戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
世界に対して宣戦布告したミア、エルナ、ミハルの三人はテレポートジェムを使用して自分たちの隠れ家へと帰還していた。
此処は異空間に存在する彼女たちの活動拠点『オムニファス』。
そこで三人はシンフォギアのような特殊な鎧をそれぞれ解除する。
ミアのものは炎を封じ込めたかのような手のひらサイズの透明な立方体に変化する。エルナのものは青い宝石のようなパーツが目を引く銀色のピアスに、そしてミハルのものは銀色に鈍く輝くベルが胸元に、金色に輝くブレスレッドが右腕に装着された。
ミアは鎧が変化したキューブをホルダーに入れ、カラビナを通してベルトに吊り下げる。
「よし、ひとまず第一段階は完了だな」
「ええ、まず一つ。私達の理想に一歩近づいたかと」
「S.O.N.G.の皆さんとも対面しましたし、どちらの正義が正しいかを証明し合うだけですね」
ミハルの言葉に二人が頷く。
宣戦布告こそしたが、これは戦争ではない。別に敵対するすべてを破壊して回ろうという蛮族的な思考を彼女たちは持たない。
すべきことは競争。
自分たちの掲げる弱きを助け、強きを挫くという正義。S.O.N.G.他、世界が掲げる大多数のための正義。その両者のどちらが正しいのかを競うのだ。
相手がそれを認識しているかは分からない。大方は過激なテロリストと認識しているだろう。
しかし、彼女達の行動によって一つの紛争が終結し、複数の小国は恐怖から解放され、いくつかの貧困国は病から救われている。
無論、そのことにまだ禍根を残してはいるだろうが、その根源は断っている。どれだけかかるかは分からないが、解決は時間の問題といえた。
「もちろん、俺達だけの功績という訳ではないけどな」
「おおっと、ミアが褒めてくれるなんて珍しいこともあるもんだね」
暗闇から袖がぶかぶかに余った白衣を羽織った女性が現れる。
長い前髪によって右目が覆われているが、銀の左目が大きな丸眼鏡越しに三人を見つめていた。その瞳の輝きは、世界の全てを見通すかのような叡智の光を帯びているかのようだ。
エルナが腰に手を当てて彼女のほうを向く。
「忘れるわけにはいかないさクラリス。君のお陰で停戦合意が結ばれ、国境から軍が撤退し、ワクチンが行き渡ったんだ。まったく、素晴らしい手腕と言わざるを得ないよ」
「いや~そう言ってもらえるのはうれしいけど……ってそんなことより、ファウストギアの調子はどう? 実戦使用するのは今回が初めてだし、不具合とか無かった?」
袖の中にある手でメガのを持ち上げる。
彼女達の纏うシンフォギアのような鎧、ファウストギアは、これまで何度も試験を重ねてきた。しかし、実戦は試験による用意された環境とは違う。特に彼女たちは世界にケンカを売った以上、油断が何を生むかは分からない。
ミアが腰に吊り下げているキューブを指ではじきながら答える。
「俺のは全く問題ないね。というか、そこまでガチンコにぶつかってないからなぁ……。だからアレとうまく対応するかは分からんが、俺の炎との親和性は高かったから多分大丈夫のはずだ」
「ミアのはそこが課題だね。エルナは?」
「私のも同様だ。固有能力も問題ないし、それのせいでかかる負荷もそれまでと何ら変わりはなかった。もっとも、今後の戦いでは能力を連続使用することもあり得るが……それは私自身の問題だ。気にしないでいいよ」
「了解。こっちでも負荷を軽減できるように試してみるよ。ミハルはどうだった?」
「問題なかったです。適性があったとはいえ実戦時の二つ同時稼働の負担は心配でしたが、杞憂で済みました。わたしは二人と違って本格的に戦いましたが、問題なく相手できたかと」
「ミハルも問題なし……と」
クラリスが手元のタブレットに記録をまとめていく。
少なくとも今回は全く問題ないようだ。
できることといえばエルナのギアの固有能力の負荷軽減くらいだが、今現在でも可能な限り軽減しているため、本当に誤差程度の修正だろう。
「うん、大した損傷もないし、後は自由時間にしよう」
そう言って彼女はオムニファス深部にある自身の研究室に戻っていった。
その背中を見届けた後、ミアは二人に聞いた。
「なあ、成功体はいたか?」
「私は見ていない。ミハルは?」
「わたしも……。ミアはずっと探してるけど、成功体が見つかるとどうなるの?」
ミハルがずっと目を閉じたまま首を傾げた。
その仕草は彼女の服装と相まって世間を知らない純真無垢なお嬢様のように見えた。
――もっとも、彼女は物理的に世間を知ることが出来なかったし、世界の黒い部分の被害者なのだが。
その問いにミアは恥ずかし気に紅蓮の髪を掻きながら答える。
「俺もよく分かってないんだけどさ……そいつと合うとなんかわかるような……そんな気がするんだよ」
「何かって何だい?」
「それもまだよくわかってない。……ここんところには引っ掛かってんだけどな」
そう言ってとんとんと指先で胸を叩いた。
自分でも問題の“何か”は分からないが、彼女の言う成功体と合えば“何か”とその答えが分かるというらしい。
ミハルがパンと手を叩いた。
「早く会えるといいですね! その人に!」
「……うん」
ミアは頷く。
次の作戦行動まで少し時間がある。
彼女達は自室に戻り、思い思いの時間を過ごした。
○○○
潜水艦であるS.O.N.G.本部基地の艦橋部。
指令室であるこの場所の空気は非常に悪い。
その理由は新たに登場した組織、“ファイ”にあった
彼女達を完全なる敵として認識できないでいるのだ。
「CIAを、ロシア軍上層部を壊滅させ、イギリス外交部の闇を暴いた謎の組織、ファイ……。人を殺してこそいるが、行っていることは弱者の解放……」
弦十郎は顎に手を当て、呟いた。
彼女達のとった行動は間違いなくテロ行為だ。しかし、彼女達は宣戦布告したうえで行動に対して結果を出している。
それに襲撃を受けたすべての組織の無関係な――軍部に所属していない――人間は全員無事だという。
その事実が彼等から戦うという意志をそいでいく。
ファイという組織が間違いであると断言できないのだ。
変化した世界情勢をまとめている藤尭が悪態をつく。
「過程はともかく、やっていることは間違いではない……なんて、凄く厄介ですよ」
「米国をはじめとしてロシア、英国は彼女たちの迅速な排除を要請してきています。相手が聖遺物がらみだからって、私達にすべてを押し付けようとしてますね」
「見方によっては俺たちの方が悪……か」
「失礼します!」
丁度そのタイミングで、装者たち全員がブリッジにやってきた。
今回は事情が事情のため、大型モニターを二分割し、ミュニアースから雷、エルフナイン、キャロル、そして彼女達と共同で研究しているルイスがブリーフィングに参加した。もう半分のモニターには、オランダの実家の孤児院からフランカが映し出されている。
不慣れなのか、カメラに大きく寄ったフランカが言った。
『テレパシーで情報を掴みました。イギリスとは距離が近いですからね、私の能力で少し弄ればすぐにわかりますよ』
「それで、どうだったんデスか?」
『結論から言うと、外務省の汚職は事実ですね。ちょっとひっくり返るぐらいのお金を着服していたようです』
「という事は……」
「彼女たちの結果には間違いがない。という事ね」
『そうなりますね』
S.O.N.G.メンバー、特に響が表情を暗くする。
「雷君、彼女達が纏っていたシンフォギアだが……あれはどういうものなんだ?」
『それは……』
『私の方から説明しますね!』
弦十郎の問いに雷が応えようとしたが、そこにルイスが割って入った。
キャロルがそのことを咎めようとしたが、ここは彼女が適任だとエルフナインに諫められる。
「君は?」
『私は雷先輩の後輩、ルイスです!』
「後輩……?」
未来が首を傾げた。彼女はどう考えても雷より確実に年上に見えたからだ。事実、そうなのだが。
ルイスは未来の言葉を無視をして話を続ける。
『あれはファウストギア。ファウストローブの安定性とシンフォギアの爆発力を兼ね備えた新開発のギアです。ただ、あれはまだプロトタイプが一基ミュニアースにあるだけで他にはないはずなんですが……』
「それって内通者が居るって事じゃねえのか?」
『いや、それはないぞ雪音クリス。ファウストギアの存在は、まだここにいるオレ達しか知らない。それにオレがエルフナインに使った視覚共有も確認できないからな』
「じゃあそこのルイスが……」
『私はずっと雷先輩のところにいましたので!』
「ッ」
『クリス。宣戦布告っていう君の地雷に直撃のワードが出て苛立つのは分かるけど、いったん冷静になった方がいい。たぶんだけど、それが彼女達の目的じゃないと思うから』
宣戦布告をしておきながら、戦争が目的ではない。
その矛盾した雷の発言に、響達は首を傾げた。
起承転結の起の終盤。
クラリス
ルイス他雷やエルフナイン、キャロルしか知らないはずのファウストギアを三人に与えた謎の女性。
また、紛争の停戦や軍の引き下げ、ワクチンの手配をほぼ同時に行ったという人間離れした能力を持っている。