戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
神獣鏡を纏った未来が降下した艦艇の上空をエアキャリアが旋回する。そのコックピットにベッドから起きたナスターシャが下からせりあがる形で車いすごとやって来た。
「神獣鏡をギアとして、人に纏わせたのですね……」
「マム!まだ寝てなきゃ!」
「あれは、封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力……」
彼女はウェルを睨みつけ、
「あなたの仕業ですね、ドクター……」
「ふうん。使い時に使ったまでの事ですよ」
彼の脳裏に未来との会話が想起される。
『そんなに警戒しないでください。少しお話でもしませんか?きっとあなたの力になってあげられますよ』
『私の力?』
雷とは異なるものの、彼女も彼女で精神を摩耗していた。未来もこの状況を何とかしようと必死に足掻いているのだ。藁にもすがる思いでウェルの提案に乗る。
『そう。貴方の求めるものを手に入れる、力です……』
そう言って握っていたペンダント。つまり神獣鏡のシンフォギアを差し出す。赤い色が怪しく輝いた。
「マリアが連れてきたあの娘は、融合症例第一号。そしてフィーネによってすべてを奪われ、存在しないとされた聖遺物の適合者の級友らしいじゃないですか」
「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補たち……。つまりあなたのリンカーによって、あの子は何もわからんまま無理矢理に……」
ナスターシャの言葉にウェルは額を抑え、
「んっん~。ちょっと違うかなぁ~。リンカー使ってホイホイシンフォギアに適合できれば、誰も苦労しませんよ。装者量産し放題ですよ」
未来の纏った神獣鏡の脚部フライトユニットが展開され、鞭が意志を持つかのように伸縮する。
どのようにして未来が適合したのか、その絡繰りが理解できないナスターシャは思わずウェルに問いただす。
「ならば、どうやってあの子を?!」
「愛!ですよ」
「何故そこで愛ッ?!」
展開したフライトユニットによって未来の体が宙に浮かぶ。
「リンカーがこれ以上級友を戦わせたくないと願う思いと、これ以上何も失わせたくないと願う思いを神獣鏡に繋げてくれたのですよ!」
神獣鏡の腕部からアームドギアである扇が構築される。
ウェルが狂喜に叫んだ。
「ヤバいくらいに麗しいじゃありませんかッ!」
このギアの特性であるダイレクトフィードバックシステムが状況を適切に判断し、未来の脳に直接情報を出力する。
「うあぁぁぁぁッ!」
未来の咆哮。
「小日向ッ?!」
「なんで、そんなカッコしてるんだよッ?!」
クリスに拘束されている調が、
「あの装者は、リンカーで無理矢理に仕立てられた消耗品。私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい……」
「ふざけやがって……!」
翼があくまで冷静に、動揺している内心を隠して報告する。
「行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですがッ……」
『無事だとぉ?!あれを見て無事だというのかッ?!だったらアタシらは、あのバカ共になんて説明すればいいんだよッ?!』
二課の指令室のモニターに映る未来の姿に響は呆然としたまま動くことが出来ない。
友里が心配して、
「響ちゃん……」
「F.I.S.……、何てことを……」
神獣鏡のヘッドギアが閉じ、戦闘態勢へと移行。そしてフライトユニットの生み出す推力を利用して加速する。
クリスは仕方ないと調の拘束を解き、
「こういうのはアタシの仕事だ!」
両腕部の装甲を展開し、ボウガンへと変形させる。
「あぁぁぁッ!」
未来の持つ閉じた扇の先端から紫色のレーザーが発射される。が、それを跳躍してかわし、ボウガンを三段に変形させ、上空から放つ。
『QUEEN's INFERNO』
雨あられと降り注ぐ矢の雨を算出された予測にそって回避し、海上に飛び出す。通常のギアであれば行動不能に陥るが、神獣鏡は飛行を可能にしていた。故に立派なバトルフィールドの一つとなっている。
「隙ありデス!……ッ?!」
相対する翼がクリスの動きに気をとられていると判断した切歌だったが、彼女の目にもとまらぬ速さで再び刃を突きつけられる。
「じゃないデスね……」
翼は眉を顰める。
(すまないッ……雪音ッ!)
海上を滑走する未来の動きを止めるため、船から船へと飛び移りながら攻撃を加えていく。着地と同時にボウガンをガトリング砲へと変形させ、弾幕の密度を上げる。
『BILLION MAIDEN』
未来もレーザーで応戦するが密度の上がった弾幕を回避し続けることが出来ず、少なくない数の直撃を受けてしまう。
この戦いを高みの見物を続けるウェルが、
「脳へのダイレクトフィードバックによって、己の意思とは関係なくプログラムされたバトルパターンを実行!流石は神獣鏡のシンフォギア!それを惑わせる僕のリンカーも最高だぁ!」
「それでも偽りの意思では、あの装者たちには届かない」
「っ!」
思わずマリアは顔を背ける。
モニタリングを続ける二課の指令室では藤尭が、
「イチイバル、圧倒しています!」
「これなら……!」
響は親友の変わり果てた姿にモニターを直視できない。
(ごめん……ごめんね……!)
ポンと響の頭を弦十郎が安心させるように撫でる。
「ししょお……」
戦いを続けるクリスだが、相手が未来だけあってやりづらさがぬぐえない。
(やりづれぇ!助けるためとは言え、あの子はアタシの恩人だッ!)
艦隊を一周して戻ってきた未来に対し、同じく戻って来たクリスが腰部のミサイルラックを展開し、発射する。
『MEGA DETH PARTY』
ミサイルを回避するためにプログラムされた動きをトレース。弾道から逃れるために距離を詰めるが、クリスのガトリングによって阻まれ、空中で失速し爆炎に包まれる。
「未来……」
響がつぶやいた。
がれきに埋もれた未来にクリスが手を伸ばす。が、ギアのスピーカーからウェルの声が聞こえてきた。
「女の子は優しく扱ってくださいね。乱暴にギアを引きはがせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ」
再び未来が動き始め、アームドギアの扇を展開。そこに取り付けられた鏡から光を放つ。
「避けろ!雪音ッ!」
『閃光』
ギリギリでクリスは直撃を避け、距離をとる。
「まだそんなちょせえのを!」
未来は展開した扇をたたみ、浮遊。そして鞭の先端と脚部ユニットを接続し、展開することで一つの巨大な鏡を形作る。
クリスは背後に射線上に調がいることを確認し、苦虫をかみつぶした顔をする。
鏡に紫の燐光が集中しはじめ、その輝きは直視できないほどになっていく。神獣鏡の力を最大限使うため、未来が歌う。
「だったらぁッ!」
腰部のユニットを展開し、リフレクターを散布する。そして神獣鏡の輝きが照射された。
『流星』
「リフレクターでぇッ!」
リフレクターが極太のレーザーを曲げ、後ろへと逸れていく。その威力は艦艇の装甲をえぐり、爆発させるほどだ。それでもレーザーの照射は止まない。
「ぐうぅッ!」
「調ッ!逃げるデス!消し去られる前に!」
クリスの背後から動こうとしない調に切歌が叫ぶ。
その言葉に翼が反応する。
「どういうことだッ?!」
(イチイバルのリフレクターは、月をも穿つ一撃すら偏光できる!そいつがどんな聖遺物から作られたシンフォギアか知らないが、今更っどんなのぶっ込まれたところでッ……何で押されてんだッ?!」
イチイバルのリフレクターが極光に照らされたところから分解されていく。
「無垢にして苛烈、魔を退ける輝きの奔流。これが、神獣鏡のシンフォギア!」
「ッ?!リフレクターが、分解されていくっ?!」
光の圧にクリスの体が押され始め、そしてリフレクターの防御限界に到達。光を受けたギアの装甲が泡立っていく。
クリスの体が輝きに包まれようとしたその時、空から大剣が飛来し、盾となる。
大剣を放った翼はクリスと調を回収し、全速で離脱する。
「惚けなぁッ!」
最大速度で離脱しながら大剣を盾にすることで脱出を試みるも、大剣を障壁にするたびに分解され、その意味をなしていない。
(横に躱せば、減速は免れない!その瞬間に巻き込まれる!)
「追いつかれるッ!」
「翼ぁッ!」
歴戦の防人である翼が即座に解決方法を見つけ出す。直進方向に大剣を突き刺し、
「どん詰まりッ?!」
「しゃべっていると、舌をかむッ!」
ほぼ直角の壁を脚部スラスターのジェット噴射で滑走し、上に逃げることで回避する。
魔を祓う光、その光を放つ鏡は、歪んだ英雄の手に落ちた。
今年も張り切っていきましょう!