戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

28 / 209
雷さん!出番ですよ!


殺意の化身

 ノイズの群れを相手取る装者三人の状況をモニタリングしている指令室に、腹を貫かれて項垂れた弦十郎の肩を支えながら未来と緒川がやってくる。友里が真っ先に気づいた。

 

「指令?!」

「応急処置をお願いします!」

 

 弦十郎をソファーに寝かせ、包帯で患部を止血していく。応急処置を進める友里の代わりに緒川がオペレーターの任につく。

 

「本部内に侵入者です。狙いはデュランダル!敵の正体は……櫻井了子!」

「なっ?!」

「そんな……」

 

 指令室が驚きの色に染まる。組織の根幹にいた人物が敵だったのだ、その驚きも当然だろう。となりに立つ未来に声をかける。

 

「響さん達に回線をつなげました!」

 

 未来が一歩前に進む。

 

「響、雷!学校が!リディアンがノイズに襲われてるの!・・・へ?!」

 

 急に通信が切断される。

 

「なんだ?!」

「本部内からのハッキングです!」

「こちらからの操作を受け付けません!」

「こんなこと、了子さんしか……」

 

 必死にブロックを掛けていくがそれを上回る速度で侵入されていく。その現実が、相手が了子であることを叩きつけていく。

 

「響、雷……」

 

 未来の声が小さく響いた。

 しばらくして、停電した指令室で弦十郎が目を覚ます。

 

「指令……」

「状況は」

 

 友里の表情は暗い。

 

「本部機能のほとんどは制御を受け付けません。地上及び地下施設内の様子も不明です」

「そうか……」

 

○○○

 

 赤い満月の下、自らの足で学校に戻ってきた雷と響、翼にクリスの四人はリディアンの惨状に息をのむ。

 

「未来!」

「未来―!みんなー!」

 

 返事が返ってこず、響は膝から崩れ落ち、雷は呆然と立ち尽くしている。翼が言葉をこぼした。

 

「リディアンが……。あっ?!」

 

 翼が人の気配を感じて上を見上げると、壊れた校舎の上に了子が立っていた。

 

「櫻井女史?!」

 

 クリスが声を荒げる。

 

「フィーネ!お前の仕業かぁ!」

「フフフ、フハハハハ!」

 

 その声に了子が高笑いをし、雷が意識を取り戻す。

 

「フィーネ?!やっぱり、了子さんがフィーネだったのね……」

 

 翼が問いただす。

 

「そうなのか?!その笑いが答えなのか?!櫻井女史!」

「アイツこそ、あたしが決着をつけなきゃいけないくそったれ!フィーネだ!」

 

 了子が眼鏡を取って髪をほどいた瞬間、体中を青白い光が包み込み、その中からネフシュタンを纏ったフィーネが姿を現す。

 

「嘘……。嘘ですよね?そんなの嘘ですよね?!だって了子さん、私を守ってくれました」

「あれはデュランダルを守っただけの事。希少な完全状態の聖遺物だからね」

「?!」

 

 雷はフィーネの言葉はそれだけではないことを読み取るが、それが何なのかが理解できない。

 

「嘘ですよ~。了子さんがフィーネというのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。いや、意識は十二年前に死んだと言っていい。超先史文明期の巫女、フィーネは遺伝子におのが意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフヴァッヘン波形と接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力を再起動する仕組みを施していたのだ。十二年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、偶然立ち会った櫻井了子のうちに眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし意識こそが、私なのだ」

「あなたが、了子さんを塗りつぶして……」

「まるで、過去から蘇る亡霊!」

 

 翼の言葉に笑いで答えながら、さらに続ける。

 

「フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った私たちは、パラダイムシフトと呼ばれる、技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた」

「シンフォギアシステム……!」

「それが、櫻井理論!」

 

 該当するものに思い至った雷と翼は声を上げる。が、即座にフィーネによって否定される。

 

「そのような玩具。為政者からコストをねん出するための副次品に過ぎない」

「お前の戯れに、奏は命を散らせたのか!」

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!」

「そう!すべてはカ・ディンギルのため!」

 

 フィーネがそう宣言すると同時に両手を広げた瞬間、地響きが発生する。そして、二課のエレベーターシャフトがあると思われる位置から様々な色や文様で彩られた塔が地面を貫いて伸びてくる。まさにそれは、天へと届かんばかりの高さだった。フィーネは満足げな表情になる。

 

「これこそが!地より屹立し、天へと届く一撃を放つ過電粒子砲『カ・ディンギル』!」

 

 雷が息をのむ。

 

「まさか、塔じゃなくて大砲だったなんて……」

「こいつで、バラバラになった世界が一つになると?!」

 

 フィーネは赤い月を見上げて口を開く。

 

「ああ……。今宵の月を穿つことによってな!」

「月を?!」

「穿つと言ったのか?!」

「なんでだ!」

「月は古来より不和をつかさどっている……。それと関係があるのか?」

 

 四人の声が聞こえてないかのようにフィーネは一人呟く。

 

「ワタシはただ、あのお方と並びたかった。その為に、あのお方へと届く塔を建てようとした。だがあのお方は、人の身が同じ高みにあることを許しはしなかった……。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類はかわす言葉まで砕かれ、果てしなき罰。バラルの呪詛をかけられてしまったのだ」

 

 そこでフィーネは雷を指さした。

 

「そこな小娘が言ったように何故月が不和の象徴と伝えられてきたか、それは!月こそがバラルの呪詛の源だからだッ!人類の相互理解を妨げるこの呪いを!月を破棄することで解いてくれる!そして再び、世界を一つに束ねるッ!」

 

 フィーネが月に向かって伸ばした手を握りつぶすかのように動かした瞬間、カ・ディンギルがうなりを上げる。

 

「呪いを解く?それは、お前が世界を支配するってことなのか?!安い!安さが爆発しすぎてる!」

 

 クリスの言葉に怒りを含めた笑みを浮かべ、雷のほうを向く。

 

「永遠を生きるワタシが余人に歩みを止められることなどありえない……。ごく一部を除いてな。そうだろう?轟の娘」

「私?」

 

 急に言葉を突きつけられた雷の頭が混乱する。構わずにフィーネが言葉を続ける。

 

「フィーネとして覚醒した後、ワタシは塔を破壊した雷霆と同じ意味を持つケラウノスから手を付けた。当然、シンフォギアシステムを隠れ蓑にしたものだが、ワタシの展開した櫻井理論では完成させることが出来ず、半ばというところで政府に取り上げられ、天羽々斬の開発へと移行させられた……。どうせワタシ以外に聖遺物の解析など不可能、そう高をくくっていた。だがッ……!」

 

 フィーネの表情が険しくなる。

 

「お前の両親、轟両博士が展開した理論、轟理論で研究を成功させた!私ですら不可能だったことをだ、今でこそギアの開発はワタシの理論がメインだが、ワタシはただの人間ごときに負けたのだ!ワタシはケラウノスとその適合者、ワタシを出し抜いた轟理論のデータを奪い、自らのものにしようとした。しかしッ!奴らはワタシが何か嗅ぎまわっていたのかを知っていたのか、全てのデータを復旧不可能なレベルまで破壊していたのだ!」

 

 雷には理解できない。

 

「当然ワタシは追いかけた。唯一残された手掛かりは日本に住んでいることだけ、何とか探し回り遂に見つけ出した。轟両博士とその息子をな。私は息子を奴らの目の前で嬲り殺し、吐かせようとした」

「へ……?嬲り……殺した……?出海を?」

「ッ?!雷、しっかりして!」

「耳を貸すな轟!」

 

 雷の瞳から光が抜け落ち、彼女を正気に戻させようと響が体をゆすり、翼が話を遮るが一向に効果がない。そんな雷を視界に入れつつ話を続ける。

 

「最終的に両博士を交互に嬲っていったが結局吐かずじまい、ケラウノスと轟理論は紛失した。しかし、私も見捨てられてはいなかった、なにせ二か月前に紛失したと思っていたケラウノスが適合者を連れて私の手元に帰ってきたのだからなぁ!だがそれは、ワタシが三度出し抜かれたことを意味する。ワタシは奴らにケラウノスを奪われ、そのデータを破壊され、そして絶対に奪われないタイミングで襲わせたのだ!」

 

 雷の体がガタガタと震える。

 

「私の家族は……自殺じゃなくて、殺された?あなたに?」

「そうだとも。当然自殺に見せかけたが、ワタシが殺したのだ」

 

 フィーネは言う。これがもし、自らの両親がフィーネの立場で、それを彼女が止めたならば納得は出来ずとも理解はできる。しかし、そうではない。フィーネは自らの欲望、願いのために雷の家族を惨殺したのだ。そればかりか、自分の人生すら滅茶苦茶にされた事実に雷は俯き、歯を食いしばって涙を流す。

 

「フィーネてめぇ……!」

 

 クリスが怒る。

 

「まあ、余人の分際でワタシを出し抜いた「黙れ……!」……ほぅ?ワタシを超えて見せるか、轟の娘」

 

 その声を発した者は雷だった。彼女は過剰なほどの殺意によって意識が朦朧としながらも俯いたままギアを起動させる。

 

「Voltaters Kelaunus Tron……!」

 

 灰と金のシンフォギアを纏っていく。響と翼、クリスもあわててギアを纏う。そして雷はただ一言、心の中にあるすべての思いを詰め込んだ一言を言い放つ。

 

「殺すッ……!」

 

 その一言と共にギアの灰色の部分が黄金に変わっていき、元々電撃発生ユニットだったところから周囲に絶唱をはるかに凌駕するフォニックゲインを持った稲妻が放出され、半径十メートル以内にあるのものすべてを強大な斥力フィールドが弾き飛ばしていく。それは、ギアを纏った三人も例外ではない。

 

「くッ……!」

「くそったれッ……!」

「近づけないッ!」

 

 雷を正気に戻すために近づこうとする三人だが、前に進むどころかその場に立ち止まることすらできない。

 

「素晴らしいッ……!忌々しい轟理論によって構築されしケラウノスだけが持つ決戦機能ッ!」

 

 不敵に笑うフィーネだが内心は違う。発動時の余波だけでコレなのだ、もしも真正面から激突したとして、ネフシュタンの再生能力を凌駕されてしまう可能性もある。まったくもって未知の力なのだ。

 

    『雷帝顕現』

 

 全てを破壊しつくす稲妻を操る『殺意の化身』が、ここに顕現した。




前に描写した『雷帝顕現』は発動時の余波だけだったりします。本当の力は次回からですね。


……例えどんなことになっても雷を個人的感情で動いた愚か者と言わないであげてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。