戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
シンフォギア、いい最終回だった……。
雷の最終設定を変更せずに最終回まで行けそう。
無人となったアリーナを一陣の風が吹き抜ける。
マリアは観客席のほうを向き、翼はそんな彼女を警戒し続ける。
「帰るところがあるというのは、羨ましいものだな……」
「マリア……貴様はいったい……」
マリアが翼のほうを向く。
「観客はみな退去した。もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないということは、それはあなたの保身のため。あなたは、その程度の覚悟しかないのかしら?」
覚悟の決まりきったテロリストの言うことだ、聞き流せばいいものを翼の防人としてのプライドがそれを拒絶する。
自らの存在を主張するかのようにペンダントが煌めいた。
マリアはガングニールのアームドギアを抜かず、剣を模したマイクを構え、翼に斬りかかる。
「フッ!」
ギアの有無というハンディキャップを追いながらも、剣を扱うものとして翼は互角の立ち回りを演じる。
しかし、ギアを纏うマリアはマントをブレードのように扱い、翼のマイクを切断する。翼はギリギリのところでそれを回避し、バク転で距離を取った。
もう使えないマイクを翼は投げ捨てる。
二課のヘリでもそれは確認されていた。
雷を膝枕しながら叫ぶ。
「中継されてる限り、翼さんはギアを纏えない!」
「おい!もっとスピード上がらないのか?!」
「あやくひあないとまにああない!(早くいかないと間に合わない!)」
雷は鎮静剤の副作用がまだ抜けきっておらず、話すことは出来ても言葉が舌足らずになってしまう。
クリスの怒鳴りに友里が答えた。
「あと十分もあれば到着よ!」
響が雷の手を強く握りしめる。
モニターには剣を失ったとしてもマリアの攻撃を回避し続る翼の姿が写っていた。
「つばひゃひゃん、やっぱりしゅごい……(翼さん、やっぱりすごい)」
ギアがなくともマリアと互角に戦っている翼を見て雷が感服する。が、カメラから一瞬姿が写らなくなったと思ったその時、マリアの攻撃を喰らったのかノイズのいる客席に吹き飛ばされていた。
ノイズがゆっくりと翼の落下地点へと向かう。
「翼さーんッ!」
「ッ!」
響が絶叫する。
その目には涙を浮かべていた。その一滴が雷の頬に落ちる。
「翼さんが、歌を捨てるつもりで……」
『聞くがいい!防人の歌を!』
音声として拾えるほどの声量で翼が宣言した。その瞬間、中継されていたすべての映像が消失する。
響がモニターを掴んでガタガタと揺する。
「えぇ~?!なぁんで消えちゃうんだよぉ!翼さん!翼さぁーん!」
「現場からの中継が遮断された?!」
「おがやさんがやったんらよ!(緒川さんがやったんだよ!)」
雷の副作用もだんだんと抜けてきている。言葉がしっかりとしてきた。
クリスが我が意を得たり、というようにこぶしを手のひらに打ち付ける。
「てことはつまりぃ……?」
「ええ!」
「え?えぇ?」
理解できていない響に膝の上から簡潔に響に伝える。
「ぎあがまとえるようになったんだよ、ひびき」
「なるほどぉ~!」
○○○
意を決した翼が歌う。
「Imyuteus Amenohabakiri Tron」
シンフォギアが翼の着ていた衣装を分解し、その際に発生したエネルギーバリアが真下にいたノイズを塵へと変える。
蒼き剣のシンフォギア『天羽々斬』を翼が纏い、位相差障壁からノイズを無理矢理引きずり出しながら剣による斬撃で次々と両断していく。
当然、雷や響と同じくXDモードの影響でロックが外れ、少し形が変化している。
翼の剣が大剣へ姿を変えた。
『蒼ノ一閃』
ロックが外れたことで強化された一閃がノイズの群れを切り裂く。
さらに翼は逆立ちのまま開脚し、両足のブレードを展開してコマのように回りながらノイズを殲滅する。
『逆羅刹』
マリアが異常に気付いた。
「中継が中断された?!」
間一髪で緒川が間に合ったのだ。
肩で息をしながら二課のエージェントとして、翼のマネージャーとして言う。
「シンフォギア装者だと世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、風鳴翼のマネージャーとして許せるはずがありません!」
すべてのノイズを殲滅した翼はマリアの待つステージに舞い戻り、剣を構える。
二人の装者がにらみ合う。
先に動いたのは翼だ。
「いざ!押してまいる!」
翼の連撃をマリアは舞うように回避する。彼女のマントによる攻撃を翼は剣で払うがそれでも止まることなく攻撃が入る。
翼は何とか逆手でマントを弾き、その衝撃で距離を取った。
一連の動きで確信する。
「このガングニールは、本物?!」
「ようやく御墨をつけてもらった。そうだ。これが私のガングニール。何物をも貫き通す、無双の一振り!」
マントを刃のように振るい、それを翼は受け止めていく。
「だからとて!私が引き下がる通りなど、ありはしない!」
『マリア。フォニックゲインは現在、二十二パーセント付近をマークしています』
(まだ七十八パーセントも足りてない?!)
再び聞こえてきた女性の声にマリアが動揺する。
そしてそこを見逃すほど防人たる翼は甘くない。マリアの攻撃を弾き、両大腿部から二本の両刃剣が射出され、それを受け止める。
「私を相手に気を取られるとは!」
両の刃を連結させた瞬間、刃が炎を纏い、それを翼は高速で風車のごとく振り回す。印を結び、脚部と腰部のブースターを点火してマリアに高速で炎の一撃を与えた。
『風輪火斬』
「話はベッドで聞かせてもらうッ!」
もう一撃を加えようとしたその時、空から無数ののこぎりが翼を襲った。それをギリギリで防ぐ翼だがその攻撃を放った者、ピンクのギアを纏ったツインテール少女、調が追撃をかける。
『α式・百輪廻』
翼の動きを固定させ、その背後から緑のギアを纏い、大型の鎌を構えた金髪の少女、切歌が出現する。彼女は鎌の刃を分裂させ、ブーメランのように投擲する。
「行くデス!ハァッ!」
『切・呪りeッTぉ』
その場に固定されていた翼に死角からの挟撃は対応出来ず、ダメージを追ってしまう。
少女たちはマリアのもとに並び立つ。
「危機一髪……」
「まさに間一髪だったデスよ!」
翼が体を起こしながら驚愕する。それは姿を見ていた緒川も同様だった。
「装者が……三人?!」
「あの子たちは、さっきの?!」
不敵な笑みを浮かべながらマリアが翼に歩み寄る。
「調と切歌に救われなくても、あなた程度に後れを取る私ではないんだけどね?」
「貴様みたいなのはそうやって……!見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」
「上か!」
ヘリから雷を除く装者たちが真上から攻撃を仕掛ける。
クリスがガトリング砲を作り出し、空中から弾をばら撒いて先制攻撃を行う。
「土砂降りのぉ!十億連発!」
『BILLION MAIDEN』
調と切歌は左右に散会することで真上からの弾丸を回避し、マリアはマントをシールドにすることでそれを受け止める。
続いて響の繰り出した拳を回避する瞬間にマントで一撃を繰り出す。しかし、響はそれを翼を抱きかかえて回避しながら距離を取る。
三対三、両者が並び立ち、相打つ形となった。
雷が居ないことが気になった翼が響に尋ねる。
「立花。轟はどうした?」
「雷はフィーネの名前を聞いて、その……」
「そうか……」
「様子を見て、どうか決めるみたいですけど……」
雷はヘリの中でヘッドホンを装着して響たちの状況を把握しながら、副作用の一つである筋肉の弛緩が抜けたことで行動可能かどうかを確認していた。相手がフィーネの名を冠していることによる錯乱は鎮静剤のおかげで緩和されているが、もう一つの副作用の思考の鈍化は抜けていない。
『やめようよこんな戦い!今日であった私達が争う理由なんてないよ!』
「外れたとはいえ一発殴っておいてそれはどうかと思うけど……。響らしいや」
ヘッドホンから入ってくる響の声を聴いて、雷が頬を緩ませた。
『そんな綺麗ごとを!』
『へ?!』
『綺麗ごとで戦うやつの事なんか、信じられるものかデス!』
クリスの時のように真っ向から否定される響の言葉。
『そんな。話せばわかり合えるよ!戦う必要なんか……』
『偽善者……!この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる……!』
ピンク色のギアを纏う少女、調の発言を聞いて雷の中で何かが切れた。
雷は無表情のまま友里に耳に当てていたヘッドホンを手渡す。
「大丈夫みたいなので……行ってきます、友里さん」
「あ!ちょっと!」
装者同士の激突に備えるために、響達が降下した時よりも高く飛んでいたヘリから、雷はギアを纏いながら飛び降りた。
F.I.S.組、最も怒らせてはならない人の逆鱗に触れるの巻。
雷が降下し切るころには思考の鈍化は抜けています。
鎮静剤の効果で『雷帝顕現』こそ発動しないものの、高度な先読みと彼女自身の戦闘センス、弦十郎流格闘術を組み合わせたモノを真っ向から受けてしまう羽目に……。
雷、キレた!!