戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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もっと表現力が欲しい(泣き)


非現実的な要求

 状況の把握に努める二課指令室に防衛相からの通信が入る。

 モニターにはそばを啜っている老人がいた。

 

「柴田事務次官?!」

『厄ネタが暴れてるのはそっちだけじゃなさそうだぜ。少し前にさかのぼるがな』

 

 柴田はそばを啜りながら新たなる敵、武装組織フィーネに関するであろう情報を弦十郎に話し始めた。

 曰く、米国の聖遺物研究機関でトラブルが発生し、今まで解析してきたデータがだめになったばかりか保管していた聖遺物までもが失われた。と言うのだ。

 

「こちらの状況と連動していると?」

 

 柴田はそばを啜りながら弦十郎の言葉を肯定する。食事しながらの連絡だが、次官としての腕は確かだ。

 

○○○

 

 黒のガングニールを纏ったマリアは、カメラが向けられていて翼がギアを纏えないことを良いことにマイクで要求内容を告げる。

 

『我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだなぁ……差し当たっては、国土の割譲を求めようか!』

「馬鹿な……」

 

 翼の発言を無視してマリアは続ける。

 

『もしも二十四時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろう……』

 

 各国の首脳たちの反応は千差万別。慌てるものもいれば、断固たる態度で受け止めている者もいる。

 

「何処までが本気なのか……」

 

 マリアが翼のほうを向いた。

 

『私が王道を敷き、私達が住まうための楽土だ。素晴らしいと思わないか?』

 

 その様子を見ていた柴田が鼻で笑いながら言う。

 

「しゃらくせえなぁ、アイドル大統領とでも呼べばいいのかい?」

 

 ともにそれを聞いていた二課のオペレーター、藤尭が現実的な意見を述べる。

 

「一両日中の国土割譲なんて、まったく現実的ではありませんよ!」

 

 藤尭の言葉を聞きながら組織のトップとして柴田に告げる。

 

「急ぎ、対応に当たります」

『おう。頼んだぜ』

 

 柴田からの通信が切れ、新たに友里からの通信が入った。

 音声の中に錯乱した雷の叫び声が介入している。

 

「どうした?!」

『彼女たちがフィーネと名乗ったことによって……』

「雷くんの精神が不安定になったか……」

『はい……』

 

 状況から雷に関することだと推測し、友里に鎮静剤を打つことを許可する。コレは雷のために用意されたもので、もしものために持たされていたのだ。

 しばらくして雷の叫び声が静まり、同乗している響とクリスの「よかったぁ」という安堵の声が聞こえてきた。

 これからの事を友里に伝える。

 

「現場に到着するまでに安定していれば任務に投入、不可能だと判断すれば外しても構わん」

『了解しました』

 

 通信が切れる。

 

(家族と未来をフィーネによって奪われたのだ。こうなっても仕方がない……か)

 

 弦十郎は雷の置かれている状況を黙って案じた。

 

○○○

 

「何を意図しての語りか知らぬが……」

「私が語りだと?」

 

 翼が静かに言う。

 マリアはそれを挑発と取ったようだ。

 

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるようなものではないと覚えろ!」

 

 天羽々斬を纏うために歌い始める翼だったが、それはインカムから入ってくる緒川の忠告によって止められる。

 

『待ってください翼さん!』

「っ?!」

『今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまいます』

「でも、この状況で!」

 

 今すぐにでもマリアを止めたい翼と、装者だとバレるのを避けたい緒川の意見。周りが見えなくなっている彼女を緒川がなだめる。

 

『風鳴翼の歌は!戦いの歌ばかりではありません。傷ついた人を癒し、勇気づけるための歌でもあるのです』

 

 その言葉に翼は落ち着きを取り戻し、顔を引き締めて正面からマリアを見据える。

 

「確かめたらどう?私の言ったことが語りなのかどうか」

 

 二人の間の静寂が訪れる。

 

「なら……」

 

 その拮抗状態を破るべく、マリアが観客たちに告げた。

 

『会場のオーディエンス諸君を開放する!ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!』

「何が狙いだ?」

 

 自ら有利な状況を放棄した彼女に対し、翼は何か裏があるのでは?と勘繰る。

 

「ふん」

『何が狙いですか?こちらの優位を放棄するなど、筋書にはなかったはずです。説明してもらえますか?』

 

 ギアに搭載された通信機から老いた女性の声が聞こえてきた。声の主が如何やらこの事件の首謀者のようだ。

 

「このステージの主役は私……。人質なんて、私の趣味じゃないわ」

『血に汚れることを恐れないで。……はぁ、調と切歌を向かわせています。作戦目的をはき違えないようにおやりなさい』

「了解マム。ありがとう」

 

 マリアが女性との通信を切った。

 観客たちの避難は順調に進み、残すは世界中にこの様子を中継しているカメラを止めるだけとなった。

 雷と響を待っていた未来も、友人たちに促されて特別席を後にする。

 ステージに向かうヘリの中で響たちは現状を聞かされる。

 

「よかった!じゃあ観客に被害は出てないんですね?!」

 

 少しうつろな状態の雷も響に膝枕してもらいながらその報告を聞いて頬を緩ませる。彼女は鎮静剤の副作用によって筋肉が軽く弛緩し、力が入らない状態になっているのだ。この副作用は体調にもよるが、基本的に五分ほどで抜けるようになっている。

 現在二課ではもう一振りの撃槍、ガングニールの詳細を調査しているようだ。

 

○○○

 

 緒川は翼を映すカメラを止めるために制御室へと駆けていた。

 

(今翼さんは、世界中の視線にさらされている……。その視線の檻から、翼さんを解き放つには……)

 

 すると緒川の視界の端、階段を上った先に手をつないで物陰に隠れる少女達の姿がチラついた。

 逃げ遅れたのか、怖いもの見たさで隠れている子供だろうと緒川は避難を促すために優先順位を変えて階段を上る。

 

「やっべ。あいつこっちに来るデスよ?!」

「いざとなったら、切ちゃん」

 

 黒髪をツインテールにした小柄な少女が、表情を変えぬまま胸元からシンフォギアのペンダントを取り出す。それを「切ちゃん」と呼ばれた金髪の少女が慌てて引っ込めさせる。

 

「ふわはっは?!調ってば、穏やかに考えれないタイプデスかぁ?!」

「どうかしましたか?」

「ふえっ?!」

 

 調と呼ばれた少女の胸元にペンダントをしまい切った瞬間、彼女たちにとってはギリギリのタイミングで緒川が声をかけてきた。

 

「早く非難を!」

「うわぁ!ええっとデスね……」

「ジ――……」

 

 ツインテールの少女、調が緒川を黙って見つめるのを金髪の少女、切ちゃんこと切歌が笑顔を取り繕いながら遮る。

 

「この子がぁ!急にトイレ、とか言い出しちゃって「ジ――……」……ってデスね。あははは……「ジ――」参ったデスよぉ」

「え?」

 

 調が避けて緒川を見つめ続けるのを何とか遮る。その動きは明らかに不自然だった。

 緒川は避難誘導のために少女たちに提案する。

 

「あぁ、じゃあ用事を済ませたら非常口までお連れしましょう」

「心配無用デスよ~!ここらでちゃちゃっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

「分かりました。でも、気を付けてくださいね?」

 

 少女たちを信じて、緒川は自身の本来の目的のために再び制御室へ向かった。

 

「あ、はいデス~……ハァ、何とかやり過ごしたデスかね……」

 

 緊張が解けたのか切歌が肩をがっくりと落とす。後ろから調が「ジ――」っと今度は切歌のことを見つめ続ける。

 

「どうしたデスか?」

「私、こんな所で済ませたりしない……」

「さいデスか……」

 

 どこかズレている調の言葉に、切歌はさらに肩を落とした。

 少し呆れながら切歌は続ける。

 

「まったく、調を守るのは私の役目とは言え、毎度こんなんじゃ体が持たないデスよ?」

「いつもありがと。切ちゃん」

 

 切歌は調の肩を叩いて連れ添って歩き出した。

 

「それじゃっ、こっちも行くとしますデスかね!」

 

 二人はマリアのもとに向かうためにアリーナの奥へと向かっていった。




武装組織フィーネってかなり行き当たりばったりな気がする。
こんな組織、どこかで見たな……(家にあるガンダム・バエルの姿を見ながら)

……そしてそんな組織をフィーネが率いてるはずがないのに『フィーネ』という名前だけで怒りと恐怖のあまり頭が回らなくなる雷さん


鎮静剤

 雷のために用意された専用の鎮静剤。『雷帝顕現』は強烈な負の感情が発動トリガーになるのだが、これは強力だが三分感しか使えない、発動後しばらく意識を失ったままという強大なデメリットがあるため、戦略的に頭を悩まされていた。
 その解決策として用意されたのがこの薬である。
 この薬には五分間の筋肉の弛緩と十分強ほどの思考の鈍化という副作用はあるが、感情を落ち着かせることで発動を阻止する。(発動後行動までにタイムラグがあるため、そこを突く)そのおかげで歌えないためギアの出力こそ下がるものの、解除はされない。
 『雷帝顕現』が発動しかけた時、もしくは何かの理由で雷が錯乱した時に使用される。
 ギアが消失して装者が失われるという最悪の結末を回避することが出来、副作用も対ノイズ戦においてギアを纏ったままなので気にする必要はなく、思考が鈍るのも行動に問題ない程度である。

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