戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
というかタイトルでどうなるかバレてるな、コレ。
友里が米軍のタブレットに電子判子を押すことで無事に『ソロモンの杖』搬送任務を終了する。
「これで、搬送任務は完了となります。ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
仕事を共にしたものとして友里と米軍基地司令は握手を交わす。
雷と響、クリスの三人は任務を無事達成したことに満足げに笑い合う。それは事がうまくいったときに浮かべるただの少女の顔だった。
そんな三人にウェルが話しかけてくる。
「確かめさせてもらいましたよ。皆さんが、ルナアタックの英雄と呼ばれることが伊達ではないとね」
「英……雄……」
「英雄?!私達が?!いやぁ~普段誰もほめてくれないので、もっと遠慮なくほめてくださ~い。むしろ、褒めちぎってくっださ……あいたぁ!」
「この馬鹿。そういうところが褒められないんだよ」
英雄と褒めたたえられたことに響は喜ぶが、雷は逆に表情を曇らせる。歴史や物語において英雄はロクな最期を迎えていないからだ。
そもそも、彼女は英雄の存在を信じていない。昔の自分を誰も助けてはくれなかったのだから。
クリスが浮かれる響の頭にチョップを叩きこんだ。
ウェルが一人語り始める。
「世界がこんな状況だからこそ、僕たちは英雄を求めている。そう!誰からも信奉される!偉大なる英雄の姿を!」
「そしてその英雄は、世界が危機を脱した瞬間に不要になる。誰かの願いのために戦い、そして最後は疎まれ、殺された英雄、ジークフリートのように」
腕の包帯を撫でながら雷が冷や水を浴びせるように答えた。
ウェルの表情の奥深くがゆがむ。だが、彼はそれをおくびにも見せることなく反論した。
「それは物語の中の話です。現実とは……」
「同じですよ。物語も現実も」
「現実とは違う」とウェルが言いかけたところで雷が遮った。
「かつて崩壊しかけたドイツを建て直し、人々によってトップに選ばれたとある男が居ました。彼は間違いなく英雄です。国を建て直したのですから。だけど彼が最終的に今も何と呼ばれているのかご存じでしょう?『歴史上最悪の独裁者』ですよ」
言外に英雄は存在しないと断言する雷を見て、ウェルは顔を引く突かせながらも平静を装う。
「皆さんが守ってくれたものは、僕が必ず役立てて見せますよ」
その振る舞いには彼の雷に対する嫌悪感は微塵も出ていなかった。
「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」
「頼んだからな……」
「英雄ではなく、ただ一人の人間として、よろしくお願いします」
響が元気よく頭を下げ、クリスが心の底から頼み、雷が英雄を信奉する彼に言い含めるように答える。
三人の答えは文字通り三者三様だった。
「無事に任務も完了だぁ~。そしてっ……」
「うん!この時間なら、翼さんのステージにも間に合いそうだ!」
「ファングッズも手に入れなきゃね!」
基地を出て雷の機嫌もすっかり良くなったようだ。
友里が通信機を手に持って三人にご褒美をプレゼントする。
「三人が頑張ってくれたから、指令が東京までヘリを出してくれるみたいよ」
「マジっすかぁ?!」
響が喜んだ次の瞬間、後にしたはずの米軍基地が大爆発を起こした。爆炎の中から大型ノイズが姿を現す。
「マジっすかぁ……」
「マジだな!」
「マジだね」
ノイズに唯一対抗可能なシンフォギア装者の三人が駆け出す。
米軍の奮戦もむなしく次々に炭素へと変えられていく兵士たち、三人が駆け付けたときにはすでにノイズの姿はなく、ソロモンの杖も消滅していた。
○○○
『世界の歌姫』マリアとのステージを控えた翼。そのマネージャーの緒川に弦十郎からの通信が入る。
その連絡とは当然、ソロモンの杖が姿を消したことだ。
「状況はわかりました。それでは翼さんを……」
『無用だ。ノイズの襲撃と聞けば、今日のステージを放り出しかねない』
ステージに立つものである以前に防人と身を定めている翼にとって、優先順位はステージよりノイズなのだから弦十郎の言うことは容易に想像がつく。
「そうですね……。では、そちらにお任せします」
ステージのために意識を集中していた翼が目を開けて緒川に尋ねる。
「指令からはいったい何を?」
それに対して緒川はかけていた眼鏡を懐にしまいながら答えた。
「今日のステージを全うしてほしいと……」
「ハァ……」
眼鏡をはずした緒川の言葉に翼はため息をつきながら不機嫌そうに立ち上がる。翼は彼の胸を指さし、意図に気づいた緒川はさされた胸を押さえて動揺する。
「眼鏡をはずしたということは、マネージャーモードの緒川さんではないということです。自分の癖くらい覚えておかないと、敵に足元をすくわれ……」
「お時間そろそろでーす。お願いしまーす」
「はーい。今行きます」
緒川へのお小言は現場スタッフの声に遮られた。
その隙に緒川は自身が思う今翼がすべきことを伝える。それも満面の笑顔で。
「傷ついた人の心を癒すのも風鳴翼の大切な務めです。頑張ってください!」
「不承不承ながら、了承しましょう。詳しいことは後で聞かせてもらいます」
○○○
マリアのステージ、その特別席で未来と創世を始めとする三人組が両手にサイリウムを持ちながら興奮を隠せないでいた。
未だ到着しない親友たちを心配して時計を確認する。
「まだビッキーたち、まだ来ないの?メインイベントが始まっちゃうよ?」
「うん……」
未来が肩を落とした。
「せっかく風鳴さんが招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて」
「期待を裏切らないわね~あの子たちったら」
弓美が言い終わったとたんステージの明かりが落ち、観客たちが一斉に翼とマリアのカラーのサイリウムを灯らせていく。
リフトの上で専用衣装に着替えたマリアが同じく着替えた翼に問いかける。
「見せてもらうわよ。戦場に冴える、抜身のあなたを!」
「……」
翼の沈黙をもってこれを了承とし、今夜限りのデュエットソングを歌う。それは剣を模したマイクと演出に使われる炎のグラフィックを全部使ったまさに、『剣の舞』であった。
『ありがとうみんな!』
観客たちに手を振り、翼は来てくれたことに感謝を述べる。また一つ熱が上がった。
『私は、何時もみんなからたくさんの勇気を分けてもらっている。だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに少しでも、勇気を分けて上げられたらと思っている!』
歓声が上がり、マリアが続いた。
『私が歌う全部、世界中にくれてあげる!振り返らない、全力疾走だ。ついてこれる奴だけついてこい!』
その宣言は世界中に生中継され、インド人は涙まで流している。
『今日のライブに参加できたことを感謝している。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組んで歌えたことを』
『私も素晴らしいアーティストに巡り合えたことを光栄に思う』
二人は静かに手を差し出し、握手を交えた。
『私達が世界に伝えていかなきゃね、歌には力があるってこと』
『それは、世界を変えていける力だ!』
マリアは翼の手を放し、彼女に背を向けて歩き出しながらマイクに言葉をのせる。
『そして、もう一つ』
「?」
マリアが衣装のスカートを翻した瞬間、ステージの下、客席に無数のノイズが召喚される。
人類の敵、ノイズの出現に観客は逃げまどう。翼は動揺を隠すことが出来ない。
マリアが叫んだ。
『うろたえるなッ!』
その一声で騒ぎ立てられていた観客たちが静まり返った。
ノイズは人を襲うことなくその場に立ち尽くしているだけだ。
動揺は特別席にいる未来たちにも広がっていた。
「アニメじゃないんだよ?!」
「なんでまたこんなことに……」
「響……雷……」
○○○
雷と響、クリスをのせたヘリが現場に急行する。
「了解です。装者三名と共に状況介入までに四十分を予定。事態の収拾にあたります」
通信を切り、装者たちのほうを振り向いた。
「聞いての通りよ。火を置かずの三連戦になるけど、お願い」
友里の言葉に三人は静かに頷く。
クリスがうっとおしそうに言う。
「またしても操られたノイズ!」
「詳細はまだわからないわ。だけど……」
「だけど?」
「ソロモンの杖を狙った襲撃と、ライブ会場に出現したノイズが全くの無関係とは思えない」
「行方不明になったウェル博士と杖の行き先も気になりますしね。あのケース博士しか開けれないはずですし」
暗にウェルが暗躍していることを仄めかしながら発言する雷。
ヘリのモニターには渦中の翼とマリアが映されていた。
翼が自身のギア、それが変化したペンダントを露出させる。
「怖い子ね。この状況にあっても私にとびかかる気を窺っているなんて」
マリアが挑発とも牽制ともとれる発言をする。
「でもはやらないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」
「くッ」
「それに……」
マリアが全世界生中継されてるモニターに目線をやった。
「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアに関する概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ね?風鳴翼さん?」
「甘く見ないで貰いたい。そうとでも言えば、私が鞘走るのをためらうとでもおもったか?!」
翼がマリアにマイクを突きつける。
それを見てマリアが笑った。
「あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ。あなたのように誰もが誰かを守るために戦えたら……世界は、もう少しまともだったかもしれないわね」
「なん……だと……?」
動揺と共に、翼はマイクを下す。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。貴様はいったい……」
「そうね。そろそろ頃合いかしら」
剣のようなマイクを回転させ、世界中に届くように宣言する。
『私達は!ノイズを操る力をもってして、この星のすべての国家に要求する!』
「世界を敵に回しての口上?!コレはまるで……」
それは世界に対しての宣戦布告であった。
『そして……』
マリアはマイクを天高くへと投げ上げ、歌った。
「Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl」
「まさか?!」
二課でも反応が検知される。メインモニターに表示された聖遺物の名を見て弦十郎が叫んだ。
「ガングニール……だとぉ?!」
奏が所有し、響に託した『ガングニール』のアウフヴァッヘン波形を発するギア、即ち、『ガングニール』をマリアが纏う。
その色は響とは異なり紫を基調にした黒、そしてマフラーの代わりにマントがたなびいていた。
あまりのことに翼を始めとした装者たちは驚愕する。
同じギアを纏う響がつぶやいた。
「ガングニール……」
黒いガングニールを纏ったマリアが再びマイクを掴んで宣言した。
○○○
『私は、私達はフィーネ。そう……終わりの名を持つものだ!』
その宣言を、雷は聞いた。聞いてしまった。
体中からは冷や汗が噴き出し、瞳孔が開き切っていて、呼吸も荒くなっている。目からは涙があふれ出てくる。
「フィーネ……?私の……響の……約束が、破られた……?な、なんで?どうして?」
「ッ?!おいお前!しっかりしろ!あいつらがフィーネなわけないだろ?!」
「落ち着いて!了子さんと約束したでしょ?!大丈夫だよ!了子さんは約束を破るような人じゃないって雷も知ってるでしょ?!」
響とクリスが必死に呼びかけるが雷は聞く耳を持たない。さっきから「なんで?どうして?」の繰り返しだ。
彼女の頭の中に家族を殺され、歩んできた過去の恐怖と、約束を破られたことによる怒りと殺意がこみ上げ、ごちゃ混ぜになる。
自らを抱きしめるようにして、体をガタガタと震わせる。
「ッ…………!」
雷は声にならない叫び声を上げた。
G編は雷が最も精神的に追い詰められ、痛めつけられることでしょう。ついでに未来も