戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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雷のセリフは少なめ。決闘ですからね、気を高めているんですよ。

タイトルどおりや。愉悦部員はしばらく愉悦できるぞ。


絶望への入り口

 仮設二課では確認されたノイズの出現パターンを解析していた。

 現場のこれまでとは異なる状況に弦十郎は顎に手を当て、思考を回す。

 

(遺棄されたアジトと、大量に残されたノイズ被災者の痕跡……。これまでと異なる状況は、何を意味している……)

「指令!」

 

 藤尭の声で弦十郎は一旦今まで考えていたことを隅に置く。

 

「永田町深部電算室による、解析結果が出ました。モニターに回します!」

 

 モニターに響のガングニールと、マリアの黒いガングニールのアウフヴァッヘン波形が表示される。この二つの波形の照合結果が出たのだ。

 その誤差は無し。つまり同一のものであることが確認されたのだ。

 響が胸に手を当てる。

 

「私と……同じ……」

「考えられるとすれば、米国政府と通じていた了子さんによってガングニールの一部が持ち出され、作られたものではないでしょうか?」

 

 藤尭の意見に続いてキーボードをタイプしながら友里も口を開く。

 

「櫻井理論に基づいて作られた、もう一つのガングニールのシンフォギア」

「だけど妙だな」

 

 その間にクリスが割って入る。

 

「米国政府の連中は、フィーネの研究を狙っていた。F.I.S.なんて機関があって、シンフォギアまで作っているのなら、その必要はないはず……」

「政府の管理から離れ、暴走しているという現状から察するにF.I.S.は、聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いているとみて間違いないと思う」

 

 そんな中、この中で最も頭の回るはずであろう雷は黙って俯き、拳を開いたり閉じたりしている。例の決闘に思考を回しているのだ。

 そして彼女の置かれている状況を知っているからこそ、弦十郎たちは話題を振るような真似をしない。

 弦十郎がため息をついた。

 

「F.I.S.は自国の政府まで敵に回して、何をしようとたくらんでいるのだ」

 

○○○

 

 エアキャリアのステルス能力でもって調と切歌を回収するために町の上空を通過する。

 ナスターシャはコックピットに変形した車椅子のスイッチを一つ押し、格納庫にあるネフィリムを映し出す。

 

(ついに本国からの追手にも補足されてしまった……。だけど、依然ネフィリムの成長は途中段階。フロンティアの機動には遠く至らない……)

 

 一度目をつむり、カメラの映像をマリアのいるブリーフィングルームに移す。

 彼女は妹のギアのペンダントを握りしめていた。

 

(セレナの遺志を継ぐために、あなたは全てを受け入れたはずですよ。マリア。もう迷っている暇などないのです)

 

 マリアは記憶の中にある妹、セレナの最後の記憶を思い返している。彼女は暴走するネフィリムを抑え込むために絶唱を発動し、命を落としたのだ。もう顔も思い出せない少女との約束を果たせずに……。今はいない少女達とのつながりは、記憶の他に『Apple』という歌しか残っていない。

 スピーカーからナスターシャの声が響く。

 

『まもなくランデブーポイントに到着します。いいですね?』

「OKマム……」

 

 そう言ってマリアは静かに立ち上がった。

 そのポイントとは、かつてのフィーネが作り上げた荷電粒子砲『カ・ディンギル』の跡地だ。エアキャリアが着陸し、岩場の影から調と切歌が姿を現した。

 降りてきたマリアに駆け寄る。

 

「マリア!大丈夫デスか?」

「ええ……」

 

 二人は安堵の表情を浮かべ、調がマリアに抱き着く。

 

「よかった……!マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから……」

「フィーネの器となっても、私は私よ。心配しないで」

 

 それを聞いて切歌も抱き着いた。

 車椅子を動かしながらナスターシャが話しかける。

 

「二人とも無事で何よりです。さぁ、追いつかれる前に出発しましょう」

 

 切歌がナスターシャに駆け寄る。

 

「待ってマム!私達、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

 

 調が後に続いた。

 

「決闘すると、そう約束したから……うッ?!」

「マムッ……ぐっ?!」

 

 ナスターシャが勝手な行動を起こした二人の頬を叩く。

 切歌は叩かれた頬を抑え、調は切歌の服を掴んでいる。

 

「いい加減にしなさい!マリアも貴方たち二人も、この戦いは遊びではないのですよ!」

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし……ねぇ?それに、その子たちの交わしてきた約束、決闘に乗ってみたいのですが……」

 

 それはウェルの、この世で最もいらない便乗だった。

 

○○○

 

 仮設二課内にノイズ発生のアラートが鳴り響く。

 

「ノイズ発生パターンを検知!」

「古風な真似を。決闘の合図に狼煙とは!」

 

 翼がつぶやく。

 藤尭が素早く出現位置を特定した。

 

「位置特定。ここはッ?!」

「どうした!」

 

 藤高の驚き様からしてただ事ではないことが理解できる。

 

「東京番外地、特別指定封鎖区域!」

 

 雷の顔が歪な笑みを浮かべ、それ以外の三人が驚愕する。

 弦十郎が叫んだ。

 

「カ・ディンギル跡地だとぉ?!」

 

 出発した四人はカ・ディンギルへと向かっていた。

 すでに太陽は沈み切り、空には星空が瞬いている。雷は一人先行して迷惑をかけないようにと厳命されており、はやる気持ちを抑えている。

 

「決着を求めるのにおあつらえ向きの舞台という訳か……」

 

 すでにウェルがソロモンの杖を構えて待ち構えていた。

 

「やろぉ!」

 

 杖から緑色の光線が発射され、ノイズが姿を現す。

 それに対抗するために雷たちはシンフォギアを纏うべく起動聖詠を歌う。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」

 

 四人の装者が一斉にギアを纏い、ノイズ蹴散らしていく。

 雷が脚部ユニットを起動して高速で駆け抜け、発生したプラズマがノイズなど眼中にないと言わんばかりに焼き払っていく。

 

        『電光刹那』

 

 続く雷撃と組み合わせた拳法でノイズを吹き飛ばしながら雷がウェルに向かって叫ぶ。

 

「あいつらはどこだぁッ!?」

「あの子たちは謹慎中です。だからこうして私が出張って来てるのですよ。お友達感覚で計画遂行に支障をきたされては困りますので」

 

 逆羅刹でノイズを切り裂いた翼はそれを解除し、問いただす。

 

「何を企てる!F.I.S.!」

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済!」

 

 ウェルの指が月を指し示した。

 

「月の落下にて損なわれる無辜の命を可能な限り救いだすことだ!」

「「「「月を?!」」」」

 

 四人がそろって驚愕する。

 翼が今現在分かっている情報を突きつけた。

 

「月の公転軌道は、各国機関が三か月前から計測中!落下などと結果が出たら黙っているわけ……」

「黙っているに決まっているじゃないですかぁ」

 

 翼の言葉をウェルが遮る。

 

「対処方法の見つからない極大災厄など、さらなる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠ぺいする理由など、いくらでもあるのですよぉ!」

 

 クリスがノイズをボウガンの矢で吹き飛ばす。

 

「まさか!この事実を知る連中ってのは、自分たちだけ助かるような算段を始めているわけじゃ?!」

「だとしたらどうしますぅ?あなた達なら。対する私達の答えが、ネフィリム!」

 

 ウェルが拳を握りしめて自信満々に言ったその瞬間、クリスの真下の地面が割れ、廃病院で強襲を仕掛けてきた生物ネフィリムが彼女を吹き飛ばしながら姿を現した。

 クリスは地面に叩きつけられ、意識を失ってしまう。

 

「クリスッ!」

「クリスちゃん!」

「雪音!」

 

 翼が駆け寄った瞬間、ダチョウのようなノイズから放たれた粘着液で二人ともからめとられてしまう。

 

「くッ、このようなもので……!」

 

 抵抗するが抜け出すことが出来ない。

 

「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する!ネフィリムはそのための力!」

 

 身動きの取れない翼たちにネフィリムが襲い掛かる。しかし、その頭部を横から響が蹴りぬき、それに合わせて胴体に雷の拳が炸裂する。

 ウェルしか居ないと分かって雷は幾分か落ち着きを取り戻していた。

 

「響はこいつを!私は翼さん達を何とかする!」

「任せたよ!」

 

 響にネフィリムを任せ、雷は粘着液を出しているノイズを撃破して引きはがす作業を開始する。

 その間にもネフィリムに響は連撃を叩きこんでいく。

 

「ルナアタックの英雄よ!その拳で何を守る!」

 

 両腕のバンカーユニットを引き出し、右の拳がネフィリムに突き刺さると同時に起動。その巨体を吹き飛ばした。さらにブースターを点火し、左腕のもう一発を叩きこむために接近する。

 ウェルが両者の間にノイズを召喚する。

 

「そうやって君は!誰かを守るための拳で、もっと多くのだれかをぶっ殺して見せるわけだぁ!」

 

 その瞬間、響の脳内に調の『偽善者』という言葉が響き、一瞬動きが止まってしまう。すぐに拳をネフィリムにぶつけようとしたが、もう遅かった。

 

「へ?」

 

 ネフィリムが響の左腕を噛み千切ったのだ。理解を超えた出来事に気の抜けたような声が出る。思わず翼が叫んだ。

 

「立花ぁッ!」

 

 その血飛沫が雷の頬にかかる。それを手に取った瞬間、目の前で起こった出来事に彼女の脳はフリーズしてしまった。

 

「え?何……これ……」

「ッ?!轟!見るなぁッ!」

 

 咄嗟に雷にも叫ぶが間に合わなかった。既に彼女らの脳は現実を理解し始めていたのだ。

 二人の絶叫が夜空に響く。

 雷の灰色の装甲が金色に輝き始めていた。




まあ、こうなるな。

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