戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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私のインスピレーションは動悸や呼吸困難を引き連れてくるから手に負えない。
今年最後の投稿です!


願わぬ再開

 響は二課の仮設ベッドで仮眠をとろうとしていた。

 寝返りを打ちながら今はいない親友のことを思う。

 

(雷は帰ってきた。だからもう少しだけ待っててね、未来)

「ッ?!」

 

 突然体に激痛が走る。体内のガングニールの欠片が彼女の肉体を侵食しているのだ。響はその痛みを歯を食いしばり、必死に耐える。

 響に残された時間は、あと少ししかない。

 決戦の日は近い。

 

○○○

 

 深海の奥深くにあるというフロンティアに向け、エアキャリアは海洋を飛行していた。

 機体のかじを取るマリアに向け、切歌がナスターシャの容態を聞く。

 

「マムの具合はどうなのデスか……?」

 

 マリアは正面を向いたまま、

 

「少し安静にする必要があるわ。疲労に加えて、病状も進行してるみたい」

「そんな……」

 

 その答えを聞いて、切かと調は不安げに眉を顰める。

 そんな彼女たちの横から、F.I.S.の主導権を握ったウェルが尊大な言い方で壁に背を預けながら、

 

「つまり、のんびり構えていられないということですよ。月が落下する前に、人類は新天地にて、一つに結集しなければならない。その旗振りこそが、僕たちに課せられた使命なのですから!」

 

 二人のウェルを見る目には不満の色がありありと浮かんでいる。

 そんな時、エアキャリアのレーダーが反応を示した。全員の注意がそちらに映る。

 

「これは……」

 

 モニターに映ったのは、

 

「米国の哨戒艦艇デスか?!」

 

 切歌が思わず声を上げる。

 ウェルが哨戒艦を映すモニターに歩み寄り、

 

「こうなるのも予想の範疇。精々連中を派手に葬って、世間の目をこちらに向けさせるのはどうでしょう?」

 

 提案しているような文面だが、言い方から完全に行動を強制している。

 

「そんなのは弱者を生み出す、強者のやり方」

「世界に私たちの主張を届けるには、恰好のデモンストレーションかもしれないわね」

 

 かつてのF.I.S.の砲身に反するやり方に調は反発するが、マリアはそれを食い気味に拒絶する。

 

「マリア……」

「私は、私達は……フィーネ。弱者を支配する強者の世界構造を終わらせるもの。この道を行くことを恐れはしない」

 

 わずかにフィーネを名乗ろうとしたとき言葉に詰まったが、マリアはそれを振り切った。

 彼女と調の間に亀裂が入っていく。

 

○○○

 

 エアキャリアを追跡するために海中を航行している二課の潜水艦がノイズの反応を検知する。

 

「ノイズのパターンを検知!」

「米国所属艦艇より、応援の要請!」

 

 藤尭、友里を中心としたオペレーター陣が迅速に対応し、速やかに要請を受けた艦艇をモニターに表示する。F.I.S.が狙いを定めたものと同一の船だ。

 弦十郎が指示を飛ばす。

 

「この海域から遠くない!急行するぞ!」

「応援の準備に当たります!」

 

 もっとも経験を積んでいる翼がいち早く行動に移す。

 

「翼さん!私も……ッ?!」

 

 後に続こうとした響はクリスによって強制的に引き留められ、ネクタイを掴まれる。

 彼女は怒気を含んだ声で、

 

「死ぬ気かお前!」

 

 そして響の身を案ずるように心配そうな顔で、

 

「ここに居ろって、な?お前はここから、いなくなっちゃいけないんだからよ。絶対、あのバカ二号も同じことを言うさ」

 

 バカ二号とは雷の事だ。

 クリスは響のネクタイを正し、

 

「頼んだからな」

 

 そう言って指令室を飛び出して行った。

 

○○○

 

 アメリカ兵の決死の奮闘もむなしくノイズの蹂躙は続いている。こちらの攻撃は全く意味をなさず、逆に向こうの攻撃は死に直結するというまさに一方的な蹂躙だった。

 一人、また一人と炭素の塊へと分解される。

 マリアはその光景を見つめることしか出来ない。怒りのあまり彼女の唇は噛み切られ、出血している。

 そんな彼女に調は歩み寄り、

 

「こんなことが、マリアの望んでいることなの?弱い人たちを守るために、本当に必要なことなの?あの時の約束破ってまで、するようなことなの?」

「ッ」

 

 調の問いに、マリアは答えない。

 その反応を見て、調は決心を固めた。彼女は振り返り、エアキャリアの扉を開ける。後ろから切歌の引き留める声がした。

 

「調ッ?!なにやってるデスか!」

「マリアが苦しんでいるのなら、私が助けてあげるんだ」

 

 そう言って、調は空中に身を躍らせた。

 

「調ッ!」

「Various Shul Shagana Tron」

 

 調は落下しながら彼女のギア、シュルシャグナの機動聖詠を歌う。そして呼応するように彼女のペンダントが光り輝き、服を分解して黒とピンクの装甲とボディスーツのシンフォギアを纏った。

 

「調!」

 

 後に続こうとする切歌の肩を後ろからウェルが掴む。

 

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

 

 それは悪魔の誘いだった。

 

 調は落下しながらツインテールの様に接続したバインダーから無数の小型鋸を展開する。

 

       『α式・百輪廻』

 

 発射された鋸は雨のようにノイズに降り注ぎ、狙いを違うことなく直撃する。続いて調は足の裏から小型の鋸を展開し、ローラスケートの要領でノイズの群れに切り込んでいく。そして両のバインダーそのものを展開し、身の丈ほどの大型鋸を形成。自身も高速回転することで一つの超大型鋸となる。

 ブドウ型ノイズの発射する弾をものともせず距離を詰め、切り刻む。

 ノイズなどギアの前では塵芥。そう思っていたところを背後から奇襲を喰らいかけるが、緑の鎌がそれを阻止する。

 ギアを纏った切歌が降下してきた。鎌は彼女が投擲したのだ。

 

「切ちゃん、ありが……。何を……?」

 

 頬を緩め、安心しきった表情で切歌のもとに歩み寄る。が、首筋に当てられた注射器によってアンチリンカーを投与された。これは切歌がウェルに渡されたものだ。

 

「ギアが……馴染まない……ッ?!」

 

 体がふらつき始める。アンチリンカーによって適合係数が急速に落ちて言っているためだ。ついにギアが強制解除される。その副作用で調は肩で息をしている状態だ。

 切歌は彼女に目を背け、すがるような声で、

 

「あたし、あたしじゃなくなってしまうかもしれないデス!そうなる前に、何か残さなきゃ!調に忘れられちゃうデス。約束が守れなくなっちゃうデス」

「切ちゃん……?」

 

 切歌が調に手を差し出す。

 

「たとえあたしが消えたとしても、世界が残れば、あたしと調の思い出は残るデス!だからあたしは、ドクターのやり方で世界を守るデス!もう、そうするしか……?!」

 

 海中からミサイルが勢いよく姿を現し、彼女たちを揺らす。

 二課の潜水艦から発射されたソレは空中で解体し、中からギアを纏った翼とクリスが飛び出した。跳躍した二人のうち翼は切歌と交戦し、クリスはギアを纏っていない調の回収に動き出した。

 出会いがしらの翼の一撃を回避した切歌は鎌による一撃を与える。が、それを紙一重で回避した翼は流れ

るように突きを繰り出す。

 バク転でそれを避けた切歌は、

 

「邪魔するなデス!」

 

 大ぶりな一撃は翼の跳躍によって回避され、逆に長物である鎌に落下の重さをのせた一撃を受けてバランスを崩してしまう。

 一方、アンチリンカーによって身動きが自由にとれない調はクリスに拘束されていた。首を固められ、腕を捻じりあげられている。

 

「切ちゃん……」

「おい、ウェルの野郎はここに居ないのか!」

 

 調は答えない。

 クリスは拘束を強くし、

 

「ソロモンの杖を使うアイツはどこに居やがる!」

 

 丁度翼たちの戦いも決着がついた。切歌ののど元に翼の切っ先が突きつけられている。

 

「翼さん!」

 

 戦いを見守っていた響が声を上げる。

 

「切歌!」

「ならば傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ。出来るだけドラマティックに……」

 

 同じく戦いを見守っていたマリアに続いてウェルが怪しげに笑いながら言う。

 そしてコンソールを操作し、

 

「出来るだけロマンティックに……」

 

 彼の意図に気づいたマリアは驚愕の表情を向け、

 

「まさか、あれを?!」

 

 その瞬間、エアキャリアから紫の輝きが歌を伴いながら落下した。

 

「Rei Shen Shou Jing Rei Zizzl」

 

 高速で落ちてきたそれは、船の先端部分を破壊し、煙を巻き上げる。

 煙が止み、そこにいたのは……、

 

「未来……?」

 

 響がつぶやいた。

 

○○○

 

 同時刻。

 常に俯き、何も写さなかった雷の目から涙が一筋、流れ落ちた。




そろそろ雷と調が接触します。
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