戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
新キャラ全員登場。
そして同じくもう一つ、襲撃を受けた場所があった。
その場所こそはイギリス。調と切歌によるロックバンドZABABAがライブを行っている国だ。
二人は、ステージの上のライトアップされた中で、笑顔で客席に向かって手を振っていた。掻いた汗が光を反射し、まるでスパンコールのように二人を輝かせている。
「みんなー! 応援ありがとうデース!」
「夜はまだ始まったばかりです! もっともっと盛り上がっていきましょーう!」
二人の声にさらに客席が盛り上がりを見せる。
暗闇の中、緑とピンクのペンライトが揺れていた。
歌を歌えば歌うほどアリーナの熱量が増していく。
そして二人には、この上がりに上がった熱量を限界突破させるような、さらなるサプライズを用意していた。
ちょうど中間地点に差し掛かったタイミングで、調が声を張り上げる。
「皆さんに、スペシャルなサプライズがあります!」
客席にどよめきが走る。しかしそれは不安によるものではなく、期待からくるものであった。サプライズがどのようなものか、観客は続く言葉を今か今かと待ち望んでいるのが肌で感じることが出来る。
その緊張感の高まりが極限に達した瞬間、切歌が声を張り上げた。
「何とデスね! 大手レコーディング社のオーナーにして、この国の外務大臣を務めるジャックさんがあたし達の曲を売りたいというお電話があったんデェス!」
「しかも今日! このアリーナに来てもらっています!」
アリーナが声援で揺れる。
日本から応援に駆け付けた古参ファンも、イギリスにライブに来るのを今か今かと待ち続けていた現地ファンもこの発表には興奮を隠せない。特に現地のファンは、自分たちの国のレコード会社がZABABAをさらに広めるという事に大いに感動していた。中には喜びのあまり涙を流している者もいる。
そしてその歓声の中、件の人物であるジャックが手を振りながらステージまで上がってきた。そして交互に、切歌と調に握手を求めた。
彼女達も、それに応じる。
「これからは私にも、君たちの手伝いをさせてはくれないだろうか?」
「はい!」
「もちろんデース!」
短いやり取りではあるが、それだけで十分だった。
客席から聞こえてくるファンの歓声。
そしてそんな時、まばゆい輝きと共に一人の少女がステージに降り立った。
糸目の少女は内側にカールしたショートカットの金髪を揺らし、ジャックのほうを向く。その動作に、金色のアクセントが目を引く銀のドレスの裾が翻った。
少女の周囲を漂っている金のワイヤーのようなものがベルの音色を奏でている。
手には金色の長剣を持っていた。
そんな彼女の登場に、今までサプライズをしかけていた側のジャックが驚いてみせる。
「おっと、サプライズをしかけていたと思っていたら逆に仕掛けられていたとは! 彼女はZABABAの新しいメンバーかな?」
はははと笑いながら切歌と調を交互に見やる。
しかし、彼女の登場に一番驚愕しているのは二人だ。突如として現れた正体不明の少女に目を見開き、それと同時に彼女が持っている金の長剣に警戒していた。
不測の事態に対応できるよう、切歌と調はペンダントを握り、ジャックの壁になるように立ちふさがる。
二人の様子からただ事ではないと感じたジャックは、彼女達をかき分けて少女の正面に立った。先ほどまで興奮のあまり震えていた観客たちも、今はそれが動揺と困惑に変わっていた。
彼のこの選択は、自身の寿命を五秒ほど縮めることになる。
「おい! 君は一体何者なんだッ?!」
「……」
少女は一切の反応を示さない。
閉じているのか、開いているのかすら分からない目を彼のほうに向けている。
そしてその瞬間、金色の長剣がまばゆい光を放ち、空いている反対の手を横に振るった。
「ッ!」
咄嗟に目を庇った調と切歌は、それまでの経験から非常にまずいことが起きるという事を察知し、咄嗟に要人であるジャックの体を突き飛ばした。
そして自分たちもその勢いのまま、庇うように倒れ伏す。
すると先ほどまで彼が立っていた場所を銀色の飛翔する何かが切り裂いた。
――それは、短剣だった。
浮遊するそれはジャックの影を切り裂いた後、円を描くような軌道で少女の傍らに停滞した。
そこで調が気づいた。
ジャックの体はこちらにある。しかし、彼の影は何故か先ほどまで立っていた場所に留まったままだ。そして銀色の短剣が切り裂いた軌道と同じ形に、影もすっぱりと切り裂かれている。
切歌も遅れて気付いたようだ。
「ジャックさん?! ジャックさんッ?!」
声をかけながら体を揺すっているが、一向に返事がない。ピクリとも動かない。
ゆっくりと、とどまっていた影が吸い込まれるように彼の体と繋がる。すると、切り裂かれた影の形が肉体に反映されたかのように、赤い水たまりがステージに広がっていった。
すでに体は冷たくなっていた。
「あなたは一体……」
「ッ……」
最前列でその惨劇を目撃した観客は狂乱しながらここから脱出しようと暴れ始め、それがだんだんと広がっていく。我先にと出口へ逃げ出そうとする。
そのことに少女は表情を歪め、金色の長剣を頭上に放り投げた。そしてそれはさっきと同じく眩い光を放つ。その光は、逃げまどう観客そのものの動きを停止させた。
少女は放り投げた剣を掴み、二人のほうを向いた。
○○○
その時、世界中の電波がジャックされた。
画面には、紅蓮の炎の中で燃え盛る大剣を肩でかつぐ少女。槍を床に突き立てた海の中にいるかのように髪を揺蕩わせる女性。そして、両手に金と銀の剣を持ち、光に形を与えたかのようなドレスを身に纏う少女。
どうやって電波をジャックしているのか、何処から撮影しているのか分からない。放送を中止することすらできない。
――これは聖遺物によって引き起こされている。
そう考えなければ、説明がつかない出来事だった。
光の少女が告げる。
『わたし達は強者を滅し、弱者を救うもの』
海の女性が告げる。
『私達は闇を隠す社会を破壊するもの』
炎の少女が告げる。
『俺達は堕落した者たちを焼き尽くすもの』
『強者は怖じなさい。弱者は手を取り合い、立ち上がりましょう!』
『すでに一部は解放された。ロシアの弾圧に苦しんでいた者たちよ、イギリスの嘘に踊らされていた者たちよ、もう恐れることはない!』
『そして今、争いを続けている中東の国々よ! すべてのきっかけはアメリカにある! これがその証拠だッ!』
炎の少女は紙の束を突き付けた。
そこには、確かに争いのきっかけがアメリカにあることを突き付ける決定的な証拠が書かれていた。更にはロシアによって存亡の危機に立たされていた小国の国境から軍が撤退していく映像が映り、続いて光の少女が殺害した外務大臣が映されることで、これ以降嘘に踊らされることがなくなった。
少なくとも、後釜が見つかるまではこの状態が続くだろう。
この映像を見た各先進国の代表たちは明日は我が身と怯えを見せ、逆に彼らの顔色をうかがってきた国々は代表も国民も全てが歓喜していた。
もう戦渦に巻き込まれなくていいのだと、世界中に散らばる難民たちは安堵した。
学校に行くことが出来る、偶然ラジオ放送で聞いていた貧しい子供たちははしゃぎまわった。
弱者をかさに着て利権を啜る者たちは震えあがった。
弱者をむさぼり、悦に浸る者たちは自分の財産を手に逃げ出した。
少女たちは声を合わせる。
『我らは“ファイ”。強者どもよ、かかってこい。弱者を代表して相手になってやる』
一拍置いて、彼女達は宣言した。
『世界に、宣戦布告する』
暗き闇の中、一人の女がその宣言に笑みを浮かべた。
世界の勢力図が、一変する。
彼女達は果たして悪なのだろうか。