戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
因みに雷の適合係数は作中一位のクリスの一個下だったりします。
夕暮れ時、リディアンの校舎内でクリスは逃げ回っていた。もしも捕まってしまえば一巻の終わりだ。
曲がり角にて、走っていたせいか急に止まることもできず、そこを紙袋を抱えて歩いていた生徒とぶつかってしまう。
「わき見しつつ廊下を駆け抜けるとは、あまり感心できないな……」
そのぶつかってしまった生徒とは翼だった。
「雪音。何をそんなに慌てて……」
「奴らが……奴らに追われてるんだ……もうすぐそこにまで!」
「何?!」
クリスの言葉を信じると、状況はかなり切迫しているようだ。聞こえてきた足音に反応してクリスが壁の影に逃げ込む。
身構える翼だったが三人の生徒が走っていったぐらいだ。
「?……とくに不審な輩など見当たらないようだが……」
「そうか……うまく撒けたみたいだな……」
クリスは安堵の溜息をつくが翼は何が何だかよくわかっていない。
追っ手とはだれの事なのか、クリスに質問する。
「奴らとは、一体?」
「あぁ、なんやかんやと理由をつけて、アタシを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」
遠くからクリスを探す声が聞こえてきた。
翼はぶつかった拍子に落としてしまった道具を紙袋にしまいながらクリスの話を聞く。
「フィーネを名乗る武装集団が現れたんだぞ。あたしらにそんな暇は……って、そっちこそ何やってんだ?」
今度はクリスが翼に問いかける番だ。
「見ての通り、雪音が巻き込まれている学校行事の準備だ」
翼の言う通り、リディアンの学校行事として秋桜祭と呼ばれる学祭がある。残すところ三日となったそれの準備のために日が傾いた今でも残って作業をしているのだ。
色とりどりの出店が並んでいる。
「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな」
「なんでだ?!」
唐突な翼の申し出にクリスが突っかかる。
「戻ったところでどうせ巻き込まれるのだ。ならば少しぐらい付き合ってくれてもいいだろう。あの人一倍フィーネの話題に敏感な轟ですら学祭の手伝いをしているんだぞ?」
雷を引き合いに出され、後退できなくなったクリスは渋々翼の頼みを了承した。
今は彼女の教室で飾り付けに使う花の飾りを作っている。
「まだこの生活になじめないのか?」
翼の問いに心底めんどくさそうにクリスが答える。
「まるでなじんでない奴なんかに言われたきゃないね」
「ふふ、確かにそうだ。しかしだな、雪音」
そう言い切った瞬間、教室のドアが開いた。
「あ!翼さん!いたいた」
「材料取りに行ったまま戻ってこないから、みんなで探してたんだよ?」
「でも心配して損した。いつの間にか可愛いい下級生連れ込んでるし」
「みんな、先に帰ったとばかり……」
如何やら翼の同級生のようだ。かなり親しげに話しているあたり仲はいいのだろう。
「だって翼さん。学祭の準備が遅れてるの、自分のせいだと思ってそうだし」
「だから私達で手伝おうって」
「私を……手伝って……?」
翼はポカンとしているがクリスはどうやら察したようだ。
「案外人気ものじゃねーか」
翼の同級生三人も加入し、五人体制で飾りの花を作っていく。
彼女たちの話を聞いてもう少し同級生との関係を頑張ってみようと思ったクリスだった。
○○○
夜、とある廃病院に装者たち四人の姿があった。
調査によればこの建物の中に武装集団フィーネが潜伏しているらしい。翼を中心として行動する。
『いいか!今夜中に終わらせるつもりでいくぞ!』
『明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまい、すみません』
弦十郎が雷たちに気合を入れ、緒川が今回の出動が明日に響いてしまうかもしれないと謝罪する。
「気にしないでください。これが私達、防人の務めです」
翼が勇ましく返す。
「町のすぐはずれに、あの子たちが潜んでいたなんて……」
「灯台下暗しって、こういうことを言うのかもね……」
『ここはずっと昔に閉鎖された病院なのですが、二か月前から少しずつ物資が搬入されてるみたいなんです。ただ、現段階ではこれ以上の情報が得られず、痛し痒しではあるのですが……』
「しっぽが出ていないのなら、こちらから引きずり出してやるまでだッ!」
クリスが腕を組んで不敵に言って駆け出し、翼、響、雷の順番で同様に走り出す。
二課が雷たちの同行を補足する。
「シンフォギア装者、建物内へと踏み込みます」
弦十郎は友里の報告を聞き、腕を組んで静観する。
彼女たちの行動を補足しているのは二課だけではない。
施設内にいたウェルもだ。
「おもてなしと行きましょう……」
彼はキーボードのボタンを一つ押し、ダクトから特殊なガスを散布する。
それが散布された場所に装者たちは到達していた。
「やっぱり、元病院ってのが雰囲気だしてますよね……」
「お化け屋敷でも定番の一つだよね」
響は及び腰だが、なぜか雷はテンションが高い。フィーネとあった時に心が折れにくいように、今のうちから気持ちを盛り上げてるのだ。
クリスが響をからかう。
「なんだぁ?びびってるのか?」
「そうじゃないけど、なんだか空気が重いような気がして……」
「空気が重い?」
「……意外に早い出迎えだぞ」
常に注意を怠らなかった翼が真っ先にノイズの群れを発見する。
雷は響の発言に何か引っかかるものを感じた。
ノイズと戦うため、装者たちはギアを纏う。
「Killter Ichaival Tron」
クリスが深紅のギア『イチイバル』を纏い、シンフォギアがノイズの位相差障壁を調律、こちらの世界に強制的に引きずり出す。
両腕部装甲をガトリング砲に変形させ、無数のノイズを塵へと変えていく。
『BILLION MAIDEN』
雷も負けじと腕部ユニットから発生させた稲妻を矢状に構築し、乱射する。
『雷乱神楽』
ある程度のノイズは減らせたが、後続からどんどんとノイズが現れ、先ほど撃破した数がチャラになってしまった。
装者四人がギアを纏って並び立つ。
「やっぱり、このノイズは……!」
「ああ、間違いなく制御されている」
「ウェル博士が敵対の可能性が大……やっぱ確実かな」
ノイズの群れへと雷たちは飛び込んでいく。
「立花は雪音のカバー!轟は私と共に来い!」
「「はい!」」
前衛の翼の剣が切り裂き、雷の稲妻が焼き尽くし、後衛のクリスは踊るように弾を命中させ、彼女に近づく敵を響の拳法が吹き飛ばす。
が、いくらノイズを倒してもすぐに復活、翼の『蒼ノ一閃』であってもそれは同様だった。
装者たちの息が上がるのに対し、ノイズはその数を減らすことなく数の暴力で彼女たちを圧殺しようとしている。
「なんでこんなに手間取るんだッ?!」
「ギアの出力が落ちている……?!」
その以上は二課でも確認され、結果は翼が出した結論と同様だった。
何とかノイズを全滅させるも四人ともすでに肩で息をしている状態だ。
突然、暗闇の中から異形のバケモノが響に襲い掛かった。
「ッ?!三人とも気を付けて!」
咄嗟に響が拳で迎撃し、再び襲い掛かってきたそれを今度は翼が迎え撃つが大したダメージは入っていないようだ。
「アームドギアで迎撃したんだぞ?!」
「なのになぜ炭素と砕けない?!」
「まさか……ノイズじゃ、ない?」
「聖遺物由来の物……とか?」
「まさか!奴は生物だぞ?!」
雷の考えをクリスが一蹴する。聖遺物が生き物など考えられないからだ。
バケモノの奥で手を叩く音が聞こえてきた。それも男が手を叩くときに発生する音でだ。
「へぇ?!」
「ウェル博士!」
「やっぱりアンタか……」
雷を除く三人が驚愕し、彼女は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。
異形のバケモノは彼の持ってきたケージの中に入り、ウェルが口を開く。
「意外に聡いじゃないですか」
「そんな。博士は岩国基地が襲われたときに……」
「行方が分かっていないだけで死亡確認はしていない……!」
「つまりノイズの襲撃は全部……!」
「はい。明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既にアタッシュケースにソロモンの杖はなく、コートの内側にて隠し持っていたんですよ」
未然に防げたにも関わらず、それが出来なかったことに雷は歯噛みする。
「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分に襲わせる芝居を打ったのか?!」
ウェルが杖を取り出し、展開する。
「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません」
さらに追加でノイズを召喚していく。
「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそがふさわしい。そう思いませんか?!」
「思うかよッ!」
「同意見だ英雄かぶれがッ!」
ウェルが本性を現し、英雄を否定する雷と杖の威力を知っているクリスが否定し叫ぶ。
雷が稲妻を槍状に形成し高速で発射、クリスが腰部装甲から小型ミサイルを展開し激痛と共にノイズを貫き、爆散させた。
「ぐぁッ!」
「ぐぅうッ!」
雷とクリスを襲った痛みは、急激に下がった適合係数によってギアのバックファイアが発生しているのだ。
爆炎をウェルはノイズを盾にすることで避ける。
痛みによってまともに立つことが出来ず、雷は響に、クリスは翼に支えてもらっている状態だ。
「クッソ……!何でこっちがズタボロなんだよ……!」
「相手はギアも纏ってないって言うのに……!」
(この状況で出力の大きな技を使えば、最悪の場合、身に纏ったシンフォギアに殺されかねない……)
クリスと雷は愚痴を呟き、翼が冷静に分析する。
「あれは?!」
空から聞こえてくる奇怪な音の方向を響が向くと、ネフィリムの入ったケージを移送する気球のようなノイズの姿があった。
「ッ!ノイズがさっきのケージをもって……!」
ノイズは海に向かって進んでおり、そのままネフィリムを移送する算段となっている。
(さて。身軽になったところで、もう少しデータを取りたいところだけど……。ん?)
響が雷を地面に下ろして拳をウェルに構え、翼もクリスを座らせる。
ウェルが両手を上げ、降参の意を示した。
「立花!その男の確保と、二人を頼む!」
翼はネフィリムを輸送するノイズに向かって跳躍する。
剣を抜刀し、ノイズに一直線に駆け出す。
(天羽々斬の機動性なら……!)
瞬間速度ではケラウノスに一歩譲る天羽々斬だが、それ以外の速度ではこのギアは二課保有のシンフォギアの中で最も高い。その機動力を利用してノイズを追跡する。
『翼さん!逃走するノイズに追いつきつつあります!ですが……!』
『指令ッ!』
『そのまま!飛べッ!翼ァ!』
弦十郎の声がヘッドギアの通信機を通して聞こえてくる。
(飛ぶ?)
『海に向かって飛んでください!どんな時でもあなたはッ!』
意を決し、これ以上先のない道路から跳躍、脚部のスラスターを使って飛距離を伸ばし、飛翔する。
「仮設本部!急速浮上ッ!」
指令の掛け声と共に海中から二課仮設本部たる潜水艦が浮上し、その船体を利用して更に飛ぶ。
ノイズが乱切りにされて炭素と化し、ケージが重力によって落下する。
響はウェルを捕らえ、雷とクリスはダメージが回復したため一人でも立てる状態だ。
翼がケージに手を伸ばし、もう少しで届く……というところで文字通り横槍が入り、その衝撃によって翼は弾き飛ばされ、海に落下してしまう。
「翼さんッ!」
「ごめんクリス……!少し……抱きしめ、させて……」
「しょうがねえ……」
響が叫び、横槍を入れた者を理解し、震え始めた雷がクリスを抱きしめる。誰かがそばにいてくれないと折れそうなのだ。
槍は海上で停止し、その上に襲撃者は降り立つ。落下してくるケージを受け止め、その背を朝日が照らした。
「時間どおりですよ。フィーネ……」
「フィーネだと?」
ウェルのフィーネという言葉に反応し、一層強くクリスに寄り縋る。
構わずウェルは続ける。
「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」
「まさか……じゃあ、あの人が……?」
「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」
朝日は再誕したフィーネ、マリアを祝福しているようだった。
ケラウノスの瞬間速度、応用性は全ギアの中でトップに位置しています。
速度はイコール破壊力でもあるのでうまく使えばかなり高い攻撃能力を持つことが出来、稲妻という形のない特殊なアームドギアのおかげで様々な形状に変形し、電気が起こす副産物、熱や磁力、斥力と言ったものをコントロールすることが可能……と、自分で書いてていいギア思いついたな、と思っていますw