戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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この期に及んでまだ鬼滅の刃かガルパンかで再び悩み始めた私。


月遺跡への侵入

 月夜の大地に、白と緑の光が尾を引きながら激突する。

 その激突も一度ではなく、何度も何度もぶつかり合い、火花を散らした。常人の目にはぶつかり合う瞬間に何があったかを認識することもできず、ただ空に浮かぶ光跡しか映ることはないだろう。

 緑の光は実体剣を持つ青年、エンキ。白の光はレーザーのような剣を振るう女、シェム・ハ。二柱は鍔迫り合った。エンキには言葉がある限り再生する力が、シェム・ハには彼との戦闘能力の差があるため、どちらもとどめを刺すことが出来なかった。

 衝撃波と共に両者の距離は離れ、怯んだエンキの隙をついてシェム・ハが手刀を振り下ろした。

 

「ふッ!」

「ッ」

 

 白煙の中からの奇襲であったため、一瞬遅れたエンキだが間一髪で回避する。それによって手刀から放たれた弧を描く光は背後の岩山に直撃し、周囲を飲み込むほどの大爆発を引き起こす。

 これが人とは隔絶した存在同士の戦い。アヌンナキ同士の、神々の戦いだ。

 爆炎の中からエンキが剣を構えながら現れる。

 

「シェム・ハ!盟友アダドによってお前の創造生命は絶滅し、目論見は潰えた!これ以上の抵抗は無意味だぁッー!」

 

 同時刻、人類に向かって放たれたシェム・ハの創り出した神造生命がアダドによって殲滅され、絶滅していた。この戦いは凄惨を極め、後に「シュメールの洪水神話」と語られる出来事となる。

 加速して距離を詰め、シェム・ハの迎撃を予測していたエンキは急停止と方向転換を組み合わせることで残像を生み出すほどの速度で背後に回り込み、剣を振り下ろして彼女を地面に叩きつける。

 あまりの速度で地表に叩きつけられたため、土煙がエンキの頭を超えるほどに巻きあがる。

 地面に這いつくばったシェム・ハは、四つん這いになりながら起き上がる。

 

「業腹な……!だがエンキ……貴様の言う通りかもしれんな……」

「ならばッ!」

「故に……であるッ!」

 

 シェム・ハは振り向きざまに紋章を展開し、銀色の光線を発射する。勝ちを確信し、一瞬だけ気を緩めていたエンキの隙を完全についた。

 エンキの回避行動は間に合わず、咄嗟に左腕でその光線を防ぐ。防御壁によって数秒は持ったものの、踏ん張らねば防げないため避けれなかったのだ。

 遂に防御壁は砕け、エンキが叫び声を上げる。

 

「うぁぁぁぁッ!」

「快哉だ……!行く道を悉く阻む貴様だけはこの手で屠らねば溜飲が下がらぬ!」

 

 今の間にもエンキの左腕が銀化していく。

 

「このままではッ……!」

 

 体が銀へと書き変わってしまう。最悪の事態を恐れたエンキは躊躇ったものの、決断し、右腕に携えた剣で自らの銀となった左腕を切り落とした。

 荒廃した大地に銀の左腕が落下する。

 

「腕を捨てて命を拾うかッ……!ついに来たッ!」

 

 シェム・ハは歓喜に表情を歪め、金色の閃光が煌めいた西の空を見上げる。自身やエンキ以上の速度で接近する光は戦闘空間に静止し、おびただしい量の血を流している彼のそばに近寄った。

 その光の正体は、紅い髪に蒼い瞳、金色の鎧を纏ったアダドであった。アダドはエンキの傷口に手をかざし、痛覚の麻痺の後に筋肉を操作して締め上げ、出血量を軽減する。

 

「アダド……すまない」

「いや、構わん」

 

 そして空中で振り返り、明確な殺意を込めて地面のシェム・ハを見下ろした。

 シェム・ハは再び銀化光線を放つが、アダドの拳によって迎撃され、四方に散らばっていく。アダドとエンキには単純な戦闘能力の差はほとんどないが、その身に宿す神性からアダドの方が一歩勝っていた。

 歓喜に歪んでいたシェム・ハの顔が怒りに変わる。

 

「その目を何故われに向けるッ?!そのような目で見降ろすでないッ!」

「お前がそうだからだ……」

 

 彼女に唯一とどめを刺せるアダドは雷光の速度で接近し、反撃の暇を与えずにシェム・ハの胸を貫手で貫いた。もう片方の手で後頭部を支える。

 まるでその様は、死にゆく想い人を抱きしめるかのようだった。

 死にゆくシェム・ハは小さく告げる。

 

「お前が答をくれるまで、われは未来に繋ぎ続ける……。さらばだ……」

「……」

 

 アダドはしばし目を閉じ、腕を抜いて同じく地表に降りていたエンキをの方を向く。エンキは何か声をかけようとしたが言葉が見つからず、口の中で反芻するだけになってしまう。

 そんな盟友の姿を可笑しく思ったアダドは、少し無理をしたように笑ってみせた。

 

「気にするな。我にしか出来ぬことだ……」

「……そうだな」

「あとはネットワークジャマーを作動させるだけだ」

「ああ、すまない。フィーネ……」

 

 アダドは振り返ることなく、エンキは人間の想い人への言えぬ謝罪を胸に秘めて歩き始めた。

 

「ッ?!」

 

 そこでマリアの目が覚める。

 今まで見ていたのはマリアの夢であり、彼女は翼と共にノーブルレッドと月へと飛んだため、月遺跡の中にいた。

 

「今のは……?嘘ッ!ここって……!」

 

 あまりにも現実的な精度の夢を見ていたことで混乱したまま、マリアは体をひっくり返してのそりと立ち上がる。そして地球を見下ろしたことにより、初めてここが月遺跡であることを実感した。

 ついで翼も呻きながら起き上がる。

 

「ッ……!」

「翼!翼!」

 

 一方地球では、同じく月に飛んだアダドの言葉により、月に装者たちがいることが確認される。

 

「アダドさんの言葉通り、月面、おそらくは月遺跡にてギアのシグナルを検知しました」

「錬金術師達の転移の術式によって運ばれたとすれば……」

「いや、だとすれば今考えるべきは……」

 

 エルフナインが移動した方法を考えようとしたが、藤尭が遮る。

 それが尤もだと判断した緒川は藤尭の意見に賛同する。

 

「皆さんを地球に帰還させる方法ですね」

 

 スタッフを総動員し、月へ行った装者たちをどうやって帰還させるか、その方法を模索し始めた。タイムリミットは、シェム・ハが行動を開始するまでだ。それまでに、方法を発見しなければならない。

 

○○○

 

 月遺跡で目を覚ましたマリアは、口で大きく息を吸い込んだ。新鮮な空気が流れ込み、肺を満たす。

 

「空気はある。むしろおいしい」

 

 率直な感想ではあるが、恐らくもう地球上では味わえないのでは?と感じるほどの澄んだ空気の味だった。

 さらにマリアは軽くタップを踏んでみる。月の重力は地球の六分の一と聞くが、先ほどから地球とさほど変わらない感覚で動くことが出来る。

 

「地球並の重力。これは制御されていると考えるべきかしら?」

 

 人間が問題なく活動できる程度はあると判断したマリアだったが、翼の方を向くと、彼女はどこか落ち込んだまま俯いていた。普段なら母親のような包容力で励ますところだが、今は事態が事態、故に少しキツめにいく。

 

「無鉄砲なんてらしくないわね」

「マリア……。私はどうすればよかったんだ?わからないんだ……」

「そうね。勇気かしら」

「勇気……?」

 

 マリアが迷うことなく断言した。

 思わず翼はオウム返しに聞きなおす。

 

「差し出した手を握ってもらえなかった時、あの子はきっと心細かったはず。それでもあの子は勇気を出して自分から握ってきた。それに雷もそう。きっと今、誰よりも人と繋がっていたいはず。だから、差し伸べれるのを待つのではなく、自分から掴みに行った」

「立花……轟……」

「あの子達の勇気に今度はあなたが応える番だと思う」

「そうか……。私は、士道不覚悟にも立花と轟の勇気から逃げだした……あいったぁッ!」

 

 不意にマリアが翼にデコピンを喰らわせた。

 かなりの威力だったのか、翼は思わず後ろによろめいてしまう。

 

「まったく。とんだぶきっちょさんね。兎にも角にも、はぐれた仲間を探しましょう……何?!」

 

 突然マリアのシンフォギア、アガートラームが発光した。光線が空中に放たれて屈折し、頑丈に閉じ切った扉に直撃。複雑に光が走った後、ゆっくりと開き始めた。

 

「導いてる……?アガートラームが?!」

「行ってみよう!」

 

 気を持ち直した翼の提案にマリアも頷き、アガートラームの光が指し示した方へ二人は走り出した。

 

○○○

 

 シェム・ハから受け取った月から帰還するためのテレポートジェムは砕け散っていた。恐らく過剰な人数を転送したことによる負荷は一つだけでは耐えきれず、帰還用のこちらにも負荷が伝播してしまったと考えるのが妥当だが、ヴァネッサはもう一つの可能性を考えていた。

 

「帰還用ジェムの損傷が著しい……とても扱えないわね」

(シンフォギア装者を巻き込んだ、想定を超える転送負荷が過干渉したのか……。それとも……)

 

 シェム・ハは元々自分たちを帰還させるつもりなど更々なかったのか。

 しかし、それならばフランカを連れていけなかったのは幸運といえる。フランカは誰も傷つけておらず、姿を映されたカメラにも武器だけを破壊して無力化し、安全圏にテレポートさせている映像が映っているはずだ。そしてフランカはおそらくS.O.N.G.に保護されている。ホムンクルスであるエルフナインがいるのだから受け入れられるだろうと考えていた。

 そんな時、背後で物音が聞こえた。

 

「誰ッ?!」

 

 素早く振り返ると、調と切歌との戦闘で深い怪我を負ったエルザがトランクケースに座ってやって来た。息は荒く、まともに歩くことが出来ないのだろう。

 

「エルザちゃん?!無事だったのね!」

 

 家族の身がひとまず無事であると確認したヴァネッサは、エルザに駆け寄る。エルザは力の入らない足でケースから降り、支えにして何とか立ち上がる。

 

「ですが……脚下のニューロンコネクトが焼き切れたであります……。おそらくテールアタッチメントの使用はもう……」

「うん……」

 

 それでも、無事に生きていることがうれしいヴァネッサはエルザを優しく抱きしめた。

 

「でもよかった。一緒にミラアルクちゃんを探しましょう」

「ガンス……」

 

 親愛が心の底から嬉しいエルザは悲観しそうだった心を持ち直した。すると、部屋中が真っ赤になり、アラートが鳴り響いた。

 

「警報でありますか?!」

 

 壁の至る所から針のようなものが出現する。

 ヴァネッサが戦えないエルザを体の影に入れ、気を巡らせる。

 

「これは内部に侵入した私達を排除しようとする遺跡の意志ね……」

 

 現れた針はすさまじい速度で飛び出した。ヴァネッサは、かつて極冠の棺を守るように飛び交っていたビットと同型であると認識する。

 同じく響とクリスも、遺跡の防衛機構であるビットに追いかけ回されていた。

 

「あの形!南極で見た!」

「ああ!ここに間違いなく先史文明の……!」

 

 走って角を曲がると、その先にもビットが群体を作って道を阻んでいた。

 このままではらちが明かないと判断し、二人は戦闘を決断する。

 

「逃げ回るのは終いだ!」

「ぶち抜くよ!クリスちゃんッ!」

 

 響がペンダントを握り、構えた。




あと十話ほどで完結ですねぇ。
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