戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
通路の向こうから息を切らしながら走ってきたフランカは、響とクリスの前に背中を向けてヴァネッサと向かい合った。更には手を広げ、まるで庇うように立ちはだかる。
いきなり現れたフランカに、響達は首を傾げた。
「君は……」
「私はフランカ!ヴァネッサたちの家族で、雷さんと一緒にここに来ました!」
「あのバカも来てたのか?!」
肩越しに返事をするフランカに、クリスが詰め寄った。それもそうだ。一緒に来たと言っているが、その雷の姿がちっとも見えない。しかし、彼女は雷がどこにいるのかを理解している。
フランカは天井、そしてその先にある地球を指さした。
「先に地球に帰還しました。皆さんが返ってくるまでの時間稼ぎのために」
「確かに……嘘は言っていないみたいだな……」
月面からでもしっかり目視で確認できるほどの巨大な稲妻でできた紋章が展開されている。そしてさっきから肌に感じていた静電気が走る感覚。これらのことを統合して、体を電子化して地球に帰還したのであろうと推察する。
しかし、それ以上に問題なのが、ノーブルレッドに所属するはずのフランカがヴァネッサたちと敵対していることだ。
末の妹の立ち位置にいたフランカが自身と敵対していることに、ヴァネッサが嘆く。
「フランカちゃん……どうして……」
「ヴァネッサ、もうやめよう?こんなことしたって何の意味もないよ……」
「意味はあるわ。奪われた未来を取り戻す為よ」
化け物として生きようと、全てを投げ捨てようとしているヴァネッサ。化け物になり果てようと、人間として今を生きようとするフランカ。初めは同じ志を持ち、しかし袖を分かってしまった二人の意志がぶつかり合う。
「だからって、無関係な人達の未来を奪っていいわけがないよ」
「無関係じゃないわ。私達を見れば、彼らは石をもって迫害するのよ。フランカちゃんもよく知っているでしょう」
「ッ」
フランカの言っていることは理想だが、ヴァネッサの言っていることは経験則からくる現実だ。そのことをフランカもよく理解しているため、一瞬言葉が詰まる。
「で、でも……全員がそうじゃないよ!」
「化物の私達に、手を差し伸べる人がいるわけない」
「じゃあ何で、この人は……雷さんは……手を差し伸べたの?!」
ここで触れんかは後ろに立つ響の方を向いた。そしてシェム・ハを止めるために一足先に戻った、地球にいる雷の方を向く。
ノーブルレッドが化物として完成する前の決戦の時、フランカはあの場にいなかった。しかし、ロケットの破壊任務の時、響がヴァネッサに何度も手を差し伸べ、それを振り払っていたのに気づいていたのだ。
フランカの叫びに、ヴァネッサは何も言い返せなくなる。
「何時だって差し伸べられた手を振り払ってたのは私達なんだよ?!見ようとしてなかっただけで、少ないかもしれないけれど、石を投げないで守ってくれていた人だっていたかもしれない……」
「フランカ……。ッ!」
切歌と調との戦いで分かり合うことが出来るかもしれないと知ったエルザは決意する。神経がやられてしまったために満足に動かない足で立ち、フランカの横に並んだ。
「エルザちゃん……」
「エルザ!」
「わたくしめも……フランカの意見に賛成であります……!この身は怪物に墜ちたとしても、心まで怪物にする必要は無いであります!……あっ」
トランクケースを支えにしているが、エルザの足はがくがくと震えている。そしてついに彼女はバランスを崩してしまった。フランカが慌てて駆け寄って支えになろうとしたが、それよりも先に後ろにいたクリス手を差し伸べ、エルザの腕を自身の肩に回して支えた。エルザは驚いた様子だが、クリスがぶっきらぼうに言った。
「どうして……」
「迫害される気持ちなら、アタシ等は良く分かってる」
そう言ってクリスは頬を少しだけ赤くした。そして「それに……」と続ける。
「本当に今よりここより先に進むもうと願うのなら、なおのこと帰る場所ってのが大切なんだ。あたしは考え過ぎるから……きっとまた迷ったりするかもしれない。だけど!帰る場所があるから立ち直って先に進んでいける。それはあんただって……」
「だけど……私達には……」
帰る場所なんてない。そう続けようとしたが、柱の影から小さな影が飛び出した。それは、翼とマリアのコンビと戦い、負傷して小さくなってしまったミラアルクだった。
ミラアルクがヴァネッサの胸に飛び込んだ。
「ウチらがいるぜ、ヴァネッサ!」
「ミラアルクちゃん?!」
「そうであります!帰る場所がないというのなら、わたくしめらがヴァネッサの帰る場所であります!」
「それにまだ、私の家族に会うって約束がある!私達でも足りないなら、本当の家族になろうよ!」
ノーブルレッドの夢は、人間に戻り、フランカの家族を探して彼女の音楽を聴きながら一緒に暮らすこと。人間に戻るのはまだ先のことかもしれないけれど、一緒に暮らすことはまだあきらめなくてもいい。いや、ソイル式血液がいらなくなったことと、フランカが普通に話せるようになったことで難易度は下がっているはずだ。
潰えたと思っていた希望を前に、ヴァネッサの目から涙がこぼれる。そして彼女は、フランカとエルザをミラアルクも一緒に抱きしめた。
そして顔を上げ、響を見上げる。
「神殺し……いえ、貴女の名前は?」
「響……。立花、響」
「ありがとう、響……。私達に手を伸ばし続けてくれて」
感謝の言葉を口にし、涙をぬぐって立ち上がった。そして拭った手のひらを見つめて、私って涙を流せたのね。と、化物には決してできない、人間だからこそ流れるものが自分にもあることに少し驚き、その後当たり前かとほほ笑んだ。心が化物でない限り、人間として生きることが出来るのだから。
○○○
地面に倒れているキャロルと、それを見下ろしているシェム・ハ。そして二人の頭上に巨大な稲妻の紋章が展開される。紋章の大きさは月から観測できるほどに巨大だ。その紋章を見て、シェム・ハは満足げに微笑んだ。
「来ると思っていたぞ、アダド」
「来ざるを得んさ、シェム・ハ」
紋章から電子が流れ込み、それが人型へと再構築されてキャロルとシェム・ハの間に着地した。
雷の髪は赤い粒子が漂い、蒼い瞳に変化していることで今の人格はアダドのものであると分かる。更にデノヴァギアを纏い、完全に戦闘態勢は整っていた。
そしてアダドは一瞬にしてシェム・ハに肉薄し、烈風を纏った回し蹴りを叩きこむ。しかし、シェム・ハはそれをゆうに避け、再び距離を取った。
「当然か、われは貴様の依り代の友を依り代としているのだ。いわば人質のようなもの。貴様の力でわれごと破壊してしまうわけにはいかんよなぁ?」
「知っている。故に我の目的は時間稼ぎ。フランカを信じているからこそ、我は貴様と相対しているのだ」
はた目からすれば超常の力同士の激突だが、よく見れば確かにアダドの攻撃は直撃コースを避けている。しかしそれでもシェム・ハが回避に徹さねばならないほどの威力をほこっていた。
時間稼ぎをされ、手ごまのノーブルレッドも使えないにもかかわらず、シェム・ハの余裕が崩れない。彼女はニヤリと嗤って言った。
「しかし残念だったな」
「何?」
「いや、貴様の動きは当然にして最善の事、仕方のないことだ。しかし癪だな?われが障害一つで滞ってしまうようなものと思われているとは……だが、茶番は終わり。ここまでだ」
シェム・ハは紅い雲の向こうの月を見上げ、念じた。
ここでアダドさん離脱させないと地球の帰還が容易になっちゃう。