戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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社会の正義か、命の正義かの戦い


それは正義か悪か

 クリスはアームドギアを変化させた拳銃を炎の少女に向けた。

 表情からは苛立ちが見て取れる。

 

「宣戦布告だぁ? ふざけるのも大概にしとけよッ!」

「……俺はふざけてなんかいない。それに俺から言わせてみれば、世界を救って天狗になって、歌を歌ってれば平和になるなんてふざけてんのか」

 

 少女は肩にかついだ炎の大剣をゆっくりと下ろし、正直失望した、というように赤い目を三人に向けた。

 その声はやはりというか、見た目のように雷のものと似ていた。いや、もはや同一といってもいいだろう。彼女は持っていたアメリカの秘密情報をくるくると丸め、肩にかけていたバッグの中に放り込んだ。

 視線は響達から完全に外しており、相手にする気など更々ないという意思表示をしていた。

 その様子に、戦争に対して深い憎悪を抱いているクリスが歯を食いしばった。

 

「生憎とアンタを逃がすわけにもいかないんでなぁ。大人しくお縄につけよッ!」

「……はぁ、今撃つべきは俺じゃないだろう」

「クリス落ち着いてッ!」

「うるせぇ!」

「クリスちゃんッ!」

 

 未来や響の制止も聞かず、クリスが六回トリガーを引いた。リボルバーに装弾されている弾丸を全て、少女を行動不能にするに足りる箇所にはなっている。

 しかし、少女は大剣を一薙ぎして飛来する弾丸を全て溶断せしめた。

 弾丸を一瞬にして溶かしつくす熱量を、彼女の剣は持っているのだ。

 反撃は、ない。 

 

「分からなかったみたいだから声に出していっておくが、俺はお前達と戦う気なんかはなっから無い。むしろこっちを手伝うべきだと俺は思うがね?」

「宣戦布告した奴らなんかと手が組めるかよッ!」

「だが、俺達のした行動と、お前達に協力を要請した連中の裏側。どちらが正しいのか、火を見るより明らかなはずだが」

 

 クリスの頭には完全に血が上っていた。周囲の熱もあってか、冷静さを欠いている。

 だからこそ響が一歩前に立ち、手を差し伸べる。

 

「やっぱり響は変わらないね」その行動に未来がつぶやいた。

「確かにそうかもしれない……だからさ、話し合おうよ。私達と、ファイのみんなで、一緒に! クリスちゃんも落ち着いて、ね?」

「ッ! ……ああ、確かに……その通りだな」

 

 クリスもすっかり絆されてしまっているようだ。

 話だけでもしてもいいかもしれない。無料なんだしな。

 後は炎の少女が手を取れば丸く収まる。協力するべきと言っていたのだから、とらない理由はない。

 そのはずだった。

 

「……話すだけ無駄だったな」

「え?」

 

 響の思考が困惑で一杯になる。

 その瞬間、少女は背後から炎を翼のように発射し、発生した火柱が天井を突き破って天まで続く大穴を開ける。そして背中の羽で羽ばたき、ふわりと浮き上がった。

 爆炎が廊下の形に沿って広がっていき、フロア全体を炎で埋め尽くす。

 装者たちは咄嗟に顔を庇ったが、足が止まってしまった。

 少女は吐き捨てるように言った。

 

「俺の名はミア。立花響、その話、仲間の前でしてみろ。お前の浅はかさを知る羽目になるからな」

「待って! 浅はかって……どういう事……?」

「自分の頭で考えろ」

 

 そのままミアは体を炎で包み込み、夜空に向かって飛翔した。その姿は、まるで彗星のようにも、鳥のようにも見えた。

 装者たちは呆然と立ち尽くす。

 この襲撃での被害者に、民間人は含まれていなかった。

 そして、中東で起きた紛争問題が一つ、金と銀のオッドアイの女性の手によって解決に向かっていった。ミアの行動が、解決の糸口になったのだ。

 

○○○

 

 ロシア軍が国境線を離れていった事実を確認した女性は、突き立てていた槍を引き抜いて一度振り回し、穂先を下に向けた。

 そして眼鏡のガラス越しに、鋭い視線を翼たちに向けた。

 

「確認した通り、これでこの国に脅かされていた、隣接した多くの国に安寧がもたらされた。これで今回の私の任務は終了した。では、帰らせてもらうよ」

「ただで帰らせると思ってるの?」

「お前たちの思惑は、ベッドの上で聞かせてもらおうか」

 

 マリアが短剣を、翼が刀を構える。

 それに女性は応じず、ふっと笑みを浮かべた。嘲るような笑みだ。

 

「私達は世界のためにやってるんだ。君たちが許されて、私達が許されないわけないだろう? なあ、F.I.S.」

「ッ! ……その贖罪は十分にしたわッ!」

「そう」

「マリアッ?!」

「なッ?!」

 

 痛いところを突かれたマリアは一歩踏み出し、逆手持ちにした短剣で目のまえの『翼』に一撃を加える。

 翼は咄嗟に刀で受け止めた。

 致命打にはならなかったが、なかなかに重い一撃が入る。

 翼の位置は変わっていない。マリアが翼の方向に向かって攻撃を加えたのだ。この現象を引き起こしたのであろう女性は大臣のテーブルに足を組んで座っていた。

 味方からの不意打ちを受けた翼は叫ぶ。

 

「どういうつもりだマリアッ!」

「どうして翼が?!」

「それはこっちの物言いだッ! マリアがわたしに向かって飛び掛かって来たんだろう?!」

「違うわ! ……いえ、起きたことは事実ね。ごめんなさい」

 

 翼とマリアは距離を取り、武器を構えて女性を捉える。

 その視線を受けて彼女は立ち上がった。

 

「おっと、そういえば名前を言っていなかったね。これは社会人失格だな。私はエルナ・ミニスター。以後よろしく」

「以後はないっ!」

「待って翼ッ!」

 

 これが彼女の素なのか、エルナは少し軽薄な言動で名前を名乗った。

 そんな彼女に、翼は蒼ノ一閃を放つ。そしてその一撃は、さっきまで真横にいたマリアに向かっていった。

 マリアは逆三角形のバリアを貼って一閃を受け止めるが、強化されたシンフォギアが生み出す火力が高く、受け止めきれず弾かれてしまう。

 エルナはその様子を見て溜息をついた。

 

「君達は私達の行いに迷いを持っている。だから、今みたいに混乱する。そんな状態じゃ勝ち目がないだろう。私は帰らせてもらうよ。……そうそう、私が殺したのは全員軍の関係者だ。それ以外の人間には少なくとも身体的外傷を負わせていない」

 

 それだけ言って、エルナはこの場から消失した。

 その後救急隊が駆け付けたが、死亡しているのは全て軍人と諜報員だった。彼女の言っていたことは、事実だった。

 翼とマリアは、何が正しいのか分からなくなっていた。

 

○○○

 

 イガリマとシュルシャガナを身に纏い、目を瞑ったドレスの少女と相対する。彼女の年齢は見たところ雷の外見年齢とさほど変わらないように見えた。

 切歌が鎌を、調が大型の鋸を少女に向ける。

 

「あなた達の言うことが事実なら、観客たちは無関係のはず。だから……」

「観客を開放しなさい……でしょ? 安心して、もうしてるから」

「減っているようには見えないデス!」

「全員一度に逃がしたら怪我をしたり、死んじゃったりする人が出るかもでしょう? だからゆっくり、つまらない程度に開放しているわ」

 

 事実、ステージからは見えづらいが、出口付近から順々に拘束から解放され、スムーズに逃げ出すことが出来ている。少なくとも今のところ、負傷者は出ていなかった。

 人を殺しておきながら、命を大切にしているという矛盾。

 そのことが調の脳裏に引っかかった。

 

「そこまで命を大切に出来るのに、どうして彼を殺したの」

「この人は発展途上国に本当は安いワクチンを異常に高く売りつけ、多くの人を病死させた。……亡くなった人の全員が病が原因だとは言い切れませんが、それがきっかけになったのは事実です。そしてそれで得たお金は全て自分のポケットに入れていた。……お金で命を弄んだ人間を殺して何が悪いんですか?」

 

 少女はこてんと首を傾げた。

 自身の行いが正しいことと確信しており、しかもその言い分に何も問題はなかった。二人には言い返すことが出来ない。

 彼女はしとやかに告げる。

 

「ちなみに私は今は逃げるつもりはありません。観客全員を無事に逃がしてから、私はここを去ります。何時、強者たちが自分の身を守るために私のような存在を生み出すか分かりませんので」

「だったらッ……!」

「それまでにあなたを捕まえるデェスッ!」

 

 切歌が鎌を振りかぶり、横薙ぎに少女に切りかかる。

 それを浮遊していた銀色の短剣が受け止め、上に弾き上げた。

 その隙にローラーダッシュで背後に回っていた調がツインテールバインダーを展開し、無数の小型の鋸を一斉に発射する。切歌には着弾しないように調整していた。

 背後からの攻撃だったが、少女は顔を向けることなく黄金の長剣を頭上に掲げ、

 

「光あれ」

 

 と、唱える。

 すると剣がまばゆい光を放ち、彼女の体が影の中に消えた。空中に剣だけが浮遊している。

 

「なッ?!」

「私はこっちですよ」

「ぐうッ!」

 

 振り返ると、そこには剣を持っていない少女の姿があった。

 そして彼女は淑女然とした容姿とは裏腹にまるで獣のような速度で調に接近し、超至近距離での格闘戦を仕掛けてきた。

 この間合いでは調は思うように戦うことが出来ない。

 

「調ッ!」

 

 切歌が銀の短剣を払いのけ、調の救援に回ろうとする。

 

「もう一本を忘れてはいませんか? 光あれ」

「うおぁ?! 影が生えてきたデス!」

 

 宙に浮かんでいた黄金の長剣が再度光を放つ。すると少女そっくりの影が剣の影から出現し、切歌の行く手を阻んだ。更に銀の短剣も挟み込むような形で戻ってくる。

 何とか猛獣のような連撃を凌いでいた調だが、不意に攻撃が止んだ。切歌を相手にしていた二本の剣も、いつの間にか調と距離を取っていた少女のもとにあった。

 連撃を何とか耐え忍んだ調がステージに膝をついた。切歌も、何とか立っているが肩で息をしている。

 

「全員の避難が完了したので、私は帰らせてもらいますね。何とか追手が来る前に終わって助かりました。わたし、ミハル・スタインベックといいます。負わせてしまった怪我は直しておきますね。では……」

「逃がさないデスッ!」

「光あれ」

 

 切歌が突撃するが、ミハルの持つ長剣が放った光が視界を覆いつくす。

 その光が止むころにはミハルの姿は何処にもなく、二人が負った傷や疲労が完全に治り切っていた。

 軍のヘリがサーチライトでステージを照らすが、すでに遅かった。

 後日、全世界に汚職を行った事実を流されたイギリスは、自国の大臣の行いを認め、違法に巻き上げた資金を返却し、ワクチンの無料提供を開始した。

 かの発展途上国では、何者かの口添えがあったのかしばらくの間税金がなくなったという。




ミア
 雷とうり二つの見た目をした少女。しかし肌は褐色で髪は赤いグラデーションのかかったオレンジで、それを乱雑に一つくくりにしている。
 肌の露出が多い服を好み、チュ-ブトップにノースリーブの革ジャン、ジーンズ生地のホットパンツ、サンダル。

エルナ・ミニスター
 眼鏡をかけた切れ目、群青色の長髪をポニーテールにした遊び心を持ったストイックな女性。イタリア人。年齢27歳。
 年齢のためか肌の露出は少なく、ワイシャツにスーツパンツ、上から群青色のコートを羽織っている、革靴。
 メンバー最年長なのもあってブレーキ役を務める。

ミハル・スタインベック
 糸目の毛先が内側にカールした金髪ショートカットの少女。17歳アメリカ人。白のポロシャツにふんわりとしたレモン色のケープとロングスカート、ローファー。常にベルの音を鳴らしている。
 おっとりとした性格だが、敵対者には苛烈。
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