戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
無数の大型ノイズがリディアンを強襲する。自衛隊も携行火器や戦車で迎え撃つが相手はノイズ、効くようなそぶりも見せずに逆に戦車を破壊し、小型ノイズを生み出して蹂躙していく。雷や響の言う通りに未来は二課の関係者として一般生徒の避難誘導を手伝っている。
「落ち着いて!シェルターに避難してください!落ち着いてね……」
「ひな!」
「みんな!」
創世と詩織、弓美の何時もの三人組が未来に声をかける。全員無事だったようだ。その表情に不安の色が見える。
「どうなってるわけ?!学校が襲われるなんてアニメじゃないんだからさぁ……」
「みんなも早く非難を!」
自分も不安がいっぱいだが避難誘導を手伝っている手前、表には出さずに胸の中にしまい込む。
「小日向さんも一緒に!」
「先に行ってて。私、ほかに人がいないか見てくる!」
「ひな!」
詩織の提案を振り切って自分の、雷と響の帰る場所を守る戦いを続ける。創世に呼び止められるが、それを振り切って走っていく。
「君たち!急いでシェルターに向かってください!校舎内にも、ノイズがッ?!」
三人に声をかけた自衛隊員が天井を突き破って侵入したノイズの攻撃を受け、目の前で分解されていく。目の前で起きた出来事に耐えきれなくなった弓美の絶叫が、校舎内に響き渡った。
○○○
三人と別れた未来は、廊下を走りながら取り残された人がいないか声を発し続けている。
「誰か―!残っている人はいませんかぁー!きゃッ!」
少し離れたところで爆発が起き、地響きが発生する。かつてのリディアンは見る影もなくノイズの大群に破壊しつくされていた。
「学校が……!二人の帰ってくるところが……!」
ガラス窓を破壊して三体の小型ノイズが校内に侵入する。未来は恐怖のあまり足を動かすことが出来ずにノイズの攻撃を受けてしまいそうになるが、間一髪で飛び込んできた緒川に押し倒されて避けることに成功する。
「緒川さん?!」
「ギリギリでした。次、うまくやれる自信はないですよ。……走ります!」
「うえぇぇえ?!」
ノイズが手足をはやして立ち上がるのを確認すると、緒川は未来の手を取って走り出す。ノイズに追いつかれたら一巻の終わりだ。
「三十六計逃げるにしかずと言います!」
二課へと続くエレベータへと飛び込むが、扉を突き破って内側へと侵入する。しかし、もう少しで未来にノイズが触れようとしたところでエレベーターが動き出し、何とか逃げ延びることに成功する。未来は自分の命があることにほっと一息を突いた。緒川が通信機で弦十郎に連絡を取る。
「はい!リディアンの破壊は依然拡大中です!ですが、未来さん達のおかげで被害は最小限で抑えられています。これから未来さんを、シェルターまで案内します』
「分かった、気をつけろよ」
『それよりも指令!』
「ん?」
『カ・ディンギルの正体が判明しました!』
「なんだと?!」
『物証はありません!ですが、か・ディンギルとは恐らく……?!』
通信機越しに同乗している未来の叫び声とエレベーターが破壊される音が聞こえてくる。
「どうした?!緒川!」
二人は今、金色に染まったネフシュタンの鎧をまとった女、フィーネに強襲されていた。フィーネの右手が緒川の首を絞めつける。
「こうも早く悟られるとは、轟とかいう娘がきっかけか?」
「?!」
家族のように親しい彼女の名前が出てきたことに未来は肩を震わせる。
「……雷さんは言っていました。天を仰ぐほどの高い塔を誰にも見つからずに建造するには地下に作るしかないと。その言葉をヒントに調査した結果、そんなことが行われているのは特異災害対策起動部、そのエレベーターシャフトこそがカ・ディンギル……!そして、それを可能とするのは……!」
「やはりあの小娘か……。フッ、親が親なら子も子だな、よくもまあワタシを出し抜いてくる……」
エレベーターの扉が開くと同時に緒川がフィーネの拘束を振り切り、反転しながら拳銃を三発、心臓のある左胸に打ち込む。が、弾は貫くどころか表面で受け止められ、先のつぶれた弾が音を立てて床に転がる。
「ネフシュタン……!」
フィーネの指の動きと共に鞭がしなり、緒川を締め上げて彼の体をたやすく持ち上げる。
「うぐあぁぁぁッ!」
「緒川さんっ!」
「未来さんッ……!逃げ、てッ……!」
未来はなけなしの勇気でフィーネに体当たりをするが、体を揺らしただけでダメージは入っていない。逆にフィーネの注意を引いてしまった。未来の顎にフィーネが手を添える。
「麗しいなぁ。お前たちを利用してきたものを守ろうというのか」
「利用……?!」
「何故、二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前たち被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は生徒を集めるのによく役立ったよ」
初めて明かされた事実に未来は身動きが取れず、フィーネは笑いながら離れていく。未来が意を決して叫んだ。
「嘘をついても!本当のことが言えなくても!誰かの命を守るために、自分の命を危険にさらしている人がいます!私は、そんな人を……。そんな人たちを信じてる!」
「チッ!」
フィーネが未来の頬を叩き、よろけたところをさらに襟首をつかんで持ち上げ、さらにもう一発叩く。床に倒れた未来を見下ろしながら吐き捨てる様に言う。
「まるで興が冷めるッ!」
そのままフィーネはゆっくりとデュランダルのもとへと向かう。了子の持つ通信機でドアのロックを解除しようとするが、後ろから緒川の放った弾丸がそれを破壊する。
「デュランダルのもとへは、行かせません!この命に代えてもですッ!」
拳銃を投げ捨てて構えを取り、それをフィーネが煩わしそうに見、鞭をしならせる。
「待ちな、了子」
どこからか声が聞こえてきた。すると突然、天井を突き破って声の主、弦十郎が降ってきた。フィーネが不敵に笑う。
「ワタシをまだ、その名で呼ぶか……」
煙の中から弦十郎が立ち上がり、構える。
「女に手を上げるのは気が引けるが。二人に手を出せば、お前をぶっ倒す!」
「指令……」
フィーネに相対したまま、弦十郎が口を開いた。
「調査部だって無能じゃあない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行きついていた。あとはいぶりだすため、あえてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かして見せたのさ!」
「陽動に陽動をぶつけたか……食えない男だ。だが、このワタシを止められるとでも?!」
「おおとも!ひと汗かいた後で、話を聞かせてもらおうかぁ!」
弦十郎は一歩目を踏み出し、フィーネは鞭で迎撃する。それをたやすく避けると、もう一本の鞭を弦十郎に向けて放つがそれを跳躍して回避し、天井にある梁を掴んで軌道を変え、拳を振りぬく。それを避けたフィーネだったが、弦十郎の拳は拳圧だけでネフシュタンにひびを入れる。
「何ッ?!」
ネフシュタンは問題なく再生するが、フィーネにいら立ちが募る。
「肉をそいでくれるッ!」
二本の鞭を勢いよく放つが弦十郎は逆にそれを掴み、引っ張る。あまりの力にフィーネの体が引き寄せられ、弦十郎は彼女の鳩尾に渾身の力でアッパーを叩きこんだ。フィーネが床に落下する。
「完全聖遺物を退ける……。どういうことだッ?!」
「知らいでか!飯食って映画見て寝る!男の鍛錬は、そいつで十分よぉ!」
「なれど人の身である限りはぁッ!」
「させるかぁッ!」
ノイズを操るソロモンの杖を構える。が、それを許す弦十郎ではない。床を踏み砕いた衝撃で浮き上がった破片をフィーネの手に蹴り込み、その衝撃で杖が天井に突き刺さる。
フィーネの視線がソロモンの杖に向いた隙に弦十郎が殴りかかる。
「ノイズさえ出てこないのならぁッ!」
「弦十郎君!」
「ッ?!」
情に訴えかけるフィーネの行動にひるんでしまい、その隙を突かれ、鞭が弦十郎の体を貫く。
「指令……」
倒れた弦十郎のポケットから通信機を取り出す。
「抗うも、覆せないのが定めなのだ」
突き刺さった杖を鞭で回収し、弦十郎に向ける。
「殺しはしない。お前たちにそのような救済など施すものか」
遂にドアのロックを解除し、フィーネがデュランダルのもとへと至った。未来と緒川が弦十郎のもとへと駆けよる。
「指令!指令!!」
デュランダルの目の前でフィーネはキーボードを投影し、それを手にするべく操作する。
「目覚めよ天を突く魔刀。彼方から此方まで現れいでよ!」
デュランダルの輝きが増していく。
最後の戦いが始まろうとしていた・・・。
速くフィーネと雷を合わせたい……。