戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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すみません!土日の零時といいましたが十八時に変更します!

投稿したくなって書きました。こんなふうに予定外の時もあります。


本当は・・・

 深々と雨の降り続ける早朝に未来は目を覚まし、二段ベッドの下の階から這い出て、雷と響そして自分の写った写真を一瞥する。その表情はこの間の友達でいられない宣言を後悔し、何でもなかった写真と同じ時に戻りたいという思いでいっぱいな胸の内を如実に表しているようだ。写真から目を外してパジャマを脱ぎ、着替え始める。

 ベッドから這い出たときの音で、響と頭を彼女の腹に押し付ける形で丸まって寝ていた雷は目を覚ます。寝ている間も泣いていたのだろう、雷の瞼が腫れ、頬には赤い線が出来ている。二人は何も言うことが出来ず、ただ静かにしていることしか出来なかった。

 

○○○

 

 何とかイチイバルを纏い、フィーネの差し向けたノイズをすべて塵へと変えたクリスだったが、今までの連戦に次ぐ連戦で疲労が限界にきており、服が雨で濡れるのも構わず座り込んでしまう。

 そこに傘を差し、浮かない表情でリディアンへと登校している生徒がいた。未来だ。未来は不意に人の気配を感じ、横にある路地のほうを向くと赤い服を着たクリスが座り込んでいるのを目撃する。赤の他人であり、故意ではないとはいえ自分の命を奪いかけた相手を、誰に似たのか一番近くにあった顔見知りの店『ふらわー』に運び込んだ。

 

○○○

 

 雨がやみ、雲から青空がのぞく。そんな朝一番のリディアンの第一フロアにて、雷と響の二人は弦十郎からノイズの出現を聞かされた。

 

「ノイズですか・・・」

『そうだ。市街地第六区域に、ノイズのパターンを検知している。未明ということもあり、人的被害がなかったのが救いではあるが・・・、ノイズと同時に聖遺物、イチイバルの反応パターンも検知したのだ』

 

 二課の指令である弦十郎を相手にするのだ、あの日以来不安定なままの雷は何とか踏ん張って安定した状態に持ち直す。口調は安定しているが顔は青く、脂汗がだらだらと流れてくる。そんな雷を、響は心配そうな目で見つめる。

 

「ということは弦十郎さん、クリスがノイズと戦ったってことですね。たぶんですけどフィーネから用済みだって言われていました。フィーネがノイズを操る杖を使っていたので、口封じのためにノイズを放ったのではないかと」

 

 雷の意見に弦十郎は通信機越しに「そうかもな・・・」と小さくつぶやいた。

 

『この件については、こちらで捜査を引き続き行う。響君と雷君は指示があるまで待機してほしい』

「はい、わかりました」

「了解です」

「・・・雷、大丈夫?これ使って」

「あ、あり、がと・・・」

 通信を切ったとたん、雷は膝に手を突いて荒く乱れた呼吸を深呼吸で整え、響が差し出してくれたタオルで汗を拭きとる。五分ほどだろうか、元の不安定な状態のままとは言え、行動できるようになった彼女の手を引いて響が教室へと入っていく。

 そこで違和感に気づいた響が雷に声をかける。

 

「雷・・・未来が来てない」

「ま、まさか、た、たた、退学するなんてみ、未来言わないよね?!ねぇ!」

「そ、それはないと思うけど・・・」

 

 どこまでもネガティブに考えてしまう雷の後ろから創世と詩織、弓美の三人組がやって来た。今回は雷を怖がらせないように一度ワンクッション置いてから話しかける。

 

「未来さん、お休みなんですか?」

「私達より先に登校したはずなんだけど・・・」

 

 如何やら彼女たちも知らないようだ。創世が二人の前に出て手を合わせ、謝罪の意を表した後、二人の手を取る。

 

「こないだはごめん、茶化しちゃって。これでも責任感じてるんだ」

「うーん・・・。こんな時アニメだったらどうすんだっけ・・・」

「ちょっと、真面目に考えて」

「もー・・・」

 

 そんな三人組の何時ものやり取りに二人の頬が緩む。が、すぐに雷の表情は暗くなり、響は視線を下に落とす。二人の胸の内は、このままじゃ嫌だ、という思いでいっぱいだった。

 

○○○

 

 そのころ、『ふらわー』では未来がうなされて眠っているクリスを甲斐甲斐しく看病していた。何度目かのタオルを変えた時、ふいにクリスが跳ね起きるかのように目を覚まし、二度三度状況を飲み込もうとしてあたりを見渡す。未来が笑顔で話しかける。

 

「よかったぁ、目が覚めたのね。びしょ濡れだったから着替えさせてもらったわ」

「か、勝手なことを!」

 

 今の状況を未来の言葉で理解したクリスは『小日向』と書かれた体操服のまま立ち上がる。その瞬間、未来の顔が朱に染まり、それが理解できないクリスは未来に問い詰める。

 

「な、何でだ?!」

「流石に、下着の替えまでは持ってなかったから・・・」

 

 顔を背けながら未来は説明し、クリスは布団にくるまって身を隠す。クリスの顔は恥ずかしさで赤くなっていた。そんな二人の横からおばちゃんが声をかけ、未来がそれに答える。

 

「未来ちゃん。どう?お友達の具合は」

「目が覚めたところです。ありがとうおばちゃん、布団まで貸してもらっちゃって」

「気にしないでいいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから」

「私、手伝います」

「あら、ありがと」

「いえ」

 

 最初はいぶかしげな表情を浮かべていたクリスだったが、未来とおばちゃんの会話にきょとんとした顔になる。完全に置いてけぼりにされていた。

 少し汚れていたクリスの体を、未来がぬれタオルで拭いていく。

 

「あ、ありがと」

「うん」

 

 痣だらけのクリスの背中と親友の傷と痣だらけの背中が重なる。不意にクリスが口を開いた。

 

「何にも、聞かないんだな・・・」

「うん・・・。私は、そういうの苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて、なのに・・・、一番大切なものを壊してしまった・・・」

「それって、誰かとケンカしたってことなのか?」

「・・・うん」

 

 的を射たクリスの言葉に、未来は静かに答えた。

 

○○○

 

 リディアンの屋上に雷と響の姿があった。響は授業の時以外雷と手をつないでいる、雷が不安定になった時に響か未来のどちらか一人、または二人一緒にすることで自殺に走ったりするのを防ぐためだ。そんな状態で、響が柵によりかかる。

 

「未来・・・、無断欠席するなんて一度もなかったのに・・・」

「うん・・・」

 

 ガチャンと下に降りる階段の扉が閉じる音がしたので二人そろってそっちを見ると、松葉づえをついて歩く翼がいた。

 

「翼さん」

「つ、翼、さん」

 

 雷、響、翼の順番でベンチに座る。雷と響は手をつないだままだ。

 

「私、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るため、シンフォギアの戦士になるんだって、でもだめですね・・・。小さなことに気持ちが乱されて。何も手につきません。私、もっと強くならなきゃいけないのに、変わりたいのに」

 

 その話を聞いて雷がギュッと響を握る手に力を籠める。

 

「わ、私もです・・・。私、こんなふうにならないように、た、大切なものを守るために強くなりたいのに。強くなろうとしてか、変わろうとして、で、でも進歩できなくて・・・」

 

 二人の言葉を聞いて、翼がゆっくり口を開く。

 

「その小さなものや大切なものが、立花と轟の本当に守りたいものだとしたら、今のままでもいいんじゃないかな。二人は、きっと二人のまま強くなれる」

「翼さん・・・」

「つ、翼、さん・・・」

 

 翼は顔を赤くして落ち込む。

 

「奏のように人を元気づけるのは、難しいな」

「いえ、そんなことありません。前にもここで、同じような言葉で親友に励まされたんです。その時は、私だけが悩んでいたんですけど・・・。私、また落ち込んじゃいました。ダメですよね~」

「あ、あの時は響だっ、だけだったけど。こ、今回は私も、ダメダメです・・・」

 

 そんな二人に翼は優しく微笑んだ。雷が話題を切り出す。

 

「つ、翼さん。ま、まだい、痛むんですか?」

「大事を取っているだけ、気にするほどではない」

「そ、そうですか・・・。よかった、です」

 

 翼の顔が引き締まる。

 

「絶唱による肉体への負荷は極大。まさに他者も自分も、すべてを破壊しつくす滅びの歌。その代償と思えば、これくらい安いもの」

 

 絶唱のことを聞いて雷が目をキラキラさせ、響がそれを「駄目だからね」と咎め、シュンとなった雷の手を握ったまま立ち上がる。

 

「絶唱、滅びの歌、でもですね翼さん。二年前、私がつらいリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからです!翼さんの歌が、滅びの歌だけじゃないってこと、聞く人に元気をくれる歌だってこと、私は知っています!」

「立花・・・」

「だから早く元気になってください。私、翼さんの歌が大好きです」

「わ、私も!です・・・」

 

 二人の言葉に翼は目をつむり、微笑んだ。

 

「私が励まされてしまってるみたいだな」

「へ?」

「?」

 

 雷は言葉の意図が分からず首を傾げ、響は頭をかき、照れた様に笑った。




そろそろ仲直りしてくれることでしょう。

しかし、雷とクリスの境遇って似てる気がする。

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