戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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テスト期間で大忙し。


守るものの価値

 ミサイルが飛翔し、人身売買組織ミノタウロスのアジトの中で爆発する。

 しかし、瞬く間に広がったソレは、アジトの中にある器具や書類などを焼き尽くすようなものではなかった。もちろん、当然のことだが人を焼き尽くすものでもなかった。

 空気を燃やし、肌を焦がすようなちりちりとした感覚が全くない。

 どちらかといえば、肌よりも目にそのような感覚がある。

 ――催涙弾か。

 エルナは心の中で呟いた。

 煙は装者達の方にも流れ込んでいるが、ギアによって守られている彼女たちは多少の感覚はあるものの、特に影響はなかった。救助された人質も、調がツインテールバインダーから展開した大型鋸を扇風機のように変形させ、煙が来ないようにしているため無事だ。

 煙の中では構成員が嗚咽を吐きながらもんどりうっている。

 本来なら煙が晴れるまで待つ必要があるが、ギアを纏っている装者にはその必要がない。

 マリアが指示を出す。

 

「切歌、調、その子たちを頼むわね。私達はミノタウロスの捕縛にかかるわ」

「了解」

「分かったデース」

「一応、一本道とはいえ隠し通路がないとは限らない。それにパヴァリアの息がかかった組織だ、何もないところから現れる可能性だってあるからな」

「捕縛だなんて……ずいぶんと残酷な真似をするんだな」

「残酷だと? どういう意味だ」

 

 エルナの物言いにクリスが突っかかる。

 まるでそのまま殺した方がいいと言いたげな憐れんだ表情をしている。

 国連で国際テロリスト集団と認定されたファイを除き、基本的にS.O.N.G.に人を殺す権限は存在しない。捕縛した後、彼等は犯罪者として国に引き渡される。

 エルナは、そのことを知ったうえで言った。

 クリスに入手した顧客リストを手渡す。

 

「これを見るといい。私の言った意味が分かるはずだ」

「何だこれ?」

「組織の顧客リストだ」

「私も見ていいかしら」

「構わないとも」

 

 マリアがクリスの肩越しに顧客リストを見下ろした。

 身長的にマリアのほうが背が高いため、特に苦はない。

 エルナの言葉の意味は直ぐに分かった。リストのページをめくるまでもなく、一枚目からとんでもない名前が記されていたからだ。

 

「これって……大統領の名前じゃない!」

「それもフランスだけじゃねぇ、ヨーロッパ中の要人の名前が書かれてやがる……」

 

 大統領だけじゃない。

 各国の大臣や外交官、大企業の社長、果てには現ローマ法王の名前が、“商品”の注文と共にびっしりとリスト埋めている。

 これを見せたエルナの意図は直ぐに察することが出来た。

 

「もし連中を捕まえて引き渡したとして、法の下で素直に裁かれると思うか? それはあり得ない。口封じのために問答無用で死刑になり、このリストは闇に葬られる。もしくは全くの別人が代わりに罰せられ、連中は野に解き放たれて同じことを繰りかえす……このどちらかだ」

 

 エルナは一度救助された人質たちを見た後、怒りを宿した瞳でアジトのほうを向いた。今なお催涙弾の効果でミノタウロスの構成員はのたうち回っている。

 

「私が行ったのは連中に対してじゃない。闇に葬り去られる過去に壊されていった子たちと、罪を着せられるかもしれない無辜の民に対してだ」

「……だとしても、私達にその権限はないわ」

「だろうね」

 

 エルナは肩をすくめた。

 そしてトライデントを軽く振り下ろし、構成員の上に三又の穂先を落として胴と手足を地面に縫い付ける。

 

「ホラ、これで逃げられる必要はない」

「殺さないのね」

「君達に君たちが守るものの愚かさを教えてあげようと思ってね。……さてと、これで用事は済んだし、私は帰らせてもらうよ」

「馬鹿言え、それとこれとは話が別だ。そうは問屋が卸さないぜ?」

「切歌、調。あなた達はこれを持って子供たちを連れて地上に出なさい。帰り方は分かるでしょう。そのリストは然るべき機関に渡して」

 

 クリスはエルナに拳銃を向ける。

 マリアは短剣を構えながら、二人にリストを投げ渡し、子供たちの避難指示を出した。

 二人分の視線がエルナに突き刺さるが、彼女は普段通りの態度のままだ。

 切歌と調、子供たちの走る足音が響いてくる。それが十分に離れたのを認識してから、双方がほぼ同時に動く。

 戦闘が開始した。

 

「フッ!」

 

 マリアの短剣が蛇腹状に変化しまるで鞭のようにエルナのトライデントに、右腕にまとわりつく。それと同時にヒールを深く地面に突き刺し、体を固定する。エルナの潜行能力の正体を知らない彼女が現状最も有効に撃てる策だ。

 武器を引きはがすという目論みこそトリアイナの高い出力によって阻止されたものの、動きを止めることには成功した。

 しかし、それはマリアにとって薄氷の上で踏ん張っているようなもの。

 エルナが力いっぱい引っ張れば簡単に振りほどかれてしまう。実際、エルナにそこまで力を入れている様子は見られないが、マリアはこの状態を維持し続けているだけで手いっぱいだ。

 だからこそ――。

 

「アタシが動くってぇわけだッ!」

「チッ!」

 

 拳銃がガトリングガンに変形し、その砲門がエルナの方を向く。

 思わずエルナは舌打ちした。

 本来なら潜行してしまえば射線上から逃れることは容易なのだが、マリアが彼女に触れているために一緒に潜行してしまう。潜行空間ではマリアは身動き一つとることが出来ないのだが、何かの拍子でトリアイナの秘密を察知されてしまう可能性がある。

 力任せにマリアの拘束を引きはがすのも手だったが、それでは間に合わないだろう。

 その為、今この状況はエルナにとってかなり面倒なことになっていた。

 

「動きさえ止めることが出来れば、種も仕掛けも関係ないッ!」

「百里ある!」

「もってけよぉッ!」

「ッ!」

 

 だからこそ、エルナは引っ張るのではなく、引っ張られることを選択をした。

 拮抗状態が崩れ、エルナの体がマリアの方に引っ張られる。

 無数の弾丸が、さっきまで彼女がいたところの壁に穴をあける。

 

「なッ?!」

 

 その勢いで蛇腹剣の拘束が緩み、エルナに自由が生まれた。

 潜行する。

 ゆっくりと流れる外界の様子を、エルナは潜行空間の中から見つめていた。いくら自由に移動できるとはいえ、脱出できるまでこの空間内にいることはできない。

 移動したとしても、通路は一本道。切歌たち移動してからそんなに時間がたっていない以上、必ずどこかで鉢合わせる。目の前で浮上してしまう事すらあり得るし、そうなった場合子供たちが危ない。

 外界では潜行していない時間軸のエルナを、クリスがガトリングガンで攻撃していた。それを彼女はトライデントを自由の利く左手に投げ渡し、回転させて弾いている。

 その様子を見ながら、クリスの背後に移動した。

 浮上。

 この瞬間にエルナが潜行してから浮上するまでの、本来の時間軸での行動の記憶がなかったものになる。

 浮上と同時にクリスの背に穂先を振り下ろす。

 

「消えた?!」

「あの時と同じ……後ろよッ!」

「ッ!」

「この位置だと背後を取る意味がないか」

「その出力で言えたことかよッ!」

 

 クリスは即座にガトリングガンを銃剣付きの拳銃に変形させ、振り返って背後からの一撃を受け止める。

 しかし、トリアイナの出力の方が高いため、鍔迫り合いのまま下に抑え込まれてしまう。

 マリアが踏み込み、逆手持ちにした短剣で突撃する。が、一瞬だけ刀身を浮かせ、再度潜行する。

 通常の時間軸ではエルナがクリスを抑え込みながら、長いトライデントの柄でマリアの一撃を受け止めた。その瞬間、隙をついてクリスが離脱し、エルナに向かって発砲した。

 自分に向かって飛翔する弾丸をしり目に、エルナはマリアの背後に回って浮上する。

 それまでの記憶が二人から消え、本来のエルナと鍔ぜり合っていたマリアはバランスを崩し、しかし弾丸は彼女のいた場所に……つまりマリアのいる場所に放たれている。

 

「またッ!」

「マリアッ!」

「ッ!」

 

 弾丸自体はガントレットで咄嗟に防いだが、その背後から刃が振り下ろされる。

 それを順手持ちに切り替えた短剣で受け流し、膝蹴りを叩きこもうとするが手のひらで受け止められた。

 エルナの戦闘センスはトリアイナの潜行能力を抜きに考えてもマリアと互角だ。

 調からの通信が入る。

 

『マリア! 脱出に成功した。私達も戻って合流する!』

「ええ! そうしてくれると助かるわ!」

「脱出したか、なら長居する理由はないッ!」

 

 マリアの言動から人質だった子供たちが全員脱出したことを把握したエルナは、前蹴りでマリアを蹴り飛ばし、三度潜行した。

 調達が戻ってきたころには、すでにエルナは脱出に成功していた。




潜行・浮上の描写がなかなかに
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