戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
今現在、マリアは残っていた仲間たちを連れて巧妙に下水道に偽装された地下通路を進んでいた。
そして、彼女達がそんなところにいる原因となっているのが、明りをもってマリアの前に立ち、先導するように歩いている目下の敵。ファイのエルナだった。
ギアを纏っているマリア達に対し、エルナはただのスーツだ。
そんな状況にありながら、エルナは軽く後ろを振り向いて言った。
「いやぁすまないね。お手を煩わせちゃってさ」
「あの条件で承諾するなんて、本当に嘘じゃなかったのね」
「本当じゃなかったらあそこで大人しくお縄についてるさ」
はっはっはと芝居じみた笑い方をする。
こんな頓智気な状況になってしまったのは、今からほんの一時間ほど前のことだ。
○○○
マリアはファイがフランスに対して攻撃を行うと宣言したことにより、S.O.N.G.に残っていた切歌と調、クリスを連れ、現場の指揮権を一任されてフランスに入国していた。
これまでの傾向から、ファイの狙いは政治家とあたりを付けた彼女たちは、それぞれ分担してパリ周辺の警戒に当たっていた。
途中、切歌が美味しそうなフランス料理に気を取られてしまうというハプニングはあったものの、特に怪しいところはなく、やって来たフランス軍に監視任務を譲渡することになった。
「我々では満足に戦う事は出来ませんが、支援することは出来ます。我が国の重鎮を守るのですから、せめて監視体制の譲渡をお願いしたいのですが」
「……そうね、お願いするわ。国会に続く道は限られているとはいえ、それでも広すぎるくらいだったもの。渡りに船、と思わせてもらうわ」
「では、怪しい者を発見次第、通信にて報告を。それまで待機してもらうのもなんですので、せっかく花の都まで来てもらったのです。パトロールついでに観光でもいかがでしょうか?」
「観光デスか?!」
「切ちゃん、パトロールが主目的だよ」
喜ぶ切歌を、調がたしなめる。しかし、そんな彼女の頬も楽しみにしているのを隠しきれておらず、頬が若干ゆるんでしまっている。
だが、クリスはその提案に反対した。
「そんな悠長なことしてられっかよ! アタシ等が動いて、連中をぶっ潰さねえと……」
「落ち着きなさいクリス」
「マリア!」
「そうやって逸って、とんでもない失敗を犯したらどうするの。重要なのは確実性。一度心を落ち着かせて、余裕を持って対処するのが一番よ」
「だけどよ……」
「クリス、あなたの気持ちもよくわかるわ。だけど余裕がないと、何かあった時にすぐ対応できないのも事実なのよ」
「――わあったよ……」
マリアの説得によってクリスも提案を飲み込み、マリアとクリス、調と切歌の二組に分かれてパリを散策することになった。
それまではS.O.N.G.の隊服だったが、私服にした方が街中で目立ちにくく、都合がいいという事で全員私服だ。
調達と別れ、シャンゼリゼ通りを歩いていたマリア達だったが、通りにある少し洒落たオープンカフェでエルナが脚を組み、優雅に紅茶を飲みながら仏字新聞を読んでいるのを目撃した。
「ふむ……あそこの家具屋が閉店してしまったのか。落ち着いた色合いで私は好きだったのだが……」
「なッ?!」
「し! 静かに! 今二人を呼ぶわ」
あまりにも堂々としているその態度に思わずクリスが叫びそうになるが、マリアが大慌てで口を押えて黙らせ、調と切歌を呼んだ。
この真昼間の人通りの多いシャンゼリゼ通りで戦闘を行うわけにはいかないため、出来る限り慎重に動かねばならない。
並木の陰に隠れて暫くすると、二人が走ってきた。
「ファイがいたって本当なの?」
「ああ、そこで優雅に茶をしばいてやがる」
「よ、余裕デスね……」
「でもこの状況はチャンスよ。ファイは一般人には手を出さない……。だから行くなら今」
調と切歌の到着を待っていたのは、不測の事態にも対応できるようにするためだ。エルナのギアには何か特殊な機能がある。それをけいかいしてのものでもあった。
マリアはメンバーを代表してエルナのもとに向かう。クリス達も、視界に二人を収めることが出来つつ、即座に行動できる席に着いた。
「相席、良いかしら?」
「どうぞ」
「ありがとう」
さも他に席が無かったからと雰囲気を装い、新聞から顔を上げないエルナの向かい側に座った。だが恐らくすでに声で把握されているだろう。
「あなた、ファイのエルナ・ミニスターでしょう?」
「そういう君は、マリア・カデンツァヴナ・イヴだろう? それがどうかしたかい?」
「ここでならあなたは戦えない……。だったら、ここで捕縛した方がいいでしょう?」
――いい考えだ。
そんな思考が見え透いた微笑みを浮かべ、新聞をたたんで眼鏡のレンズ越しにマリアの目を見た。脚を組みなおしたせいで銀色のイヤリングが揺れる。
スーツの着こなしとスタイルの良さ。
それを見てマリアはエルナに対し、モデルに向いているわねと少々場違いなことが頭の片隅に一瞬だけ浮かんだ。
「確かにそうだ。ここでなら私は下手な抵抗は出来ない。捕縛するも殺すも好きにするといい……だが、一つだけ、確実にやっておきたいことがあるんだ。これは、君達S.O.N.G.にとっても悪くない話だと私は考えている」
「話だけ聞くわ。その後の判断は話次第だけど」
「感謝する」
そう言って彼女は手元に合った紅茶を飲み干し、代金とチップをテーブルの上に置いた。これは、例えどのように転んでも後腐れなくここをされるようにという彼女の意思表示だ。
その意志をくみ取ったマリアは、心なしか真剣に耳を傾ける。
「私がここに来たのは政治家の暗殺とかそういうものではない。この国は自力でひっくり返すことが出来る力のある国だからね」
「なら、それ以外の目的が?」
「ああ、そうとも。私がこの国にやって来た目的はただ一つ。子供をさらい、人身売買を行うパヴァリア残党のグループである『ミノタウロス』を殲滅しに来たんだ」
「『ミノタウロス』? あの、迷路の中にいる?」
「その認識で構わない。まさしく連中は下水道に巧妙に偽装した地下通路を根城としているからね。まさしく、迷宮の中に住まう怪物さ。……これを見たまえ」
そう言ってエルナは先ほどまで読んでいた新聞の一ページをマリアの前に置いた。
マリアは情報を共有するべく、別の席にいたクリス達も呼び寄せる。仲間がいるという事は遅かれ早かれバレるのだから別にいいだろうという判断だ。
「ふ、フランス語……!」
「ああ、すまない。記事の見出しには“また一人! 今月だけで七人の子供が被害に!”と書いてある」
「嘘じゃないだろうな?」
「本当だとも」
クリスはいくらか落ち着いているように見えた。
観光によるリラックスで余裕が出来たのか、それともエルナの持ちかけた話が有益な話だったからなのかは分からないが、少なくとも嫌な緊張と苛立ちは見られない。
「それに、例え嘘だったとしてもここは私達にとってみれば敵地でもある。罠を貼ることなんて不可能だし、逆について来た君たちがそのまま私を捕縛してもらって構わない。戦闘が起きるまで、私はギアを使用しないことを約束しよう」
「それで? 本当だったとして、戦闘後にはそのまま離脱するってか?」
「まあ、そうなるね」
「話しぶりからは嘘だとは思えない」
「もし本当だとしたらデスが、放っておくわけにはいかないデス!」
マリアはしばし思案するが、メリットとデメリットを比べて、メリットが大きいと判断した。
だが、念には念を入れるため、一つだけ条件を付けくわえる。
「私達はあなたの言うことを全て本当だと信じるわけにはいかない。だからこそ、一つだけ条件があるわ」
「どうぞ」
「私達が最初からギアを纏っている事……それが条件よ」
「いいだろう。もしも何か私が不審な動きをしたら、すぐにでも捕縛するといい。流石に装者が動くより早く起動することは出来ないからね」
ここに、S.O.N.G.とファイの一時的ながらも不思議な同盟が結ばれることになった。
カッコイイ系のキャラの割には名前が可愛いエルナさん。あと珍しい眼鏡キャラ。