戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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遂にここまで来ました!


黎明

 シェム・ハを倒し、未来を取り戻した雷たちだったが、これだけでは終わらない。まだまだやることは残っている。シェム・ハが出現させたユグドラシルを破壊しなければならない。

 そのために、S.O.N.G.は比較的安全な場所に仮設の前線基地を作り、そこでユグドラシル攻略の算段を立てている。気を失った未来とエルフナイン、フランカもここに収容された。

 職員たちが情報を収集する中、眠っているエルフナインは深層心理でキャロルと向かい合った。

 キャロルは不機嫌に悪態をついている。

 

「全く、世界を壊すはずの歌で似合わない事をした……。あのまま消えるはずが、あの小娘の所為で残ることになろうとは……」

 

 フランカがキャロルに託した可能性の力。力を託したことでステラギアが解除され、フランカは戦闘不能になったがエルフナインの願いによってエネルギーに形を変えていた。これにより、記憶をすべて焼却するはずだった黄金錬成に必要なエネルギーが賄われてしまい、自身の記憶をすべて焼却してエルフナインを生かそうとしたキャロルの思惑を壊してしまったのだ。

 このことでキャロルは不機嫌だが、エルフナインは上機嫌だ。

 

「はい!フランカさんには感謝しかありませんね!」

「バカ!そうじゃない!……ったく、結局消えたのは上澄みだけか……」

 

 舞い上がるエルフナインを傍目にキャロルが前髪を掻き毟る。

 「上澄み」という言葉が引っかかったエルフナインはキャロルに問うた。

 

「上澄み……とは?」

「あまり思い出したくないことだ!」

「ならよかったです!」

「良くない!普通あのままカッコよく、そして切なく退場するところだろう?!」

「未来は不可能を可能にすることで作られます!」

「うるさい!」

 

 ニコニコ満面の笑みを浮かべるエルフナインにキャロルが大口を開けて怒鳴った。しかし、怒鳴られているエルフナインは「きゃー!」と楽しそうに叫んでいる。事実、怒鳴っているのは声だけで、キャロルもまんざらではなさそうだった。

 そしてキャロルは呆れたように息を吐いて額を抑え、しかし口角に隠しきれていない喜びを湛えながらエルフナインに言った。

 

「……さて、まだまだやることはたくさんあるぞ?オレはしばし休むとする。後はお前の仕事だ、エルフナイン」

「分かってます。後はボクに任せてください!キャロル!」

 

 ふんすとエルフナインが意気込む。少しの間休むために意識の奥底に沈み込んだキャロルがポツリとこぼした。

 

「頑張れ……」

「何か言いましたか?」

「言ってない!早く行け!」

 

 エルフナインは振り返って聞き返した。何か言ったのは聞こえたが、それが何なのかは分かっていないようだった。

 それに焦り、安堵したキャロルはエルフナインの背中を叩いて送り出した。

 その拍子にエルフナインは目を覚ます。それと同時に地響きが発生した。如何やら一時的に停止していたユグドラシルが再起動を始めたようだ。

 情報を集めている藤尭と友里に焦りが見える。

 

「惑星環境の改造速度、元に戻ってる!」

「状況の報告お願いします!」

 

 友里はユグドラシルの上空にいる装者たちに伝えた。

 木のように見えたユグドラシルは実際には筒のようになっていて、それは地球の奥深くにまで続いているようだった。

 マリアと翼が友里に応答する。

 

「目視にて状況確認」

「本部。シェム・ハが倒れてもユグドラシルはまだ生きている!」

『なんだとぉ?!』

 

 生きていることを証明するように、米国のエシュロンをはじめとした世界各国のコンピュータによる論理防壁を突破していることが伝えられた。全ての防壁が突破されるまであと七分もない。

 この事態を解決すべく、弦十郎が指示を出す。

 

『潜航したユグドラシルをメインシャフトと仮定!中枢部を破壊して、惑星環境の改造を食い止めるのだッ!』

「ユグドラシル……!」

「行くぞ!何とかなる!」

「クリスちゃん!」

 

 響のそばにクリスが近づき、肩に手を置いて安心させた。

 

「到達するまでに障害はあるけど!」

「中枢部を叩いて砕く!それで各地のユグドラシルは、機能停止となるはずだ!」

「行くわよ!」

 

 装者たちがユグドラシルの中へ突入する。

 シェム・ハとの決戦で装備と体力をかなり持っていかれたが、ユグドラシルの中枢を破壊できるのは彼女達だけだ。まだまだ障害が残っていることに一抹の不安が残るものの、それを乗り越えることが出来ると信じて降下する。

 深度一万を超えたところで、シェム・ハの生み出した神造生命が視界を覆いつくすほどの数が現れる。

 障害があることは覚悟していたが、これほどの数がいるとは想像もつかなかった。

 

「しゃらくさいのが雁首揃えてッ!」

「だけど今のコンディションでは……」

 

 現状、武装的にはまともに戦闘が出来るのは雷だけだ。しかし、先の戦闘の疲労は残っているため、これほどの数を相手するのは不可能に近い。アダドに変わって無理矢理動くこともできるが、ここは人類だけでやり遂げねばならないという雷の意地が許さなかった。

 

「流石にこの数は……」

「もたもたしてたら、この地球は……!」

「知らない星に作り替えられちゃうのデス!」

 

 装者たちの中に絶望が広がる中、頭上から聞こえた一つの歌声と光の雨がそれを打ち消した。その歌声は、誰もが聞き覚えのあるものだった。

 

「Rei Shen Shou Jing Rei Zizzl」

 

 歌声と共に降り注ぐ雨のような光は、ユグドラシルの中に巣食っていた神造生命を片っ端から貫き、消滅させていく。視界を覆うほどの数がいたが、それらは一瞬にして消え去った。

 雷と響が振り返る。

 

「「未来?!」」

「私、これ以上響と雷の背中を見たくない!二人の見てるものを一緒に並んで見ていきたいの!だからッ!」

『間に合いました!』

「無事なの?エルフナイン!」

 

 応援に駆け付けたのは未来だけではなかった。仮設本部の通信機から、目を覚ましたエルフナインの声が聞こえてくる。

 

『はい!ボクも未来さんも問題ありません!』

「キャロルちゃんは……?」

『今頃僕の中で悪態つきながら休んでます!フランカさんはまだ眠ってます!』

「良かった!」

『キャロルから皆さんに言伝があります』

 

 その言葉の続きを未来が請け負った。

 

「この先にある中枢部を壊しても、増殖したユグドラシルのいずれかが管制機能を獲得し、稼動は止められないみたいなの」

「つまり新たなメインシャフトが誕生し、そいつがどれかわからなくなるのか!」

『なので、ここがメインシャフトと仮定できる今、中枢をフォニックゲインで制御し、雷さんの権能で全ての幹を同時に爆破伐採するしかありません!』

 

 つまりは七つの絶唱によるフォニックゲインで中枢ユニットを制御し、雷の万物を破壊する権能をフォニックゲインに乗せて制御下に置いてすべてを破壊するという物だ。

 しかし、これには一つ懸念がある。

 

「フォニックゲインで?だが私達は、一度チフォージュ・シャトーの起動にも失敗して……」

 

 今は響と雷が居るとはいえ、上手くいくかどうかの不安が残る。ましてや雷のギアはシンフォギアではない。フォニックゲインは必要が無くなっているため、扱うことが出来ない。

 勿論キャロルはそのことを予測に入れて行動していた。

 

『だからキャロルは未来さんを救おうとしていたのです。七つの惑星と七つの音階、世界と調和する音の波動こそが統一言語。七人の歌が揃って踏み込める神の摂理。世界を知れというパパからの命題に対するキャロルなりの回答です!』

「そうか!キャロルと私達の攻撃がシェム・ハの埒外物理を突破したのは、そういう事だったのか!」

 

 キャロルが見つけ出した回答を証明させるべく、メインシャフトの中枢部に装者たちが到達する。

 雷が前に進み、中枢ユニットに自らの手をかざした。それを合図に、響が口を開く。

 

「だったら何も迷わない!信じよう!胸の歌を!」

「私も響と!みんなと一緒に!」

 

 七つの歌声が一つの歌となり、増幅したフォニックゲインが中枢ユニットに流れ込む。

 歌が響く中、未来は一人思う。

 

(バラルの呪詛……繋がりを隔てる呪いさえなくなれば、この胸の想いは全部伝わると思ってた。だけど……それだけじゃ足りないんだ)

 

 フォニックゲインは際限なく高まり、可視化できるほどの密度となって光となる。地球の中枢と接続しているユニットとフォニックゲインが干渉し、全ての魂が可視化する。

 手の取り合えなかったエンキとフィーネが手を取り合い、マリア達の前にナスターシャが現れ、その背後で背を向けたウェルが顔を向けずに手を振った。ノーブルレッドもパヴァリアの四幹部も笑顔を浮かべている。

 翼の前に彼女の父である八紘と目標である奏が、マリアの元にセレナが姿を現す。

 そして雷のそばにも、斗真と瞳、そして出海がやって来た。雷の涙腺が決壊して大粒の涙を流し、彼女の頭を三人が優しく「がんばったね」と言うように撫でた。

 

「七人の歌で」

「みんなの歌で」

「この奇跡は、私達の軌跡だ」

「繋いだ手だけが紡ぐもの」

「強く、尊く、儚いもの」

「未来に響き渡らせるために!」

 

 七つの歌声、一つの歌が、クライマックスに突入する。七つの絶唱のメロディーが重なった。

 中枢ユニットを制御する七つのクリスタルが虹色に輝き、その歌の終わりと共に、最後のアヌンナキである雷が人類の独立を宣言するように拳を叩きつける。

 

「これが私達のぉッ!」

「「「「「「「絶唱だぁぁぁぁッ!」」」」」」」

 

 雷の権能は増幅したフォニックゲインにのり、全てのユグドラシルへと伝播した。中枢ユニットは大爆発を起こし、八人は崩壊から逃れるべく地上へと飛翔する。

 万物を破壊する権能を受けたユグドラシルは崩壊をはじめ、世界各地でも呼応するように同時に進行する。

 高速で離脱しようとする装者たちも、損傷によってギアが耐え切れなくなっていた。

 

「このままじゃギアが!」

「持ちそうもないのデス!」

 

 最悪の事態は立て続けに起きるものだ。

 下から迫りくる崩壊の爆炎の中から、シェム・ハの怨霊とで言うべき存在が出現した。そしてそれは、装者たちに手を伸ばし、掴みかかる。

 

「まさかあれは!?」

「シェム・ハなのかよッ?!」

「なるほど……」

 

 ただ一人納得したような顔の雷以外が振り切ろうと加速するもついにギアが耐えきれなくなり、粒子となって霧散した。そしてシェム・ハの両手が響たちを包み込み、爆炎の中へと沈んでいった。

 赤黒い炎がユグドラシルから吹き上がる。

 暗闇の中、シェム・ハと響、未来が向かい合った。

 

「答えよ。なぜ一つに溶け合うことを拒むのか」

「私達は簡単に分かり合えないからこそ、誰かを大切に想い、好きになることができる。その気持ちは誰にも塗りつぶされたくはない!」

「それが原因で未来にまた傷付き苦しむことになってもか?」

 

 未来の答えにシェム・ハが反論し、答えられなくなってしまった彼女の手を響がとった。

 

「だとしても。私達は傷付きながらも自分の足で歩いて行ける。神様も知らないヒカリで歴史を創っていけるから」

「ならば責務を果たせよ。お前達がこれからの未来を司るのだ……」

 

 シェム・ハは満足そうに笑い、体から放つ光りで響と未来を送り返した。

 そんな満足げなシェム・ハの背後に、髪に赤い粒子を纏わせ、蒼い瞳の雷が現れる。

 

「いいだろう?人間という物は」

「確かに、いいものだ。貴方がその子の体から出てくればな」

「おっと、確かにそうだ」

 

 目を瞑ってシェム・ハがいい、思い出したように雷の体からアダドが分離した。そして分離したアダドに、シェム・ハが言った。

 

「全く、人間の娘に乗り移ってまでわれを追ってくるとはな?正直驚愕だ」

「愛する女が暴れてる。感情で真正面からぶつかるのが愛情表現だ。そのせいですれ違いが起きてしまったが……」

「なッ?!」

 

 シェム・ハが顔を赤くした。雷が揶揄うように言う。

 

 

「シェム・ハさんも隠しきれてないんですから。両想いですよ、二人とも」

「こ、この小娘は……!まったく、誰に似たのか……」

「我かな?」

「こ奴はほおっておくとしてだ、雷。そなたはこれからどうする?我らと共に来るか?」

 

 シェム・ハはアダドにチョップをかましながら雷に手を差し伸べた。しかし雷は首を横に振って断る。

 

「いえ、私は人としての道を歩みます」

「その先がなくともか?」

「はい」

 

 アダドが覚醒し、その使命を知った時から分かっていたことだ。悲しいが、覚悟は決まっている。

 

「そうか……分かった」

 

 納得したシェム・ハは雷の頭に手を乗せた。彼女の手のひらからは母親のような優しさと暖かみを感じることが出来た。

 シェム・ハは雷を覗き込むようにしゃがむ。

 

「これは選別だ。アダドの力に打ち勝つには時間がかかるだろうがな」

「ありがとうございます」

「ではな」

「さらばだ、雷。達者でな」

 

 そして雷の体を優しく抱きしめた後、彼女に別れを告げてシェム・ハとアダドの姿は光の中に消えた。雷もしばらくして光の中に消える。

 時を同じくして、赤黒い炎の中から手が飛び出し、その手の中から装者たちが下ろされた。腕は砂のように崩れて消えた。

 S.O.N.G.も到着し、弦十郎が響の前に駆け寄った。

 

「大丈夫か、響君」

「師匠……。シェム・ハさんが……繋ぐ大きな手が私達を……」

「ああ。みんなが繋いだ明日の世界だ!」

 

 夜明けの太陽が響を、未来を、雷を照らす。

 アヌンナキを脱却し、人類が独立する。それはつまり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷が、どさりと倒れた。明日の太陽の輝きを最後に、彼女が目を覚ますことはなかった。




次回、最終回!
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