戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
響の腕パックンチョまでは原作通りに進みます
潜水艦内に設営された仮設二課では、依然フィーネの行方を追っていた。ライブ会場襲撃事件から今日で一週間になる。
藤尭がキーボードをタイプしながら言葉をこぼした。
「ライブ会場襲撃から今日で一週間ですね……」
「ああ、何もないまま過ぎた一週間だった」
弦十郎も同調する。
友里は入手した情報を確認するように述べる。
「政府筋からの情報では、その後フィーネと名乗るテロ組織の一切の恣意行動や、各国との交渉も確認されていないとのことですが……」
「つまり、連中の狙いはまるで見えて来やしないということだ」
フィーネが行動を起こさないため、分かっている情報は一週間前のままなのだ。
「傍目には、派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめたくらいです。おかげで、我々二課も即応出来たのですが……」
「ことをたくらむ輩には、似つかわしくないやり方だ。案外、狙いはそのあたりだろうが……」
『風鳴指令』
「お?」
今この場にいない緒川から通信が入ってきた。
彼は様々な手掛かりを自らの足で探っていたのだ。
「緒川か。そっちはどうなってる」
『ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが……』
通信に無数の怒号が入っているあたり、ヤクザの事務所か、それに類するところにいるのだろう。緒川は銃や短刀を向けられていながらも、落ち着いた声色で調査結果を報告し始める。
『「この野郎!」たどり着いたとある土建屋さんの出納帳に「こいつ忍法を使うぞ?!」架空の企業から大型医療器具や医薬品、計測機器が「体が動かない……?!」大量発注されている痕跡を発見しまして』
「ん?医療機器が?」
弦十郎が顎に手を当てて引っ掛かったワードを追求する。
『日付は、ほぼ二か月前ですね。反社会的なこちらの方々は、資金洗浄に体よく使っていたようですが……』
事務所の金庫から目的の書類を取り出し、弦十郎に報告する。
彼が無事に連絡できているあたり、反社会的な方々がどうなっているのかなど、言うまでもないだろう。
『この記録、気になりませんか?』
「ウーム……。追いかけてみる価値はありそうだな」
フィーネに対する最初の切り口が決まった。
○○○
フィーネとの戦いにおいて崩壊したリディアンであったが、廃校になった学校を政府が買い取ったことで新生することとなった。
生徒数も六割程度まで減少しているものの、徐々に混乱も収まっており、今では新生活の活気が見え始めている。
学校の一室。そこで雷は響と未来に挟まれ、前と変わらぬ席配置になっていた。が、雷は天井を見上げ、響は窓の外を見つめてとそれぞれ上の空だ。
(武装組織フィーネの連中にあってから一週間、あれから毎晩同じ夢を見る……)
名前も顔も覚えていない同年代の少女たちに囲まれて笑い合う幼い自分。何度その夢を見ても彼女たちが誰なのかが思い出せないでいた。
恐らく年下の二人組からは姉扱いされていたが、直接呼ばれでもしない限り分かることはないだろう。
最近ではそれが悪夢のようにも感じられ、あまり眠れていないために目の下にはうっすらと隈が出来ている。
(手口からしてフィーネじゃない……。頭ではわかってるんだけど……)
心がわかってくれない。
フィーネによって与えられた大切なものを失う恐怖、それによってゆがめられた自身の未来。心に植え付けられた潜在的な恐怖が理性で分かっていても抑えられない。
事実、あの日以降大きな物音や、何かしらの悲鳴を聞くたびに体がすくみ上るか響や未来、雷の思う大切なものの盾になる行動をとってしまう。
「「はぁ……」」
雷と響がそろってため息をつき、一週間ずっとそんな調子の二人を未来が心配そうに見つめる。
先生が雷たちの席まで歩いてきた。
「響、雷……!二人とも……!」
未来が小声で気付かせようとするが二人の耳に届くことはない。
ついに先生が目の前にまでやってきていた。
「立花さん……轟さん……。何か悩み事でもあるのかしら?」
「はい……とっても大事な……」
「どうしたらいいのか……よくわからなくて……」
「秋ですものねぇ……。二人にもきっと思うことがあるんでしょう……。例えば私の授業よりも大事な」
「へ?あれぇ?」
「あっちゃぁ……」
先生の『授業』というワードでようやく二人が現実に引き戻される。
教室一帯に微妙な空気が広がっていった。
「新校舎に移転して、三日後に学祭も控えて、誰も皆新しい環境であたりしい生活を送っているというのに。立花さんときたら相も変わらずいつもいつもいつもいつも……」
段々と勢いが悲壮感を帯びていく。
響がいきなり立ち上がった。
「でも先生!こんな私ですが、変わらないでいてほしいと言ってくれる心強い友達も、案外いてくれたりするわけでしてぇ……」
「プッ!ックックック……」
まるで見当違いの言い訳をする響を見て雷が噴き出し、肩を震わせる。
先生が矛先を雷に変えた。
「轟さん?!」
「は、はい!」
「あなたの頭の良さは私も認めているところです。正直なところあなたの成績は間違いなくトップでしょう……。ですが!授業を怠けていいわけではないのですよ?!」
「すみませんでしたぁ!」
装者として戦い始めた最初のほうこそいきなりの二足のわらじで成績が下がっていたが、慣れてきたのか最近は点数を戻し、学年どころか学校でトップの成績を誇っているのだ。
因みに今の授業は雷曰く、寝てても満点を取れるらしい。
「……ばか」
叱られている二人を見て未来が小さくつぶやいた。
○○○
武装組織フィーネは現在、地下のとある施設を拠点にしていた。一週間がたち、切歌の怪我もすでに治っている。
シャワールームで調と切歌の二人がシャワーを浴び、切歌が調に話題を振っているが反応がない。
「でね!信じられないのは、それをご飯にざっばーっとかけちゃったわけデスよ。絶対におかしいじゃないデスか!そしたらデスよ?……まだ、あいつらの事……デスか?」
二人が思い返すのは響の事。そしてどこかで聞いた事のある声と名前、見たことのある顔をした少女、雷の事だった。
「何も背負ってないあいつが、人類を救った英雄だなんて。私は認めたくない」
「うん……本当にやらなきゃいけないことがあるなら、たとえ悪いと分かっていても背負わなきゃいけないものだって……」
そう言ってシャワーの元栓を閉じ、調は思いっきり壁を殴りつける。
その表情は怒りにあふれていた。
「困っている人たちを助けるというのなら、どうして……」
切歌は黙って調の壁を殴った方の手を優しく包み込む。
「あず姉ちゃんもどこかであたしたちを見ていてくれてるはずデス」
「うん……。あず姉さんとの約束、まだだしね」
二人はにっこりと笑い合う。今はもう、記憶の中の彼女のことは自分たちの呼んでいた愛称以外覚えていない。
「そうね。彼女との約束を守るためにも、迷って振り返ったりする時間なんて、残されていないのだから」
マリアがシャワーを浴びながら諭すように呟く。
その瞬間、アラートと共に施設内の隔壁がとてつもない勢いで起動し、完全聖遺物ネフィリムを完全に隔離する。
それを起動させたナスターシャがため息をつきながらモニターに表示されているネフィリムを見る。
(あれこそが伝承にも絵がかれし共食いすらいとわぬ飢餓衝動……。やはりネフィリムとは、人の身に過ぎた……)
「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産……とかなんとか思わないでくださいよ?」
暗闇の中から白衣の男、ウェルが姿を現す。
「ドクターウェル……」
構わずウェルは続ける。
「たとえ人の身に過ぎていても、英雄たるものの身の丈にあっていれば、それでいいじゃないですか」
そう言い終わった瞬間、ドアが開いて簡単なものを着たマリア達が駆け付ける。
「マム!さっきの警報は……っ!」
マリアはウェルがいることに顔を顰める。
「次の花は未だつぼみゆえ、大切に扱いたいものです」
「心配してくれたのね?でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ、隔壁を下ろして食事を与えているから、じきに納まるはず」
衝撃が施設を揺らす。
「な!……マム!」
「対応措置は済んでいるので大丈夫です」
「それよりも、そろそろ視察の時間では?」
「フロンティアは計画遂行のもう一つの要……。起動に先立って、その視察を怠るわけにはいきませんが……」
ウェルが何かたくらんでるのを疑うほどの満面の笑みを浮かべる。
「こちらの心配は無用。留守番がてらにネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ」
「では、調と切歌を護衛につけましょう」
「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」
彼の発言は理にかなっており、ナスターシャもそれに目を細めて同意する。
「分かりました。予定時刻には帰還します。あとはお願いします」
車椅子を操作し、マリア達と共にラボを後にする。
(さて、まいた餌に獲物はかかってくれるでしょうか……)
ドアが閉じた瞬間、ウェルがゆがんだ笑みを浮かべた。
忘れた記憶が吉と出るか凶と出るか……。あ、しっかりとどうなるのかは考えているので大丈夫です。