戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最近『終末のワルキューレ』にはまっております。




決闘の申し込み

 調と切歌の登場で雷の心が叫びをあげた。

 今すぐにでも飛び出してしまいそうな自らの体を翼の力も借りて何とか抑え込み、歯を食いしばって折れそうな理性を何とか持ちこたえる。座席の手すりに爪を突き立て、目だけで相手を殺さんとばかりににらみつける。

 

「何っでッ!わ、私たちの日常にまでッ……!」

 

 豹変した雷の様子を見て未来が響に問う。

 

「響!あの子たちを知ってるの!?雷の様子がおかしいよ!」

「う、うん……。あのね……未来……」

 

 翼が雷を抑えながら言いよどむ響に代わって答えた。

 日ごろ鍛えているからか、雷が自分である程度抑えれれているからかはわからないが、額に汗を浮かべている程度で済んでいる。

 

「彼女たちは世界に向けて宣戦布告し、私達と敵対するシンフォギア装者だ」

「じゃあ、マリアさんの仲間なの?!ライブ会場でノイズを操って見せた……もしかして?!」

 

 合点がいったと表情を変えた未来に対し、翼は頷く。

 

「ああ、マリアは自らをフィーネと名乗った……。それ故に轟の精神に負担をかけているのだ」

 

 それを聞いて必死で自分を抑えている雷に視線を落とす。

 未来は自分の無力さに泣きたくなった。そして、ここまで追い詰められている彼女を疑わねばならない自分を恥じ、心の中で涙を流した。

 

○○○

 

 どこかにある波止場の倉庫にエアキャリアを隠し、マリアは一人、物思いにふけっていた。

 思い返されるのは調と切歌が言っていた「マリアがフィーネに塗りつぶされる」という言葉。彼女は自らの選択が間違いなのでは?と疑心暗鬼になっていた。

 堂々巡りになっている思考をナスターシャが遮った。

 

「後悔しているのですか?」

 

 マリアは顔を上げ、しばらく間を置いてから横に首を振る。

 

「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うして見せる」

 

 突然アラートが鳴り響いた。

 弾かれたようにマリアが立ち上がり、ナスターシャは素早くコンソールを起動する。

 モニターには彼女らを捕らえる、もしくは殺害するために送り込まれた米国の特殊部隊が倉庫内に侵入していたのだ。

 ナスターシャは冷静に状況を分析する。

 

「今度は本国からの追手……」

「もうここが嗅ぎつけられたの?!」

 

 マリアは驚愕するがナスターシャは何でもないように答える。

 

「異端技術を手にしたと言っても、私達は素人の集団……。訓練されたプロを相手に立ち回れるなどと思いあがるのは虫が良すぎます」

 

 その声色はどこかマリアを咎めているかのようだ。

 

「どうするの?」

 

 ナスターシャは当然のことのように答えた。

 

「踏み込まれる前に攻めの枕を取りましょう。マリア、排撃をお願いします」

 

 マリアは後ずさる。

 

「排撃って……。相手はただの人間、ガングニールの一撃を喰らえば……」

「そうしなさいと言っているのです」

 

 聖遺物の力をもってすれば人の命を奪うことなど造作もないだろう。

 

「ライブ会場の時もそうでした。マリア……、その手を血で染めることを恐れているのですか?」

「マム……私は……」

 

 マリアの目を、ナスターシャは静かに見つめ返した。

 

「覚悟を決めなさい。マリア」

 

 倉庫内で爆発が発生した。特殊部隊が動き始めたのだ。

 

○○○

 

 飛び入り参加という宣戦布告をした調と切歌はステージへと続く通路を進む。

 切歌が壇上にいるクリスに向けてあっかんべーをした。それに危うくクリスはとびかかりそうになる。

 落ち着いて調が切歌をたしなめる。

 

「切ちゃん。私達の目的は?」

「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取る事デェース」

 

 どこかふてくされている。

 

「だったら、こんなやり方しなくても……」

「聞けば、このステージを勝ち抜けると、望みをかなえてくれるとか。このチャンス逃すわけには……」

「おもしれぇ。やり合おうってならこちとら準備は出来ている!」

「はぁ~……」

 

 明らかに生徒会権限を越えている気がするのだが、そんなことは彼女たちの脳内に存在しない。

 

「特別に付き合ってあげる。でも、忘れないで。コレは……」

 

 調の言葉を切歌が遮った。

 

「分かってる!首尾よく果たして見せるデス!」

 

 司会がアナウンスを始める。

 

「それでは歌ってもらいましょう!……ええと……」

 

 ステージに立ち、スポットライトに照らされた二人が自らの名前を名乗る。

 

「月読調と……」

「暁切歌デス!」

「オッケーイ!二人が歌う『ORBITAL BEAT』!もちろんツヴァイウイングのナンバーだぁ!」

 

 講堂に曲のイントロが流れ始めた。

 その曲名、曲調に響たちが驚愕する。雷は興奮していて最初は理解できなかったが、イントロの途中で気付いた。

 

「この歌?!」

「翼さんと奏さんの……!」

「何のつもりの当てこすり?!挑発のつもりか?」

「……?!」

 

 ぎりっと歯をかみしめる雷。その目には怒りが満ちていた。

 

○○○

 

 ナスターシャがマリアに決断を迫っていたその時、特殊部隊員が次々と炭素となって崩れ落ちる。つまり、ノイズが現れたのだ。懸命に抵抗するが通常兵装でノイズを倒せるわけもなく、即座に分解されてしまう。

 その様子をマリアはカメラ越しに確認していた

 

「炭素分解……だと?!」

 

 今この世でノイズを操ることが出来る人間はただ一人。

 

「ドクターウェル?!」

 

 爆炎の中、ソロモンの杖を構えたウェルが囲まれているにもかかわらず余裕をもって答える。

 

「出しゃばりすぎとは思いますが、この程度の相手に新生フィーネのガングニールを使わせるまでもありません。僕がやらせてもらいますよぉ」

 

 ウェルに向けて発砲するが、その射撃は全てノイズによって阻まれてしまう。

 彼は残虐な笑みを浮かべて次々とノイズを召喚、使役して特殊部隊員を炭素の塊へと変えていく。

 最後の一人が倉庫の祖手へと脱出するが、ノイズに追いつかれてしまい、同じように炭素へと分解されてしまう。その光景を不幸にも三人の野球少年が目撃してしまった。

 

「おやぁ~?」

 

 顔を歪にゆがめ、ゆらゆらとウェルが歩き出る。

 

『やめろウェル!その子たちは関係ない!やめろぉぉッ!』

 

 マリアの叫びを無視し、ウェルは無慈悲にノイズを召喚する。少年たちがどうなったかは言うまでもない。

 彼女は膝から崩れ落ち、慟哭した。

 

○○○

 

 調と切歌が歌い終わり、講堂が拍手で包まれる。

 

「チャンピオンとてうかうかしていられない、素晴らしい歌声でしたぁ~。コレは得点が気になるところです!」

 

 司会は審査員に目をやる。クリスがかみついた。

 

「二人がかりとはやってくれる!」

 

 その瞬間、二人にナスターシャから通信が入った。

 

『アジトが特定されました。襲撃者を退けることは出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私達も移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』

「そんな?!あと少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよ?!」

 

 切歌が反抗するがナスターシャは取り付く島もない。

 

『緊急事態です。命令に従いなさい』

 

 それだけを言い残して通信が切れる。

 

「さあ!採点結果が出た模様です!」

「おい!ケツを捲んのかぁ?!」

 

 調がいまだに残ろうとする切歌の手を引いて壇上から駆け下りる。

 

「調!」

「マリアがいるから、大丈夫だと思う。でも、心配だから……」

 

 状況を鑑みて、翼が立ち上がる。

 

「追うぞ。立花!轟!……轟?」

 

 そこにはもう、雷の姿はなかった。通信機を抑えた動作で状況を把握し、真っ先に行動に移したのだ。

 

「先に行ったか……。問題だけは起こしてくれるなよ!」

 

 翼が雷に続く。

 響は心配そうな顔を浮かべる未来に真剣な声色で言う。

 

「未来はここにいて。もしかすると、戦うことになるかもしれない……!」

「う、うん……」

「安心して。雷は私が必ず連れ戻すから」

 

 そう言い残し、響は翼の後を追った。

 調と切歌は逃走するが、通路をクジラのオブジェが通過し、立ち往生してしまう。

 切歌が地面を踏みつけた。

 

「クソ!どうしたものかデス?!」

「ッ?!」

「調ッ?!」

「動くなッ!動けばこいつの喉を潰す!」

 

 突然、調の襟首が何者かによって掴まれ、そのまま地面に引き倒されてしまう。その人物は雷だった。

 彼女は即座に掴んだ襟と対角線上になるように袖をつかんで締め上げて拘束し、のど元に膝を押し当てる。心は恐怖に震えているが、なぜか頭は冷静だった。

 すると後ろから響の声が聞こえてきた。

 

「雷離して!私達きっと分かり合える!」

「ッ?!分かった……」

 

 響の思いを尊重したい雷は大人しく拘束を解く。

 雷が調から離れた瞬間、切かが彼女に駆け寄って「大丈夫デスか調?!」と声をかけている。何度かせき込んだ後、調は冷静に切り出した。

 

「四対二……数の上ではそっちに分がある。だけど、ここで戦うことであなた達が失うもののことを考えて」

 

 そう言って生徒たちのほうを見やる。

 

「おまえ、そんな汚いこと言うのかよ!さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりで……」

 

 クリスの言葉に一瞬切歌が調を視界の端に入れ、口を開く。

 

「ここで今戦いたくないだけ……。そうデス!決闘デス!然るべき決闘を申し込むのデェス!」

「どおして?!会えば戦わ……」

「フィーネを殺す……ただそれだけできればいい……」

「雷……」

 

 響の言葉を雷が俯きながら遮った。流石の響も、彼女の思いを知ってるだけに反論できない。

 

「決闘の時はこちらが告げる。だから……」

 

 調は切歌の手を引いてリディアンを後にした。

 二課からの通信が入ってきた。

 

『四人ともそろっているか?ノイズの出現パターンを検知した。ほどなくして反応は消失したが、念のために周辺の調査を行う』

「はい」

「ああ」

「了解……」

「はい……」

 

 響の表情は沈み、雷は静かな殺意を燃やしていた。




雷が響や未来の言うことを聞くのは「こんな自分のそばにいてくれるから」という感情があるからです。
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