戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
バーに色がついていて正直戸惑っています。もっと精進せねば。
書く速度が上がってきた気がする。
職員室から学級日誌を受け取った雷と響、未来の三人は音楽室から聞こえてくる合唱部の歌声を聞きながら廊下を歩いていく。曲はよく三人が耳にするリディアンの校歌だ。不意に響が立ち止まって目を閉じ、歌声に合わせて鼻歌を歌う。
「何?合唱部に触発されちゃった?」
「わりと響って何かに影響されること多いよね」
雷と未来の問いかけに、響がうーんと少し考える。
「リディアンの校歌を聞いてるとまったりするっていうか、凄く落ち着くっていうか……みんながいるところって思うと、安心する!自分の場所って気がするんだ。入学して、まだ二か月ちょっとなのにねぇ」
響がうれしそうに言う。
「でも、いろいろあった二か月だよ」
未来の言葉に、雷が苦笑いを浮かべる。
「いくら何でもいろいろありすぎだよぉ。普通の人の一生分のいろいろを体験した気がする」
「そうだね~」
同じように響と未来も笑う。
雷が校歌や制服による人間の帰属意識の心理を響に冗談交じりに語りながら、三人そろって自分たちの教室へと戻っていった。
○○○
クリスは何かに呼び出されたかのようにフィーネの屋敷へと駆け込んでいく。大広間へと到達した彼女が見たものは、米国特殊部隊員の無残な死体だった。フィーネの姿はすでにない。
「何が……どうなってやがんだ……」
確認するように歩を進めていると、後ろから物音がする。驚いて振り返ると、そこには少し前に助けてもらった時と変わらない服装の大柄な男がいた。思わず後ずさる。
「違う!あたしじゃない!やったのは……!」
最後まで言い切ることなく、拳銃を構えた黒服の男たちが侵入してくる。クリスは身構えるが、男たちは最初からクリスがやっていないと分かっているかのように行動し、そんな彼らに拍子抜けする。目の前に大柄の男、弦十郎がやってきて、クリスの頭を安心させるかのように優しくなでる。
「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。すべては、君や俺たちのそばにいた彼女の仕業だ」
弦十郎の脳裏に数日前の出来事が蘇る。数日前、彼は雷に呼び出されていたのだ。周囲に誰もいないことを確認した雷は、弦十郎に話し始める。
「すみません。忙しいときに……」
「あぁ、かまわんとも。子供の話に耳を傾けるのも大人の務めさ」
弦十郎の答えに雷はほっとした顔をすると、すぐに真剣な顔つきに戻る。
「単刀直入に言います。フィーネの正体は了子さんです」
「ふむ、その根拠は?雷君のことだ、根拠もなくそんなことを言う訳じゃないだろう?」
「はい」
頭ごなしに否定することをせず、自身の調査が到達した答えと同じ考えを持つ彼女が一呼吸入れて心を落ち着かせるのを待つ。
「フィーネの目的と了子さんの条件が一致しすぎてるんです」
「確か、フィーネの目的は響君の誘拐と、ケラウノスの奪取だったか」
「はい。響のことはよくわかりませんが、ケラウノスを奪うということは轟理論を奪うこととほぼ同様の意味です」
「データも何も残っていない轟理論の唯一の成功例だからな。そういうことになる」
つまり、轟理論を解析したければケラウノスを解析しなければならないのだ。それを口にすると、雷が頷く。
「そして、櫻井理論と同じシンフォギアシステムを使用している轟理論は逆説的に櫻井理論を知り尽くしていないとまったく意味のない理論になります。つまり……」
「世界で唯一櫻井理論を知り尽くしている人物、了子君がフィーネであると確信したのだな?」
「他にもいろいろありますが、最も信憑性が高いのはこれです。あの……仲間を疑うのはアレだと思うんですけど……その……」
さっきまでの自分の考えを確信しているかのような自信のあるしゃべり口がだんだんと弱くなっていき、最終的に俯いて、消え入りそうな声になっていく。そんな彼女の頭を弦十郎は優しくなでる。
「安心しろ。俺たちの行った調査でも同じ結果が出ている。雷君のおかげで俺の考えにも自信が持てるようになった」
その言葉を聞いて、雷の顔がパァっと明るくなる。弦十郎は一番の疑問を雷に投げかけた。
「……ところで、何時から気付いてたんだ?」
「あの、ネフシュタンの女の子、クリスが来た時に。その時はフィーネの名前は知らなかったんですけど、了子さんがバックにいるのかなぁって……」
自分たちが調査に乗り出すよりも早く気づいていたことに弦十郎は目を丸くする。彼女のことだ、嘘を言うような子ではないだろう。今まで言わなかったのも彼女の性格を鑑みれば仕方のないことだ。
「ハハッ。俺でもそんなに早く気づけなかったぞ。流石は、かの轟夫妻のご息女だな!」
「そんなことないですよぉ~」
口ではそう言っているが頬を緩め、両親を褒められてまんざらでもなさそうだ。この日、弦十郎は了子がフィーネであると確信した。
「風鳴指令!」
「おぉ」
一人の黒服の声に弦十郎は呼び戻される。その時、黒服が特殊部隊員に貼られていた置き手紙をはがした瞬間、そこら中に仕掛けられていた爆弾が起動する。
爆発によってばらばらになった屋敷の中から服こそ汚れているものの無事な黒服たちと、クリスを抱き寄せ、右腕一本で上から落下してきた瓦礫を受け止めている弦十郎がそこにいた。そんな惨状に思わずクリスが言葉をこぼす。
「どうなってんだよ……コイツは……!」
「衝撃は発勁でかき消した」
「そうじゃねえよ!」
クリスは弦十郎の腕を振りほどいて距離をとり、彼を睨みつける。
「なんでギアも纏えない奴があたしを守ってんだよ!」
支えていた瓦礫を下ろして振り返る。
「俺がお前を守るのはギアのある無しじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」
「大人?!」
クリスが吐き捨てるかのように言う。
「あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!とんだ夢想家で臆病者!あたしはあいつらと違う!戦地で難民救済?!歌で世界を救う?!いい大人が夢なんか見てるんじゃねえよぉ!」
「大人が夢を、ね」
「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意志と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいい!それが一番合理的で現実的だぁ!」
黙ってクリスの叫びを聞いていた弦十郎が口を開いた。
「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」
「ッ……。それは……」
弦十郎の問いにクリスが言葉を詰まらせる。
「いい大人は夢を見ないと言ったな。そうじゃない、大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供のころはただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?違うな。歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」
「なんで……そんなこと……」
「お前に見せたかったんだろう。夢はかなえられるという、揺るがない現実をな」
その言葉を聞いてクリスが息をのむ。
「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親はきっとお前のことを、大切に思っていたんだろうな」
弦十郎はクリスに歩み寄り、抱きしめる。その温かみ、そのやさしさにクリスは涙を流した。
○○○
調査を終え、黒服と弦十郎は車に戻っていく。弦十郎にクリスは声をかける。
「やっぱり、あたしは……」
「一緒には来られない、か?」
クリスが俯く。
「お前は、お前が思っているほど一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず、俺たちの道と交わる」
「今まで戦ってきたもの同士が、一緒になれるというのか?世慣れた大人が、そんな綺麗ごと言えるのかよ」
弦十郎が呆れたように言う。
「ほんと、ひねてんなお前。ほれ」
何やら携帯端末のようなものをクリスに投げ渡し、それを胸元で受け止める。
「通信機?」
「そうだ。限度額内なら公共交通機関を利用できるし、自販機で買い物もできるシロモノだ。便利だぞ」
そう言って車のエンジンを入れると、クリスが口を開いた。
「カ・ディンギル!」
思わずクリスのほうを向く。
「フィーネが言ってたんだ。カ・ディンギルって。それが何なのかわからないけど、そいつはもう完成してるみたいなこと……」
「カ・ディンギル……」
弦十郎は復唱するように呟くと、正面を睨みつける。
「後手に回るのはしまいだ。こちらから打って出てやる!」
黒服たちの乗った車と共に、弦十郎はフィーネの屋敷を後にする。残されたクリスは、彼から受け取った通信機を見つめ、確かめるように握りしめた。
雷が大活躍?する話はしっかりとあるので安心して下さい。
……絵心がないから雷とケラウノスがどんな感じか伝えずらいのがキツい。