戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
久々の執筆何で違和感を感じるかもしれませんが寛大な目で見てください。
エアキャリアの中、檻に捕らえられた未来のもとにマリアとウェルが姿を現した。
未来はマリアに対して変わらず憎悪の目を向けている。そんな彼女を気にすることなくマリアは、
「この子を助けたのは私だけど、ここまで連行することを指示したのは貴方よ。いったい何のために?」
「もちろん、今後の計画遂行の一環ですよ」
ウェルが檻に近づき、座り込んだ未来に視線を合わせた。未来は憎悪の対象であるマリアと異なり、いきなり登場した見知らぬ優男である彼を警戒する。
「そんなに警戒しないでください。少し、お話でもしませんか?きっとあなたの力になってあげられますよ」
そう言って優しく微笑んだ。
○○○
切歌の脳内に落下する鉄骨を防いだ、フィーネの力が引き起こした光景がフラッシュバックする。
暗い表情で彼女は干していた洗濯物を腕に掛けながら、
(マリアがフィーネでないのなら、きっと私の中に……。怖いデスよ……)
「マリア、どうしちゃったんだろう……?」
「へ?」
不意に聞こえた調の声が彼女の思考を遮る。調は切歌と共に洗濯物を取り入れながら、
「私は、マリアだからお手伝いがしたかった……。フィーネだからじゃないよ……」
「う、うん。そうデスとも」
「身寄りがなくて、泣いてばかりの私達に、優しくしてくれたマリア。弱い人たちの味方だったマリア。いつか、あず姉さんとの約束を守るために、走り回っていたマリア。なのに……」
あの時のマリアの姿が瞼に映る。
「調は怖くないデスか?」
「?」
切歌が話を切り出した。
彼女は上を向き、少し考えるようにしながら、
「マリアがフィーネでないのなら、魂の器として集められたあたしたちがフィーネになってしまうかもしれないんデスよ?」
不安げな目を調に向ける。調は俯き、
「よく、分からないよ……」
「それだけ?!」
切歌は驚愕に目を見開く。調は彼女を不思議そうに見つめ、
「どうしたの?」
「っ」
「切ちゃん?!」
切歌は調の問いに答えず、逃げ出すように駆け出していった。そんな彼女の背中を、調は後ろから見つめることしか出来なかった。
○○○
行方がつかめなかった親友、雷は『今』にいなかった。響は何度も雷を自分の顔に向けようとするがその目はどこか別のところを見ているように虚ろだ。肩をゆすっても、声をかけても、何をしても反応が返ってこない。彼女は毛布をかぶったまま、失った過去のことをうわごとのように繰り返している。
響は悲痛な表情を浮かべ、目に涙を貯めながら、
「雷……、ねぇ……こっちを向いてよ……」
「……」
さっきと変わらず反応はない。
「立花……」
「つばさ、さん……」
たまらず翼が響の肩に手を置き、首を横に振る。
クリスは雷の変化についていくことが出来ず、呆然としていた。
弦十郎は一人の大人として対応すべく、なぜこのようになってしまったのかを彼女の祖父母に聞き出そうとした。
彼はきっちりと礼儀として頭を下げ、
「すみません。私は雷さんの所属する部活の顧問をしている風鳴弦十郎と申します。何故、彼女がこのようになってしまったのか、お聞かせ願いたいのですが……」
「あ、どうも……。えっと、それは……」
雷の祖母、千代が返答に困っていると、
「わしが話をする。来なさい」
「おじいさん……」
ゆっくりとした足取りで祖父、錬治が姿を現した。彼はそれ以上口を開くことなく、再び家の奥へと戻っていった。
「……どうぞ」
「失礼します」
「「「お邪魔します」」」
「……」
そして千代に促され、弦十郎の他、雷を含む装者たちは彼女の家の玄関をまたいだ。
居間に案内された弦十郎は、しかめっ面で座っている錬治と相対する形で席に着く。装者たちは雷の部屋に案内され、何とか彼女を元に戻そうと奮闘していた。
「お茶をお持ちしました」
「すみません」
「ん」
二人は茶を一口すすり、錬治が厳格な口調で切り出した。
「お前はあの子が中学の途中まで虐待を受けていたことを知っているな?」
「ええ、雷さんの口から聞かせていただきました」
弦十郎の中に響と共に稽古をつけてほしいと頼みに来た時の光景がよみがえる。
その答えを聞いて錬治は、
「うむ。あの子から聞いたのであれば信用しよう」
「ありがとうございます」
粛々と頭を下げる。
また一口すすり、
「分かりやすく簡潔に言おう。あの子がああなったのは今回が初めてではない」
「初めてではない?」
オウム返しに聞き返す。
「そうだ。あの子は自分の心を守るため、重度のストレスがかかった時にああなる。うちに来た時もそうだった」
「その時は、虐待から心を守るために……ですか?」
「恐らくな。あの時はうちに来てしばらくすれば治っていた。根本的な解決ではないが、ストレスを与えるものを排除すればあの子は元に戻る」
「本当ですか?!」
「ああ、本当だ。この状態をあの子が乗り越えてこそ、雷の心は一つ成長する。それに、自分から自身の境遇を話したんだ。お前たちに任せてみよう。それに今回はここに居ても問題が解決しないだろうしな」
「ありがとうございますッ……!」
その言葉を聞き、弦十郎は額が机に着くほど頭を下げた。錬治は彼の近年稀にみる礼儀正しさを気に入ったのかニヤリと笑い、
「今度は別の件で来なさい。雷との様子を見る限り彼女たちもいい子なのだろう。雷の保護者として歓迎させてくれ」
「はい!」
そう言ってグッと茶を飲み干してから席を立ち、湯呑をシンクで洗う。
「お茶、ごちそうさまでした」
「いえいえ、雷をよろしくお願いします」
「分かっています」
深々と頭を下げる千代にしっかりと返事をし、
「帰るぞお前達!」
すでに千代が呼んでいたのだろう、居間の前で待機していた響と翼、クリス、そして雷に声をかけ、家を後にした。自分で歩こうとしない雷は弦十郎に背負われている状態だ。
「お前達、話は聞いていたな?」
「ハイ!」
「おう」
「ええ」
三者三様に答えが返ってくる。ならばこれ以上言うことはない。自分たちのすべきことは分かっているはずだからだ。
○○○
二課に戻ってきた響たちは、雷が失踪していた間にまとめられていた『鎮静剤』に関する報告を聞いていた。緒川が言うには『鎮静剤』としての働きは十全に果たしていたが、その時の雷の状態がまずかったのだという。
「あの時、雷さんに打ちこまれた鎮静剤は用法も問題なく、万全の状態で効果を発揮しました。コレは間違いのない事実です」
「ええ、説明を受けていた通りの効果は出ていたはずです」
緒川の言葉を裏付けるように翼が頷く。彼女が一番近くで効果を見ていたからだ。
彼はですがと前置きを置いて、
「雷さんの体にはイレギュラーが発生していました」
「イレギュラーぁ?」
クリスが足と腕を組み、眉を顰める。
緒川が頷き、
「はい。重度の睡眠障害です」
「雷が言ってました!目を閉じるのが怖いって」
響の声と表情は曇っていない。雷と未来のために自分が何をすればいいか、彼女がしっかりと理解しているからだ。
「彼女の全てを奪ったフィーネに対する本能的な恐怖。それに対して雷さんは可能な限り眠らないことで対処していました」
「つまりPTSDになっていたわけですね」
藤尭が腕を組み、あごを撫でながら言った。
「そういうことです。少なくとも近い状態にはなっていたでしょう。彼女が長い間目を覚まさなかったのは、その状態で鎮静剤を打ち込まれた結果ということです」
「どうして目覚めた時、あんなに錯乱していたんですか?」
友里が疑問を口にする。
緒川はタブレットのページをめくり、それがモニターに反映されたのを確認すると、
「雷さんの心の傷は深く、夢の中。つまり無意識の世界でも彼女を攻撃し続けました。普通であれば目を覚ますことで逃れられたそれは、鎮静剤の効果で逃れることが出来なかった。要はノーガードで攻撃を受け続けていたんです」
「そして前触れもなく目が覚め、夢と現実の境が分からないまま未来くんの首を絞めた……」
弦十郎の言葉に緒川は頷いた。
「すでに薬の使用項目にはこの結果を反映した注意項目を追加しておきました。このようなことは今後、あってはならないですからね」
そう言って彼はにっこりと笑った。
今、雷には一室が与えられている。彼女の事情は二課の全員が理解しているが、聖遺物をもって失踪したという事実がある以上罰を与えないわけにはいかず、弦十郎にとっても苦肉の策だという。因みに、その部屋は鍵こそかけられているがすぐに開けれるようになっているため、これが禁固処分と言えるのかはグレーなところである。
「……」
念のため自殺・自傷行為を防ぐ電子手錠を掛けられた雷は、手首につけられたそれに一瞥もしない。ただただ毛布を頭からかぶり、うわごとを呟きながら虚ろな瞳を中空に向けていた。
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オリジナル小説書いていたので是非どうぞ。(書き方が違うのはwordから直接コピペしたからです。悪しからず)