かっているのなら、それをテレポートジェムの登録している座標と書き換えればいい。言うだけなら簡単であるが、それはシェム・ハだからこそ成し得れること。つまり、神域の不可能を可能にしなければならないのだ。

 能力が強化されたとはいえ、それでも額からは脂汗が浮かび、呼吸が荒くなっている。更には早く書き換えねばならないという焦りの表れから腕に力が入り、震えている。

 そして、その時は来た。

 ジェムが黄金色に輝き、月遺跡の座標が登録される。緊張の糸が切れ、フランカは肩で息をしながら地面にどさりと座り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……で、出来た……!」

「よくやった。ではいくぞ」

「は……はいッ!」

 

 アダドにフランカを休ませるつもりはない。すぐに彼女を立ちあがらせ、ジェムを地面で割って月遺跡に向かう。

 厳しさを見せるアダドだったが、その口角は上がっていた。

 シェム・ハの神域である不可能を可能にする。それは、艱難辛苦を乗り越える人類神話の象徴。未来へ進む種族である人間にしか出来ない事。

 今ここで、フランカは自身が人間であるということを証明したのだ。




実はフランカを生存させるか否かで迷っていたのですが、生存させることにしました。彼女は私の中で劇場版限定ヒロインみたいな感じです。
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