戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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原作の二話ほど丸々ぶっ飛ばしてしまった……。
愉悦部員!全員集合!それ以外の方は対愉悦体勢をとれ!


ココロ、ホウカイ

 目の前でおきた響の左腕をネフィリムが噛み千切るという現実が雷の心を粉砕しにかかる。

 

「あ、あ?あぁ……」

「轟!心をしっかりと持て!」

 

 心は必死に受け入れまいと抵抗するが、彼女の理性はその思いに反して情報として処理し続ける。その結果、ギアの灰色の装甲が金色の輝きを放ち始め、その際に発生した電撃が翼たちを絡めとっていた粘着液を焼き払う。自由になった翼はすぐさま本部へと通信を繋いだ。

 

「指令!鎮静剤の使用許可をッ!」

『使用を許可するッ!雷くんを安全距離まで退避させるんだッ!』

 

 当然使用許可が下りる。鎮静剤は強力ゆえに弦十郎の許可なしでは使えないのだ。

 強力な斥力フィールドが展開されるまでに打ち込まねばならない。翼はバインダーから鎮静剤が充填された圧力式の注射器を取り出し、装甲のない、肌の露出したところへと打ち込む。

 今回が目的である『雷臨状態の抑制』に対しての初の実戦使用であるため、成功確率は不明だ。

 

「うまくいってくれ……!」

 

 目をつむり、成功を祈る。

 段々と輝きが収まり始め、元の灰色へと戻っていく。ギアは解除されていない。成功したのだ。鎮静剤の作用によって雷の意識が暗転し、地面に倒れ伏した。

 これから起きる出来事を、彼女は知らない。

 

○○○

 

 暗闇の中、雷は目を覚ました。

 ギアを纏っておらず、制服姿に戻っていることから戦闘状態でないことだけは理解できたが、時間や場所などの情報が一切理解できない。

 取り合えず情報を集めるために周囲の散策を始めた。

 

「ここ、どこなんだろう?ただの広い空間なのかな?」

 

 歩いてみて分かったのは壁がなく、どこへ行っても地面が平面であることだけだった。少なくとも雷の主観的にはそう感じ取れる。

 歩いてもらちが明かないので叫んでみることにした。

 

「誰かいませんかー!いたら返事してくださーい!」

 

 自分の声だけが反響するだけで、返事はない。やっぱり駄目か、と気を取り直して歩き出そうとしたとき、後ろからなじみのある声が聞こえてきた。

 

「おーい!無事か?バカ二号」

「何さバカ二号ってぇ。私クリスより成績いんだからね」

「馬鹿は馬鹿だ」

「何だとぉ~!……でもよかった、クリスにあえて」

 

 その相手はクリスだった。雷は見知った顔に安堵する。

 一人ではないことに安心した雷はクリスと共に周辺の散策を再開する。一人の時は心細かったから、クリスと手をつないでだ。

 

「でもよかった~。クリスにあえて」

「あたしもだ。一人には慣れちゃいるが、何もない暗闇に放り込まれると意外ときついもんだな」

 

 奥のほうでキラリと何かが輝いた。

 

「出口かもしれない!行こ!クリス!……クリス?」

 

 クリスの手を引いて輝いたところに向かおうとするが、手を握っているにも関わらずさっきまでと比べて軽い。どうしたのかと戻ってみれば、彼女の体は鋸のようなもので真っ二つに両断されていた。今握っているのは彼女の手首から先だけ。

 

「……へ?」

 

 理解が出来ない。壊れた人形のように輝いたほうを向くと、がりがりと何かを削るような音が響いてきた。

 

「何と鋸」

「ッ?!」

 

 その音の正体はギアを纏った調が脚部の鋸をローラーのようにしたときに地面を削る音、見えた光の正体はは彼女が飛ばした鋸の輝きだった。咄嗟の事で自身のギアを起動することが出来ず、本能的に彼女と逆方向へ必死に駆け出す。

 暗闇の中だからか何か目的があるのかはわからないが、何とか撒くことに成功する。

 握ったままだったクリスの手を抱きしめ、その場にしゃがみこんでしまう。ぽろぽろと涙がこぼれた。

 

「クリス……クリスぅ……」

「どうした?!雪音がどうかしたのか?」

 

 現れたのは翼だった。

 

「つ、翼さん……これ……」

「まさか?!コレが……雪音だとでもいうのか?!」

 

 コクリと頷く。翼は苦虫を噛み潰したような顔をした後、雷の手を掴んで引き上げ、抱きしめた。

 

「雪音のことは残念だが、まずは脱出することが先決だ。そして、出た後にしっかりと弔ってやろう」

「はい……」

 

 まずは脱出しないと。と、気持ちを切り替えて翼の体から離れた瞬間、翼の胸から緑色の刃が突き出てきた。

 切歌の鎌だ。

 

「デェース」

「かはッ?!」

 

 急所を貫かれ、息も絶え絶えな翼は最後の力で雷を突き飛ばした。その衝撃で尻もちをついてしまう。

 

「に、逃げろ……。轟……」

「は、はっはい!」

 

 床に這いつくばりながらも雷は今回も逃走に成功した。顔はもう涙やいろいろなものでぐしゃぐしゃになっている。

 そんな彼女に、なぜかギアを纏った響と制服姿の未来の二人が手を差し伸べていた。

 

「雷!」

「どうしたの雷?ひどい顔だけど……」

「響ぃ……未来ぅ……」

 

 雷は響の力を借りて立ち上がると、今まで起きたことを事細やかに説明した。二人の顔が悲痛に歪む。そして拳を握り、未来が雷を優しく抱きしめる。

 

「未来は雷をお願い。私が二人を守るから」

「うん……」

 

 雷は未来に抱かれながら三人で暗闇の中を歩き始めた。雷の話を聞いて、響は油断なく気を張り巡らせる。三人の間に会話はない。時々未来が「大丈夫?」と雷に声をかけるぐらいだ。

 突然響が叫んだ。

 

「二人とも伏せてッ!」

「ッ?!」

 

 響の声を聞いて未来が雷ごと伏せ、彼女が何かを弾き飛ばした。

 

「マリアさん?!」

「ええ、よくわかったわね」

 

 マリアの声、つまりガングニールの槍を響が弾き飛ばしたのだ。

 マリアに相対したまま響が叫んだ。

 

「私が何とかする!だから今のうちにッ!」

「うん!」

 

 未来が雷を抱えたまま走り出した。後ろのほうからギアのぶつかり合う音が聞こえてくる。そして何度かそれが聞こえた後、響の断末魔が雷の耳に届いた。咄嗟に塞ぐが頭にこびりついて離れない。

 頼れるのはもう未来だけになった。彼女の胸元に顔をうずめる。

 

「みんな死んじゃった!どうしよう!こんな私に関わっちゃったから……。みんな死んじゃう!遠いところに行っちゃう!」

「大丈夫だから……私はどこにも行ったりしないよ……」

「未来ぅ……未来もつらいのにゴメンね……」

 

 少しの間が空く。雷にとってその間が何時間にも感じられた。

 

「むしろうれしいぐらいだ。ワタシがお前を殺せるのだから」

「?!離せ!離してよぉ!」

 

 未来ではない声と口調に気づいて離れようとするが、彼女は雷の体を痛いほどに抱きしめて離そうとしない。雷は地面に押し倒されてしまう。

 雷の金の瞳を未来の金の瞳が映す。彼女の顔が歪な笑みを浮かべる。

 

「ひっ?!」

「我が名はフィーネ。久しいな?轟の娘よ」

 

 自身の恐怖の象徴ともいえる存在の瞳に体がすくみ上り、凍り付いたかのように動けなくなる。

 

「な、んで……フィーネはマリアなんじゃ……?」

 

 そう、フィーネの魂はマリアの中にあるはず。その考えをフィーネはたやすく否定する。

 

「ワタシの力をもってすれば器を変えるなど造作もない」

「まさか、みんなもお前が!?」

 

 自分を見つめる金の瞳に泣き叫ぶがフィーネは微笑むだけで答えは返ってこない。両手でゆっくりと雷の首を閉めにかかる。

 

(だ、だれか、たす……けて……)

 

 必死に抵抗するが力及ばず、雷の意識は再び暗転した。

 

○○○

 

「ッ?!」

 

 二課のメディカルルーム。ガングニールの浸食がすすみ、人間でなくなってきている響とは別の部屋で雷は目を覚ました。首の周りを撫でまわすが痛みはない。如何やら夢だったようだ。

 ネフィリムとの戦闘から数日が経過している。鎮静剤の効果が元々あった重度の睡眠不足と重なった結果、このような事態に陥ってしまったのだ。

 日数が立っているからか病院服ではなく、いつも寝るときに使っている黒のパーカーと半ズボンをはいていた。包帯は外され、足や袖をめくった腕には大量の生傷が露出している。寝ている間に掻いたのだろう、大量の汗が体を濡らしていた。

 緒川が部屋から出ていった気がするが頭がぼぉっとしていてよくわかっていない。しばらくたって未来を含めた響以外の全員が流れ込んできた。

 

「雷、目を覚ましたの?!」

「もう大丈夫なのか?!」

「ったく、心配かけやがって」

 

 雷が目覚めたというようやく訪れた吉報に全員が安堵し、喜ぶ。が、それはすぐに凶報へと変わった。

 

「……せ……」

「どうしたの雷?」

「未来を返せぇ!」

 

 突然雷が未来にとびかかって馬乗りになり、首を絞め始めたのだ。咄嗟の事に誰も反応できない。

 

「誰も傷つけさせやしない!みんなは私が守るんだ!もう大切な人を失いたくないッ!」

「やめッ……雷ッ……離しッ……」

 

 未来はもがくが雷に抑え込まれているので振りほどくことが出来ない。復活した弦十郎が雷を羽交い絞めにして引きはがした。

 

「やめるんだ雷くん!どうしたというのだ!」

「離せ!離せよ!あいつはフィーネだ!みんな殺されちゃう!」

「けほっ……はぁ、はぁ……」

「大丈夫ですか?!」

 

 雷は暴れるが、弦十郎との圧倒的な力の差で抑え込まれ、せき込む未来を緒川が介抱している。雷の目には未来の姿は写っておらず、夢の中の続き、未来の中に生まれたフィーネの姿が写っていた。翼が錯乱している雷に歩み寄ってその頭を掴み、叫んだ。

 

「彼女の名前は小日向未来!轟の親友だ!フィーネはマリア!断じて彼女がフィーネなわけがない!」

 

 雷は暴れるのをやめ、目を白黒させている。

 

「え……?私は……何を……?」

 

 雷が正気に戻ったのを確認すると、弦十郎はゆっくりと彼女を床に下ろした。自分の手と緒川に介抱されている未来を交互に見ている。

 ぼさぼさになった自分の頭をかきむしり始め、カタカタと震えだした。

 

「わ、私は大切なものを、ま、守りたくて……で、でも、それを、私が、こ、壊そうとした?」

「お、おい……。しっかりしろよ……」

「……あは、あはは!アハハハハハハハハハ!」

「「「「?!」」」」

 

 クリスが混乱しながらも優しく声をかけるが、今の雷には届かない。彼女は涙を流しながら狂ったように笑い始め、項垂れたままゆっくりと立ち上がる。

 

「……やっぱり私……疫病神だ……」

 

 突然笑うのをやめると、ぼそりと小さく呟いて部屋から飛び出して行った。あまりの豹変っぷりに全員の動きが止まってしまう。

 

「あず、ま……」

 

 未来が弱々しくつぶやく。全員が元に戻った時にはすでに雷の姿はどこにもなかった。

 ケラウノスの装者、轟雷は、ペンダントを持ったまま、この日を境に姿を消した。




これからオリジナルルートに進むのであまり原作のシーンは登場しません。精々響と未来の水族館ぐらいですかね?
恐らくG編が最も話数少ないかもしれん……。

なに?OTONAならこの程度では止まったりしない?それは……気にしないでくれ……。

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