戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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そろそろクライマックスですなぁ。


恩返しの勇気と人類の叡智

 S.O.N.G.は装者たちが月遺跡を攻略している間、全力をもってユグドラシルの攻略を開始する。直ぐに戦う事になるであろうシェム・ハとの決戦のためにも、ユグドラシルが何であるのかを解明することは必須だからだ。

 しかし、ここにきてユグドラシルはこれまでとは真逆の動きを取った。

 

「ユグドラシルの稼働確認!地球中心各域に向かって潜行中!」

 

 下から樹のように生えてきたユグドラシルだが、今度は沈みこむように地球の中心へと沈み始めた。その在り方は、ボーリングマシンと形容するのが正しいだろう。

 

「みんなの頑張りでバラルの呪詛は死守できているのに、なぜユグドラシルが……」

「やっぱり、こいつの仕業だろうな……」

 

 カメラをズームし、ユグドラシルの天辺に立つ人影、シェム・ハを視認する。

 その姿を捉え、弦十郎が腕組みを解いてこの場を後にしようとする。この世界の現状最高戦力が自らシェム・ハを撃破しようとしているのだ。

 そんな彼を緒川が呼び止める。

 

「司令!どちらへ!」

「装者不在の今、あの神話級の超常に対抗できるのは……」

「待ってください!」

 

 弦十郎は足を止め、対抗できるのは自分しかいないと言おうとしたが、それをエルフナインが遮った。

 

「対抗するって……どうするつもりですか?……僕に考えがあります!」

 

 弦十郎からは答えが返ってこない。そこを機と見たのか、エルフナインは自分の考えを展開する。

 

○○○

 

 邪魔者はおらず、後は配下の化け物たちがバラルの呪詛を解呪するだけとなったシェム・ハは、実に満足げだ。

 

「生生流転……まもなくである。われとこの星の迷いを断ち、わが力へと改造した後には彼方へと去った同胞の喉元へと攻め入ってやろうぞ」

 

 そう言ってにたりと笑う。

 それはそうとして事態がすべて手の内で進んでいることが満足げなシェム・ハは胸の高鳴りが抑えられない。シェム・ハと敵対する者たちの内心とは異なり、彼女自身は実に楽し気だ。

 

「高鳴りが抑えられぬ……。ああ……そうさな。人間共はこういう時に歌の一つでも口ずさむのであったな……ん?」

 

 気配を感じて視線を落とすと、一つの人影が見えた。

 少々やぼったい服装に白衣から見るに、エルフナインとやらであろうと未来の記憶から該当人物を参照する。

 

「果ての荒野に一人立つ者がいようとは……」

 

 果たしてそれは勇気かそれとも蛮勇か。それを確かめることを余興にしようかとシェム・ハはエルフナインの元へと飛行する。

 エルフナインの中では、キャロルがこれからこの星の神と相対する彼女を案じていた。

 

(怖いか?)

「あまりの怖さに腰が抜けそうです!だけど……」

 

 未来が自身が攫われそうになった時、恐怖を殺して盾になってくれた日のことを思い出す。未来の勇気が、エルフナインに勇気を与える。

 

「あの時未来さんは逃げなかった。だから僕も怖くたって逃げたくありません!それに!今の僕は一人じゃありません!」

(フッ……!)

 

 ともにキャロルがいてくれる。それだけでエルフナインの力になっていた。

 そしてこころの中のキャロルは、分かっているならそれでいいとエルフナインにこれ以上言及することはなかった。

 目の前にシェム・ハが降臨する。

 

「向こう見ずな。我に歯向かう鈍付くがまだいようとは……」

「僕もそう思います……それでも!俺の錬金術をナメてくれるなッ!」

 

 エルフナインの目が吊り上がり、人格がキャロルのものと交代する。

 その意気込みにシェム・ハも一瞬気おされる。そしてキャロルは召喚陣を構築し、その中からダウルダヴラを取り出して弦を爪弾いた。ハープの音色が響き渡り、変形してファウストローブへと姿を変え、キャロルがそれを身に纏う。

 最強の錬金術師が創造神と激突する。

 キャロルは指先から弦を伸長して固め、毛糸玉のようにしてシェム・ハにばらまいた。しかし、その一つも命中せず、土煙が舞い上がるだけとなった。

 

「粗忽だぞ。どこを狙っている?……ッ」

 

 土煙が晴れた時、相対しているはずのキャロルの姿は何処にもなかった。見失ったシェム・ハだったが、歌の聞こえる方に耳を傾け、その方を向くとキャロルはユグドラシルへと進んでいるようだった。

 最初からシェム・ハを相手取るつもりなどなかったのだ。

 

「悪くない考えだ。我でなく直接ユグドラシル主幹を狙うとは」

 

 シェム・ハは浮遊し、キャロル以上の速度で彼女を追う。そして彼女の背後から腕輪のレーザーブレードで斬りかかるが、それを予期していたキャロルは直前で避け、再び糸球を斉射する。いくつかは命中して爆発したが、やはりそのほとんどは外れて地面に落下する。

 

「バラ撒けば躱せぬとでも踏んだか?なれど人の業では撃ち落とせぬ!」

 

 少しはダメージを負わせることが出来たが、やはり響の神殺しか雷、アダドの神性でなければ有効打にはならない。神の無敵性によってダメージが無かったことにされてしまった。

 知っていたことだが、流石のキャロルもこれには怯んだようだ。

 その隙を見逃すようなシェム・ハではなく、指先に光球を展開して投擲した。キャロルは防御陣で防いだが、それ以上に威力が高く、地面に叩きつけられる。

 その醜態をシェム・ハが見下ろす。

 

「無意味だ……。だがそれ以上に……目障りだぁッ!」

 

 再びレーザーブレードを展開し、急降下でとどめを刺すべく接近するがそれこそがキャロル、ひいてはエルフナインの策だった。

 

「高くつくぞ……オレの歌はぁぁッ!」

 

 キャロルの錬金術に反応して落ちたはずの糸球がほどけ、超硬質の弦がシェム・ハを縛り上げ、拘束する。

 

「動けぬ……鉄砲に緊縛するか……」

「恐るべきは埒外の物理法則によるダメージの無効化。だが拘束に対してはどうだ?!」

 

 シェム・ハは予想の上をいかれたことに憎々し気な目を向ける。

 このままでキャロル達の策は終わりではない。まだ最後の一手が残っている。

 

「アルカ・ヘスタッ!」

 

 四大元素と星の運航を司るエーテルの錬金陣を展開し、チフォージュ・シャトーの世界解剖の光を個人に限定して展開する。オリジナルとの違いは対象のサイズが異なることと、外部放射と内部放射の違いだ。

 このままでは未来ごとシェム・ハは解剖されてしまうが、キャロルとエルフナインにそんなつもりはさらさらない。

 

「人の概念などとうに解析済み!ならば、それ以外の不純物を神と定めて分解するまで。俺の錬金術をナメてくれるなッ!」

 

 モノを理解し、分解し、構築する。錬金術の基本にして鉄則。ただそれを実行するまで。しかし、エーテルによる無限の循環が可能とは言え、意志を持つ存在に対してそれを実行するためには膨大なエネルギーが必要。その調達先はただ一つ。

 

(思い出の焼却ッ!足りない分は僕の思い出も一緒に燃やしてーッ!)

「うあぁぁぁぁぁッ?!」

 

 光が極点にまで達し、シェム・ハが悲鳴を上げた。そして人神解剖の光が収束し、大爆発が発生する。発生した衝撃が、キャロルを再び地面に叩きつけた。

 しかしキャロル達は忘れていた。シェム・ハにはもう一つの手があることを。その手の名は神獣鏡。訃堂が神を支配下に置くために用意した拘束具が、全ての障害を払う最恐の神器となってしまったのだ。

 

「まさか……神獣鏡の凶払いで俺の錬金術を?!」

「とどめ……は刺さずに捨て置いてやろう。神に肉薄した褒美だ。星の命が改造される様を特等の席で御覧じろ」

 

 そしてシェム・ハは浮かび上がり、ネットワークの海にばらまいた自身とアクセスする。

 キャロルは打つ手が無くなったことで思わず叫んでしまう。

 

「くッ……さっさと帰ってきやがれ……シンフォギアーッ!」

「頃合いだ、いきり立てッ!」

 

 ネットワークを掌握したことにより、バラルの呪詛の解呪を待たずしてユグドラシルの展開を為したのだ。

 これが発生したのは、翼・マリアコンビが不死鳥のフランメをユニゾンし、アマルガムを発動したことでミラアルクを撃破した直後の事だった。S.O.N.G.本部である潜水艦は海中を航行していたが、突如として海底からユグドラシルが出現し、船体を大きく抉ったのだ。

 しかもユグドラシルは風鳴宗家のモノと今出現したこれとは別にも、世界各国様々な場所から大地を割って出現した。

 

「外部からの攻撃に左舷の一部が損傷!浸水が始まっています!」

「ユグドラシルがあちこちに!鎌倉の一本じゃない!世界中に……ユグドラシルが!」

 

 まさしく世界樹。世界中に生えたソレは全てがシェム・ハのネットワークの支配下に置かれている。

 この元凶であり、現状で唯一反抗できたであろうキャロルを撃破した支配者であるシェム・ハは両手を広げる。

 

「ふふふふ……胸躍るッ!さぁ!ユグドラシルにて全ての在り方を改造しよう」

 

 指先から糸のようにデータ化した自身をユグドラシルと接続し、マリオネットのように操り始める。地中から伸びたユグドラシルは他のものと繋がり合い、ネットワークを形成。そして接続した枝から赤い霧のようなものを生成した。それによって発生する地球の変容は、月からも観測できた。

 メインコンピューター・マルドゥークに向かっていた響が変貌した地球を指さす。

 

「クリスちゃんアレ!」

「アタシ達の……帰る場所がッ……!」

 

 青い星であるはずの地球が、紅く染まっている。

 そして柱の影から、負傷したエルザを連れたヴァネッサが現れる。

 

「始まった……」

「始まらせないッ!」

「フランカ?!」

 

 ヴァネッサの言葉をフランカが遮り、地球に残っていると思っていた彼女が現れたことにエルザが驚愕した。彼女の隣に、雷は居なかった。

 フランカがヴァネッサと接触すると同時に、地球では強大な電磁波の乱れと稲妻の紋章が確認された。




フランカちゃんも主人公してますね。
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