戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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雷無双?


建前で心に言い訳を

 調が響に対して嫌悪感を吐き出し、ツインテール部分に装着されたアームドギアから無数の小型鋸を射出しようと構えた瞬間、空が極光に包まれた。

 思わずその場にいた装者全員が頭上を見上げる。

 それは稲妻を迸らせながら降来する竜だった。マリアは思わず叫ぶ。

 

「ドラゴン?!」

「お前がご執心だった稲妻だ!」

 

 竜はその咢を開き、その体内からローレンツ力によって加速された雷が叫びながら神速の跳び蹴りを放つ。

 

        『雷竜降咢撃』

 

 受け止めることが出来る威力ではないと判断したマリアと切歌、調は全速力でその場から離脱する。雷の蹴りがステージへと突き刺さった。

 マリア達の判断は正解と言えた。攻撃の着弾地点は崩壊し、さらにその周囲を雷竜の咢がその熱と破壊力で焼き噛み千切ったのだ。

 

「雷!大丈夫なの?!」

 

 雷は響の声をあえて無視して攻撃の威力に動揺しているマリアの懐に侵入する。これまでの会話を聞いて彼女が頭だと判断し、斬首戦術を行う。

 

「お前は響の背中を押したはずだ!なのに偽善者と吐き捨てるのかッ!」

「何を言って……ッ?!」

 

        『雷刃抜拳・桜花』

 

 速攻で懐に潜り込んだ雷の攻撃に対応し、マントで稲妻の拳を受け止める。しかし、衝撃までを受け止め切ることが出来ず、ステージ奥のモニターに吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐぅッ!!」

「マリア?!」

「よくもマリアを!喰らえデス!」

 

 切歌が自身のアームドギアである鎌の刃を分裂させ、ブーメランのように投擲する。

 

        『切・呪りeッTぉ』

 

 二振りの刃が雷を挟み込むように襲い掛かる。が、拘束されてもいないのにそれを悠長に待つようなことはせず、調の対角線上になるように切歌に突撃する。

 調の得意射程は中遠距離、切歌は中近距離を得意としている。

 そのため調からの場合なら近距離担当の切歌が介入できるが、逆の場合は調が切歌に対して誤射をする可能性から介入できないのだ。

 さっきまで雷が居た場所に鎌の刃が突き刺さった。

 

「雷やめて!私達は戦っちゃダメなんだ!」

 

 響の叫びは『響のために』戦っている雷の耳には届かない。

 

「誰かのために戦って、未来を勝ち取った響を馬鹿にするなぁぁッ!」

 

 右足と腰のユニットが起動し、三日月型の電光を放ちながら切歌の意識を刈り取るべくハイキックで顎を狙う。

 

        『雷刃抜拳・滅神』

 

「そんな見え見えの攻撃、当たらないデェス!」

 

 切歌はニヤリと笑うと鎌の柄を使って防御姿勢をとる。これで少なくとも意識が刈り取られることはないと高をくくっていた。彼女は知らないのだ、雷という少女が自分へのダメージを負うことにまったく考慮していないということを。

 雷の蹴りが柄によって防がれそうになった瞬間、その一撃は踏ん張っていた切歌の左大腿部に落下した。急なコース変更に彼女の足の筋肉が耐えきることが出来ず、ぶちぶちと嫌な音を立てた。

 

「グギッ?!」

「ッ!」

 

 その一撃を受けて切歌は自らの体を支えることが出来ず、鎌を杖代わりにして膝をついている。

 雷は自身の体内から感じる肉のちぎれる感覚と痛みを歯をくいしばって耐え、ほぼ使い物にならない右足を基点にして体を回転させ、膝をついて顔の位置が下がった切歌の顎を後ろ回し蹴りで打ち抜く。

 

「切ちゃんッ!」

 

 調が叫ぶも、当然のごとく切歌は意識を失った。

 雷は動かない右足を引きずりながら調のもとへと歩を進める。彼女の怒りと憎しみ、そして恐怖の入り混じった表情から調は目を離すことも、足を動かすこともできない。

 攻撃を避けることすらできないように見えるにもかかわらずだ。

 

「調はやらせないッ!」

 

 戦線に復帰したマリアが雷と調の間に立ちはだかった。

 激痛のあまり冷や汗を流しながら雷は光の抜け落ちた金の双眸でマリアを睨みつける。それは憎悪をぶつけているようにも、敵わない敵に対する最後の抵抗をしているようにも見えた。

 それを知ってか知らずかマリアは調に指示を出す。

 

「調、今のうちに切歌を回収しなさい。マムから引き上げ命令が出たわ」

「了解ッ……!」

 

 調が悔しそうに歯を食いしばりながら切歌のもとに駆け寄り、抱きかかえる。

 その瞬間、アリーナの中心から増殖分裂型ノイズが出現した。

 

「何あのでっかいイボイボ?!」

 

 響がこぼす。それは、今まで見たことが無いほどの異形の姿だった。

 睨みつけるだけの雷の目の前でマリアは両腕のガントレットを連結させ、ガングニールを象徴する槍のアームドギアを構築する。

 

「アームドギアを温存していただと?!」

 

 その矛先を雷にいったん向け、そしてノイズのほうへと向けた。

 雷の体がびくりと跳ねる。

 そしてその矛先が展開し、ノイズに向けてエネルギー砲を発射した。

 

        『HORIZON†SPEAR』

 

 その砲撃をまともに喰らったノイズは爆散し、その破片をアリーナ中にばらまいていく。

 

「おいおい!自分たちで出したノイズだろ?!」

 

 その際に発生した閃光を目くらましにマリアと切歌を抱きかかえた調が撤退する。

 

「待て!逃げるなッ!」

 

 顔を青くし、立っていることすらギリギリの雷が叫ぶ。が、そんなことを聞く彼女たちではなく、小さく調が「絶対に許さない……」と言ったのが聞こえてきた。

 

「せっかく温まって来たところでしっぽを巻くのかよ」

「っ?!ノイズが?!」

 

 周囲を見渡して響が叫んだ。何故ならバラバラになったはずのノイズはその状態のまま増殖し、さっきまでよりも大きくなっているのだ。

 

「ハッ!」

 

 翼が大剣に変形させて攻撃するが、さらに切り口から分裂し、増殖する。

 

「こいつの特性は増殖分裂」

「ほおっておいたら際限ないってわけか……。そのうちここからあふれ出すぞ?!」

 

 制御室に残っていた緒川から装者たちに通信が入る。その声は焦りに満ちていた。

 

『皆さん聞こえますか?!会場のすぐ外には、避難したばかりの観客たちが居ます!そのノイズをここから出すわけには……』

 

 響の頭の中に未来や友達の顔が思い浮かぶ。

 

「観客?!みんなが……」

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ……」

「どうすりゃいいんだよ?!」

 

 答えが出ないことに焦りが募る。

 そんな時に響が最後の手段を提案した。

 

「絶唱……絶唱です!」

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ?!」

 

 響のとっておきにクリスが苦言を呈する。

 

「うん」

 

 響が小さくうなずいた。

 

「増殖力を上回る破壊力を持って一気殲滅。立花らしいが、理にはかなっている」

「オイオイ本気かよ?!」

 

 その間にもノイズは増殖を繰り返し、体の一部を破裂させて個体数を増やしていく。

 どうこう言ってはいられなくなった。

 

「雷!とっておき、やるよ!……雷?」

 

 響が雷を呼ぶが反応がない。

 彼女は膝から崩れ落ち、自らを抱きしめるようにして震えだした。

 

「まさか、鎮静剤が切れたのか?!」

「ウソだろこのタイミングでかぁ?!」

 

 翼の言う通り雷に打ち込まれた鎮静剤の効果が切れたのだ。

 いや、効果は最初から切れていた。恐怖で折れそうな心を響を罵ったことに対する怒りで支えていたのだ。が、調の一言でその支えも折れ、今の彼女の思考はフィーネに対する恐怖で埋め尽くされている。

 

「三人でやるしかない……!行きます!S2CA・トライバースト!」

 

 三人の装者は手をつなぎ、絶唱を響が束ね、調律する。雷が動けない今、最大威力のペンタストライクは使えない。三人で行けるのか、それが不安要素だった。

 絶唱の威力が収束し、三人を輝きが包む。

 

「スパーブソングッ!」

「コンビネーションアーツッ!」

「セットッ!ハーモニクスッ!」

 

 バラバラだった絶唱が響の手をつなぐ力、束ねる力のもとに一つの絶唱となる。

 その余波だけでノイズがはじけ飛んでいく。

 響を離さないよう、握る手の力を強くした。

 

「耐えろ、立花!」

「もう少しだッ!」

 

 絶唱が放つエネルギーがアリーナの外まで漏れ出ている。

 

「響……雷……」

 

 未来は中で戦っている二人の親友の無事を祈る。

 ノイズの肉をすべてそぎ落とし、本体が露出した。

 

「今だ!」

「レディッ!」

 

 響のギアの各部装甲が解放され、ガントレットを組み合わせることで絶唱のエネルギーを収束させる。

 内部のドリルユニットが回転し、エネルギーを加速していく。

 

「ぶちかませぇ!」

「これが私達のぉ!絶唱だァァ!」

 

 腰のブースターを点火し、骨のような姿になった分裂増殖型ノイズにアッパーカットをきめる。

 大型化したガントレットに搭載されたブレードが展開し、ドリルユニットと高速回転し始める。そしてバンカーユニットが起動し、竜巻のように高速回転する三人分の絶唱を一気に叩きこんだ。

 渾身の一撃は雲を裂き、ノイズを完全に消滅させる。

 その一部始終をマリア達は見ていた。

 

「綺麗……。見える?切ちゃん……」

「こんな化物もまた、私達の戦う相手……」

 

 気絶し、調に抱きかかえられた切歌を一瞥し、苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。

 

 ノイズの塵だけとなったアリーナで響は崩れ落ちてしまう。脳裏に偽善者と自分のことを罵った調の姿がよぎる。

 そんな響のもとにクリスが、恐怖に震える雷には翼が駆け寄る。

 武装集団フィーネとの最初の戦いは、二課の装者二人の心にとてつもなく大きな傷を叩きつけたのだ。

 

○○○

 

 彼女たちの様子をアリーナの裏で人影が動いた。

 ソロモンの杖を保有し、英雄になろうとする白衣の男、ウェルの口が歪な笑みを浮かべていた。




奇襲に強襲、斬首戦術を組み合わせるエグさ
折れそうな心を響を罵倒したから、という建前で支えている雷さん。自分を蔑ろにしたので指令からのお叱りものですね。

つばクリが参戦しなかったのは雷の奇襲に彼女たちも驚いてるからです。(本音を言えば雷単騎でやらせたかったのと、私の文章力のなさゆえにです)
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