戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
響がデュランダルを掴み取った瞬間、彼女の体内にあるガングニールのかけらが反応し、漆黒の暴走状態へと移行する。あまりの衝撃に地下にある臨時二課までもが地震のように揺れた。未来が駆け出していく。
「未来さん!どちらへ?!」
「地上に出ます!」
彼女の言葉に中にいる生存者たちがざわめきだす。当然、友里が引き留めた。
「無茶よ!危ないわ!」
「響は、響のままでいてくれるって、変わらずにいてくれるって。だから私は、響が闇にのまれないよう応援したいんです!」
自分の思いのたけをぶつける。
「助けられるだけじゃなく、響の力になるって誓ったんです!」
響は自らの黒い破壊衝動にのまれないように踏ん張っている。地下のシェルターに通ずるゲートが破壊され、そこから二課のメンバーを含む生存者全員が姿を現した。衝動にあらがう響を激励する。
「正念場だ!踏ん張りどころだろうが!」
師匠と仰ぐ弦十郎の声に気づいた響がゆっくりと顔を向ける。
「強く自分を意識してください!」
「昨日までの自分を!」
「これからなりたい自分を!」
(み、みんな……!)
雷と翼、クリスが支えるように響に寄り添う。雷が背中を、翼が右肩を、クリスが左肩をだ。
「屈するな立花!お前の構えた胸の覚悟を、私に見せてくれ!」
「お前を信じ、お前に全部かけてんだ!お前が自分を信じなくてどうするんだよぉ!」
必死に抵抗する響だが、だんだんと飲まれ始める。だが、それでもあきらめずに声をかけ続ける。
「あなたのお節介を!」
「あんたの人助けを!」
「今日は、私達が!」
自らを倒す手段を手に入れた者を生かしておくほどフィーネは有情ではない。破壊された箇所が再生し、妨害するべく触手を伸ばす。
「姦しい!黙らせてやる……!」
が、装者たちを覆うエネルギーバリアがその攻撃を防ぎ切った。そしてついに響の体が完全に破壊衝動に染まり切ってしまう。
その瞬間、雷が心の奥底にまで届くように額を彼女の背中に押し当てて優しく語り掛け、未来が意識を叩き起こすように叫んだ。
「響……」
「響ー!!」
(っ!)
二人の声が奥底にある響の自意識へと到達する。
(そうだ……。今の私は、私だけの力じゃない……!)
未来が地上で響のことを見つめ続ける。
(そうだ!この衝動に!塗りつぶされてなるものかぁぁッ!)
思いが届き、黒い破壊衝動を自らの意思で逆に塗りつぶしていく。
胸の奥にあるガングニールが輝いた。
デュランダルが輝きを増し光の刃が伸びる。その極光が少女たちを包み込んだ。
「その力!何を束ねた?!」
「響き合うみんなの歌声がくれた!シンフォギアだァァッ!」
光の刃となったデュランダルをフィーネに振り下ろす。
『Synchrogazer』
装者たちの刃とフィーネの赤き竜が激突し、無限のエネルギーと無限の再生能力が対消滅を起こす。光が消滅し、フィーネの竜が崩壊を始めた。
(どうしたネフシュタン!再生だ!この身、砕けてなるものかぁぁッ!)
あまりのエネルギーに形を保つことが出来ず、大爆発を引き起こす。
朝日が昇り切り、ズタボロになった街を太陽の光が優しく照らした。シェルターにいた人々も続々と地上に戻ってくる。
敵であるはずのフィーネに肩を貸した響がみんなのもとに歩いてきた。翼やクリスはまた雷が暴走しないかどうか内心ドキドキしていたが、安定しているときと変わらない落ち着いた表情をしている。
「お前……何を馬鹿なことを……」
「このスクリューボールが……」
「それが響だからね」
クリスが呆れたように言い、雷がどこかうれしそうにしている。
フィーネを近くの瓦礫に座らせて、響が言う。
「みんなに言われます。親友からも変わった娘だぁって。……もう終わりにしましょう?了子さん」
「ワタシはフィーネだ……」
「でも、了子さんは了子さんですから」
響はさも当然のように答えた。
「きっと私達、分かり合えます」
「ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間……。統一言語を失った我々は……手を繋ぐことよりも相手を殺すことを選んだ」
フィーネは立ち上がり、朝日に向かって歩を進める。諦めているかのごとく言う。
「そんな人間が分かり合えるものか……」
「人が……ノイズを……」
「だからワタシは、この道しか選べなかったのだッ!」
「おい!」
フィーネが鞭を握りしめとことに反応し、クリスが前のめりになるのを翼が手で制する。
しばしの静寂が訪れる。
「人が言葉よりも強くつながれること、わからない私達じゃありません」
響がその静寂を破った。
フィーネは一度目を閉じ、一気に見開いて握りしめた鞭を投げ放つ。
「ッ?!」
装者の中で最速を誇る雷の拳が響と共に放たれるが、それはギリギリのところで停止する。何故ならその鞭は響に放たれたものではないからだ。ぐんぐんと天高く上っていく。
「ワタシの勝ちだぁッ!」
鞭の先端が月のかけらへと突き刺さり、ネフシュタンが崩壊するのもいとわずにフィーネは一気に引き寄せる。重力に引っ張られて地球に落下し始めた。
「月のかけらを落とすッ!」
フィーネの声で翼とクリスが月の方向を向く。
「ワタシの悲願を邪魔する者はここでまとめて叩いて砕くッ!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなぁッ!聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、ワタシは何度だって世界によみがえる!どこかの場所、いつかの時代!今度こそ世界を束ねるためにぃ、アハハハハ!私は永遠の刹那に存在し続ける巫女!フィーネなのだぁ!」
崩壊をつづけるフィーネの胸に優しく二つの拳が当たり、響と雷が真っ直ぐにフィーネを見つめる。
「うん、そうですよね。どこかの場所、いつかの時代……蘇るたびに何度でも私の代わりに、みんなに伝えてください。世界を一つにするのに、力なんて必要ないってこと。言葉を超えて、私達は一つになれるってこと。私達は、未来にきっと手をつなげられるということ!私には伝えられないから、了子さんにしか出来ないから」
「お前……まさか……」
「了子さんに未来を託すためにも、私が今を、守って見せますね!」
「ホントにもう……ほおっておけない子なんだから」
了子が目をつむり、雷が口を開いた。
「私は今でも、あなたのことが許せません」
「え……?」
響と了子が雷に対して目を見開く。
「あなたはお父さんの、お母さんの、出海の仇です。家族の仇です。だから今度は壊すんじゃなくて……私みたいになっちゃった子や、なりそうになっている子を助けてあげてください。了子さんならできますよ。あなたの心は何千、何万と言える年月を経ても人間のような思いの力でしたから」
「……雷ちゃん……」
雷は了子を指さして笑った。
「両親みたいにあなたを出し抜いたら!月のかけらを破壊できたなら約束してくれますか?」
そんなことを言う雷を了子がにっこりと笑って言う。心の底から嬉しそうだった。
「分かったわ……。轟両博士みたいに私を出し抜いて見せなさい」
両手の人差し指で二人の胸を軽く突く。
「胸の歌を、信じなさい」
その言葉を最後に了子の体は風と共に消えていった。
落下してくる月を見上げながら雷と響の二人が前へと歩き始める。
「響……雷……」
未来の言葉に静かに答えた。二人の目が未来の姿を見つめる。
「何とかする。ちょおっと言ってくるから、生きるのを諦めないで」
「安心して。両親の置き土産を取ってくるだけだから」
そのまま黙って駆けだし、月のかけらを破壊するために空へと飛び去って行った。
送り出した未来の頬を涙が伝う。
飛翔する二人は笑顔で笑い合うと絶唱を発動し、空に終わりの歌が響き渡る。宇宙に出た瞬間、後ろからクリスの声が頭の中に響いてきた。
(そんなにヒーローになりたいのか?)
(こんな大舞台で挽歌を歌うことになるとはな。二人には驚かされっぱなしだ)
(翼さん、クリスちゃん……)
(なんで来ちゃったんですか……)
雷と響は速度を落とし、翼とクリスに並ぶ。
(来ちゃ悪いのかよぉ……。まあ、一生分の歌を歌うにはちょうどいいんじゃねえのか?)
雷と響が嬉しそうに笑い、四色の光の尾を引きながら月に向かって手をつないで並び飛ぶ。
(それでも私は、立花や轟、雪音ともっと歌いたかった)
(ごめんなさい……)
(バーカ、こういう時はそうじゃねえだろ)
(あの言葉だよ響、想いを伝えるあの言葉)
(ありがとう、二人とも!)
四人はブースターを点火し、さらに加速する。
(解放全開!いっちゃえ!ハートの全部でッ!)
(みんなが夢をかなえられないのは分かっている。だけど、夢を叶えるための未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだ……!)
(命は尽きて終わりじゃない。尽きた命が残したものを受け止める、次代に残していくことこそが人の営み……。だからこそ、剣が守る意味がある……!)
(たとえどれだけの不幸があっても、大切な人と笑っていれば幸せになれる。うれしくなる。家族が守ってくれたこの幸せを、今度が私が守る番……!)
(たとえ声が枯れたって、子の胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れ!)
四人は手を放し、四方向から全力の攻撃をぶつける。
(これが私達の、絶唱だぁぁぁッ!)
翼は今までで最も巨大な大剣に変形させ、クリスは最も多くのミサイルを構築し、雷は全身のユニットから最も高出力の稲妻の塊を構築、響は両手足のバンカーを大型化させて今までで一番長い距離を伸ばす。
全力の一撃を月のかけらに叩きつけ、破壊に成功した。
地上では未来が静かに一歩を前に踏み出し、膝から崩れ落ちる。破壊された月の破片が流れ星のように燃え尽きていく。
「流れ星……」
いつか三人で見ようと約束した流れ星を思い出し、未来は大声で涙を流した。
○○○
しばしの時が流れ、未来が花束を持ちながら雨の降るバス停を傘もささずに佇んでいた。
(あの日から三週間、響たちの捜索は打ち切られることになりました。弦十郎さんからは、作戦行動中の行方不明から死亡扱いになると聞きました。郊外にお墓が建てられましたが、そこに二人はいません。機密の関係上、名前も彫られてません。外国政府からの追及をかわすためだと言われましたが、私にはよくわかりません)
ずぶ濡れの未来を乗せたバスが復興する街の間を走っていく。
(私が弦十郎さんに渡した写真が飾られていれば、それだけが立花響と轟雷の墓標であることを示す、寂しいお墓です)
バスが未来の目的地である墓地に停車した。
(それでも私は、二人のたどった軌跡の執着に通い詰めている……)
未来は二人の墓の前で泣き崩れる。
「会いたいよ……。もう会えないなんて……私は嫌だよ……。ひびきぃ……あずまぁ……。私が見たかったのは二人と一緒に見る流れ星なんだよ……?)
雨は一層強くなる。まるで未来の心象を表すかのように。遠くで女性の助けを求める悲鳴が聞こえてきた。未だにノイズの勢いは衰えておらず、たびたび姿を現しては人間に襲い掛かるのだ。未来は女性の手を取って一緒に駆けだす。
(諦めない!絶対に!)
あの日響とした約束を忘れることなく走り出す。体力の限界か、女性が苦しそうに膝をついた。
「私……もう……」
「お願い!諦めないで!え……」
周囲をノイズの囲まれ、雷のように自分を顧みずに女性を守るために前に立つ。その瞬間、衝撃波と電撃が目の前のノイズを一掃した。
「……え?」
驚いてそれが発せられた方を向くと、光の中から何時もの制服姿の響と雷、翼にクリスがいた。
「ごめん、いろいろ機密を守らなきゃいけなくて。未来にはまた、ホントのことが言えなかったんだ」
未来の頬を涙が伝う。
「三週間も一人にしちゃったんだから、その分を取り返さなくっちゃね!」
喜びのあまり二人に向かって未来が駆け出す。そのころには雨がやみ、太陽が顔を出していた。
いつかの夜、約束の通りに三人はそろって夜空を流れる流れ星を見上げた。
雷の公開可能な設定や初期設定を公開したあと、二期までの間に少し休憩時間として別の小説を書きます。
アニメ見ながら書くってのは結構つかれるもんですなぁ……。