戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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そろそろXDですね!死んだまま放置されている雷ちゃん。


雪の夢、翼の思い

 翼とクリスの二人がフィーネと交戦を開始する。響は雷の『雷帝顕現』による変わりようと、目の前で起きた出来事を受け入れることが出来ずにギアを纏ったまま項垂れていた。

 

「はあぁぁッ!」

 

 翼の剣と剣のように硬質化させたフィーネの鞭が火花を散らす。フィーネの右手には雷から奪い取ったケラウノスのペンダントが収まっている。鍔迫り合いを行っていた二人だが、剣のように固くなっていたフィーネの鞭が鞭としてのしなやかさでもって翼の剣を絡めとり、その手から弾き飛ばす。

 

「なッ?!」

 

 横薙ぎに払われる鞭をバク転で回避し、脚部のブレードを展開しながら逆立ちの体勢のまま、コマのような高速回転による連撃をフィーネに浴びせかかる。しかし、それに合わせてフィーネは手に持つ鞭を回転させることでいなす。

 

「ッ?!」

 

 突然、フィーネがバランスを崩した。雷との戦闘で負った怪我や損傷がまだ回復しきっておらず、翼の攻撃によってかかった過剰な負荷が招いたのだ。その隙を逃すクリスではない。

 

「本命は、コッチだぁ!」

 

 背部装甲が変形した二機の大型ミサイルの内の一発をフィーネに向けて発射する。

 

「ロックオンアクティブ!スナイプ!」

 

 精密追尾機能を付与されたミサイルが空中を動き回るフィーネを追いかけていく。その隙をついてもう一発のミサイルをカ・ディンギルに向けて発射した。

 

「デストロイィィ!」

「させるかぁぁ!」

 

 直撃寸前のところでフィーネの鞭がミサイルを切断する。が、カ・ディンギルに狙いをつけていたミサイルに気を取られ、最初に発射されたミサイルを見失ってしまう。

 

「もう一発は?!……ハッ?!」

 

 発見したソレは既にカ・ディンギルのはるか上空へと飛翔していた。クリスと共に……。思わずうつろな表情のまま、響が空を見上げる。

 

「く、クリス、ちゃん……?」

「何のつもりだ?!」

「くッ!だが!あがいたところで所詮は玩具!カ・ディンギルの発射を止めることなどッ!」

 

 カ・ディンギルの砲身がターゲットである月を捉えたその瞬間、はるか上空、天と見まごう高さから歌が聞こえてくる。クリスが絶唱を発動したのだ。

 

「ハッ?!」

「この歌……まさか?!」

「絶唱……」

 

 ミサイルから飛び下りたクリスは月に背中を預け、腰部ユニットからリフレクターを展開し、手に持つ二丁の拳銃からビームを発射、それをリフレクターが反射し、加速していく。加速したビームがクリスを中心にまるで蝶を思わせるような形となる。絶唱を歌い終わると同時に拳銃を超大型ロングライフルへと変形し、その二つを合体させる。

 地上から月を穿つカ・ディンギルの砲撃が発射され、それを迎撃するために最大まで貯めたイチイバルの一撃が衝突した。リフレクターによって加速したビームがライフルのビームに対してジャイロ回転を与え、それによって月を穿つ砲撃を拮抗状態へと持ち込む。

 

「一点収束っ?!押しとどめているだと?!」

 

 フィーネの驚愕とは裏腹に、すでにイチイバルには限界が訪れようとしていた。

 

(あたしは、パパとママのことが……大好きだった。だから、二人の夢を引き継ぐんだ!)

 

 リフレクターを展開している腰部装甲に入ったヒビがだんだんと広がっていく。

 

(パパとママの代わりに、歌で平和を掴んで見せる)

 

 遂に拮抗状態が破られ、カ・ディンギルの砲撃に押し負け始める。

 

(あたしの歌は、そのために……!)

 

 クリスを膨大な光が飲み込む。彼女の脳裏には、在りし日の両親と手をつなぐ自分の姿があった。

 月へと放たれた砲撃はクリスによってコースをそらされ、破壊には至らなかった。フィーネが叫ぶ。

 

「し損ねたッ?!わずかに逸らされたのか?!」

「雪音……」

 

 クリスの体が天から落ち、森の中へと落下する。大切な親友の雷に加え、通じ合えると信じていたクリスを失ってしまった響は再び、声にならない叫びをあげた。

 

「ッアァァァァ!」

 

 そして叫びは、涙へと変わる。

 

「そんな……ずっと一緒だと思ってたのに……せっかく仲良くなれたのに……。こんなの……嫌だ……。嘘だよ……」

 

 地面を手で握りしめ、肩を震わせる。心臓が強く脈打つ。

 

「もっとたくさん話したかった……。話さないとケンカすることも、今よりもっと仲良くなることも出来ないんだよぉ……!」

 

 さらに心臓が強く脈打つ。涙が地面を濡らしていく。

 

「クリスちゃん……。夢があるって、でも……私クリスちゃんの夢聞けてないままだよ……」

 

 砲撃を防がれたにもかかわらず、ケラウノスをうっとりと見つめながらフィーネが口を開いた。

 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか……。ハッ!無駄なことを」

「ッ!」

「見た夢もかなえられないとは、とんだ愚図だなぁ……。そこに転がっているのもだ。怒りのあまりに我を忘れて獣に成り下がるとは、心底失望したぞ」

 

 響の体が怒りのあまり漆黒へと染まっていく。だんだんと心臓の鼓動が強くなる。

 

「笑ったか?命を燃やして、大切なものを守り抜くことを!家族の仇を打つことを!お前は無駄と、せせら笑ったか?!」

 

 翼は剣をフィーネに突きつける。

 

「そレが……!」

 

 突然の気配に翼は目を見開く。

 

「ユメごとイノちヲ……かゾくを……ニぎリつぶシタやツノいうこトかぁぁ!」

 

 響が怒りにのまれて暴走を始め、フィーネは余裕の笑みを浮かべた。

 

「立花……?!おい!立花!」

 

 翼の声は響に届かない。

 

「融合したガングニールのかけらが暴走しているのだ。制御できない力に、やがて意識が塗り固められていく」

 

 翼の脳裏に胸のガングニールについて響に説明した了子の姿が蘇る。

 

「まさかお前。立花を使って実験を……?」

「実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんかぁ?ガングニールに翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を……」

「お前はそのつもりで立花を!奏を!」

 

 響がフィーネに向かって跳躍する。

 

「立花ッ!」

 

 響の攻撃をその場から動くことなく、鞭でたやすくさばいていく。そんな響をフィーネが嘲笑する。

 

「もはや人にあらず。もはや人の形をした破壊衝動。……だが、轟の雷臨のほうが強力とは……面白みのない」

 

 響の跳び蹴りに対して防御姿勢すら入れずに受け、体の三分の一が引き裂かれるが、復旧したネフシュタンによる再生機能が元通りに再生させる。

 翼が叫ぶ。

 

「もうよせ立花!これ以上は、聖遺物との融合を促進するだけだッ!」

 

 その声に反応して響が翼にとびかかるが、それを肘打ちでカウンターすることで防ぐ。翼の悲痛な声が響く。

 

「立花ァ!」

 

○○○

 

「どうしちゃったの響!元に戻って!」

 

 雷の死を何とか無理やり受け入れた未来がモニター越しに叫ぶ。その横で弓美がつぶやいた。

 

「もう終わりだよ……あたし達……」

「え?!」

「学院がめちゃめちゃになって、雷が死んじゃって、響もおかしくなって」

「終わりじゃない!響だって、私たちを守るため……」

「あれが私達を守る姿なの?!」

 

 未来が励まそうとするが弓美が叫ぶ。モニターには口元に血の跡を残したままカ・ディンギルにもたれて座っている雷と、漆黒に染まり、暴走した響が写っていた。

 創世と詩織が不安がる中、未来が不安を隠して毅然と言い放つ。

 

「私は響を信じる。雷もそう信じることを信じてるはずだから」

 

 弓美の目からはとめどなく涙が流れ出る。

 

「私だって響を信じたいよ……。この状況を何とかなるって信じたい……。でも……でも!」

 

 不安と恐怖のあまり弓美は膝から崩れ落ちてしまう。

 

「もう、嫌だよぉ……!誰か何とかしてよぉ……!怖いよぉ!死にたくないよぉ!助けてよ……響ぃ!」

 

○○○

 

 暴走した響との戦闘によるダメージでギアが砕けていく。既に肩で息をしている状態の翼に対して、響は融合によって体力に底がないのかいまだに余裕そうだ。

 

「どうだ?立花響と刃を交えた感想は?お前の望みであったなぁ。」

 

 カ・ディンギルに再度エネルギーがチャージされ、輝きを帯び始める。

 

「まさか?!」

「そう驚くな。カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、只の一撃で終わってしまうのであれば兵器として欠陥品。必要がある限り何発でも打ち放てる。そのために、エネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ」

「だが、お前を倒せばカ・ディンギルを動かすものはいなくなる!」

 

 フィーネが目を閉じ、露骨に自惚れているのを翼が遮った。響が唸り声を上げながら立ち上がる。

 

「立花……」

 

 翼は刃をフィーネに向けたまま静かに目を閉じ、しばし考えてから目を開けて響に語り掛ける。カ・ディンギルのエネルギーは限界まで高まっていた。

 

「立花……。私はカ・ディンギルを止める。だから……」

 

 翼の言葉に耳を貸さずに響が跳びかかる。右腕のバンカーを起動させ、それを使って殴りぬくつもりだ。

翼は剣を地面へと突き刺し、響の攻撃を真正面から受け入れる。ギアの一部が粉砕され、血が飛び散っていく。そして、響を逃がすまいと両の腕で抱きしめた。自らを攻撃した手を掴んで優しく語り掛ける。

 

「コレは、束ねてつなげる力のはずだろ?」

 

 左足のバインダーから小刀が射出され、それを受け止めると響の影に投げ、突き刺した。

 

     『影縫い』

 

 影を縫い付けられた響の動きが止まり、その横を翼が歩きながら語り掛ける。その声色には悲しさがあった。

 

「立花……。奏から継いだ力を、そんな風に使わないでくれ……」

 

 響が静かに涙を流す。

 覚悟を決めた翼は正面を睨みつけると、確かな足取りで前へと歩を進める。

 

「待たせたな」

「何処までも剣ということか」

 

 鞭が戦闘態勢をとり、翼は『天羽々斬』を握りしめる。

 

「今日日、折れて死んでも。明日に人として歌うために!風鳴翼が歌うのは、戦場ばかりでないと知れ!」

「人の世界が剣を受け入れることなど!ありはしない!」

 

 意思を持つかのようにうごめく二本の鞭が翼へと襲い掛かる。それを跳躍して回避すると、脚部ブレードを展開して追撃してくる鞭を弾き飛ばし、手に持つ剣を大剣へと変形させる。蒼のエネルギーを纏った斬撃をフィーネに放つ。

 

     『蒼ノ一閃』

 

 フィーネの鞭がその一閃を真正面から粉砕し、爆発。それを目くらましに着地し、フィーネが放った二本の鞭、ソレの弱点たる間隙へと身を躍らせて一気に間合いを詰めにかかる。渾身の斬撃がフィーネに直撃し、カ・ディンギルの外装に吹き飛ばす。勝機と掴んだ翼は大剣を元の剣に戻し、跳躍後にフィーネに向けて投擲、さらに巨大な剣へと姿を変え、翼の持つ技の中で最大い威力の一撃をかける。

 

    『天ノ逆鱗』

 

 フィーネはすぐさま三層の防壁を展開して攻撃を防ごうとする。しかし、それは悪手だった。防壁と巨大な剣を足場に翼は二本の剣を手にとって炎を纏って翼のごとく跳躍する。

 

    『炎鳥極翔斬』

 

「初めから狙いはカ・ディンギルかッ!」

 

 フィーネの鞭が翼に襲い掛かる。何とか振り切ろうとするが鞭のほうが速く、直撃を喰らってしまう。そこで翼は、奏と再会した。

 

『翼。あたしとアンタ、両翼そろったツヴァイウイングなら、どこまでも遠くへ飛んでいける』

 

 奏が差し出してくれた手を、翼は握り返す。

 

(そう。両翼そろったツヴァイウイングなら!)

 

 再び炎を纏い、カ・ディンギルのフレームを足場に跳躍する。口元に笑みを浮かべながら……。

 

(どんなものでも、超えて見せる!)

 

 赤い炎は蒼い炎へと変化し、さらに火の鳥へと姿を変える。フィーネの追撃を振りぬき、回避し、何度攻撃を喰らっても飛翔し続ける。

 翼が叫んだ。

 

「立花ァアァァッ!」

 

 その叫びと共に周囲一帯が光に包まれる。

 遂に翼はカ・ディンギルの破壊に成功した。




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