戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
絵がないから書き分けるのシンドイ……。
まあ登場は終盤とはいえ全員に見せ場がある予定なのでご安心を。
ただ、アプリやってないから色々不安(子供マリアの戦艦の名前とか、エレクライト組の生存者とか)
雷は、初めて耳にした単語に首を傾げた。
「ファウストギア?」
「はい!」
雷は朝食を取った後、ルイスと共に自分のラボに向かい、エレクライトの根幹の能力といえる平行世界移動能力の解析に当たっていた。
本世界より受け取ったエレクライトが起動している映像と、これが発しているフォニックゲインを比較し、どの様な効果を生み出しているのかを調べている。シンフォギアとのデュオレリック……シンフォニック・ドライブが成立している以上、フォニックゲインが何かしらの作用を促しているのには違いが無かった。
もしかすれば、シンフォギア装者しか出来ないと言われているギャラルホルンによる平行世界移動にも何か進展をもたらすことが出来る。
平行世界も含めた人類の新たなる発展に一歩踏み出すことが出来る――雷はそう考えていた。
そんな彼女に、不意にルイスがよこした話題が「ファウストギア」というものだった。
雷はモニターから視線を動かすことなく聞いた。
「どういうもの?」
「シンフォギアとファウストローブってあるじゃないですか」
「元装者の私に聞く? それ」
「まあ、はい」
雷の皮肉にルイスは苦笑いを浮かべた。それを視界の端で捉える。
流石に悪い冗談だったか。
その謝罪の意味を込めて、雷は椅子を回転させてルイスのほうを向いた。
彼女は雷の反応に少しばかりほっとしていた。
「えっとですね。シンフォギアは歌で起動して、その歌による爆発力がウリじゃないですか」
「まあ、基本的には」
「だけど歌が無くなればとたんに出力が下がってしまう。で、ファウストローブは爆発力でこそシンフォギアに劣るものの、使用者の何かしらで起動している分安定性はあるじゃないですか」
「キャロルとかいう例外中の例外は置いておいて、確かにパヴァリアの四幹部はそうだったかな。安定性がある分、ユニゾンの出力強化みたいな芸当はしてなかったし」
「反応兵器にしていたユニゾンも、出力アップというよりはラピス・フィロソフィカスを燃焼するための触媒としての効果が大きいですし」
あの場にいた雷はそう言われると何となく釈然としない気持ちになったが、研究者という視点で見ればそう思ってしまっても仕方がない。
むしろ筋は通っている。
「で、そのファウストギアっていうのは?」
「シンフォギアの爆発力と、ファウストローブの安定性を足したギアって事です!」
「起動と出力アップは歌、維持は使用者のなにがしかって事?」
「そういう事です。平行世界の存在によって外から何かが来る可能性もありますし、こういう備えはあってもいいかと」
雷は腕を組んで考える。
黎明を迎え、今の世界には新たなる戦力増強はそこまで推奨されるものではない。
しかし、平行世界から脅威がやってくるというのならば別だ。本世界の話では、他の平行世界にも被害をもたらした危機があったのだという。
そして装者であった彼女としても、歌がない時のシンフォギアの出力の低さには思うところがあった。
だからこそ。
「いいよ、やっても。エルフナインとキャロルには私が話しておくから」
「やりました!」
ルイスは思わずガッツポーズした。
考えたことを漸く形に出来るからだろう。雷はそんな彼女に暖かい視線を向けた。
が、その視線は即座に冷え切ることになる。
「ありがとうございます先輩! 実はもう原型自体は完成してるんですよ!」
「は?」雷の声は地を這うようだった。
「これで所長に怒られずに済みます!」
「……ちょおっとついて来てもらえるかな?」
「え、ちょ」
ルイスの首根っこをむんずと掴み、暴れる彼女をずりずりと引きずって所長室に向かう。いや、いまなら研究室かもしれない。しかしエルフナインとキャロルのところに向かう事実は変わらない。
「は、離してくださいよせんぱーい!」
「ここでの研究は未知の技術を扱う以上、対策を事前に用意するために先に研究内容をレポートにまとめるのが規則なのは知ってるよね?」
雷がルイスに笑顔で言った。
しかし、額には青筋が何本も浮かんでおり、目は笑っていない。
それを見て冷や汗を滝のように流すルイスは必死に弁明する。
もはや初見ではどちらが年上なのか誰にもわからないだろう。
「い、いやでも! 先輩もはやる気持ちを抑えきれずにって事ありますよねぇ?!」
「ない」雷は断言した。「だからこってりと絞られてこい」
「い、いやあぁぁぁあああ!」
ルイスの情けない叫び声がミュニアース全体に響き、その後それを超えるキャロルの怒号がミュニアースそのものを文字通り揺らしたという。
○○○
米国、バージニア州で行われたクリスのリサイタルは大成功を収めた。
クリスの頼みで会場の準備を手伝っていた響と未来は観客席に座り、全ての演目を終えた彼女に対して他の観客と同じように立ち上がって拍手している。
今ではクリスも翼やマリアと同じように、世界を股にかけるスターの一人となっていた。
クリスは私服に着替えた後、響と未来に迎えられて会場を後にする。
バージニア州は高層ビルが立ち並びながらも少し外れれば緑の自然があふれる空気の澄んだ場所だった。
「いやー、やっぱりクリスちゃんの歌は綺麗だねぇー」
「サンキュー。すまねえな、会場の準備なんて頼んでさ」
「ううん、クリスの歌をただで聞けるんだから。十分おつりがくるぐらいよ」
「だったらよかった」
クリスが笑みを浮かべた。そしてそのまま夜空を見上げて呟く。
「センパイとマリアはモスクワ。調と切歌はイギリス。んで、バカ二号は南極……か、ずいぶんとバラバラになっちまったなぁ」
その横顔は少し寂しそうだった。口にすれば顔を真っ赤にして否定されるから決して言わないが。それに響と未来も、クリスと同じような思いを抱いていた。
「全員揃う事なんてもうほとんどないからね……」
「まあ、アタシ等がそろうって事はいろいろと問題があるって事なんだが」
夜空にふうっと息を吐き、クリスは正面を向いた。
まばゆい流れ星が空を横切る。
「さてと、リサイタルの成功を祝して今夜はぱあっと行こうぜ!」
「やったぁ! クリスちゃん太っ腹ぁ!」
「ふふ、よかったね」
響が年甲斐もなく飛び跳ね、それをクリスが呆れながら、未来が微笑みながら見つめる。
その瞬間だった。
何の前触れもなく、それはやってくる。
彼女達の背後の森の奥が大炎上し、遅れて爆発の衝撃波が走った。それは物理的なものだけでなく、精神的なものでもあった。
「「「なッ?!」」」
瞬時に響達の表情が焦燥に切り替わる。
なぜならその方角は―― アメリカ合衆国連邦政府の対外情報機関、中央情報局。つまりCIA本部のある場所だからだ。
米国のレーダー網に感知されることなく突破し、大打撃を与える方法は一つしかない。
――テロ。それも聖遺物を用いた。
その結論を三人が導き出した瞬間、弾かれたように現場に急行する。それと同時に米国政府からの緊急回線が開いた。
『聖遺物を用いたテロの可能性。S.O.N.G.に出動要請を求む』
如何やら政府も同じ結論に達したらしい。確定とは言い切れないが、もしもに備えるのは重要なことだ。もし別の要因だったとしても、そのまま救助活動に当たればいい。
響がガングニールの起動聖詠を歌う。
「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」
彼女の体をインナースーツが包み込み、ガントレットとバンカー付きのブーツ型アーマーを装着する。襟首の装甲からマフラーが飛び出した。そして七色の光が胸部と四肢に結晶化、アーマーと一体化した。
同じくギアを纏ったクリスと共にファウストローブを纏った未来と手を繋ぎ、神獣鏡の飛行能力で一直線に向かって言った。
上空に出てみれば、炎はごうごうと燃え上がり、夜闇の中でも目を引く黒煙を巻き上げている。その光景は美しい夜明けのようで、しかし命を奪う禍々しいものだった。
「急ごうッ!」
「うんッ!」
未来が速度を上げ、クリスがバイザーを下ろしてスコープを展開した。
すでに負傷者は大勢出ており、何人無事なのか想像もつかなかった。
この場の最年長として、クリスが指示を出す。
「負傷者を何とかするのがこの場合の鉄則だが、今回は状況が状況だ。先にテロリストの制圧に動く」
「でも、怪我した人はッ?!」
「もちろん救出する。しかし優先度の問題だ! すでに救助部隊が動いているはず。だからアタシ等は迅速かつ安全に動けるよう、先に制圧をするって事だ」
「ッ……分かったッ!」
クリスの言葉に響が真剣に頷く。
見捨てるわけではない。助けることが出来る人は助ける。だけど、自分たちしか何とかすることが出来ないものを解決する。
そうこうしている内に、響達は現場に到着した。
響は近くに倒れていた職員を抱き起し、彼に意識があり、軽傷であることを確認してから、
「何があったんですか?!」
と、聞いた。
彼は軽く呻いた後、少しばかりの疲労感をにじませながらしっかりと答える。
「炎の塊が……突然降ってきて……俺たちの仲間を焼き尽くした……!炎の中に……君たちのような鎧を纏った人影があった……!」
「場所は?!」
「あそこだッ……!」
震える腕で本部の中央棟を指さした。
それを確認した響たちは力強く頷き、男の目を見る。
「すぐに救援が来ます。ですから安静にしていてください」
彼は安心したかのように穏やかな笑みを湛え、ゆっくりと手を下した。
響は彼の体を地面に寝かせ、最も燃え盛っている中央棟に視線を向ける。
「行こうッ!」
「ああッ!」
「うんッ!」
炎の海となった中央広場を飛び越え、燃え盛る中央とうの中でも最も火の手が強い局長室のあるフロアまで一気に跳躍した。クリスがアームドギアを変形させた拳銃で特殊加工ガラスを破壊し、中へと滑り込む。
そして向かおうとすると、背筋に凄まじい怖気が走った。
戦場で培われた勘
咄嗟にしゃがむと、頭上を炎の柱……いや、刃が通り抜ける。
あまりの熱量に壁が燃えるのではなく、溶解していた。
響が拳を構え、未来が扇子を向け、クリスが拳銃を突き付ける。
そして黒煙の中から、シンフォギアのようなものを纏った少女がゆっくりと、無造作に、まるで自分の命に価値などないように現れる。
そして、その姿に三人は驚愕した。
「オイオイ嘘だろ……?」
「え……?」
「あず……ま?」
紅蓮を纏った大剣で煙を薙ぎ払い、それを肩に担いだ。シンフォギアのような鎧は炎を噴出している。炎が生み出す光と気流が少女の褐色の肌を獰猛に照らし、赤いグラデーションのかかったオレンジ色の髪が暴れ狂ったように揺れている。
そして、彼女の姿は雷に、それこそ双子といっても分からないほどに瓜二つだった。
まずは一人。
この世界の未来さんはシンフォギアの神獣鏡の経験がファウストローブの方にフィードバックされていて、扇子型のアームドギアを使用しています。
すごくシンフォギアの一話っぽい引きに出来た気がする。