戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最後の戦い!


未来を奪還

 シェム・ハの前に九人の戦姫が集結した。

 人の可能性の象徴、フランカ・ド・フリース。星を知り、人を知り尽くした錬金術師、キャロル・マールス・ディーンハイム。人の未来を切り開きし者たち、響達の六人の装者。そして、神の使命を継ぎし者、轟雷。

 彼女達は未来を取り戻すため、未来を取り戻すために神への反逆を開始する。

 

「間に合ったのかッ?!」

『間に合わせたのだ。我々が!人類が!神の野放図に抗って!人類の力で!』

 

 米国大統領の言う通り、これは、装者たちの起こした奇跡ではない。全ての人が一つのことを成し遂げようとする不可能を星の奏でる故郷の音楽のもと可能にしたことによって成し遂げた、必然なのだ。

 響が横に並ぶキャロルに問う。

 

「キャロルちゃんとエルフナインちゃんなんだよねッ?!」

「ああ!だが色々は後回しだッ!」

「ゴメン、雷……。少し遅れた……いてっ」

「ありがとうでしょ、そこは。取り戻すよ、未来を」

 

 となりに立つ雷に申し訳なさそうな目をする響を、彼女は眉間を指先でつついてかき消した。ふざけているわけではない。未来を取り戻すという希望の確信があるからこその笑顔だ。

 二人はそろって頷き、顔と気を引き締めて拳を握り、シェム・ハと向かい合う。

 

「呪われた拳、神殺し。われの依代たる友の体を前に何とする?」

 

 響と雷の脳裏に、観覧車でのやり取りが蘇った。

 あの時、未来の問いに雷は「自分と響の想いを、何としても未来に届ける」と宣言していた。しかし、その問いに響はまだ答えていない。

 だからこそ、シェム・ハは響に問うているのだ。

 しかし、今の響はその答えを見つけている。

 

「誰かを困らせる誰かがいるのなら、私は止めるッ!この拳でッ!」

 

 響はギュッと拳を強く握る。

 これが響の答え。世界一やさしい拳を持つ少女が見つけ出した答えだ。

 

「神の力と人類の可能性、俺達七人の歌が揃った今なら神の摂理を覆せるッ!共に行くぞッ!」

 

 キャロルが叫び、それに合わせてシェム・ハが光弾を発射した。

 戦闘慣れしている装者たちとキャロルは即座に飛び立ったが、そうではないフランカは一瞬遅れてしまう。しかし、それを予測していた雷は回し蹴りと後ろ回し蹴りで光弾を叩き落とし、フランカの手を取って飛びあがった。

 

「あ、ありがとうございます!」

「礼なら後!自分の信じる人の可能性を信じる限り、そのギアは答えてくれるッ!」

「はいッ!」

 

 再び二人に向かってきた光線を手を離して回避する。二人の間を光線が通り抜け、雷の続いてフランカも自由に空を飛びまわっていた。装者たちと比べると劣っているが、それでもこの戦いを切り抜けるには十分以上だ。

 雷もフランカの姿に問題ないと判断し、腕に弓を形作ってキャロルの四大元素と共に稲妻の矢を放った。

 シェム・ハは防ぐべく神獣鏡でシールドを展開する。しかし、厄払いの光の力で四大元素を減衰させることは出来ても、万物を破壊する雷の稲妻は防げない。シールドは砕け散り、シェム・ハが咄嗟に展開したシールドで直撃こそ防いだものの、四大元素の威力を受けてしまった。

 減衰したとはいえ強力なキャロルの四大元素は神獣鏡のファウストローブを損傷させる。

 

「くッ!声を重ねて力を増したか。だがッ!……まさかッ!」

 

 神には不条理の執行という無敵性がある。それは、本来ならばシェム・ハの体は響の神殺しと、雷とアダドが持つ万物を破壊する権能が無ければ突破されない。

 しかし。

 

「不条理の執行に、無力化されないッ?!」

 

 そう、それは本来ならばの話。

 今の装者たちが纏うのは、不可能を可能にする力を宿したエクスドライブ。そして歌うは星の歌。人の力が神の摂理に負ける道理はない。

 だが、今は考えている暇はない。シェム・ハを倒し、未来を取り戻すことこそが九人の戦姫のすべきこと。

 それを理解している調はチャクラムを、切歌は鎌のブレードを投擲し、シェム・ハの防御を崩しにかかる。しかし、シェム・ハもブレードを展開して二連撃を捌き、上段から振り下ろされる翼の炎の一刀を防いだ。

 だがこれも組み込まれた連携の一つ。翼がシェム・ハを防御に徹させている隙にキャロルが弦で彼女を拘束、再び翼が上段から振り下ろす。

 絶体絶命にもかかわらず、シェム・ハは不気味に口角を釣り上げた。

 その笑みの正体は余裕。背後からビットが飛び出し、振り下ろされる翼の刃に光線を打ち込んだ。その光線は神獣鏡の光。その輝きに翼の刀は消滅しそうになるが、それを唯一知っている者がいた。

 

「たあっ!」

 

 一瞬の先しか見えぬフランカの未来予知だが、この高速戦闘ではそれでも十分だ。既に知っていたフランカはビットに対してサイコキネシスを叩きこみ、完全に刀が消滅する前に粉砕する。

 

「感謝するッ!」

「私達の未来を厄だなんて言わせませんッ!」

 

 それに頷いた翼と共にフランカはクリスの射線から離脱した。

 彼女達の背後からクリスがマグナムのトリガーを引き、幾本もの光線が発射される。放たれた光線はシェム・ハを追尾し、ついには追い付いて彼女にシールドを展開させ、足を止めさせた。

 

「はぁぁぁぁッ!」

「でやぁぁぁッ!」

 

 雷とマリアの二人が爆炎の中から飛び出し、空を切り裂くほどの風を纏った手刀とエンキの物のようなブレードを振るってシールドを砕き、大地に叩きつけた。

 神に抗うことが出来ていることにクリスが驚く。

 

「ほんとに効いてやがる!これってエクスドライブの力なのか?」

「違う……だけどまるで、位相差障壁を突破するかのように!」

(来るぞ雷!)

「分かってる!」

 

 アダドの言葉通り、地面が割れて紫色の光が天に伸びた。そしてその光はだんだんと太くなっていく。

 本部からの通信で顕現する存在の巨大さが届く。

 

『検知エネルギー、振り切れました!』

『周辺脅威レベル増大!神話級特異災害、開闢します!』

 

 光の中から生命の箱舟が顕現する。

 

「未来さんを依代とするシェム・ハはッ!」

「ここからが本気みたいデスよッ!」

(言うなればシェム・ハ決戦体!まさしくデウス・エクス・マキナとなって!)

「我が欲したのは権威や力などではない……。その先にある未来だッ!」

 

 箱舟の後部からプラネタリウムのようなパーツが命を投影し、シェム・ハの紋章と共に神造生命を大量に鏡に映しだした。それを現実に召喚する。

 アダドが復活した時の物の完成体。しかもそれが隙間なく出現した。彼の記憶を受け継いでいる雷が叫ぶ。

 

「誰よりも未来を信じたあなたが、何故人類の未来を信じようとしないッ?!」

「我らであっても独立した個を備える以上、擦過して激突する……。それでは完全たる存在とは言えぬ!」

 

 響が放たれた光線を拳で弾き、両手足のユニットを全開にして炎と共に突撃。翼は刀の炎を極大にし、一刀のもとに切り捨てる。

 

「神とはちゃんちゃら……」

 

 クリスがマグナムを構えてトリガーを引き、それと連動するように巨大なレーザー砲が発射されて大型を撃ち抜いた。

 フランカはマリアの投擲した無数の短剣をテレポートで神造生命の体内に転送し、転送した短剣を内部から炸裂させる。

 

「故に我は、この実験場にて個の統合を試み、夢と見た」

「あの時笑顔で(わたし)に語ってくれた夢は、そんなものじゃなかったはずだぁッ!」

 

 箱舟のリフレクターを起動したシェム・ハは光を収束させ、照射した。それに対して紋章を展開して全開出力状態の雷が飛び出し、太陽のエネルギーを纏った拳を叩きつけて相殺した。しかし両者ともエネルギー量が絶大なため大爆発を起こした。

 爆光によって前線に殴りこんでいた響からは見えなくなる。

 

「みんなッ!……ッ?!」

 

 エネルギーシールドを展開したシェム・ハの箱舟が響に体当たりを仕掛ける。いくらエクスドライブといえど質量差に押しやられてしまう。

 

「誰もが痛みに傷付き、分かり合えぬ夜に涙しない未来のために!」

「未来ッ!」

 

 別れてしまった時、言えなかった言葉、聞けなかった言葉、今までずっと考えてきた。後悔してきた。なぜあの時言えなかったのかと、聞けなかったのかと。だからこそ響は叫ぶ。

 

「今度はちゃんと言葉にしたいッ!」

「分かり合うことすらままならぬ不完全な言葉にか?その言葉で伝えられぬお前たちへの同じ想いを秘めていたからこそ、この依代は刹那に我を受け入れたというのに!」

 

 シェム・ハの目から一筋の涙が流れる。それが彼女の物か、それとも未来の物かは分からなかった。

 だが、その一言は響を動揺させるに十分だ。

 

「未来がッ……?ぐあッ!」

 

 加速していく箱舟を天から降りしきる大剣と響を避けるようにして放たれたフランカの衝撃波が強引に停止させ、反動で飛ばされた響を雷が受け止める。

 体勢を立て直すべく調が両手の光で作られた輪が繋がったチャクラムを投擲し、切歌も緑色の鎌を発射、それに続いてマリアが銀色の炎を纏わせた短剣を投げ放った。投擲された三つのアームドギアは空中で合体、変形してロボットとなって体当たりを仕掛けて爆発した。

 その隙を雷とキャロルは見逃さない。

 

「「今が好機だッ!」」

「「「「「「「オーバーブレイズッ!」」」」」」」

 

 装者とフランカはギアの出力を跳ね上げ、炎のようなエネルギーを纏って出力を跳ね上げて突撃する。虹色の螺旋となった彼女たちはシェム・ハの箱舟に拳を叩きつける。キャロルは錬金陣で、フランカは衝撃波で張られたシールドを突破しにかかった。

 シェム・ハの形相が怒りに歪み、箱舟は衝撃に耐えられなくなって爆発が所々で起こっている。しかしそれは戦姫たちも同様で、デノヴァギア以外のギアからも爆発が発生している。

 シェム・ハに拳が届く。その寸でのところだった。

 

「呪われた拳で私を殺すの?」

「「ッ?!」」

(雷、代われっ!)

「おあぁぁッ!」

 

 シェム・ハが未来の顔で、未来の声で情に訴えかけ、響達は力を思わず抜いてしまう。だが、アダドが一時的に強引に意識を交代し、戦姫たちに向かって放たれた指向性の爆発を拡散したことで最悪の展開を回避した。

 それでも発生した衝撃は巨大なもので、響達は岸壁に叩きつけられ、地面に落下した。何とか立ち上がるが、目の前に広がるのは渦巻く銀色の輝き。

 

「無粋に足掻く!だが散り際は、白銀に煌めくがいいッ!」

 

 銀色の輝きが放たれる瞬間、雷の意識が深き深淵に落ちた。

 

○○○

 

 まるで水の中のような場所で、雷とアダドが向かい合う。

 アダドは悔しそうな顔をしていた。

 

「すまない、雷。これ以上は……人類が危険だ」

 

 雷は黙ったまま、アダドの目を見つめる。

 

「最後のタイミングだった。あれを逃したら、もう次はない」

「……」

 

 雷は答えない。

 アダドは拳を握った。

 

「そなたの意思は尊重し、可能な限り最善を打ってきた……。だが、これ以上は……」

「……我が儘を、言わせてください……」

「何……?」

 

 雷が遂に口を開く。その口から出た我が儘と言う言葉に、アダドは思わず視線を開けた。雷の目は、まだ諦めてはいなかった。

 

「私達を……人類を、最後まで信じてください」

「……。フッ、いいだろう。これが最後だぞ」

 

 アダドはあっけにとられた後、納得して笑った。彼の顔は晴れやかだ。いや、きっと雷なら言うだろうという納得すらあった。

 雷の意識が浮上する。

 

○○○

 

 雷の意識が覚醒した。地面にはエルフナインとフランカが倒れている。

 空中では散らばったすべてを統合したシェム・ハとその軛から解放されている響がぶつかり合っている。

 

「能わず!その拳は呪いの積層・神殺し!撃てばこの身を殺して殺す!」

「殺さないッ!」

「ッ!」

「お父さんが教えてくれたッ!呪いと祝福は裏表ッ!あり方なんてどうとでも変えられるッ!変えてみせるッ!」

 

 シェム・ハの攻撃を右腕一本でさばいていく。全てはこの拳を未来に届けるために。

 

「断章の全てをこの身に集めたのだ!人に遅れる道理などありはしないッ!」

「届かないッ!」

 

 しかしシェム・ハの攻撃は捌ききれない速度、密度へとなっていく。そして神獣鏡の光が響の周囲を檻のように囲み、逃げ場を失った彼女に向かって照射された。

 その輝きは響を貫き、シェム・ハの勝利に終わる……はずがなかった。

 

「何ッ?!」

「響一人で届かないのなら、私が頭でもなんでも貸してあげるッ!届かせてみせるッ!」

「雷ッ!」

 

 雷が響の手を取り、逃げ道のないと思われた檻の中を目にもとまらぬ速さで上空に離脱した。雷は響の手をしっかりと握り、シェム・ハが放つ輝きを全て避ける。

 光速で動き回りながら、響が拳を振りかぶる。

 

「私の想い!未来への気持ち!2000年の呪いよりもちっぽけだと誰が決めたぁぁぁッ!」

 

 雷の胸に世界中から光が集まり、それは手を繋いだ響に伝播して彼女の拳に集中する。

 

「ッ?!」

 

 シェム・ハが驚愕する。

 そして雷が接続を乗っ取たことで、シェム・ハの支配からすべての人類が開放された。

 

「取り戻す……取り戻す……」

「未来を……」

「私達の……」

「明日を……」

「この星の……明日を!」

 

 世界中の思いが雷を通じて響の拳に流れ込む。

 

「ネットワークに障害が?!なれど……」

 

 後は人類と神、何方の思いのたけが上かの勝負。意志と意志、想いと想いのぶつかり合いだ。

 

「きっと、取り戻すんだ……!」

「それはとっても大切な……!」

「本能が求め叫んでる……!」

「誰にも等しくあるために……!」

「その手に重ね、束ねるんだ立花、轟……。お父様が見せてくれた人の価値を!輝きをッ!」

 

 集まった未来を信じる人の光は渦を巻き、加速してさらに輝きを増していく。

 雷が叫んだ。

 

「バラルの呪詛が消えた今!隔たりなく繋がれるのは神だけじゃないッ!」

「束ねているのは人の……想いッ?!」

「神殺しなんかじゃない!繋ぐこの手は私のアームドギアだッ!お願い、雷ッ!私を、未来のところにッ……!」

 

 まだシェム・ハまでの距離は遠い。しかし、二人で手を繋げば距離なんて関係ない。

 

「響の想いは必ず届くッ!届けてみせるッ!だから、手を伸ばすんだッ!」

 

 響は雷の右足に乗り、雷が響を乗せたまま雷速の回し蹴りをシェム・ハに向けて放った。その瞬間に響は脚部ユニットを全開にして跳躍し、さらにその衝撃を斥力によって推力に変える。

 そして響は、握っていた拳を開いた。

 

「「「「「未来(みらい)をッ!」」」」」

「「未来(みく)をッ!」」

「「「「「「「奪還するためにぃぃぃぃッ!」」」」」」」

「まさかッ?!本当に呪いを上書いてッ?!」

 

 圧倒的な速度にシェム・ハは響を拒むことが出来なかった。

 一瞬にして到達した響が未来を抱きしめる。

 

       『METANOIA』

 

 シェム・ハは悲鳴を上げ、未来の体から消滅する。それを示すように右腕の腕輪が真っ二つに割れ、粉々になった。

 元に戻った未来を、響がお姫様だっこで抱く。彼女たちのそばに、雷が寄り添った。

 

「そして。花咲く勇気で。私たちの大好きを、二度と手放さないために……」

 

 響と雷は、未来を中心にして笑顔を浮かべた。




フランカをいつの間にか退場させてしまった。
因みに彼女はキャロルに可能性の力を託したためにギアが解除されてしまいました。ちゃんと生きてます。
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