戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

58 / 209
調があず姉さんと接触します。


約束の少女~Apple~

 神獣鏡のヘッドギアが爆炎の中の翼とクリス、調の姿を正確にとらえる。再度攻撃をしようとしたその時、横から切歌が、

 

「やめるデェス!」

 

 バイザーに覆われた未来の視界が彼女を捕らえる。

 

「調は仲間!あたし達の大切な……!」

『仲間と言い切れますか?僕たちを裏切り、敵に利する彼女を。月読調を、仲間を言い切れるのですか?』

 

 切歌の言葉はウェルによって遮られる。

 

「違う……。あたしが調にちゃんと打ち明けられなかったんデスッ……。あたしが、調を裏切ってしまったんデスッ」

 

 肩と声が震えている。

 

「切ちゃんっ……!」

「っ」

 

 背後から調の呼ぶ声がした。切歌は顔を上げ、振り向く。

 担がれていた翼の肩からゆっくりと下り、

 

「ドクターのやり方では、弱い人たちは救えない……!」

 

 神獣鏡のスピーカーからウェルの声が響く。

 

『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄にあまりにも無力ですからね』

「「ッ!?」」

 

 思わず翼とクリスの体が前に出る。

 ウェルはエアキャリアのドアを開け、ソロモンの杖を構えてそのギリギリに立ち、

 

「シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの専有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすればぁ……、せいぜいこのソロモンの杖ッ!」

 

 杖の中央にある紫色の宝石から、緑色の光線が放たれる。その光線が艦隊を薙ぎ払うように照射され、光跡にノイズが召喚される。海に召喚されたノイズは船の外壁を上り、そのシステムに従ってアメリカ軍を襲い始めた。聖遺物でない通常兵器では歯など立つはずもなく、容赦なく、次々に炭素の塊へと変えられてしまう。

 惨状を見て、翼が叫ぶ。

 

「ノイズを放ったかッ?!」

「くそったれがッ!」

 

 ノイズを迎え撃つため、クリスが駆け出す。

 

(ソロモンの杖がある限りは、バビロニアの宝物庫はあきっぱなしってことか!)

 

 クリスは一息に跳躍。腕部装甲からガトリング砲を、腰部装甲から小型ミサイルを展開し、反動を利用して回転することで空に存在する航空型ノイズを一網打尽にしていく。

 

「デアァイッ!」

「くッ!」

 

 調を取り返そうとする切歌の鎌による一撃を、翼は刀で防ぐ。

 

「こうするしか、何も残せないんデス!」

 

 背後では再び『流星』を放つべく、神獣鏡の巨大な鏡が光を集め始めている。だんだんとその輝きが強くなっていくが、

 

『そうそう、そのまま抑えていてください。後は彼女の仕上げを御覧じろ』

 

 ウェルの通信を聞いて未来は鏡を格納し、船を飛び降りて海上を被告する。

 攻撃を抑えている翼が、

 

「このまま手をこまねいているしかないのかッ?!」

 

 と叫んだその時、戦闘海域に二課の潜水艦が浮上した。友里が正確に情報を伝える。

 

「未来ちゃん、交戦地点より移動!トレースします!」

「未来……」

 

 響が心配そうに言葉をこぼし、

 

「ノイズの殲滅はクリス君に任せろ!俺たちは、人命の救助に回るんだ!」

 

 弦十郎が的確に指示を飛ばす。

 

 未だ膠着状態に陥っている翼は、

 

(振り切ることはたやすい。だが、そうするわけにはッ……!)

 

 目だけで背後の調を見やる。確かに振り切るのはたやすい、しかしその後に調がどうなるかなど簡単に想像がつく。杖に動くことが出来ないのだ。

 そう思考していたその時、海中から巨大な水柱が出現した。艦艇の高さを優に超えるそれに両者の視線がうつる。

 そして水柱はほどけ、その中から印を結んだ緒川が姿を現した。素早く降下した彼は調の肩に手をのせる。

 

「調!」

「緒川さん?!」

 

 脇の下に腕を通し、軽く拘束して答えた。

 

「人命救助は僕たちに任せて!それよりも翼さんは、未来さんの捕捉を!」

 

 そう言って調を拘束したまま、残像が残るほどの速度で離脱する。

 

「緒川さん!お願いします!」

 

 いうな否や鎌を弾き飛ばし、即座に脇腹に蹴りを叩きこむ。その一撃はクリーンヒットし、切歌から空気が抜けるのをこらえるような声が聞こえる。そして蹴り脚を一歩目とし、バク宙。カタパルトに着地するとすぐに刀で突き刺し、強引に起動させる。

 

「あぁぁッ!」

 

 加速の勢いを利用して引きはがされた分を一気に取り返すべく跳躍する。

 

「調……!」

 

 切歌は調の事に一瞬気をとられるが、すぐに翼を追いかけるために駆け出した。

 

「切ちゃん……」

 

 海上を目にもとまらぬ速さで走る緒川に抱かれながら、道を違えた親友の名を口に出した。

 

「月読調さん……ですよね?」

「……」

 

 緒川の問いに調は答えない。が、頷くことで肯定する。彼は続けて、

 

「あなたに、会って欲しい人がいます」

「会って……欲しい人?」

 

 緒川は正面を向きながら、頷く。

 

「はい。この行為が吉となるか凶となるか、僕たちにはわかりません。ですが、こうしなければ状況は動かない。彼女は目覚めることはない……そう思うんです」

「?」

 

 調が首をかしげる。だが分かるのは、彼の言う『彼女』に会えば状況が変わる。そんな気がした。

 

 ○○○

 

 未来の乗った船の横に潜水艦をすすませる。そして響は甲板に立ち、

 

「雷も帰ってきた。だから一緒に帰ろう、未来」

「帰れないよ……」

 

 未来は響のほうを向き、バイザーを開く。

 

「だって、私にはやらなきゃならないことがあるもの」

「やらなきゃならないこと?」

 

 響の問いにうっすらと笑みを浮かべて、

 

「このギアが放つ輝きがね、新しい世界を照らし出すんだって。そこには争いもなく、誰もが穏やかに笑って暮らせる世界なんだよ」

「争いのない世界……」

「私は響に戦ってほしくない。雷が恐怖に怯えてほしくない。だから響が戦わなくていい世界、雷が安心して眠れる世界を作るの……」

 

 思わず響の言葉が詰まる。ここにはいない雷のことを思いながら、

 

「だけど未来。こんなやり方で作った世界は、暖かいのかな?私達が一番好きな世界は、未来がそばにいてくれる、暖かい陽だまりなんだ」

「でも、響が戦わなくていい世界だよ?雷が怯えなくていい世界だよ?」

「たとえ未来と戦ってでも、そんなことさせない!」

 

 力強く断言する。

 

「私は響を戦わせたくないの」

「ありがとう。だけど私、戦うよ!」

 

 こぶしを握り締める。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」

 

 機動聖詠を歌い、ガングニールを纏う。

 少女を取り返す戦いが、始まった。

 

○○○

 

 響と未来が戦っている間、潜水艦に収容された緒川と調はとある一室に向け、歩みを進めていた。既にペンダントは緒川の手に渡っているが、電子手錠はつけられていない。出来るだけ普通の姿で会わせたいという緒川の配慮だ。

 

「会わせたい人って、誰なんですか?」

「調さんのよく知っている人です。ナスターシャ教授やマリアさん達も」

「私達のよく知る人?」

 

 ますますわからないと言うように首をかしげる。

 彼女の隣を歩く緒川は真剣な表情で、

 

「もうそろそろです」

 

 と、言った。すると突然、か細く、消え入りそうな声だったが、歌が聞こえてきた。

 

「歌?」

 

 聞き覚えのある歌に声だ。わずかに眉を顰める。如何やら目の前の部屋から漏れているようだ。さらに耳を澄ます。

 

「りんごは浮かんだお空に……りんごは落っこちた地べたに……」

「ッ?!」

 

 体に電流が走るような感覚を覚えた。思わず駆け出してしまう。緒川は追いかけることなく、その場に立ち止まった。部屋の鍵はすでに開けてある。

 

「星が生まれて、歌が生まれて……」

 

 約束の歌『Apple』を歌う人物がいる部屋のドアを勢い良く開けた。

 

「ルルアメルは笑った、常しえと……」

 

 かなり勢いよく開けたため大きな音が聞こえたが、部屋の主は毛布を頭からかぶったまま気にした様子もなく歌い続けている。

 体格からして同年代の少女だろう。調は肩で息をしながら少女に詰め寄り、襟首をつかんで押し倒した。

 白いワンピースに深緑のカーディガンを羽織った少女は、それでも歌い続ける。

 

「星がキスして歌が眠って……」

「どうしてその歌を知ってるのッ……?」

 

 襟をつかんだまま少女の上に馬乗りになり、揺する。

 

「かえるとこはどこでしょう……?」

「私達の他に、あず姉さんしか知らないはずなのに!どうしてあなたが知ってるの?!」

 

 歌うことをやめない少女の顔を隠す毛布を引きはがす。そこには、

 

「ケラウノスの……装者……?」

「……」

 

 これまで誰とも会わなかった雷の目線が調の目と結びつく。そして彼女はほんのりと、優しい笑みを浮かべ、

 

「大きくなったねぇ、しらちゃん。どうしたの?そんな難しい顔して……」

「ッ?!……私をそんな風に呼ぶ人は、一人しかいない……。でもっ、何で……」

 

 約束の少女はずっと敵として目の前にいたのだ。なんで気付くことが出来なかったのか。そんな思いで頭がいっぱいになり、目から涙が零れ落ちる。

 そんな調を見て、雷は彼女の頬を優しく撫でた。




これからどう進むのか、また次回!
ひびみくの戦いは原作通りなので画面外です。
はてさて雷は目を覚ますことが出来るのか?!


……雷が歌えた理由はちゃんとあります。ヒントは『今』を見ていない、幸せだった過去見続けているということです。

 ショック療法で治しますのでそこんところご容赦を。

AppleってNexToneにコードがないんですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。