戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
翼はライダースーツを身に纏い、単騎でフロンティアへと攻撃を仕掛ける。雷も回復し、戦うことは出来るのだが、念のために検査を受けてからの出撃となるため、先に翼が出るのだ。
翼に弦十郎が声をかける。
「翼、行けるか!」
「無論です」
そう一言だけ言って、指令室を後にする。
「翼さん!」
出る直前、響が心配そうに声をかけた。翼は不敵な笑みをたたえながら、
「案ずるな。一人でステージに立つことは慣れた身だ」
それを聞いても響の不安はぬぐえていなかった。
潜水艦の先端部分、出撃用の通路をバイクで走る。その中央にあるジャンプ台でバイクごと跳躍し、
「Imyuteus Amenohabakiri Tron」
彼女の持つシンフォギア、天羽々斬の起動聖詠を歌う。ライダースーツは分解され、バイクにまたがったままシンフォギアを代わりに身に纏う。脚部のブレードが変形し、バイクの前方部分を覆うことで一つの剣となる。彼女は刀をとってギアを変え、速度を上げてノイズの群れへと切り込んでいく。その姿はまさしく現代の騎乗兵。
『騎刃ノ一閃』
彼女の状況を二課のモニターは捉えていた。
「流石翼さん!」
思わず友里が感嘆する。
「こちらの装者は現状ただ一人。この先、どう立ち回れば……」
雷が言っていた言葉が出た。と、響は思った。耳打ちされたときに、「誰かが装者の人数について言ったら、調がいるから彼女を推薦して」と言われたのだ。
響は一つ頷き、
「いえ、シンフォギア装者はまだいます」
「ギアのない響君を戦わせるつもりはないからな」
弦十郎を正面から見据える。
「戦うのは、私じゃありません」
「響……」
独房にいた調は緒川によって連れ出され、指令室にいた。
(あず姉さんの言う通りになった!やっぱり姉さんはすごい……)
そう思いながら、緒川によってロックが解除され、電子手錠のあったところをさする。少しだけ頬がほころんだ。後は姉さんの言った通り、あくまで冷静に、初対面の時と変わらぬ態度で、
「捕虜に出撃要請って……、どこまで本気なの?」
「もちろん全部!」
「あなたのそういうところ、好きじゃない。正しさを振りかざす、偽善者のあなたが……」
響は困ったように眉を八の字にして、
「私、自分のやってることが正しいだなんて、思ってないよ……」
未来をはじめとする指令室にいる全員が、二人の会話を見守る。
「以前、大きなけがをした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね。私が家に帰ってから、お母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしてた……。それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる」
そう言って自分の両手を見て、握りしめる。
「手をつなぐ……。そんなこと本気で……」
調の言葉を遮って、響が笑顔で言う。
「だから調ちゃんにも、やりたいことをやり遂げとほしい」
彼女は調の手を両手で握り、
「もし私達と同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ」
「私の……やりたいこと……」
「やりたいことは、暴走する仲間たちを止めること、でしたよね?」
言葉に詰まる調に緒川がフォローを入れる。少しだけ恥ずかしくなって、調は響の手をほどいて後ろを向いた。
「みんなを助けるためなら、手伝ってもいい……」
響と未来の顔がパッと明るくなる。
「だけどそう信じるの?敵だったのよ?」
「敵とか味方とかいう前に、子供のやりたいことをさせてやれない大人なんて、カッコ悪くてかなわないんだよ」
弦十郎が立ち上がり、ポケットに片手を入れたまま大人の対応をする。
「ししょぉ~!」
響が思わず言った。
弦十郎はシュルシャガナのペンダントを取り出し、調のもとにやって来て膝を曲げ、彼女に手渡す。
「こいつは、可能性だ」
調は指で涙をぬぐい、
「相変わらずなのね……」
「甘いのは分かってる、性分だ。うん……?」
どこか引っ掛かったが、気のせいかと割り切った。
テンションの上がった響が調の手を取り、
「ハッチまで案内したげる!急ごう!」
「わぁっ……?!」
目を丸くしながら、階段を下りて行った。ハッチに到着すると、そこには検査を終えた雷が腕を組みながら待っていた。
「待ってたよ、二人とも」
「雷!検査はよかったの?」
「ばっちり全部問題なし!弦十郎さんにもしっかり通してある。……しらちゃん、ぶつかってみてよかったでしょ?」
笑顔を調に向け、彼女は少し恥ずかしそうに、
「う、うん。……姉さんの居場所って、暖かいね……」
「いいでしょ?」
何やら親し気に話す二人に響はついて行けてない。
「えぇぇッ?!ふ、二人ってどいう関係なのぉ?!」
「その話は帰ってから。今はやることがあるでしょ」
響に手のひらを向け、ストップの意をもって説明を後回しにする。
少し不満げな表情を浮かべた響だったが、気を取り直す。調がシンフォギアを起動し、鋸をタイヤ代わりにして発進した。
発進した彼女たちをカメラがとらえる。
「あ。響!」
違和感に未来が真っ先に気づいた。
弦十郎は思わず立ち上がり、
「何をやっている!響君を戦わせる心算はないと言ったはずだ!」
響は調の肩の掴まりながら、
「戦いじゃありません!人助けです!」
「減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ!」
「行かせてあげてください!」
焦りを見せる弦十郎を未来がたしなめるように、響きに発破をかけるように、
「ッ?!」
「人助けは、一番響らしいことですから!」
『私からもお願いします!』
「雷君?!」
雷は響のお腹に手を回して掴まりながら、
『こういう無理や無茶、無謀を言うのは、子供の特権です!』
それを聞いて彼は頭をかきながら、
「それは本来俺の役目だったはずなんだがな」
「弦十郎さんも?」
思わず未来が目を丸くする。
「帰ったらお灸ですか?」
彼はどこかうれしそうに笑顔を浮かべながら、
「特大のをくれてやる。子供のやりたいことを支えるのは、俺たち大人のやることだしな!」
「バックアップは任せてください!」
「私達のやれることでサポートします!」
指の関節をパキリと鳴らし、
「子供ばっかりに、いいカッコさせてたまるか」
少し離れたところで、翼が通信を聞いた。
「立花と轟、あの装者が一緒に、ですか?」
フッと嬉しそうに口角を上げ、
(想像の斜め上過ぎる)
すぐに表情を引き締め、
「了解です。直ちに合流します」
と言って通信を切った。
「ノイズを深追いし過ぎたか……」
そう呟いた瞬間、上から無数の矢が彼女を襲った。翼はギリギリで気付き、何とか躱せたもののバイクは直撃を受け、爆発する。
「如何やら誘い出されたみたいだな」
彼女の視線の先には、
「そろそろだと思っていたぞ。雪音……」
アームドギアのボウガンを装甲に戻す。赤いシンフォギア、イチイバルを纏ったクリスが崖の上から見下ろしていた。
○○○
響に掴まりながらフロンティアを走っていた雷は、
「ごめんしらちゃん!ここで下ろしてくれないかな?」
「え?……うん。わかった」
「ありがと」
少しだけ不安そうな顔をした雷は、速度を落とした鋸から飛び下りる。
「それじゃ二人とも、頑張って!」
それだけ言って二人に背を向け、走り出した。
「どうしたのかな?」
「雷の事だから何か考えがあるんだよ。私達は先を急ごう」
「……うん」
調は鋸の回転速度を上げる。二人とも彼女に心残りはあったが、今は信じることにした。
「ここまでくれば、大丈夫かな?」
雷が振り返ると、すでにそこには二人の姿はなかった。
彼女は深呼吸をして呼吸を整え、
「Voltaters Kelaunus Tron」
ケラウノスを起動し、身に纏う。
(このを状況を打破するには、フロンティアからネフィリムを引きはがすか、破壊するかしかない。ならッ!)
強引に引きはがせばいい。
彼女は胸に手を当て、目を瞑り、
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fineel baral zizzl……」
絶唱した。
ケラウノスの絶唱特性は「感情の伝播」。故に、思いが強ければ強いほど、その出力は上昇する。二課のモニターが雷の絶唱を捉えた。
『雷?!』
『何をしている!今すぐやめるんだッ!』
未来や弦十郎は叫ぶが、当の本人は全く別のことを考えていた。
(このまま撃てば、フロンティアに少なくないダメージが入る。それをウェルが許すはずがない……)
詠唱を続けようとした瞬間、地面が大きく揺れた。
彼女の読みが、的中した。絶唱を中断し、後ろへ大きくバックジャンプで距離をとる。そして、揺れの発生地点から、巨大なネフィリムが姿を現した。
ケラウノスの起動聖詠のタイトルは『全てを壊し、全てを滅せよ』です。
雷によってネフィリムを差し向ける羽目になり、これを制御するために一時的にフロンティアの操作を手放さざるを得なかったウェル。コアはフロンティアのジェネレーターとつながったままなので最終的にはアレになりますが、これ以上ウェルによって何かされることはなくなりました。
個人的に迎撃システムがあるはずなのに、何で侵入してくる響に使わなかったのか。最重要であるフロンティアを放置して何でクリスのところに来たのか。が疑問に思ったので、このような形にしました。
出来ればご指摘お願いします。