戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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そろそろ最終局面ですね!切るところが分からなくて一気に書いてしまった。

最近作品を書いて早く投稿したい病を患ってしまった私。

あと、雷は包帯が巻かれている姿がデフォルトなので、包帯が外れたときは描写しますがそれ以外は書きませんので悪しからず。


その手は何のために

 本部に戻った弦十郎は雷と響、翼の三人に通信を入れる。三人は問題なく出てモニターに顔が表示される。

 

『翼です』

『響です!』

『雷です』

 

 雷と響は同じ場所にいて別々の通信機を使っているものだからお互いの返事が被る。そんな様子に少し苦笑いを浮かべながら要件を彼女たちに伝える。

 

「収穫があった。了子君は……」

「まだ出勤してません。朝から連絡不通でして」

「そうか……」

 

 オペレーターの友里に姿の見えない了子のことを聞くがよくわかっていないらしい。響が暢気な声で言う。

 

『了子さんならきっと大丈夫です。何が来たって、私を守ってくれた時のようにどがーんとやってくれます』

 

 それを聞いて翼が口をはさんだ。

 

『いや、戦闘訓練もろくに受講していない櫻井女史にそのようなことは……』

『でも私も見ましたよ?なんかエネルギーバリア?みたいなのでノイズの攻撃から響を守ってたの』

 

 余計な混乱を避けるため、弦十郎がほかの人間に了子がフィーネだという考えを話さない、という言いつけを雷はしっかりと守っているらしい。何も知らないかのように雷が響の話に便乗する。すると音声通信で了子からの連絡が入る。

 

『やぁっと繋がった。ゴメンね、寝坊しちゃったんだけど通信機の調子がよくなくって』

 

 弦十郎と雷の目が鋭くなる。

 

「無事か?了子君そっちに何も問題は」

『寝坊してごみを出せなかったけど、何かあったの?』

『よかったぁ』

 

 響が安堵の声を上げる。

 

「ならばいい。それより聞きたいことがある」

『せっかちね、なにかしら~』

 

 弦十郎は了子に本題を話し始める。今朝の調査で発覚した新しいワードだ。

 

「カ・ディンギル。この言葉が意味するものは?」

『カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐほどの塔を意味しているわね』

 

 それを聞いて雷の表情が変わり、弦十郎はそれを確認してから話を再開する。

 

「何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ?」

『確かにそう言われちゃうと……』

「だが、ようやくつかんだ敵のしっぽ。このまま情報を集めれば勝利も同然、相手の隙にこちらの全力を叩きこむんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな」

『『『了解です!』』』

 

 三人の通信が切れる。

 

『ちょっと野暮用を済ませてから、私も急いでそっちに向かうわ』

 

 了子との通信が切れた後、弦十郎は自分の通信機で雷に繋ぐ。彼女も分かっていたようで、ノータイムで通信に出る。

 

「雷君、何かわかったようだが君の考えを聞かせてくれ。もちろん、響君たちに聞かれないようにな」

『わかってます。私の考えでは、もしかすると地下にあるのではないかと』

「地下?」

『はい。天を仰ぐくらいの高さの塔を隠すにはそれぐらいしか思いつかなくて……すみません』

「いや、助かった。感謝する」

 

 そう言って弦十朗は通信を切り、オペレーターたちにカ・ディンギルにまつわる情報をかき集めさせる。雷の考えとは異なった場合にも問題なく動けるようにしているのだ。すると突然、ノイズの出現を告げるアラートが鳴り響いた。藤尭が思わず叫ぶ。

 

「飛行タイプの超大型ノイズが一度に三体!いえ!もう一体出現!」

 

 装者三人に報告する。

 

○○○

 

 通信をつないだ雷と響は現状を確認する。

 

「今は人を襲うというよりも、ただ移動していると。はい、はい!」

「了解しました!」

「響……雷……」

 

 未来が心配そうに二人に声をかける。

 

「平気!私と雷、翼さんで何とかするから!」

「大丈夫、響の手綱はしっかりと握っておく」

「うんうん、雷がしっかりと私の……って、えぇ?!」

「だから未来は学校に戻ってて」

「リディアンに?」

「ちょっとぉ?!無視しないでぇ!」

 

 雷の言葉に未来が驚く。あまり効果はなかったが未来を緊張からほぐすための冗談だと分かっている響は真面目な顔にもどって説明する。

 

「うん、雷の言う通りだよ。いざとなったら地下のシェルターを開放してこの辺の人たちを避難させないといけない。未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」

「う、うん。わかった」

 

 少し不満そうだが了承してくれたようだ。

 

「ごめん、未来を巻き込んじゃって」

「ううん。巻き込まれただなんて思っていないよ。私がリディアンに戻るのは、例え二人がどんなに遠くに行ったとしてもちゃんと戻ってこられるように、響と雷の居場所、帰る場所を守ってあげることでもあるんだから」

 

 未来の言葉に響が言葉をこぼす。

 

「私の……帰る場所……」

「言ってたもんね、リディアンは私の居場所だって。なら未来と響がいるところが私の居場所かな?」

「そう、私達が雷の居場所。だから行って?私も二人みたいに大切なものを守れるくらいに強くなるから」

 

 未来が微笑む。そんな未来の左手を雷が、右手を響が握る。二人は笑顔を浮かべる。

 

「小日向未来は私にとっての陽だまりなの!未来のそばが一番あったかいところで……」

「私達が絶対に帰ってくるところ」

「これまでもそうだし、これからもそう!」

「私みたいな疫病神でも、幸せを感じれる最高の居場所」

「だから私達は絶対に帰ってくる!」

「響……雷……」

 

 雷と響はにっこりと笑う。

 

「一緒に流れ星見る約束、まだだしね!」

「今度こそ一緒に見よう!」

「うん」

 

 未来の返事を聞いて満面の笑みを浮かべると、手を放して駆け出していく。

 

「じゃあ、行ってくるよ!」

「未来も気を付けてね!」

 

 走っていく二人の背中を見て、笑顔だった未来が心配そうな顔になる。何か、嫌な予感がしたから。

 

○○○

 

 ノイズのもとへと駆けていく雷、響の通信機に二課から新たなる情報が入ってきた。四体の超大型ノイズは東京スカイタワーに向かっているとのことだった。その情報に二人は足を止める。

 

「東京スカイタワー?」

 

 東京スカイタワーには二課の情報を統括制御を持つ、それを守るために弦十郎は三人にスカイタワー防衛を命令した。

 

「スカイタワー……」

「いくらなんでもここからじゃ……」

 

 二人のいるところはスカイタワーから遠く、それに徒歩でもあるために遠すぎるのだ。そうこうしているうちに上から二機のヘリのローター音が聞こえてきた。それが起こす風に危うく吹き飛ばされそうになる。

 

『何ともならないことを何とかするのが、俺たちの仕事だ!』

 

 通信機から弦十郎の頼もしい声が聞こえてくる。

 スカイタワーに四体の超大型ノイズが集結し、無数の子型ノイズをばらまいていく。雷と響を乗せた二機のヘリはそれぞれノイズの上を取り、装者の二人が飛び降りながらギアを起動する。

 

「Voltaters Kelaunus Tron」

「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」

 

 響が右腕のバンカーユニットを引き延ばして落下の勢いのまま殴りぬき、雷が右足の電撃発生ユニットを起動して踵落としと同時にはなった雷撃がノイズを貫く。二体のノイズが爆散し残り二体となる。

 翼も到着し、ギアを纏うと同時に手に持つ剣を大剣へと変形させる。

 

    『蒼ノ一閃』

 

 その一閃は無数の航空型ノイズを斬滅するが、超大型ノイズには届くことが無かった。その結果に翼は歯を食いしばる。そんな翼に雷と響は駆けよる。

 

「相手に頭上にとられることが、こうも立ち回りにくいとは!」

「ヘリを使って、私達も空から!」

「それは無理みたいだよ……」

 

 上を向いてつぶやいた雷につられて二人も空を見上げる。そこにはノイズの攻撃を受け、爆発する二機のヘリがあった。こうなってしまえば響の案は使えない。

 

「そんな?!」

「よくも!」

 

 航空型ノイズの攻撃を響と翼は避け、雷はカウンターで拳を入れて撃破する。避けた二人を狙うように残りのノイズが襲い掛かるが、響は拳で、翼は剣で問題なく迎え撃つ。未だに超大型ノイズは小型ノイズをばらまき続けている。

 

「空飛ぶノイズ、どうすれば……」

「私の雷撃も流石に射程外……」

「臆するな立花、轟。防人が後ずされば、それだけ戦線が後退するということだ!」

 

 射程外にいる超大型ノイズにてんてこ舞いになっていると、航空型ノイズに向けて大量の弾がばらまかれ、撃破していく。その攻撃に三人は見覚えがあった。振り向くとそこにはイチイバルを纏い、ガトリング砲を展開したクリスが立っていた。クリスは通信機を握りながら悪態をつく。

 

「こいつがぴーちくぱーちくやかましいから、ちょっと出張ってみただけ。それに勘違いするなよ、お前たちの助っ人になったつもりはねぇ!」

『助っ人だ。少々到着が遅くなったかもしれんがな』

「助っ人?」

 

 通信機から聞こえてきた弦十郎の言葉にクリスの顔が赤くなる。それを聞いて響が満面の笑みを浮かべ、雷が嬉しそうに手を合わせ、翼が思わずつぶやく。

 

『そうだ。第二号聖遺物、イチイバルのシンフォギアを纏う戦士、雪音クリスだ!』

「クリスちゃーん!ありがとう!絶対に分かり合えるって信じてた!」

「この馬鹿!あたしの話を聞いてねえのかよ?!」

 

 響が駆け寄ってクリスを抱きしめ、雷がそんな響を見て自分も抱き着こうか抱き着くまいかと体を揺らし、そんな雷に困惑したまま翼はクリスに歩み寄る。

 

「とにかく今は、連携してノイズを!」

 

 クリスは響の拘束を振りほどき、距離をとると宣言する。

 

「勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんなよな!」

「えぇぇえぇぇ?!」

 

 両腕部装甲をボウガンへと変形させて上空にいるノイズの大群へと放ち、次々と撃破していく。

 

「空中のノイズはあの子に任せて、私達は地上のノイズを!」

「は、はい!」

 

 翼の背中から出てきた雷も出てきてノイズの群れを雷の雷撃が、響の拳が、翼の剣が蹴散らしていく。翼が後ろの建物に跳び上がったタイミングと同時にクリスも跳び上がり、背中からぶつかってしまう。クリスがガトリング砲を戻しながら怒鳴った。

 

「何しやがる!すっこんでな!」

「あなたこそいい加減にして!一人で戦っているつもり?!」

 

 クリスの物言いに翼が顔をしかめる。

 

「あたしはいつだって一人だ!こちとら仲間となれ合ったつもりはこれっぽっちもねえよ。確かにあたしたちが争う理由なんてないのかもなぁ。だからって、争わない理由もあるものかよぉ!この間まで殺り合ってたんだぞ。そんなに人と人がッ!」

 

 響がクリスの振り上げた手を握る。

 

「出来るよ。誰とだって仲良くなれる」

 

 そう言ってもう片方の手で翼の手を取る。

 

「どうして私にはアームドギアがないんだろうってずっと考えてた。いつまでも半人前はヤだな~って。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないから二人とこうして手を握り合える、仲良くなれるからね」

「立花……」

 

 響の言葉を聞いて、翼は剣を地面に突き刺してクリスに手を差し出す。ゆっくりとクリスの差し出した手を翼は握るが、すぐに振りほどかれてしまう。

 

「この馬鹿にあてられたのかぁ?!」

「そうだと思う。そして、あなたもきっと」

「冗談だろ……」

「冗談なんかじゃないよ」

 

 そう言って翼を振りほどいたクリスの手を雷が両手で握る。不安定な状態じゃないため、響の様子やクリスの表情から距離感を理解する。ニコニコとした笑みを浮かべてクリスのほうを見ると、そんな雷から目をそらしているようだ。そっぽを向いている。そんな四人を超大型ノイズの影が覆う。

 

「親玉をやらないとキリがない」

 

 クリスが手を腰に当て、不敵に笑う。

 

「だったら、あたしに考えがある。あたしでなきゃできないことだ。イチイバルの特性は長射程広域攻撃、派手にぶっ放してやる」

「まさか、絶唱を……」

「バーカ。あたしの命は安物じゃねぇ!」

「ならばどうやって」

「ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえる。行き場のなくなったエネルギーを臨界までため込み、一気に解き放ってやる」

「そして、身動きの取れないチャージ中は私達が守る……と」

「うん!やろう!できるよ、私達なら!」

 

 雷と響の『守る』という言葉にクリスは自分が一人ではないことを実感する。翼のほうを見てみれば、彼女も不満を持った顔をしていない、確実にやり遂げると言った顔だ。

 ノイズの大群にクリスを守るため、彼女を除いた三人が立ち向かう。

 

(頼まれてもいないことを。あたしも引き下がれねえじゃねえか!)

 

 誰にも言われることなく戦う三人の背中を見ながら、『約束』を守るためにクリスが歌う。今、自分の心の中にある初めて感じた思いをのせて。

 

(誰もが繋ぎ、繋がる手を持っている。私の戦いは、誰かと手をつなぐこと!)

 

 響の拳が、蹴りが、ノイズを砕き、粉砕していく。

 

(私のギアは形のない雷だ。だからアームドギアも雷なのかもしれない。でも、武器の形をしていないのは私が、響みたいに誰かと手をつなぎたいって思いからきているなら、うれしいな)

 

 雷の発した稲妻がノイズを貫き、焼き払う。

 

(砕いて壊すも、束ねて使うも力。立花らしいアームドギアだ!)

 

 翼の剣がノイズを切り裂いていく。

 クリスのチャージが完了し、エネルギーが限界まで高まっているのを感じる。

 

「「「託した!」」」

 

 三人の声と共に背中のユニットが四本のミサイルを、両腕部装甲はガトリング砲、腰からは無数のミサイルポットが展開され、空中にいるノイズに向けて放っていく。

 

    『MEGA DETH QUARTET』

 

 二体の超大型ノイズに二本ずつ突き刺さり撃破、小型ミサイルとガトリング砲で航空型ノイズを撃墜していく。地上では雷と響、翼の三人がすべてのノイズを倒したところだった。

 

「やった、のか……」

「たりめえだぁ!」

 

 クリスの言葉を証明するかの如く、ノイズを撃破した証である炭素が空から舞い落ちる。彼女のもとに響が駆け寄って抱き着く。今回は雷も一緒にだ。

 

「やったやったぁ!」

「すごいよクリスぅ!」

「やめろ馬鹿ども!何しやがるんだ!」

 

 クリスが二人を引くはがすと同時にギアが解除され、雷と響は制服姿、翼はそれにライダージャケットを羽織り、クリスは赤い服に戻る。雷の包帯だらけの姿にクリスはギョッとするが事故にでもあったのだろうと解釈する。

 

「勝てたのはクリスちゃんのおかげだよ~!」

「もっと勝利を分かち合おうよ~」

 

 再び二人がクリスに抱き着き、そんな状況を翼は微笑ましそうに見つめる。

 

「だからやめろと言ってるだろうが!いいか?!お前たちの仲間になった覚えはない!あたしはただフィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!」

「夢?!クリスちゃんの?!どんな夢?!聞かせてよ~!」

 

 三度響が抱き着く。今度は流石に学習したのか雷は抱き着いていない。

 

「うるさい馬鹿!こいつは学習したってのに!お前本当の馬鹿!」

 

 じゃれ合っていると、響の通信機が鳴り始めた。

 

「はい」

 

 相手は未来だった。

 

『響?!雷もそこにいるの?!学校が!リディアンがノイズに襲われッ』

 

 通話が強制的に切断される。雷と響の帰る場所が、襲われた。




因みに未来が響に掛けた理由は雷と比べたら関係が深い、というわけではなく。フルネームで電話帳に登録しているため、名前の順だと轟よりも立花のほうが最初に来るからです。

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