戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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キャストリアが来たことに大変満足なワタクシ。


革命の音楽

 ペンダントを構えた響・クリスの二人は突如として現れた遺跡の防衛機構を相手取るためにシンフォギアを装着する。

 この遺跡が先史文明期の超技術で建造されたものであるため、どの様な行動で何が起きるかが全く分からない以上振るう力を慎重にせねばならない。遠距離系で爆発物を多く使うクリスは特に気を付けなけないといけなかった。

 防衛機構であるビットはまさに網のように光線を照射し、攻撃を叩きこむために肉薄する響を迎撃するも遺跡を破壊しないように威力が抑えられているためかアームガードで容易に防がれ、彼女を止めるには至らない。響は腰のブースターを点火し、一時的に飛行して円の動きを利用した乱打でビットを叩き落としていく。

 クリスも自身の攻撃で遺跡の破損がおきる可能性を理解しているからか、ビットを破壊する最小限の火力であるマグナムを両手に握る。幾何学模様に配置されたビットを攻撃行動に入ったモノから高速で撃ち落としていった。

 月と地球の距離であろうとも、S.O.N.G.のレーダーはガングニールとイチイバルの起動を正確に探知していた。

 

「再度ガングニールの反応を月遺跡にて検知!次いでイチイバルも!」

「調ちゃんと切歌ちゃんのギア反応も確認!ですが、こちらからの呼びかけに応答はありません!」

「皆さん……」

 

 エルフナインの心配も尤もだ。

 探知こそ出来るものの通信が届かず、映像も同様だ。確認できるのはアウフヴァッヘン波形のみで、それ以外の情報はすべて遮断されている。波形は探知できてそれ以外は不可能なことから、月遺跡の特性とみて間違いないだろう。

 

「おそらくは月遺跡での交戦。そして気になるのは……」

「遺跡を使用していたとされるアダドの魂を宿す雷さん達はともかく、翼さんとマリアさんの反応が見られない事……ですね」

 

 もともとこの遺跡を使っていたアダド。その魂を身に宿す雷と彼女が帯同しているフランカが交戦していないのは理解できるが、指し手条件が他と変わらないはずの翼とマリアの反応が全くない。

 あまり考えたくはないが、未知の環境だ。どれだけ警戒していようともギアを纏う前に攻撃を受けてしまえばひとたまりもない。

 

「呼びかけは続けろ!各国機関への救援要請もだ!一秒でも早く月へ向かう手はずを整えるんだ!」

 

 弦十郎は彼女たちの安否情報の確保を最優先しつつ、帰還させるために世界中に要請し続けるよう厳命した。

 響・クリス組とは異なる場所で、調と切歌が同じく防衛機構であるビットを相手にしていた。調はツインテールバインダーに大型鋸を展開し、ヨーヨーの要領でコントロールしながら宙に浮かぶビットの群れを撃墜する。切歌もリーチの長い鎌を振り回し、まるで糸を束ねるようにしてひっかけてまとめて斬り捌いた。

 二人は背を預けながら全方位に警戒を向ける。

 

「月遺跡……。やって来たのが私達でよかった!」

「こんなのがいるんじゃ、特殊部隊ではきっと相手にできなかったデス!」

 

 確かにいくら特殊訓練を積んでいたところで通常兵装ではかすり傷一つ負わせることすら不可能だろう。特殊部隊ではなく装者たちが来たことはある意味で幸運といえた。

 ノーブルレッドも、完全な化物へと変化したことによる幸運を彼女たちの心理は置いておくとしても享受していた。ヴァネッサは負傷したエルザを庇いながら背部からアームユニットを展開し、光線を乱射して撃ち落としていく。

 

「遺跡構造のデータはシェム・ハからこの身にダウンロードされている……。だけど、防衛機構の対策までは!」

 

 シェム・ハの思惑は完全にノーブルレッドに月遺跡を掌握させることだった。その為に遺跡の構造をダウンロードさせ、遺跡を守る防衛機構を攻略できるほどの火力を搭載させたのだ。

 その思惑を知りながらも、ねじ曲がってしまった自信の理想を叶えるためにヴァネッサは傀儡となる。彼女は逆立ちし、太ももの砲門を露出させて光線を発射。様々な方向に照射された光線は宙に浮くビットをまとめて捉え、一気に撃墜する。

 

「人類を呪いから解き放つって、思った以上に難しいのね……」

 

 一方、響とクリスはビットを撃墜しながら活路を切り開いていた。

 しかし、ここにきてクリスが一つの思慮に駆られてしまう。

 

(バラルの呪詛の解除……。本当に人と人がつながってわかりあえるのなら、正しい事を成そうとしてるのは……)

「クリスちゃんッ!」

 

 いつだって自分の意志を貫き通せないのはクリスの悪い癖だった。しかも、その癖が戦場で発露してしまったために響の声に反応するのが遅れて隙をつかれ、背後からの攻撃を許してしまう。背中から感じた質量的に、ぶつかって来たのはビットではなかった。何とか地面と衝突した際の反動を利用して着地し、ぶつかってきた敵を認識すると南極で見た棺桶を小型化したものだった。

 

「こいつら……南極にいた奴の量産型かよッ!」

 

 だが、サイズが小さくなっているためか防御力や攻撃能力が低く、一撃で沈黙させることが可能な代物だった。

 その証拠に、響の拳が小型の棺桶を貫き、機能停止させている。しかしながらやたらめったらに数がいるため、面倒に思ったのか響は力強く踏み込み、ブースターを点火、マフラーにエネルギーを貯め込んでドリルのように吶喊する。

 

「うわッ?!」

 

 クリスのすぐ横を猛スピードで通り抜け、その進路上にいたビットと棺桶を一息に全滅させた。その一撃は壁に拳が突き刺さったことでようやく静止する。

 響は突き刺さった拳を引き抜き、クリスの方に振り向いてガッツポーズを決めた。

 

「ぶち抜いたよ!クリスちゃん!」

「かっこよすぎるんだよ……馬鹿力」

 

 それに対するクリスの反応は、どちらかといえば呆れの方が強いものだった。

 

○○○

 

 風鳴宗家地下電算室にてシェム・ハは満足げに体を揺らしながら笑い声をあげていた。

 

「ふふふ……愉悦に震える……」

 

 すべてが自身の思惑通りに進んでいる。後は予定通りに自身の傀儡であるノーブルレッドが遺跡のメインシステムを掌握するだけだった。

 フランカがノーブルレッドから離脱したが、さして問題はないだろう。それよりも、シェム・ハはアダドがフランカに手を差し伸べたことが非常に気に食わなかった。しかし、この感情は不要なものだと自らの中から破棄することにした。

 

「ユグドラシルの根は、既に地球中心各域に到達。そして怪物共がその使命を果たせば、我の……」

 

 偶然下を向いたとき、右腕が小さく震えていることに気づいた。恐らく不可解な感情を抱いたときに隙をついて足掻いたのだろう。

 

「よくも足掻く……。強い想いがなせる奇跡か……」

 

 まだ依り代である未来が完全に取り込まれていないことに呆れ、軽く驚きながらも、これを奇跡と断じた。奇跡とは、起こり得ぬ不可能が偶然に偶然を重ねた確率で可能になるからこそ奇跡と呼ばれるのだ。

 シェム・ハは今度こそ完全に未来を取り込むために自身の中に目を向ける。

 

「だって!私はまだ響に!」

「腑に落ちぬ。そも、われを受け入れたのはお前であろうに……」

「えっ?!」

 

 この期に及んで何をぬかしているのかと言うようにシェム・ハが未来の心を折りにかかる。

 

「繋がりたい。想いを届けたいともがいていたのは誰であったか……」

「違う!あれは!私は!」

 

 涙ながらに未来は反論しようとするが、彼女の口から出るのは子供のような駄々ばかりだ。反論にすらなっていない口答えに、シェム・ハは事実を理路整然と展開していく。そして歩み寄り、肉体だけでなく精神、心からの同化を図る。

 

「身も心も捧げよ。先んじて呪詛より放たれし依代の少女よ……」

 

 真の姿を未来に明かし、その手を彼女の頬に添えた。

 

「我はシェム・ハ。来るべき星の未来……。お前の名もそのような意味を持つのであろう?」

 

 その一言で、完全に依り代である未来を掌握した。それに呼応するように、ユグドラシルにめぐる血管のようなものが発光し始める。

 月では、全く異なる経緯で、しかし同じくアヌンナキをその身に宿す雷がシェム・ハ、そして未来の身に起きたことを察知していた。

 

「未来ッ!」

(待て雷!今はこちらを対処するのが先だ!)

「でもッ……!」

 

 無力感に雷の声が震える。

 エクスドライブすら超える圧倒的な力を宿していても、その力で大切な親友を守ることが出来なければ意味がない。未来の想いを響に伝えること。それが、今の雷の願いだった。

 

(気持ちは分かる。しかし、冷静になれ。我らが動いたところでシェム・ハを殺しても依り代の少女も死ぬだけだ。それは最終手段。打てる手がある以上、そちらを取れ)

「雷……さん?」

「ッ!……何?」

 

 悔しさに歯噛みしていた雷に、すぐ近くを歩いていたフランカが心配そうに声をかけた。その声にこたえるために雷は一度頭を振って冷静さを取り戻す。

 しかしフランカは慌てて手を振った。

 

「い、いえ、大したことはないんです。ただ、何か辛そうだなって思いまして……」

「テレパシーを使えばわかるんじゃないの?」

 

 内心を隠すために、雷はワザと意地悪する。しかしフランカはそれを意地悪と思っていないのか、はにかみながら素直に答えた。

 

「確かにテレパシーを使えば考えてることも分かります。でも、その力を持っているのは……あ、他にもいるかもしれませんが、私だけです。そんな一方通行なモノ、私はあまり頼りたくありません」

「ふぅん……。じゃあ、何なら頼りたいの?」

 

 雷の問いに、フランカは恥ずかしそうに答えた。

 

「音楽……でしょうか」

「音楽?」

 

 フランカは「はい」と答えて首に書けていたヘッドホンを雷の耳に掛けた。そして曲を流す。曲名はフレデリック・ショパンの練習曲ハ短調作品10-12。『革命のエチュード』と呼ばれる曲だ。

 

「ショパン……」

「はい、そうです。言葉には言語の壁や聞き違い、発音などで意味が変わり、いさかいが起きます。歌も同様に言葉で歌っている以上それがあります。しかし、音楽は違う。ただの音、それだけです。だからこそ誰もが聞き入り、理解することが出来る……私はそう考えます。だって、音楽は耳で聞くモノじゃなく、心で聞くものですから!」

「……理解できない人もいるんじゃないの?」

「そ、それは……今、誰もが心から聞くことが出来る音楽を研究中です……」

「そっか」

 

 歌で世界を救ってきた雷たち装者であるが、納得がいく考えだ。今、それが見つからなくても、いずれ見つかればいいと思う。

 少しだけ気分がよくなった雷は、ヘッドホンから流れる音楽に耳を傾けながら再び駆け出した。フランカもその後を追う。

 暴走したフランカの家族、ノーブルレッドを止めるために。

 地球をユグドラシルによって赤く染めた神に、『革命』を叩きこむために。




戦闘シーンがカットされるノーブルレッドの皆様……。本当にすまない。
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