戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最近の私のお勧めは大正野球娘とドM女子とがっかり女王様、シングレです!(ジャンルがバラバラァッ!)

今現在小説練習期間なんですが何か良さげな作品ありますかね?


ミュニアースの朝

 ミュニアース副所長にして聖遺物部主任の雷の朝は一杯のコーヒーから始まる。もちろん、砂糖ミルク一切なしのブラックだ。

 シャワーで独特な癖のある長い灰色の髪を丁寧に洗い、寝汗を落として着替え、白衣を翻して身に纏う。最後に未来から譲り受けた白いリボンで髪を一つくくりにすれば準備完了だ。

 インスタントではなく世界各地から取り寄せた焙煎された豆をその日の気分で選択して挽き、丁寧にドリップする。この工程で脳のスイッチを入れ、目を覚ます。

 そして抽出したコーヒーをサーバーに入れ、愛用のカップを片手にそのまま食堂に向かう。途中にある売店で新聞を入手することも忘れない。

 薫り高いコーヒーをもって研究所内を練り歩くという事は、その薫りを散布していることに他ならない。それらは道中にある職員たちの自室の中へと入り込み、彼等の鼻こうをくすぐる。

 雷が誰一人いない食堂にあるテーブル、窓際の左端という彼女の定位置に座り、サーバーからカップにコーヒーを注ぐ。そして新聞の一ページ目を開く頃には道中の職員たちもぞろぞろと顔を出してきていた。

 同じ聖遺物の研究を担当している男性職員が自前のコーヒーカップを手に雷の傍に立っていた。

 

「おはようございます、副所長」

「ん、おはよう」

 

 雷は顔を上げず、コーヒーサーバーで彼のカップにコーヒーを注ぐ。そんな彼は嬉しそうな笑みを浮かべ、軽やかな離れていった。よく見ると彼の後ろにも多くの人間がカップを片手に並んでおり、雷は同じように顔を上げることなく注いでいる。

 これはミュニアースの朝の定番の光景で『雷のコーヒー』と呼ばれている。もしくは副所長のコーヒーとも。何時から始まったのかは定かではないが、雷が毎朝食堂でコーヒーを飲むことと、彼女が誰かに振る舞い、それが美味であると広めたためにいつの間にかこうなった――とされている。

 しかしその列は最後の一杯分を残して途切れてしまう。

 これを最後に飲む人間は決まっていた。

 コツコツと長い金髪の三つ編みを揺らしながら、その人物は雷の正面に座る。

 

「おはようございます雷さん!」

「おはよう、エルフナイン、キャロル」

「はい、何時もの最後の一杯」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってエルフナインはずいっと自分のマグカップを差し出してくる。それには新聞をたたんで応じ、最後の一杯をゆっくりと注いだ。

 別に雷はエルフナインたちにひいきしているのではなく、何時も丁度新聞を読み終えるタイミングに現れるから必然的にこうなってしまう。

 他の職員たちもそのことは重々承知である。

 故に最後の一杯分になるまでに列に並ぶという静かな競争が起きていた。飲むことが出来た者はその日一日研究の調子がいいという謎のジンクスまである。

 そのことを雷は知る由もない。

 エルフナインは両手でカップを掴み、

 

「雷さんは今日は何をするんです? やっぱりパラレルテクノロジーの解析ですか?」

 

 と言った。

 平行技術パラレルテクノロジー。文字通り平行世界よりもたらされた技術の解析が、現在の雷の主な仕事であった。

 

「うん、そのつもり。私が寝ている間にあんなのがやって来てたとはねぇ」

「ボクもびっくりしましたよ。世界は広いと言いますが、まさか平行世界まで存在するとは思いもよりませんでした」

「知ってはいたけど、実在するとは思わないよねぇ」

「物語の中の話と思いますもんね、普通」

「その物語に登場する聖遺物とかを研究したり、神様と戦った私達が言うのも少し可笑しいけどさ」

「ですよね」

 

 二人はくすくすと笑い合った。

 するとふいに雷がテーブルに額をぶつけた。ドスンという音が食堂に響き渡る。

 職員は何事かと雷の方を向いたが、すぐに自分たちがしていた事の続きにもどった。

 つまり――いつもの光景ということだ。

 雷が叫ぶ。

 

「誰だよエレクライトなんて作った大馬鹿野郎は! どうしてあの程度の電力で平行世界移動が出来るんだ?! メックヴァラヌスもファウストローブも理解できるけど、あれだけは理解できない!」

「二コラ・テスラさん……って聞きたいことはそういう事ではないですよね。……強力な電磁気力で局所的に重力の孔をあけて移動するというのは違いますもんね」

「そんなことできたらケラウノスでとっくにやってる。……たぶんできたと思うけど」

「設計図さえあれば何とかなったんですけどね……」

「完成品だけポンッと渡されてもどうしようもないよ。だって私聖遺物が専門なんだから! 純粋な超科学は本気でやめていただきたい」

 

 二人そろって頭を悩ませる。

 パラレルテクノロジーCASE3エレクライトは純粋な科学によって成立している。そして二人は聖遺物担当と錬金術担当。つまり、純粋に専門外だった。

 

「聖遺物とか錬金術とかのリペアードを使えば何とかなるだろうけどさ、なんだか負けた気がしてならないんだよね」

「必要に迫られた人間ってあんなものを開発できてしまうんですね……」

「あの弦楽器みたいなウイングバインダー? が最高にかっこいいのが最高にむかつく。……というか確認する限り全エレクライトの共通機構っぽいからあれが平行世界移動の鍵だと思うんだよ」

「……それはオレも同じ結論に達した。形や色は違えど同じ機構のものだろう。……最も、それを裏付けるのは記録映像しかないわけだが」

 

 エルフナインからキャロルに人格が切り替わる。

 三人の結論が平行世界移動の秘密があのウイングバインダーにある――譲渡されたものがウイング状だっただけで、同一の形状ではないのだが、便宜上言いやすいのでそう言っている――と結論付けた。

 

「だとするとあの弦楽器、もしくはピアノの中身のような見た目をしているのが重要なのだろうな」

「だったらその方面でアタックしてみるかなっと。キャロルは?」

「オレはラピス・フィロソフィカスの複製だ。あれは純粋なエネルギー源だが、今できるものは純度が低い。もっと高純度でなければ実用段階にはならんだろう」

 

 そう言って二人は立ち上がり、朝食を受け取るためにカウンターに向かおうとする。

 丁度そのタイミングで、横合いからほやほやとした女性の声がした。ルイスだ。

 

「所長に先輩! 今から朝食ですか?」

「そのつもりだが?」

「あ、今日はキャロルさんなんですね!」

「お前はオレ達が入れ替わってても変わらず対応してくれるから楽だ。まぁ、最近は他の奴らも慣れてきてはいるがな」

「最初はすごかったもんね。エルフナインからキャロルに変わるたびにみんなびっくりしてたから。……というかルイスのソレ、本当に完全聖遺物じゃないの? どこからどう見てもソロモンの十の指輪にしか見えないんだけど」

 

 雷がルイスの胸元にある輪が十個つながったネックレスを見た。

 しかし、それは彼女がここに入所してからすぐに検査を終えている。

 

「先輩、これはちゃんと検査して、同じ材質のレプリカだって解析済みじゃないですか。でも先輩にも本物のように見られるってソロモンファンの私としてはうれしい限りですね!」

 

 しっかりと十個を検査機にかけているが、そのどれも聖遺物としての反応を示さなかった。そんなことは分かっている。分かってはいるのだが、本当にそうかと疑わずにはいられなかった。それほどまでにこのレプリカは精巧だった。

 多くの聖遺物を見てきた雷を欺くほどに。

 

「今日は先輩は何をするんですか?」

「CASE3の平行世界移動能力の解析」

「じゃあ私も手伝いますね」

「じゃあって、自分の研究は……」

「昨日のうちに終わらせましたとも。少なくとも現状出せるだけの成果は出せてます!」

 

 ならいいけど……、雷は少し釈然としなかった。




響達が心を悩ませている間、雷は頭を悩ませていた!
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