戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
ようやくオリジナルの聖遺物が登場します。
ヴァネッサたちノーブルレッドは化物ではなく人間として生きることを決め、自分たちの行いで大きな傷を負わせてしまった翼とマリアに謝罪するべくメインコンピュータールームに足を運んだ。
誰一人傷つけていないフランカはともかく、今までさんざん敵対してきたのだから許されるとは少しも思っていない。翼が自分たちの命で償わせようとするならば喜んでささげるつもりだ。人間として人間の法で裁かれるならそれでもいい。ヴァネッサたちはそう考えていた。
扉が開き、響とクリスを先頭にノーブルレッドも中に入る。
「貴様……!」
「翼、言いたいことがあるだろうけど、まずは向こうの話を聴きましょう」
翼は怒りの形相を見せ、詰め寄ろうとしたがそれをマリアが制止した。マリア自身も相応の恨みつらみはあるが、それよりも彼女達から敵意を感じないことが気になっているようだ。
ヴァネッサがノーブルレッドを代表し、響とクリスの横を通り抜けて翼とマリアの前に立った。
「ライブの時の事、訃堂に逆らえなかったとは言え私達は許されないことをした……。貴女が望むなら、私はここで命を持って償います」
「ッ……!」
翼は怒りに駆られてヴァネッサの胸ぐらをつかみかかりそうになったが、一歩踏み込んでから冷静になる。そして、ある意味自分も彼女達と同じだったのだと理解した。人を殺した、殺していないの差は有れどどちらも訃堂に弱みに付け込まれたからこそ起こったことだと。実際、未来が攫われたとき、雷の強引な制止が無ければ街を破壊していたかもしれなかった。
立場が違えば自身が人を殺していたのかもしれないと。
だからこそ拳を力強く握り、真正面からヴァネッサを見返す。
「ああ、私に許す権利はない。だからこそ地球に帰り、お前たちに被害者全員に誠意をもって頭を下げてこい。それから訃堂の顔面を思いっきり殴れ。話はその後だ」
「……ええ、分かったわ。それより先に、死刑台に送られちゃいそうだけど」
「させるものか。送るのは頭を下げさせてからだ。それより今は、シェム・ハを止めることが先だ。まず私達への罪滅ぼしとして、協力してもらおうか?」
まだ怒りは完全に捨てきれていないが、一時的な共闘の証を示すために翼は手を差し出した。それに応えるために、ヴァネッサも手を出したその時だった。
「なに?!」
突如としてヴァネッサはジェット噴射で空中に浮かびあがった。いきなりのことで全員が驚愕するが、誰よりもその反応が大きかったのはヴァネッサだった。そしていきなり言葉を発した。彼女の表情は驚きと困惑の色を見せているが、声色は冷淡そのものだ。その様子から見るに、彼女の意志とは関係なく体が動いているようだった。
「忌々しきネットワークジャマーも手ずから葬らせてもらう」
『まさか、シェム・ハか!』
メインコンピューター・マルドゥークにあるエンキの疑似人格が出現し、ヴァネッサの中にいるシェム・ハに問うた。その問いにヴァネッサの体内にデータ化して忍び込んだシェム・ハが応える。
「この者を完全怪物と再生させた際にわれの一部を滑り込ませていたのだ」
しかし人間として生きることを決めたヴァネッサはその意地を見せる。体の自由こそは効かないが、意識の自由を取り戻し、神を殺すことが出来る響に懇願する。
「くッ……た……頼む……響……!その拳で、シェム・ハを撃てッ……!」
「そんなことしたら、ヴァネッサさんまで……!」
「私はもう……誰にも……利用されたくないッ……!」
響がためらいを見せる今も、ヴァネッサの体を乗っとったシェム・ハは自身を縛るバラルの呪詛を解呪するためにマルドゥークに接触にかかる。
「頼むぜ……!」
「頼むで……ありますッ!」
「お願いしますッ……!」
ミラアルクとエルザ、フランカも同様に涙ながらに響に懇願する。出来ることなら自ら止めに行きたい。しかし神殺しの力がないためにヴァネッサを止めることは出来ても、彼女の中に潜むシェム・ハを止めることがことが出来なかった。
完全に破壊したとしてもまるでゾンビのように死に体のまま動き、ヴァネッサを余計に苦しめるだけだった。それを誰よりもヴァネッサが理解していた。
「響……頼むッ!」
「……うあああぁぁぁぁぁぁッ!バルウィシャルッ! ネスケルッ! ガングニールトロォォォンッ!」
やるせなさからくる怒りの咆哮と共に隊服を破り捨て、神殺しのシンフォギアであるガングニールを高速で身に纏う。しかし、怒りを込めた渾身の拳がヴァネッサに突き刺さるよりも前に、彼女のロケットアームがマルドゥークに触れてしまった。
プログラムとなったシェム・ハ自身が流れ込む。
『くッ……ウイルスプログラム!シェム・ハの断章を直接打ち込まれたかッ!』
「恐ろしきかな、神殺しの拳……。だが……その躊躇がもたらす未来がこれだ」
再びヴァネッサの意志とは異なる言葉を口にした。そしてヴァネッサを支えていたシェム・ハが殺されたことによって内部から崩壊し、彼女は悲鳴を上げながら体の節々から血が噴きだした。
推力を失ったヴァネッサの体が床に叩きつけられる。
「「「ヴァネッサッ!」」」
「ヴァネッサさん!」
「情けない顔しないの……。あなたは守ったのよ……」
「え……」
ヴァネッサの言葉は響の思っていたこととは全く異なることだった。思わず呆気に取られてしまう。ヴァネッサはフランカに抱き起されながら、ズタボロの体で響と向き合った。
「呪われた拳で私達の誇りを守ってくれた……」
しかし、感傷に浸っている間もなく遺跡内にアラートが響き渡った。この場で唯一マルドゥークへのアクセス権を持つマリアがエンキの疑似人格に問いかける。
「教えて、何が起きているの?!」
『このままではここマルドゥークが、新たなシェム・ハと再生!』
突如としてエンキのホログラムにノイズが走る。そしてその姿はエンキのものからシェム・ハのものへと変化した。
『このようにな。万謝するぞ人間。1年前のあの日、刹那に人が一つに繋がったことでわれは蘇り、メガラニカからの浮上を果たせた……』
「一年前……ッ!」
マリアには思い当たる節があった。いや、この場にいる装者全員が何のことかを理解する。
「月の落下を止めるために、世界中の人類がAppleに繋がれたから?!じゃあ、父祖の地のあの歌は一体……」
『形を変えて現代に残る統一言語の断片。その成れの果てだ』
この瞬間、バラルの呪詛とは何だったのかを理解する。
「人は……一つに繋がれないのではなく……」
「繋がっては……いけなかったッ……!」
『だが真実を知った所で、お前達は月遺跡ごと吹き飛ばされる運命ッ!』
遺跡の自爆プログラムが起動し、様々な場所から炎が噴きあがって通路を侵食する。これによって帰還の時を待つという手段が取れず、地球に先に帰還したアダドによる時間稼ぎも全て無駄になってしまう。
その上今の装者たちに冷静に思考する余裕はなく、この状況を何とかやり過ごすだけでてんやわんやだった。
「このままじゃ地球に帰るどころか宇宙の藻屑だぞ?!」
「ギアを!ギアを纏うデスよ!」
「ギアを纏ったってどうしようも……」
しかし、遂に時間は来てしまう。明確な方法は何一つ見つからず、月遺跡は大爆発を起こした。
地球では、アダドとシェム・ハが激突していたが、彼女は勝利の笑みを浮かべる。
「爽快である。忌々しきは全て塵芥。怪物共は実に役立ってくれた。後は月食に合わせて……」
「残念だったな、シェム・ハ。人間たちの力を舐めるなよ?」
「これが貴様が人類に味方する理由か……!」
生きるという力。特に人間のそれは侮れないものだ。シェム・ハは勝利の笑みを浮かべていたが、それはアダドの理解できていなかったところが分かったという納得の笑みに変わる。
月面にいる装者たちとノーブルレッドは、ダイダロスの迷宮を直線にして地球まで繋ぐという荒業で生存していた。
「こ、これは……?!」
「ダイダロスの迷宮……だけど!」
錬金術の使えないフランカを残し、ヴァネッサとエルザ、ミラアルクは自分たちの命を燃やしてこの迷宮を顕現させていた。
彼女たちの体は不可に耐えきれず、光の粒子となってほどけていく。
「響、ありがとう。私達を……人間として見てくれて……。私達は戻れなかったけど、依り代になった子を……戻してあげて……。それと……ごめんなさいね……。罪を償うって約束、守れそうにないわ……」
「うん……。あなた達の祝福、私の拳に乗せて未来に届けるよ」
「お前たちはもう罪を償っている。これから今の地球に生きる人々と、これから生まれる命を私達が守るのだからな」
「そう言ってもらえると……悔いはないわ……」
「私を……おいて行かないでよ……!」
姿がもうほとんど見えない三人に、唯一取り残されたフランカが涙ながらに慟哭した。ヴァネッサたちは意識が薄れながらも、彼女に最後の言葉を残していく。
「フランカ……あなたの音楽、絶対、生まれ変わって聞きに行くであります……」
「楽しみに……してるんだぜ……」
エルザとミラアルクの姿が消えた。
「エルザ!ミラアルク!」
「フランカ……」
顔を抑えて泣きじゃくるフランカのそばに、もうほとんど消えかかっているヴァネッサが寄り添って抱きしめた。
「ヴァネッサ……」
「私達の分まで……生きて……」
そして彼女はフランカのそばから離れた。
「ヴァネッサ!」
「ありがとう……」
フランカはヴァネッサに手を伸ばす。彼女の手に触れようとした瞬間、ヴァネッサの体は光となって消えた。
伸ばした手をフランカは握りしめ、涙と共に決意した。
「生まれ変わるまでなんて待たせない!今ここで聞かせて見せる!私の音楽をッ!」
テレパシーを自らの中にあるシェム・ハの因子でカモフラージュし、マルドゥークにいるシェム・ハにハッキング。さらにそこから世界中のスピーカーにアクセスする。
フランカは再び神域の不可能を可能にして見せた。自身の頭の中に流れる旋律を、世界中に流す。
「これが……私の音楽ッ!」
誰も聞いたことが無い旋律。しかし、誰もが聞いたことのある音だった。それは心臓の鼓動の音。風の吹く音。地球の音だった。
その旋律は地球で諦めずに抗い続ける人々に安心と勇気を与え、神に反逆することが出来るという活力を与えた。そしてその活力は意志となり、意志が光となって世界中からフランカの手の中に集まっていく。
手の中に集まった光は棒状に、いや、タクトの形に変化した。
「光が……タクトに……」
「これが私の音楽……私の操る星の演奏!」
フランカが握るのは『星の涙』。
涙とは、感情がきわまった時に現れるもの。星の流す涙こそがこの聖遺物であり、人類が不可能を可能にする力を見せる限り完成しない未完成聖遺物。それ即ち、人類神話の聖遺物。
一つの意志と一つの音楽の元、世界が一つに繋がることが出来ることを証明する。
「繋がれぬ運命を背負いながらそれでも人は……世界は繋がっていく……。ああ……防人が人を守るのは、弱いからではなく、その勇気……果て鳴き強さが尊いからなのですね……。お父様……」
「みんな!エクスドライブだ!」
「だけど、可能とするだけのフォニックゲインを……!」
「信じよう!私達の胸の歌を!フランカちゃんの星の演奏を!シンフォギアを!行こう!フランカちゃん!」
「はいッ!」
装者たちとフランカは、小さな希望にかけて絶唱する。
星の演奏と絶唱が重なり合い、命の歌となる。そして歌と共に、大気圏へと突入した。
しかし、突入角は絶望的、ギアを纏っていないフランカは当然として、アマルガムのコクーンであっても突破は不可能だ。しかし、『星の涙』の性質は、不可能を可能にする力。
シェム・ハの前に立つアダドの人格が雷に変わった。
「信じてたよ、みんな!」
「「流れ星、堕ちて、燃えて、尽きて……」!」
雷とシェム・ハの言葉が重なる。しかし、その意味合いは全く異なるものだ。
「そしてぇぇぇぇぇッ!」
七つの流れ星は七色の流れ星となってターンし、ユグドラシルを叩き折りながら雷と並んで大地に降り立った。そして、復活したキャロルも並び立つ。
雷の神話の残証であるデノヴァギア。キャロルの叡錬金術の叡智の結晶たるファウストローブ。フランカの可能性の象徴『星の涙』のステラギア。そして響たちの神器一体のバーニング・エクスドライブST。
人が神を超えるための、最終決戦が幕を開ける。
・星の涙
人類が人類たる力を捨てない限り続く人類神話の聖遺物。その為、現時点では未完成。この聖遺物が完成した時、人類が終わったことを意味する。
不可能を可能にしようとする者の元に顕現し、その形は人によってさまざま。基本的に歴史を変えるような閃きなどの形をとるが、フランカは音楽家という意志があったために指揮棒の形に変化した。
神ではなく、人が創り続ける未来の結晶。
・ステラギア
完成した聖遺物を使ったシンフォギアと異なり、未完成の聖遺物を使っているため歌を必要としない。人が人たる力を示すことが歌の代わりになっている。不定形であるが故にギアの形への変化を可能とした。
ドレス型であり、七色の輝きを見せるアーマーがついている。
絶唱特性は、不可能を可能にする力。
・バーニング・エクスドライブST
本来のエクスドライブと異なってギアと装者のフォニックゲインが限界まで引きあがっている。髪が炎の様に揺らめくように変化した。
さらに『星の涙』のように七色に輝く宝石のようなものが組み込まれ、不可能を可能にする力を宿している。