戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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今のうちに未来さんにストレスをかけておきましょう。


疑われるシロ

逆光の中、調と切歌、ウェルが雷と響、クリスに向かい合う。

 クリスは響に肩を借りてる状態で、雷はところどころ汚れてはいるが何とか無事だ。

 

「あなた達はいったい何を?!」

 

 響が問いただす。

 

「正義では守れないものを、守るために」

「ある人との約束を守るためにデス」

「え……?」

 

 その問いに対し、調と切歌は何でもないように答える。

 そしてローターから発せられた強風が三人をあおり、風の発生源であるエアキャリアからロープが下ろされた。

 切歌がウェルを抱えて、調はソロモンの杖を保持して跳躍し、ロープの先端部分に捕まることで離脱する。

 

「チィッ!」

 

 クリスが響を振り払い、ボウガンをロングライフルに変形させ、ヘッドギアをスコープのようにすることで狙撃体勢に入る。

 

        『RED HOT BLAZE』

 

 ヘッドギアに搭載されたカメラから情報を収集し、それを目の部分に展開されたスコープに表示、エアキャリアに狙いを定めた。

 

「ソロモンの杖を返しやがれ……!」

 

 ロックした瞬間、キャリアが聖遺物由来の謎のステルス機能を起動し、消失する。二課の全能力を使っても見つけられないのだ、イチイバル一つだけでは発見できるわけがない。

 完全に見失ってしまった。

 

「何だと……」

「クリスちゃん……」

「何の聖遺物を使っているんだ……」

 

 同じく見失ってしまった二課にも動揺が走る。

 

「反応……消失……」

「超常のステルス性能……これもまた、異端技術によるものか……!」

 

 ナスターシャの操縦するエアキャリアのコックピットには、赤い石柱のようなペンダント、つまり聖遺物がコンソールにセットされていた。

 

(神獣鏡の機能解析の過程で手に入れたステルステクノロジー……。私達のアドバンテージは大きくても、同時にはかなく、脆い……)

 

 そう思ったところでナスターシャは急にせき込み、口元を押さえる。

 手のひらを見てみると、赤い鮮血がこびりついていた。恐らくもう長くは生きられないだろう。

 

「急がねば……はかなく脆いものは他にもあるのだから……」

 

 一方そのころ、キャリアの胴体部分ではウェルが切歌に殴られていた。

 

「ッつ!」

 

 ウェルの胸ぐらをつかみ上げる。 

 

「下手打ちやがって!連中にアジトを押さえられたら、計画実行までどこに身を顰めればいいんデスか!」

「おやめなさい。こんなことをしたって、何も変わらないのだから」

 

 マリアが切歌をたしなめる。

 

「胸糞悪いデス!」

「驚きましたよぉ、謝罪の機会すらくれないのですから」

 

 切歌が手を離し、ウェルが皮肉を言う。

 小型モニターからナスターシャの映像が入る。

 

『虎の子を守れたのが勿怪の幸い。とは言え、アジトを押さえられた今、ネフィリムに与えるエサがないのが我々にとって大きな痛手です』

 

 調がネフィリムのほうを向いて言う。

 

「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れだすかわからない……」

「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失ったわけではありません」

 

 白衣の襟を正してウェルが立ち上がる。

 彼は彼女らの付けた胸元のペンダントを見て、怪しげに笑った。

 

○○○

 

 海上航行を続ける仮設二課の船体に装者たちは座り込んでいた。雷は日ごろの夢に悩まされている影響でうつらうつらとしている。

 

「無事か!お前達!」

 

 弦十郎が潜水艦の出入り口を開けて姿を現す。真っ先に心配するのが少女たちの状態というあたり、信頼のできる良い大人だ。

 弦十郎の声で雷は目を覚ました。

 

「師匠……。了子さんと……たとえ全部わかり合えなくとも、せめて少しは通じ合えたと思ってました。なのに……」

「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろ!言葉より強いもの、知らぬお前達ではあるまい!」

「言ってること、全然わかりません。でも、やってみます!」

 

 よくわからないことを言う弦十郎に少し呆れるが、全員がとりあえずやってみること、挑戦することを選択する。

 ただ一人、暗い顔をする雷を除いて。

 

 しばらくたって、柴田事務次官から武装組織フィーネの新たなる情報が伝えられた。例によってそばを啜りながらである。

 

「では、自らをフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者たちによって構成されていると?」

『正しくは、米国聖遺物研究機関『F.I.S.』の一部職員が統率を離れ暴走した集団ていうことらしい』

「ソロモンの杖と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士も、F.I.S.所属の研究者の一人……」

 

 柴田が一拍置いた。

 

『こいつはあくまでも噂だが、F.I.S.ってのは日本政府の情報開示以前より存在しているとのことだ』

「つまり、米国と通謀していた彼女が、フィーネが由来となる研究機関ですか?」

『出自が、そんなだからな。連中がフィーネの名を冠する道理もあるのかもしれん』

 

 再びそばを啜る。

 

『テロ組織には似つかわしくないこれまでの行動。存外、周到に仕組まれているのかもしれないな』

「うーむ……」

 

 弦十郎が唸っていると柴田が何かを思い出したかのように話し始めた。

 

『そう言えば……確かフィーネに殺害された轟博士夫妻、彼らもF.I.S.に名を連ねていたな』

「な?!」

 

 弦十郎が驚愕する。何せ自分たちの組織に属する少女が武装組織フィーネと関係者なのかもしれないのだから。

 

『詳しくは非常勤だがな。彼らの娘も恐らくフィーネの構成員に接触したことがあるはずだぞ?』

「わかりました。こちらでも情報を集めます」

 

 柴田との通信が切れる。

 記録で確認できる最新の接触は六年前、轟夫妻が殺害された年の夏だ。そこから今までの間に雷には様々な厄災が降りかかているが、連絡を取り合っていた可能性も無きにしも非ず。柴田はそう言いたいのだろう。

 思わず弦十郎は緒川に問う。

 

「緒川、お前はどう思う?」

「雷さんが内通者かもしれないということですか?僕はそうとは思いません」

「愚問だったな。俺もそうは思わん。しかし……」

 

 お上はそう思わないだろう、その言葉を彼は飲み込んだ。

 当然緒川も察している。

 自分たち二課は『轟雷』がどのような少女なのかを知っているため疑うことなどしない。が、それを知らない政府の連中はどうだ?世界中を混乱に陥れたテログループ、その唯一の対抗手段を持つと言える組織に敵の関係者が潜んでいる可能性だってあるのだ。

 情報は全てに勝る。金さえ動かせるのだから当然だろう。それが相手に筒抜けになっている、と言うのは耐え難い恐怖なのだ。

 

「雷くんがシロであることを証明せねばどのような強硬手段で来るか……」

「日本政府だけならいざ知らず、米国政府は自らの汚点を払しょくすることを考えるでしょうね」

 

 日本政府なら柴田を通して回避することは難しいが可能だろう。しかし、これが米国ならばわからない。

 奴らはフィーネを暗殺しようとしたように秘密裏に行動して雷を誘拐。監禁して知りもしない情報を吐くまで拷問、凌辱し続けるだろうことは容易に想像できた。

 

「雷くんの身の安全は二課のエージェントが守り、身辺調査は未来くんを頼りにするしかない……か」

「未来さんに親友を疑わせるというのは心が痛みますが……」

「それはオレも分かっている……分かっているのだがな……」

 

 そんな答えしか用意できない自分を恨みながら未来へ通信を繋げる。

 子供を疑わねばならないというのは大人にとって苦痛だ。

 三回ほどのコールで通話がつながる。

 

『どうしたんですか弦十郎さん。……まさかまた響が……』

「違うんだ未来くん。……君に頼みがあるんだ」

 

 事のあらましを分かりやすく未来に伝える。

 

『そんな!雷がフィーネの内通者だなんて!そんなのあり得ません!』

 

 未来が叫ぶ。当然のことだ、大切な親友が疑われているのだから。

 

「俺だってそうだ。たとえ過去に繋がりはあったとしても、今は関係ない。少なくともそういう関係ではないと信じているッ……!だが、政府の人間はそうは思わんのだ……」

 

 声の節々から悔しさがにじみ出ている。それを未来は察した。

 

『私、どうすればいいんですか?!どうすれば雷の疑いを晴らすことが出来るんですか?!』

「出来る限り雷くんから目を離さないで上げてほしい……。もしも疑わしきところがあればすぐに報告してくれ、こちらでまとめる。不測の事態に対応できるようにこちらのエージェントを護衛につかせる。極力視界に入らないようにするから安心してくれ。……親友を疑わせるような真似をさせて、すまない……!」

『わかりました……。弦十郎さんや緒川さん、二課の皆さんが雷のことを信じてくれて安心しました。任せてください!雷の疑いは私が晴らして見せます!』

「本当にすまないッ……」

 

 未来との通話を切り、深くため息をつく。

 実害が出るまでにこの事態を収拾せねばならない。




不穏な空気が漂い始めましたねw

無実の親友を疑わなければならないストレス
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