戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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雷の~心は~ずったぼろっよ~♪




かつての自分のように

 新たな隠れ家である湖畔のある森の中でマリアは、湖の周りをナスターシャの車椅子を押して散策していた。体の悪い彼女にとってこの自然の綺麗な空気は、密閉されたエアキャリアの物よりもさぞ心地よいことだろう。

 そんな中、マリアはナスターシャに自分の心のうちを話していた。

 

「これまでの事で、よくわかった……。私の覚悟の甘さ……決意の甘さを……」

「……」

 

 ナスターシャは口を開くことなく、静かに聞いている。

 

「その結末がもたらすものが何なのかも……」

 

 車椅子の持ち手から手を放し、座っている彼女と対面する。

 

「だからねマム。私は……!」

「その必要はありません」

「え……」

 

 マリアの決意が完全に口から出切る前にナスターシャが遮り、目をつむって話し始めた。

 

「あなたにこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません」

「マム!何を言うの?!」

「あなたは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。フィーネの魂など宿していない……。ただの優しいマリアなのですから」

 

 木の影で、英雄を信奉する男。ウェルが聞いているとも知らずにナスターシャは組織の根幹にかかわることを告げる。

 

「フィーネの魂は、どの器にも宿らなかった……。ただそれだけの事」

 

 ウェルは静かにほくそ笑んだ。

 

○○○

 

 同時刻、スーパーに買い物に来ていた調と切歌の二人は、両手にいっぱいに入った買い物袋をもって現在の隠れ家へと帰ろうとしていた。

 前回、雷が意識を失っていた時に起きた響との戦闘の際、ウェルの独断によってリンカー、ギアとの適合係数を上昇させる薬剤を追加投与され、その副作用が抜けるまでは戦闘から外されているのだ。

 買い出しの荷物が多いことに切歌は愚痴をこぼす。

 

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとただの労働デスよ」

「仕方ないよ。過剰投与したリンカーの副作用を抜き切るまでは、おさんどん担当だもの」

「?……持ってあげるデス!」

 

 調の異変に気づいた切歌が彼女の前に回り込み、買い物袋の一つを持って楽をさせようとする。

 

「調ってば、なんだか調子が悪そうデスし」

「ありがとう。でも平気だから……」

 

 意外と強情な調に対して切歌は切り口を変えた。

 

「じゃあ、少し休憩していくデス!」

 

 その誘いに、調は頷いた。

 買い物帰りに休憩をしている調と切歌の二人は近くにあった遺棄された工事現場の廃材に腰掛け、買ってきたパンをおやつにしていた。

 

「嫌なこともたくさんあるけど、こんなに自由があるなんて。施設にいたころには想像もできなかったデスよ。まぁ、ここにあず姉ちゃんがいれば完璧なんデスけどね?」

「うん……そだね……」

 

 調の返事が弱々しい。自分の分のパンを袋から開けてすらいない。

 暢気にパンを食べていた切歌が視線を落とし、沈んだ声で話し始める。

 廃ビルを支えていた骨組みがぎしぎしと音を立てた。

 

「フィーネの魂が宿る器として、施設に閉じ込められていたあたし達。あたし達の代わりに、フィーネの魂を背負うことになったマリア……。自分が自分でなくなるなんて怖いことを、結果的にマリア一人に押し付けてしまったあたし達……」

 

 最後の一口をご機嫌そうに頬張る。

 調は大量の汗をかき、息も荒い。重度の風邪の症状に思えた。

 

「調?!ずっとそんな調子だったデスか?!」

「大丈夫……ここで休んだからもう……」

 

 そう言って立ち上がるが、足元がおぼつかない。

 

「調ッ!」

 

 切歌が慌てて手を伸ばすが時すでに遅し、調は近くに立てかけてあった廃材に倒れ掛かってしまう。その結果、元々不安定だった骨組みが連鎖的に崩壊し、二人を押しつぶさんと落下してきた。

 それはとてつもない音をたて、土煙を巻き上げる。

 

「ッ……!あれ?」

 

 痛みはなく、死んですらいない。ただ、防衛本能から突き出した切歌の右腕から発生していたバリアのようなものが二人を守っていた。

 

「何が……どうなってるデスか?!」

 

○○○

 

 その日の夜は彼女、雷の心を表しているかのような雨だった。

 飛び出してきた時と変わらない黒のパーカーと短パンに簡単なスリッパしか履いていない。目には生気が宿っておらず、雨によってずぶ濡れだ。

 

「……私は疫病神……。疫病神は幸せになっちゃいけない……。幸せを感じちゃいけない……。だって……壊しちゃうから……」

 

 うつろな瞳でぶつぶつと呟きながら、雨の町中をフラフラとした足取りで歩いていく。傷だらけの体が人の目を引いた。傘などの雨具を使っていないのもあるだろう。何せ、朝の天気予報から夜は雨になると言われていたのだ、この時間帯に出歩くなら持っていない方がおかしい。

 急に人の流れが止まった。歩行者側の信号が赤に変わり、車道側の信号が青に切り替わる。雷は周りが見えておらず、変わらずフラフラとした足取りで赤信号を渡り始めた。

 

「おい君!危ないから戻りなさい!」

「……」

 

 会社帰りなのだろう、親切なサラリーマンが雷に叫ぶが彼女の耳には届かない。

 雨、しかも黒い服を着ているため道路と雷の姿は簡単に見分けがつかない。結果、自動車と衝突してしまう。

 小柄な雷の体はたやすく吹き飛ばされ、雨に濡れた道路の上を転がる。運転手が咄嗟に急ブレーキをしてハンドルを切ったのが功を奏し、命は無事だ。だが、右腕とろっ骨が折れ、様々なところに擦り傷と打撲を負ってしまう。

 どこかで女性の叫び声が上がった。

 運転手の男性が車から降り、倒れ伏している雷に駆け寄る。

 

「君!大丈夫か?!今救急車を呼ぶから……」

「……い」

「どうした?!どこか痛むのか?!」

 

 携帯を取り出そうとした男性の腕をつかみ、うつろな瞳を彼に向け、歪に笑いかけた。

 

「私が死ぬまで引いてください」

「ば、馬鹿なことを言うな!」

 

 笑みを引っ込め、心底失望したと言うような顔をする。

 

「そう……ですか……」

 

 打撲だけで済んでいる左腕でゆっくりと立ち上がり、男性の静止を聞きとめることなくその場を後にした。

 

(自分でやるんじゃだめだ、きっとどこかで手加減しちゃう……。誰か私を殺してくれないかな……)

 

 そんなことを考えているうちに、人気のない裏路地にやってきていた。

 

(よくドラマとかでならこういうところで見つかるよね、死体)

 

 こういうところをたまり場にしている不良とか何かいないかな。と、痛む体を引きずりながら歩いていく。そして都合よく、鉄パイプなどを持ったいかにもな不良グループと遭遇した。にんまりと歪な笑みが自然と浮かぶ。

 

(強姦殺人とかいいよね。殺してもらえるうえに尊厳も踏みにじってもらえるとか最高)

 

 フラフラとそのグループのほうへと向かう。

 当然、怒声が飛んだ。

 

「てめぇ!俺らのナワバリに入るとは何モンだ?!」

「……」

 

 ただの威嚇だと無視して足元にあったまだ中身のあるコーラの缶を拾い上げ、一番目立つ奴の目の前に立ち、頭の上にぶちまけた。

 顔面に鉄パイプが横殴りに叩きこまれて額が切れ、熱い液体が流れ出した。

 

「くひッ」

 

 口から変な声が出る。

 殴る、蹴る、自分の体と意識が『死』へと近づいていくのを実感するたびに変な笑みがこぼれる。色々なところから血が流れ出て、体中を鈍痛が襲う。

 雷の体がゴミ袋の上に倒れる。

 

「なぁ、こいついいカラダしてるしさ、輪姦そうや」

「いいねぇ」

「意義ナーシ!」

 

 不良どもは欲求のはけ口を見つけて大盛り上がりだ。雷は小さく笑みを浮かべる。

 雷の望み通りの展開になっていく。この後にしっかりと殺してくれれば完璧だ。だが、現実はそううまくいかないもので、誰かが通報したのだろう、遠くからこっちに向かってパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

「やべぇ!サツだ!逃げるぞ!」

 

 リーダーと思わしき男が声を上げ、雲の子を散らすように姿を消した。因みに、雷がコーラをぶっかけたのがリーダー役だ。

 被害者である雷は病院で治療を受け、ベッドの上で事情を聴かれた後、唯一の彼女の保護者である祖父母、轟錬治と轟千代に引き取られることになった。




 今現在の雷の状況は響と未来に会うまでの彼女に近いです。
 つまり破滅主義者で死にたい願望持ちという完全にヤバい人。遊戯王やったら絶対にガンドラシリーズ使ってくる。
 ハーメルンで歌詞を書いてもいいことになったのはうれしいんですけど、タイトルはあっても歌詞のない雷がかわいそうなので書きません。作詞してくれる人がいるなら別ですが……(厚かましい視線)
 あと、諸事情で一週間半ほど投稿できません。エタるわけではないのでご容赦を。
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