戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
気付いたらお気に入り数が百件を超えていたでござる。無印編が終わるまでに百超えれたらなぁ、程度だったのですごく驚いています。
『・・・』を『……』に変えましたがどうでしょうか?違和感があれば元に戻します。
翼の出演するアーティストフェスのチケットをもらった雷だったが、家庭科の授業の調理実習で同じ班の子がひっくり返した熱い味噌汁からとっさにその子を庇った時に火傷を負い、それの治療のために保冷材を固定する包帯が腕に追加されたまま、フェス会場に向かって走っていた。
「ま、まさかあんなに二人に怒られると思ってなかった……」
服でもなんでも引っ張って班の子をどかせばいいものを、深層心理にある自罰精神がその子を体で守るという方法を選択させてしまっていた。その結果、響と未来に袖を捲られ、冷たい流水で腕を冷やされながら咎められていたのだ。人並みに戻ってきた体力で、走りながら落ち込むという器用なことをする。
「どうしてこんな選択しちゃったのかなぁ……。ハァ……」
自分の愚かさにため息が出る。
「響もなんか遅れるみたいだし、途中で合流できればいいけど」
同じく集合時間に遅れている響のことを案じていると、不意に二課との連絡に使っている携帯端末が鳴った。つまり、ノイズが出たのだ。丁度響にも連絡が行っていたのか、同時に通信がつながる。
『はい、響です』
「こちら雷です。ノイズですか?」
『雷君の言う通り、ノイズの出現パターンを検知した』
雷の予想が的中し、通信に乗らないように頭の中で舌打ちをする。
『翼にもこれから連絡を……』
『師匠!』
『どうした?!』
弦十郎の言葉を響が遮る。雷はすでに響が次に何を言うかが分かっているので口をはさむという野暮な真似をしない。
『現場には、私一人でお願いします……!』
「んぐ?!」
自分も出ようとしていたところを響の言葉で止められてしまい、さっきまでの考えを撤回する。
「ちょ?!待って響!私も行く!」
『でも雷。腕火傷してるから駄目だよ』
「死んでないなら安いって!」
『雷の場合死んでも安いって考えるからなぁ……。私と同じで、言い出したら聞かないもんね。絶対に無理しないでね?』
「分かってるよ」
『オホン。二人とも、話を戻してもらっていいかな?』
「『スイマセン……』」
響は「ほんとかなぁ」と、少し心配になった。火傷のことはすでに二課にも報告が行っており、症状は許容範囲内だが響が過剰に心配しているのだ。
『今日の翼さんは、自分の戦いに臨んでほしいんです。あの会場で、最後まで歌い切って欲しいんです!お願いします!』
響の進歩に弦十郎は目を丸くし、頬を緩ませてから直ぐに引き締める。
『やれるのか?』
「『はい!』」
雷と響、二人の装者の声が重なった。
○○○
ギアを纏った二人はノイズの出現地点であるコンビナートへと向かう。ケラウノスの脚部ユニットによる超加速が空気の圧縮でプラズマを発生させ、雷の駆けた跡が痕跡のように残る。今回、効率を上げるためにコンビナートの西を響が、東を雷が受け持ち、最終的に合流するという流れだ。
報告によって二体存在している要塞のような大型ノイズの内の一体を雷が受け持つことになった。大型ノイズを守るように群がる小型ノイズと雷が接敵する。
「まとめて吹き飛ばす!」
脚部ユニットを格納し、逆に両腕と両腰のユニットを展開して腰だめに構え、向かってくるノイズ群を迎え撃つ形で連撃が放たれた。
『雷刃抜拳・神風』
「でいやあぁぁッ!」
最もバランスのいい『桜花』と同等の火力を出すためには十発以上必要な『神風』だが、その圧倒的な連射速度は発生する衝撃波よりも速い。
要塞型の前まで到達したところで拳を止め、突破してきたところ以外から迫りくるノイズは『神風』の発生させた衝撃の塊を喰らい、まとめて塵となる。要塞型の放つ砲撃を回し蹴りで迎撃し、軸足のユニットを展開して斥力の足場を形成、天高く跳躍する。
「装甲の間をッ!抜いてッ!貫くッ!」
雷の脳が要塞型ノイズの装甲の繋ぎ目をロックオンし、展開した右腕のユニットから雷の槍が形成される。ノイズの砲撃を足場にしながら回転を加え、落下していく。
『天槍霹靂』
雷の槍を携えた右の拳が装甲の間を殴りぬいたその瞬間、槍がゼロ距離から圧倒的な速度で持って放たれる。間から潜り込むように侵入した槍はノイズの体内で爆散し、塵と化した大型ノイズの破片をばらまいていく。
遠くから聞こえてくる轟音を耳にし、響もノイズを撃破したことを確信する。結局ライブを見ることは出来なかったが、その顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。
「さて、響と合流しよっと」
ギアを解除して響のもとへと向かう途中、緒川からメールが届いた。どうも二課全体に通達されているらしい。雷が内容を確認するとそこには翼が海外で歌うことが記されていた。
「いやったあ!」
雷が飛び跳ねて喜んでいると、響が猛スピードで駆け寄ってきて抱き着いてくる。彼女もメールを確認したようだ。二人は我がごとのように喜び合う。その喜びの中には翼が海外でも歌うことに対する喜びと、自分たちが翼の夢を守ったという達成感もあった。
「やったね雷!翼さんの夢、守れたよ!」
「うん!うん!結局聞けなかったけど、最高の一日だよ!」
大興奮で雷を振り回していた響だったが、急に真面目な顔に戻って真剣な口調で話し始める。
「ねぇ、雷。未来との埋め合わせ、どうしよっか?」
「……心配、かけてるよねぇ」」
雷も真剣な顔をする。未来も彼女たちの事情が事情ゆえ仕方ないと理解しているのだが、それでも心配をかけているには変わりない。それに加えて、三人で楽しむはずだったライブにも行けてないのだ、何か埋め合わせが必要というものだろう。
「買い物、はこないだ翼さんと行ったし……」
「動物園……とか?」
「そうしよっか」
未来との埋め合わせは動物園デートに決まった。
「あ、そうそう。クリスちゃんとあったよ!一緒に戦ってくれたんだ!」
「時々聞こえてきた爆発音ってやっぱりクリスだったんだ。教えられたやり方が過激なだけで私達と根っこは同じなのかもね」
「そうかもね!」
二人は肩を並べて再び笑い合う。
後日、動物園デートで未来に許してもらった二人は、それはそれで大いに動物園を楽しんでいた。
『神風』のシーンは某黒い方の光の使者をイメージしてくださるとうれしいです。
百越え記念回がこんな短めでよかったのだろうか……。