戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
三人の散り際をモニタリングすることしか出来なかった二課のメンバーは自らの無力さに震えている。
「天羽々切、反応途絶……」
藤尭の声は震え、弦十郎は拳を握りしめる。友里はモニターから目を背け、声を殺して涙を流していた。
「身命を賭してカ・ディンギルを破壊したか翼……!お前の歌!世界に届いたぞ……!世界を守り切ったぞ……!」
一層強く量の拳を握りしめ、その力のあまり腕が振るえる。そんな惨状を見て、弓美がフラフラと後ずさって叫ぶ。
それは平穏を、只変わらぬ日常を営んできた少女の思いのたけだった。そんな彼女には今起きていることは異常すぎた。
「分かんないよ……。どうしてみんな戦うの?!痛い思いして!怖い思いして!死ぬために戦ってるの?!」
「分からないの?!」
同じく非日常に巻き込まれ、しかもその渦中に親友がいる未来が涙を流しながら力強く遮った。弓美の肩を掴んで正面から彼女の顔を見つめる。
「分からないの……?」
未来に諭され、弓美は大声で泣き叫んだ。
弓美が何とか落ち着きを取り戻した直後に複数の足音と呼吸する音が通路の中を反響する。出入り口のほうを見ると、無事な避難者を連れた緒川が立っていた。
「指令!周辺区画のシェルターにて、生存者、発見しました」
「そうか!よかった……!」
小さいがようやく入ってきた朗報に弦十郎は安堵する。地上はあんな惨状なのだ、生存者がいただけでも幸運だろう。その生存者たちの中にいた二人の女の子がモニターを見て声を上げた。
「あ!ママ!かっこいいお姉ちゃんだ!」
「包帯のお姉ちゃんもいる!」
母親の制止を振り切って子供特有の無邪気さでモニターのもとへと駆けよる。
「「すいません……」」
「ビッキーとライライのこと、知ってるんですか?」
母親同士の声が重なる。創世が「お姉ちゃん」を差すであろう友達のことを聞く。母親二人は以前の情報制限のために発言可能な部分を反芻してから話し始める。
「詳しくは言えませんが、うちの子はあの子に助けていただいたんです」
「うちの子もなんです」
「へ?」
「自分の危険を顧みず、助けていただいたんです。きっと、ほかにもそういう人たちが……」
二人がどんな様子で助けたのか、容易に頭の中に浮かび上がる。響が日常的にやっている人助け、雷が見せる自分を顧みない姿勢が未来の言っていた答えとして浮かび上がる。
「かっこいいお姉ちゃん、助けられないの?」
「包帯のお姉ちゃんに元気を分けて上げたい!」
二人の女の子が眉を八の字に曲げ、未来たちのほうを向く。詩織が答えた。
「助けようと思ってもどうしようもないんです。私達には何もできないですし、雷さんは……」
その暗い声色に対し、女の子たちの顔と声は明るい。
「じゃあ一緒に応援しよ!」
「応援するとね、元気になるの!」
「「ねー」」
顔を合わせて笑顔で笑い合い、響に助けられた方の女の子が藤尭に聞く。
「ねぇ!ここから話しかけれないの?」
「出来ないんだよ……」
プロの力でもってして映像を持ってくることしか出来なかったのだ、音声を送るのは不可能と言えた。しかし、未来が新たな発想に目を見開き、打開策を弦十郎から聞き出す。
「ここから響に、私達の声を、無事を知らせるにはどうすればいいんですか?!響を助けたいんです!」
「助ける?」
藤尭が提案した。子供の発想力に掛けたのだ。
「学校の施設がまだ生きていれば、リンクして、ここから声を送れるかもしれません」
そして緒川の案内のもと、響を助けたいという思いを胸に少女たちが行動を起こした。
「この奥に切り替えレバーが?」
「こちらから動力を送ることで、学校施設の再起動ができるかもしれません」
「でも、緒川さんだとこの隙間には……」
元々リディアンの地下に二課本部があったのだから出来ないことはないだろう、しかし接続が切られていないとは言えない。これほどまでにズタボロなのだ、可能性の低い賭けだった。しかも、頼みの大人では中に入ることが出来ない。
そんな状況に立ち往生していると、弓美が自分なりの勇気を振り絞って言った。
「あ、あたしが行くよ!」
「弓美……」
「大人じゃ無理でも、あたしならそこから入っていける。アニメだったらさ、こういう時、体のちっこいキャラの役回りだしね。それで響を助けられるなら!」
弓美の暴論ともいえる提案に未来は反対する。
「でもそれはアニメの話じゃない!」
「アニメを真に受けて何が悪い!ここでやらなきゃ、あたしアニメ以下だよ!非実在青少年にもなれやしない!雷に顔向けできないし!この先、響の友達だって胸を張って答えられないじゃない!」
弓美自身の思いのたけに、さっきとは打って変わって未来が安堵の笑みを浮かべる。少なくとも自棄になったわけではなかったのだ。
「ナイス決断です。私もお手伝いしますわ」
「だね。ビッキーが頑張ってるのに、その友達が頑張らない理由はないよね」
「みんな……」
ただの少女たちが、友達のために戦うことを選んだ。
中に入った四人は制御室の中でピラミッドを組み、一番軽い弓美を天辺にして奮闘していた。限界まで踏ん張って、何とか動力の切り替えに成功する。動力が生きていた。切り替えた拍子にバランスを崩し、四人ともつぶれたように倒れ込んでしまうが成功を喜び合う。
臨時二課では学校施設の再起動を確認し、声を届けるためのスピーカーが使用可能となった。
○○○
そのころ、自らの鬱憤を響にぶつけていたフィーネが遂に彼女にとどめを刺すべく鞭を突き立てようとしていた。その瞬間、どこからともなく響には聞き覚えのある歌が聞こえてくる。それはリディアンの校歌だった。フィーネは苛立つ。
「耳障りな!何が聞こえている?!」
響に生きる気力がわいてくる。
「何だこれは……?!」
その歌には未来の、みんなの思いがこもっていた。『私たちは無事だ。だから、負けないで』と。
「何処から聞こえてくる?!この不快な、歌!……歌、だと?!」
「聞こえる……みんなの声が……」
祝福するかのように朝日が昇り始める。
「よかった。私を支えてくれるみんなはいつだってそばに、みんなが歌ってるんだ。だから……!まだ歌える!頑張れる!戦える!」
復活した意志と共に響はギアを展開してフィーネを弾き飛ばし、立ち上がる。その事実にフィーネは驚愕する。
「まだ戦えるだと?!何を支えに立ち上がる?!何を握って力と変える?!鳴り渡る不快な歌の仕業か?そうだ、お前が纏っているものはなんだ?!心は確かに居り砕いたはず。なのに!何を纏っている?!それはワタシが作った物か?!お前が纏っているそれはなんだ?!なんなのだ……?!」
響の呼応するように森の中から赤い光が、カ・ディンギルの残骸からは蒼い光が伸び、そして、フィーネが握りしめているケラウノスのペンダントが電撃を放つ。
「ッ?!」
フィーネの腕を吹き飛ばしたそれは金の粒子へと姿を変え、すでに息絶えた雷のもとへと流れていく。粒子の一部が雷の体内に侵入し、損傷した内臓と停止した心臓を復活させる。バイタルの変化は臨時二課でもしっかりとモニターされていた。
「轟雷の生命反応復活!内臓も、心臓も正常です!」
「なんだとぉ?!」
喜びのあまり未来が涙を流す。そして響と、復活した雷を応援するために涙を拭いて歌う。
意識を取り戻した雷はゆっくりと立ち上がり、ケラウノスが生み出した灰色と金色の光を纏って飛翔する。それは響や翼、クリスも同じだった。
XDモードになり腰には灰の、背中には金のエネルギーウイングを展開して三人と共に空を飛ぶ。その瞬間、響が心の底から叫んだ。
「シンッフォギアァァアァァァ!!」
絆のつながりが奇跡を生んだ。
脳が死んでるだろとかは奇跡の力でうんぬんかんぬん。さて、最終ラウンドや。