戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最終回後の幕間になります。

R15なんだ!これぐらいなら許されるはずだ!




雷の課金事情と罰ゲーム

 三週間分の課題を片付けた響は親友たちと住んでいる寮室の鍵を開ける。雷は持ち前の頭脳でさっさと課題を片付けて帰宅しており、未来は二人の無事を祝うために創世たちと買い物に出て行っているのだ。

 部屋にいるはずの雷に声をかける。

 

「ただいま~。もうへとへとだよぉ……雷はどうだっ……うぇえ?!」

 

 雷の様子に思わず言葉が詰まる。何故なら彼女の周りには数十枚は超える一万円のリンゴカードが散乱していたからだ。テーブルには好んでやっているソシャゲのガチャ画面が表示されており、画面の『十連ガチャ』ボタンを指で押しながら突っ伏している。

 その状態のまま雷が覇気のない声で答えた。

 

「お帰りぃ~響ぃ~」

「どうしちゃったの雷……」

「出ないんだよぉ~、私の推しキャラが出てくれないんだよぉ~」

 

 顔を見せないが鼻声になっているあたり、あまりの運のなさに泣いていたのだろう。響は「廃課金勢って怖いなぁ……」と思いながら雷の背中を撫でて慰める。

 その姿はついこの間世界を救った少女たちだとは思えない。

 突然、雷が何か思いついたらしくガバッと勢いよく起き上がり、振り向いてさっきまで自分の背中を撫でていた響の手を両手で掴んだ。

 目が潤んで赤くなっている。

 

「うわぁ?!」

「響が引いてみてよ!たぶん物欲センサーとかなんかなんだよきっと!」

 

 グイグイと響の両手を握ったまま彼女に詰め寄っていく。響は勢いに軽く引きながら苦笑いを浮かべる。

 

「わ、わかったよ……。えっと、このボタンを押せばいいの?」

「うんうん!そう!行っちゃって!最短で真っ直ぐに一直線に推しのところへ!」

 

 響の名言をとんでもないところで使う少女がここにいた。

 響は言われるがままボタンを押し、その隣で雷が神頼みをし始めた。

 

「神様仏様響様ァ!次こそ来てくださいお願いしますッ!」

 

 迫真である。いっそノイズを倒すときよりも気合が入っているかもしれない。

 そしてついに確定演出と共に雷の推しキャラが排出された。

 雷が響に抱き着いて喜ぶ。

 

「キッタァァ!ありがとう響!大好き!」

「私への大好きが聞けたのはうれしいけど、それがゲームのキャラクターを介して出てきたってのが釈然としない……」

「はあぁぁ……いい声……耳が妊娠しそう……」

 

 響の嘆きはスマホにイヤホンを差してセリフボタンを連打している雷には届くことはなかった。とてつもなくだらしない笑顔で無数のリンゴカードの上を転げまわっている。

 

「ッ?!うぐあぁぁ……!」

「いたそー……」

 

 あまりに節操なく転がっていたため小指をタンスの角にぶつけて体を縮こまらせる、それでも顔がニヤついているあたり筋金入りだろう。少したってまた、だらしなく笑顔を浮かべている。

 ガチャッとドアの開ける音が聞こえた。未来が帰ってきたのだ。

 雷は片方のイヤホンを耳につけたまま大慌てで立ち上がり、響にお願いをする。

 

「響!一生のお願いだから、このカード全部処分しておいて!お願い!」

「え?!これ全部?!」

「そう!」

 

 困惑する響を置いて未来のもとへと駆け出していく。買い物で買った重い荷物を持つことで機嫌を良くしようと思っているのだ。実にセコい。

 

「お帰り未来!荷物重いでしょ?私が持つよ」

 

 が、その目論見は即座に粉砕される。未来が軽く俯いたまま何でもないように口を開く。

 

「弓美に聞いたんだけどね?今日、雷のやってるゲームで新しいキャラクターが出たんだって」

「う、うん……そうだけど……」

 

 いきなり出てきたワードに雷は動揺を隠せない。未来は俯いたままさらに雷を追い詰めていく。

 

「実は私ね、雷の通帳の場所と口座のパスワード、知ってるんだよ?」

「え、えっとぉ……そのぉ……」

「それを聞いて帰ってくる途中で確認したの。千円単位以上が無くなっていたんだけど、これで何度目だったっけ?さて、どういうことかな?」

「ご、ごめんなしゃいぃぃ!」

 

 雷が手に持っていたスマホを取り落とし、未来に土下座するかのように廊下に泣き崩れる。未来はそれを見てにっこりと笑い、響は「仕方ないよね」と呆れ顔だ。当然、カードの掃除などしていない。

 

「響、これお願い」

「うん、キッチンでいい?」

「いいよ。雷はそこに正座」

「ひゃい……」

 

 リビングで未来は散らばっている無数のカードを見てさらに笑顔で雷を見つめ、彼女を思いっきり震え上がらせながら正座させる。

 未来がゆっくりと口を開く。

 

「あのね?私達は雷の事情を知ってるし体のことも知ってる。その時の影響でご飯がほとんど食べれなくて私達に比べて食費がほとんどないからお金が余ってるのもわかる」

 

 未来が雷に語り掛けるように優しく言う。

 

「だけど、いつかあなたの体が元に戻るかもしれないでしょ?その時に今の金銭感覚のままじゃ飢え死にすることになるよ?それでもいいの?」

 

 フルフルと雷が横に首を振るのを見て、未来がさらに続ける。

 

「今度同じようなことをしたら雷のカードと通帳は私が預かります。お金が欲しい時は欲しい金額を私に言ってね?おろしてくるから」

「今度から……だよね……?」

 

 雷が念を押して確認をする。未来が首をかしげながら笑った。

 

「今からがいい?」

「今度からでお願いしますぅ!」

 

 それを聞いて「うーん」と未来が悩むようなそぶりを見せ始め、響に尋ねた。

 

「ねえ響。雷の罰ゲーム、何がいいと思う?」

 

 響が天井を向いて悩み始める。

 

「うーん、前はお風呂場でくすぐりの刑だったでしょ?何がいいかなぁ……」

「できれば軽いやつでお願いします……」

「だめだよ。今度はちゃんと約束を守るような罰ゲームにしなきゃ」

「そんなぁ……」

 

 雷の懇願はすげなく却下された。

 すると突然、未来が何か思い出したかのように部屋の奥に跳んでいき、黒いハチマキのようなものとヘッドホンを持ち出してきた。

 

「今度から雷が何かしでかしたらこうしようよ」

 

 そう言って目隠しをするように雷にハチマキをして視界を奪い、ヘッドホンをつけて音を聞こえなくした。

 何も分からなくなった雷が弱々しく叫んだ。

 

「響?未来?そこにいるんだよね……?」

「えいっ」

 

 響が雷の脇腹をちょんっと突っついた。

 

「ひゃん?!誰?!誰ぇ?!」

 

 雷の体がびくりと跳ねる。未来がヘッドホンをそっと外して耳に息を吹きかけてからささやく、雷の背筋がゾクゾクと震えた。女の子がしてはいけないような顔をしている。

 

「今度はもっと色々するからね?」

「ひゃ、ひゃいぃぃ……」

 

 今度から雷の罰ゲームは視覚と聴覚を奪ってからのイタズラに決まりましたとさ。




雷の初期設定はG編に入ってからに変更しました。

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