戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
上空一万メートルを赤い鳥が超高速で飛翔している。
それは風に揺られながらも、決して消えることのない炎の赤。まさしく火の鳥といえた。
火の鳥に心臓部に当たる場所で、その炎を形作る少女、ミアが耳に当てているインカム越しにクラリスの指示を仰ぐ。
「で? そのターゲットはどこにいるんだ?」
『今のところはその角度でOK。そのまま真っ直ぐに進んでくれたまえ。それに、動きがあればこちらから伝えるとも』
「りょーかい」
火の鳥は大きく翼を羽ばたかせ、更に速度を上げる。現在の速度は時速換算でおよそ三千七百キロ。これはマッハ三に相当する。つまり、超音速機とほぼ互角の速度だ。
彼女はこれを、ギアすら纏っていない生身で平然と行っている。
しかし、ミアにとってはそんなことは些末なこと。人間が走ったりすることと何ら変わらない。
彼女にとっては、クラリスがターゲットの居場所を観測できることが一番の疑問であった。
(俺たちに明かしていない内通者でもいるのか? それとも、錬金術か何かしらで観測を……いや、向こうは異端技術研究の最高峰、余程高レベルのものでもない限りすぐに逆探知されるかもしれない。だったらどうやって……)
そこでミアは自分の頬を叩いた。
気になることは気になるが、今重要なのはなぜなのかを考えるのではなく、確実に任務を遂行することだ。クラリスの言うターゲットを攫えば何が起きるのかなんて全然分からないが、今考えても仕方のないことだ。――そう割り切って、氷の大地の真ん中、南極点にある研究施設ミュニアースを捉える。
すると、施設全体を光の壁のようなものが覆った。
恐らくだが、あれが錬金術を応用したバリアだろう。聞く限りでは、低威力の反応兵器程度では周囲の環境はともかくとして突破できないらしい。
ミアはニヤリと口角を上げる。
あんなもの、彼女にとってみれば障子紙とさして変わらない。
それより彼女にとって重要なのはターゲットの居場所だ。そのことを考えた瞬間、クラリスが回答した。
『幸いなことに動きはなかった。そのまま真っ直ぐ、一番近くにある研究棟に突入してくれたまえ。そこに入りさえすれば後は誤差だ。探していればいずれ見つかるさ。では、頼むよ。あ、そうそう、エルナとミハルが帰還したよ』
彼女は言うだけ言ってすぐに通信を切ってしまった。
二人が帰還したという報告もどこか雑だ。いや、今は俺の任務に集中しているのだろう、とミアは考えてオレンジ色の瞳を細めてバリアを見据える。
残り百メートルに差し掛かったところで体を起こし、右足を大きく振りあげた。そして風を体全体で受けて減速しつつ、バリアに向かって炎の爪を纏わせた回し蹴りを叩きこみ、バーナーで切断するように切り裂いた。
そしてその勢いを利用し、外壁を破壊しつつミュニアース内部に突入した。
「さて、ターゲットはどこにいるのかなっと」
警報が鳴り響く中、壁を破壊した際についた粉塵や吹き込んでくる雪を払いながら周囲を見渡した。
「ここのあたりにいるらしいが……手がかりがクラリスに似てるってだけなんだよな……ん?」
ミアは瓦礫の山のすぐそばにいた、尻もちをついて足を震えさせている研究員を見つけた。神がもじゃもじゃの茶髪でどこかどんくさそうだが、纏っている雰囲気はクラリスと一切変わらない。
「私を探せってそういう事かよ……」
フッと息を吐きながら、瓦礫の上から跳び降りて研究員の目の前で着地する。
彼女は、ひぃぃ!と後ろに下がったが、それよりも早くミアが間合いを詰めた。
「すまないがお前をさらえって任務でな? 大人しく攫われて……ッ?!」
「オレの目が黒いうちにそんなことさせると思ったか!」
「チッ、何時の間に……なるほど、テレポートか」
キャロルが錬金術で生成した光弾に腕を弾かれたミアは、彼女の隣に立つフランカを見て突然現れた理由を悟った。
弾かれた腕を炎で包み、それを振り払って二人と対峙する。
それを見たキャロルは眉をひそめた。
(さっき確実に腕を吹き飛ばしたはずだ……なのにどうして……)
キャロルは腕を弾いたのではなく、吹き飛ばしたのだ。しかし、炎を灯し、そしてそれが消えたころには腕は何もなかったようにつながっている。
そもそも、錬金術を使うそぶりすらなかったのに、さも当然のように炎をコントロールしていること自体が異常だとキャロルは思った。
しかし、その思考とは別にフランカに指示を出す。
「フランカ、ルイスをテレポートさせることはできるか?」
「……すみません! 相手との距離が近くて一緒に跳んでしまう可能性があります!」
キャロルは聞こえないように口の中で舌を打った。
「ならサイコキネシスで奴の体を拘束してくれ。その間にオレがルイスを救出する!」
「分かりました!」
「ッ!」
強力なサイコキネシスがミアの体の自由を奪い、その隙にキャロルが駆け出す。キャロルの伸ばした手がルイスを掴む、その瞬間だった。
「Burned Down Laegjarn Tron」
「なッ?!」
ミアの体から炎が噴き出し、それを覆い隠すように黒とオレンジのボディースーツ、四肢に鱗のような装甲、牙のようなヘッドギアが装着された。その姿は、機械的なパーツが牙や鱗のような生物のようなものに置き換わってこそいるが、雷のシンフォギア、ケラウノスに形がよく似ていた。
見た目だけでなく、特性こそ違えどギアまでが雷とうり二つ。
そのことにキャロルは驚愕すると同時にルイスとの間に立ち、防御陣を展開する。
ミアはフランカのサイコキネシスによる拘束を力づくで振り切り、炎で生み出した大剣をキャロルに向かって振り下ろす。が、それよりも速く何者かの手によってミアの首が刎ね跳んだ。
空間内に迸る稲妻の残滓。
キャロルが吠える。
「雷! どうして来た!」
「キャロルが今、記憶を消費する錬金術を使えない以上私も出張るしかないでしょ! 大丈夫。全部無事だったし、“これ”も武器としてなら問題なく使えるし」
そう言って刀身のない剣の柄をくるりと回した。これはケラウノス+の待機状態だ。今の状態ではギアとして使うことはできないが、稲妻を刀身のようにすることで身に纏わずとも戦えるようになっている。フォニックゲインがなくとも扱えるように、雷自身が設計したものだ。
「そういう問題じゃないだろう!」
「まあまあ、ところでルイス、立てる?」
「は、はい!」
「なら早く離れた方がいい」
ルイスは首を傾げた。
「え? でも、雷さんが今倒したんじゃ……」
「いや、この子はそんな単純じゃないよ。……私だからわかる」
その言葉通りに炎がミアを中心に渦を巻き、刎ね跳ばしたはずの首から頭が復活した。
「やっぱり……」
「チッ! ルイス! さっさと距離を取れ!」
「あわわわわ!」
キャロルはここでは強力な錬金術を使うことが出来ないことを恨みながら、ルイスの腕を取って引きずりながら距離を取る。
フランカの背後にルイスを放り投げた。そもそもなぜルイスが狙われているのか全く分からないが、少なくともテレポートですぐに離脱できるようにしておくのが吉だと考えてのことだ。
炎の中でミアが雷に問いかける。
「なるほど、会ってみてようやくわかった。アンタが成功体か……どうして俺の秘密がわかった」
「最初から引っ掛かってたさ。響に私のそっくりさんがいると聞いたときからね。……私は人工的に作られた命だ。そっくりさんがいるとすれば何かしらの研究に使われたと察しはつく。どうやって遺伝子情報が抜かれたのかは知らんがね? そして撤退時に鳥のようになっていたという未来の証言と、カメラ越しに別角度からだが、さっき見せた炎による頭と腕の修復……」
雷がミアを真っ直ぐ見つめる。
「これは断定できないが、シナイ半島の神殿を焼き尽くしたのも君だろう? そこに運良く燃え残っていた研究資料に『PROJECT・B』と記されていたようだ。仮設ありきの推察になるが、『B』の意味は恐らく『Bennu』。エジプト神話に登場する不死の鳥……つまりミア、君は不死鳥の哲学をその身に宿している。違うかな?」
ミアは目を細め、喜びを隠しきれなかったように口角を上げた。
レーギャルン
ボディースーツは腹部を大きく晒した分割式のスパッツタイプ。カラーリングは赤とオレンジ、反射率の低いブラック。ヘッドギアには燃え盛る鬼の角がデザインされている。炎が燃える大剣を武器としている。
待機状態は炎を閉じ込めた透明なルービックキューブほどの箱。
自身の持つ不死鳥の哲学によって炎を操り、炎の翼で空を駆る。また、不死鳥の哲学とリンクしているため神獣鏡で分解することが出来ない。同位存在であるため、雷のケラウノスと類似した見た目をしている。箱型ユニットが角や牙になり、ごうごうと燃えている。バトルスタイルは不死性に身を任せたがむしゃらな攻撃。
起動聖詠は「Burned down Laegjarn Tron」燃える翼は世界を滅す