戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
私の居場所
私、月読調は大親友である切ちゃんと一緒に姉さんが入院している病室に足を踏み入れた。
バイタルや呼吸こそ安定しているが、まだ一向に姉さんは目を覚ましそうにない。もう、あの日から五年がたった。姉さんの病室に入るたびにあの時の姉さんにすがって泣きじゃくる未来さんと、悔しそうな顔で泣くのを我慢している響さんの姿が脳裏をよぎる。
誰もが分かっていたはずだった。そのうえで、私も含めて考えないようにしていたんだと思う。
姉さんの命は『シェム・ハを打倒するアダドの魂の器』。その為だけに作られたんだから、中身を埋める魂が無くなれば空っぽになるのは当たり前の事なのに。
切ちゃんが明るい声で眠り続けている姉さんに声をかけた。
「ジャーン!今度のアリーナのチケットデース!しかも特別席デスよ!目を覚ましたらぜひぜひ見に来て欲しいのデス!あたし達の初めてのアリーナを見てもらいたいのデス!」
そう、今私達は二人でバンドを組んでいる。
マリアや翼さんの伝手もあったんだけど、それじゃ何時までも独り立ちできないと思って自力でここまで来た。厳密には切ちゃんとの二人立ちなんだけど。
切ちゃんが握っていたチケットをベッドわきの棚の上に置き、ニ、三歩下がって私の隣に来た。やっぱりカラ元気だったようで、目じりに涙が溜まってる。
何時も来るたびにいっぱいいっぱいで、何も言うことが出来なかったんだけど今回は言わなければならないと思う。
「姉さん、絶対に来てね……!約束だからね……!」
姉さんは私達の約束を破ったことが無い。だから、こうすれば絶対に来てくれる。何の根拠もないただの願掛けみたいのものだけど、それに縋り付いていたかった。
多分、最後の方は上ずってうまく言えてなかったと思うけど、絶対に届いたと思う。
「行くデスよ、調……」
「うん……」
切ちゃんが私を優しく抱きしめてくれた。切ちゃんだって同じくらい辛いはずなのにね。
私達はそろって病室の外に出た。
○○○
アタシ、雪音クリスは数か月ぶりに日本に帰国し、そのままずっと眠ったままのバカのところにやって来ていた。
センパイやマリアに及ばないまでも、海外で歌っていることが多いアタシにはなかなかここにやってくる時間がない。そのことに少し申し訳なく思いながら、ベッドわきの椅子を引っ張り寄せ、前後逆にして座った。
こうやって見ると、今にもこのバカが目を覚ますんじゃないかって錯覚に陥る。そんなこと、もうあるはずがないのにな。
今思えば、アタシが『みんな』の中で笑っていられるのはもう一人とこのバカのお陰なんだよな。何でも知ってて、何時も頼りになった。時々脳筋だったけど。
背もたれに肘をつき、頬杖をしながら見下ろしてみる。
「怪我……もう無いんだな……」
体中にあった裂傷や怪我の跡が残っていない。
アタシたちの中で一番の劇物だったよな。と小さく呟いてみる。いつもどこか怪我をしていて、何かあるとすぐに不安定になって自爆する。そんなところがどこか昔のアタシに似ていて、このバカが受け入れられるならアタシも……なんてよく思ってたよ。
ふと腕に巻いた時計を確認すると、もう予定の時刻を少しばかり過ぎていた。慌ててアタシは立ち上がる。
「やっべ!出来ればもう少し居たかったんだが、これ以上はな。起きたら連絡くれよな!」
少し大きめの病室に響くくらいの、それでもって他の病室には聞こえない程度の声量で声をかけてからアタシは病室から出て行った。
○○○
ボク、エルフナインはボクの中にいるキャロルと、保護観察中のフランカさんを連れて雷さんの病室にやってきました。
ボクは大きく成長してしまったため、あの時は大きく見えた雷さんが小さく見えます。
フランカさんはノーブルレッドの犯行にほとんど関与していない事、世界を一つにしたことと装者の皆さんと共にシェム・ハと戦ったことが認められ、S.O.N.G.の保護下にあることが前提としてではありますが自由が与えられました。今では世界を繋いだ音楽家として教科書にも載り、さらには家族とも再開して、自分たちのような子供を増やさないように孤児院を開いているそうです。
フランカさんが雷さんのそばに歩み寄りました。
「雷さん、あなたが私を認めてくれたおかげで今を生きることが出来、家族とも再開しました。私達みたいな子供を増やさないように、今は孤児院をやってます。今は三人がいます。お姉さんのようにふるまう褐色の子と仲間想いの子、少し大人しめだけど、聡明な子です。ふふ、誰かに似てると思いませんか?」
フランカさんはくすくすと笑いながら近況報告を続けている。
それに続いてボクも自分の報告をします。
「実はですね、国際的な異端技術研究機関が開設されることになったんです。その所長にボクとキャロルが選ばれたんですよ!雷さんの席もちゃんと残してあります」
続けようとしたら、キャロルの意識が表に出てきてしまいました。
「さっさと起きて、オレを超えた頭脳の働きをもっと見せろ!……キャロルがすみません。ですが、ボクも見たいのは一緒ですから!」
雷さんの体の中にすごいエネルギーが流れているのを感じながら、僕たちは病室を後にしました。
○○○
ワールドライブツアーを終えた私、翼とマリアは轟の病室に訪れていた。
私としては真っ先にお父様のお墓に行きたかったのだが、空港から病室の方が近かったこととマリアの圧。……だがまあ、そうでなくともお父様もこちらに先に行けと言いそうな気がしたので轟の方が先だ。
病室に入ったとたんマリアがベッドに向かって駆け込み、問題が無いように速度を落としつつ、しかし勢いよく轟に倒れ込んだ。
本来なら説教すべきなのだろうが、マリアは妹であるセレナを失ったのだ。この行動も無理はない。
暫く顔を轟に向けてうずめていたマリアだったが、ガバッと起き上がった。
「よっし!雷ニウム補充完了!これで大丈夫だわ!」
「何が大丈夫なのかさっぱりわからんが……。そうだ轟。マリアがこの間一緒に暮らすためにとか言いながら家を買っていたぞ。しかも結構大きいやつ」
「当たり前じゃない!私と雷、切歌に調が一緒に暮らすのは小さいころからの約束よ!だから早く起きなさいね!」
眠っていてもわかるだろうか?マリアはかなり無理をしている。私としてもマリアにこれ以上何かを失って欲しくないんだ。
私達は心地よい空気の流れを感じつつ、病室を後にした。
○○○
私、響と未来は、二人そろって雷の病室に足を運んだ。
今は二人で世界中を飛び回って困っている人を助ける活動をしている。お見舞い用の花束を抱えた未来がドアに指をかけた。丁度そのタイミングで私達は後ろから声をかけられた。
「アレ?響さん達じゃないデスか?!」
「お久しぶりです」
「調ちゃんに切歌ちゃんも来たの?!」
「珍しいね、かぶるなんて」
「いや、お前達だけではないぞ?」
またまた背後から声をかけられて振り返ると、そこには翼さんとマリアさん、クリスちゃんにエルフナインちゃんとフランカちゃんもいた。
全員がそろうのは何年ぶりだろうか?
「全員がそろうなんて四年と五か月ぶりね」
「覚えてるのかよ……」
「あら、当然よ」
当然なんだ……。とりあえず気を取り直して、私達は八人全員で病室に入っていった。病室は少し広いから、まだまだ余裕がある。
とは言え大人数で来たこと自体が久しぶり過ぎて、どうしたらいいのかが分からなくなって全員が黙ったままになってしまった。
そこでふとあることを思い出し、私はパンと手を叩いた。
「そう言えば、雷の部屋から歌が見つかったんだよ!」
「……あの時に書いていたもの?」
「多分そうだと思う」
五年前、南極から帰ってきた雷が書いていた歌。それがこの歌なんだと思う。今日の朝、ここに来る前にたまたま見つけたものだったんだけど、歌ってあげようかなって思って持ってきてたんだよね。
「これを、みんなで歌いませんか?!」
その答えは全員賛成。
「ちょっとコピーしてくる!」
「お願い!」
未来が花束を私に渡し、歌の書かれた紙をもって近くのコンビニに健脚で駆けこんでいった。そして五分もたたずに戻ってくる。
「はいこれ、みんなの分」
「音楽は私に任せてください」
そう言ってフランカちゃんが超能力を使って音楽を奏でていく。その音は、とても落ち着く、安らかなものだった。
みんなが揃って歌を歌い、病室いっぱいに歌が広がる。それはまるで、あの時の再現のようだった。九つの歌声が一つの歌になっている。
歌い終わり、マリアさんが首を傾げた。
「いい歌だけど、タイトルがないわね?」
「確かに……」
「どんなタイトルだったんデスかね?」
確かに、タイトルを書くところに何も書いてない何だろうと首をかしげていると、
「なあ、一つ聞きたいことがあるんだけどよ……」
クリスちゃんが口を開いた。
「一人多くなかったか?」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
私を含めた全員がゆっくりと雷の方を向いた。
雷は身を起こし、にこやかな笑みを浮かべて手を振っていた。
病室いっぱいに、今度は驚きと歓喜の声が響き渡る。雷にこの歌のタイトルを聞くと、
「私の居場所」
と、彼女は笑顔で答えた。
ちょうど一年間ありがとうございました!